第一話-22
西園愛理、高崎朱音、松田香織。この三人が、今回御影をいじめていた主犯なのだが、平井が嘘告白の前に名前を出さなかった理由は、翌日判明した。
「なるほど、これは確かに気まずくなるわな」
「ああ、先に名前を聞かされなくて正解だったのかもしれん」
俺と相沢は、ホームルーム前に教室に集まってくるクラスメイト達を眺めながら、そんな感想を交換していた。一人事情を知らない小西だけが、俺たちの会話に首を傾げているが、まあ勝手に話すわけにはいかないのでしばらくそのままにさせておこう。
「しかしまあ、人間の二面性ってのは恐ろしいもんだよな。あれだけ目立ってた奴らが裏ではあれとか、あんまり想像できん」
「だよなあ。相沢だって、表面上は万年五月病的な風を装ってるのに、彼女と二人だとあれだもんなあ。目立ってる奴が裏では実は……みたいな話も案外あり得るのか」
「おいこら待てやお前、どこから聞いたたんだその情報」
「え、事実? 適当に言ったのに?」
「……お前にもいずれ分かるだろうさ」
「え事実だったんだ」
巻き添えを喰らった小西が後ろから相沢の背中をぽかぽかと叩いているのを視界の端で見ながら、俺はクラスの中心部に視線を投げる。くだらない会話で精神の平静を保ってはいるが、衝撃はそこそこ大きい。
やたら声ばかり大きくて目立つものの、あんまり人望はないいわゆる二軍女子──それが、あの三人の正体である。昨日どこかで見た気はしたのだが、今朝になって疑問が氷解した。
いくらあいつらでも、昨日の今日で相変わらず騒ぐような神経は持ち合わせていないようだが、それはそれで、今度は他のクラスメイトの疑心を買っている。
「ねえ、なんか今日、西園グループ大人しくない?」
「やっぱそうだよね。気味悪っ」
すごいな、ちょっと大人しいだけであんなに言われるんだ。っていうかあいつら、西園グループって呼ばれてたのか。持株会社かよ。
「しかしまあ、これ問題が片付いても後が大変だぞ。当事者同士が同じクラスで一年過ごすとか地獄すぎるだろ」
「だよなあ……なんでこういう面倒なことを起こすんだか」
「分からないし、分かりたくもない」
「同感」
俺もそうだが、相沢も昨日の疲れが抜けていないらしく、なんとなく会話がだらだら引き延ばされているだけのように思える。何も知らない小西がずっと不思議そうにしているが、俺たちは口止めされているから話すわけにはいかない。
まあそのうちいずれ、話すときは来るだろう。
「起きてー。二人とも、早く起きてー!」
……なんだ? せっかく人が気持ちよく寝ているというのにそれを起こすとは、なんと残酷なことをするのか。……寝てた? 今何の時間?
硬い机からのそりと顔を上げると、ジト目の美少女が視界に入った。小西だ。背中が痛い。あと肩も。何より顔が。机は枕にするには硬すぎるし、背中と肩は、まあまあな回数叩かれたみたいだな。それで起きなかったということは、俺は自分で思っていた以上に疲れていたのかもしれない。
「東宮くんの方はやっと起きたね。大丈夫? 動ける?」
「……次の授業なんだっけ」
「情報だけど」
「げ」
ってことは移動か!? 道理で教室が静かなわけだ! 一瞬で目が覚めた。相沢は何を呑気に寝てるんだ!
「おい相沢起きろ! 次移動教室だぞ!」
「東宮くんもさっきまで寝てたけどね。ほら健人、起きないと置いていくよ」
「……結衣、あと五分」
「あと五分寝てたら遅刻だよ! ほら、起きる!」
この、「結衣、あと五分」っていう台詞、随分自然に出てきたな。もしかして初めてじゃないのか? 小西は小西で、毎朝言ってそうなほど慣れた台詞感がすごい。
……まあこの二人は幼馴染らしいし、付き合い始めてからもまあ長いらしいので、互いの家に泊まることも何度かあったのだろう。へえ、ふうん。
「もう、早く起きなさい! 東宮くんも手伝って、健人、こうなったら全力で起こさないと起きないから!」
いや違う。これ付き合って長い幼馴染のカップルじゃなくて、新婚の夫婦だ。……俺はなにを見せられているんだ。
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