第一話-21
天宮先輩が生徒指導の先生を呼びに行き、俺と相沢は、先生の指示に従って三人の加害者を生徒指導室に連行していった。平井は御影を、別の空き教室に連れて行くらしい。ちなみに梨花は、既に隙を見て俺の元から離れ、先に帰宅している。
移動する直前、平井は俺に、俺のスマートフォンで撮影した映像を削除しておくように言った。
「あれには東宮先輩の銀魔力が映っているはずです。見られたら無駄に面倒なことになりかねませんから」
代わりに、平井は俺のスマートフォン宛に、画面録画した映像を送ってくれた。
三人を生徒指導の大岩先生に引き渡すと、俺は御影のいる部屋に行くように言われた。嘘告白の当事者だから、ということらしい。
まあこの後、こんな茶番を仕組んだことについてはお説教をいただくことになるだろうなあ……。それを考えるとひどく陰鬱な気分になるが、立案者の平井に、俺も責任は負うと言った時点で逃げる選択はない。
今日は軽い事情聴取で終わるようだ。確かに最終下校時刻の一九時が迫っているし、学校としては、これ以上生徒を残せないのだろう。とりあえず、いじめでよくある、「加害者の言い分だけを聞き、追い打ちをかける」ような結末にはならないはずだ。
もしそうなったら、今度こそ理性を押さえきれる気がしない。一〇人の加害者の未来より、一人の被害者の未来の方が、俺は大事だと思う。加害者が破滅するのは自業自得なんだし。
仔細については俺は知らないので、説明は多分、御影と平井に丸投げすることになるだろう。正直言って、俺は事情をほとんど知らされていないはずだ。
俺が知っているのは、今日の計画そのものだけ。あと、この茶番で起きたことだけだ。終わってみて改めて思ったことだが、我ながら本当に変な計画に手を貸したものだと思う。まああの雪女に、脅迫されて断れなかったというのもあるのだが。
加害者の女子生徒は、それぞれ西園愛理、高崎朱音、松田香織というらしい。本気でどうでもいいが、聞いたのは名前だけなので、どれが誰だかさっぱり分からない。しかし愛理、愛理かあ。嫌な記憶を思い起こしてくれるなあ……。
先生たちからの軽い事情聴取が終わり、俺たちが校舎を出たのは一八時五〇分だった。割とぎりぎりな時間だ。駐輪場に向かい、鍵を取り出して急いで正門を出る。御影は俺や相沢と同じクラスなので、そこまでは同時行動だ。
平井や天宮先輩とは正門の前で再会した。全員それぞれ、今回の茶番に参加した理由なんかを訊かれたらしい。こちらも同様だ。事実関係の確認は、また後日行われるという。
「しかしまあ、ここまでうまく運んだよな。ただの告発じゃ、先生たちも動けなかっただろうし、今回の計画は、俺は悪くなかったと思うぞ」
自転車の荷台に後ろ向きに腰を下ろして待っていた相沢の言である。
「でも本番はここからですよね。事実確認ができないと、逆に私たちの方が悪役になってしまいますから」
「確かにな。そもそも、証拠がないから作ってやろうってことで、今回の計画に至ったんだろ? こっちの主張が証拠不十分で通らなかったらある意味で伝説になる」
「大丈夫、そうはさせないよ」
先輩の発言が心強い。自信を持った先輩って、なんでこんなに格好よく見えるんだろう。
それはそうと、さっきからまた黙り込んだままの御影が少し気になる。
「御影、その、大丈夫か?」
非モテ陰キャにしては頑張った方だろう。あまり仲がいいわけではないが見知ってはいる相手というのが、俺たちにはもっとも話しかけづらい。
ましてや俺と御影が互いのことを認識したのは、恐らくこの計画を平井が立案してからのことだし、会話らしい会話をしたのなんて、今日の嘘告白のときが最初と言って差し支えない。……思い出すだけで死にたくなるが。
「えっと……」
掠れた声を聞いて、そういえば御影は喋ることに慣れてないんだったな、と思い出した。急に話しかけたら困るか。
「ああ、ごめん。無理はしなくていい」
「ううん、その、無理じゃないから……」
「あんまり喋り慣れてないんだろ? ゆっくりでいいからさ」
「あのね、ちょっと気が抜けちゃって」
「……?」
「本当に、助けてもらえるなんて、思ってなかったから」
「ああ、そういう」
分かる。それはとても分かる。いじめに遭うと、抵抗心はどんどんなくなっていくものだ。心が死ぬと言い換えてもいい。いずれ周りが信じられなくなる。周囲の助けを期待できなくなる。助けを求めるという発想がなくなる。
しばらく耐えればいい。隠し通せばいい。そのうち終わる。それまで待てばいい。そう、思うようになってしまうのだ。たとえそれが、ただの誤魔化しだと、自分で分かっていても。
「そりゃあ、そうだよな……」
「え?」
「いや、なんでもない。でも、もう大丈夫だ。ここにいるのは、全員味方だからさ」
「そっか……」
嘘告白のときといい、なんか今日は、変な台詞を吐いてばかりな気がする。自覚していないだけで、俺は今日、緊張でテンションがおかしくなってるんだろうか。俺がそうやって頭を抱えていると、
「東宮くん」
「どうした?」
「……ありがとう」
声だけじゃなく、もしかして御影は笑顔も可愛いんじゃないだろうか、と思わされた日だった。
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