第一話-19
午後六時の一〇分前、そろそろかな、と身構えていた俺のスマートフォンが、メッセージの受信を告げた。昨日交換したばかりの、御影からのLINERメッセージだ。
『話したいことがあるので、東棟二階に来てくれませんか?』
一応ワンクッション置くように、と平井から指示されていたので、俺はそれに従う。
『LINERか電話じゃだめなのか?』
『直接会って話したいんです』
『えー、分かったよ。もう少ししたらそっち行くよ』
いかにも気のなさそうな返事をしてから、俺は惨敗したチェス盤を片付ける。白原に嫐られた盤面だ。
王手になっていないはずなのに、俺の駒を王以外全部持って行きやがった。途中からいつでも王手をかけられたはずなのに、これは絶対遊ばれていた。なんてやつだ、まったく。
チェス盤を片付けると、俺は部室の出口に向かっていく。
「あれ、東宮先輩どこ行くんですか?」
「あー、ちょっと野暮用。帰って来れるかは分からん」
「ええ、あたし暇になっちゃうんですけど……」
「そう言われてもな……化学部の部室にでも遊びに行ってたらどうだ?」
「化学部はもう帰っちゃってますよ」
「あ、そうなんだ。まあ適当に暇つぶしててくれ」
悪いとは思うが、さすがにこちらの用事を今から投げ出すわけにはいかない。投げ出したら多分、平井に拷問を受ける。それは避けたい。途中、呼んでおいた梨花を学生服の内ポケットに隠れさせ、俺は東棟に向かって歩く。
梨花は普段、五歳児相当の大きさを維持しているが、天使の本来の大きさは、身長一五センチメートル程度なのだ。この大きさならば、制服の内側に潜り込める。ついでに銀魔力の出し方を確認し、東棟の入り口に到着。
平井から、LINERのメッセージが届いていた。主犯の三人が、空き教室の中に隠れていることを確認したという。了解、とメッセージを返し、スマートフォンを仕舞って東棟に入った。
東棟の奥に、御影が立っていた。彼女も緊張しているらしく、深呼吸を繰り返しているのがここからでも見て取れる。そりゃそうだ、嘘とはいえ、男子に告白するんだから。それを確認すると、俺の緊張も高まってきた。
落ち着け俺、もう一回手順を思い出せ。御影が告白してくるからそれを承諾、ネタバラシに出てきた主犯を銀魔力で捕縛……危ない、スマートフォンの記録を忘れてた。
準備を整えてから俺は御影の傍に近付き、
「待たせたな」
と言って呼びかける。非モテ陰キャのくせに喋り方が格好つけすぎだ、とか笑われたら、ちょっと銀魔力の力加減を間違えるかもしれない。火が出てしまっても不可抗力だと思ってもらおう。
「それで、直接会って話したいことって何だよ?」
「それは、あの……」
御影がこちらを振り返って話始める。言葉に詰まっているみたいだ。緊張しているなら無理もない。俺も本当は、心臓が破裂しそうなほどうるさく鳴っている。多分梨花は騒音としか思っていないだろう。ごめん、もうちょっと我慢して。
「わ、わたしは……」
途端に咳込む御影。もしかしたらそもそも喋り慣れていないのかもしれない。
「だ、大丈夫か?」
流石に心配になってそう言うと、彼女は頷いて呼吸を整えた。少しだけ、顔が赤くなっている。恥ずかしかったらしい。
「来てもらったのに、ごめんなさい。あの、わたしあんまり喋るの慣れてなくて……」
「ああ、うん、それはなんとなく分かった。それで、話って?」
「うん、あのね東宮くん」
さあ覚悟を決めろ俺。反応を遅らせるな。敵を逃がすな。右手に銀魔力の用意をしろ。
意を決して、御影が続きを話す。
「わたし、あなたのことが好きです。わたしと付き合ってください」
先走るな俺、まずは答えるのが先だ。ここからが重要だぞ。
「俺も……」
だめだ、口が乾いて声がうまく出ない。咳払いをして、もう一度。
「俺も、御影のことが好きだ。だからその、付き合おう」
……あれ、台詞ってこれで良かったんだっけ。平井か相沢に相談しておけば良かったかな。それとも、執筆の参考にするっていう体で白原に訊くのもありだっただろうか。
ああ、もう、告白の返事なんて考えたことがなかった。というかこれ、演技でも気恥ずかしいな。
でも返事はした。さあ出て来い、いじめの主犯。逃げられると思うなよ。いつでも出てこい。
三秒ほどの静寂の後、俺の後ろのドアが動く音がした。
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