第七話-2
修学旅行当日、俺は早朝から電車を乗り継ぎ、リュックサック一つを持って空港へ向かう。着替えなどの嵩張る荷物は、先行して航空便で先に現地へ送っている。ちなみに、Gulliver!の経路検索を使って改めて乗り換え経路を調べたところ、乗り換え回数はなぜか四回に増えた。嫌すぎる。何の罰ゲームだ。
面倒くさいので少し早く家を出て、乗り換え予定だった駅を、そのまま乗り入れで通過する。なぜこうなるかは分からないけど、二つの路線が合流する駅なので、別の方向から来た速い電車に乗り換えさせようとしていたのだろうか。この駅で急行とか特急に乗り換えると、ぎゅうぎゅう詰めになるから嫌なんだよなあ。
「ええっと、区間急行を新宿で降りたら、山手線で品川……内回りと外回りって? 内回りはどっち?」
ひとまず階段を降りてみたものの、どうもこちらではなかったようで慌てて階段を上がり直す。なんで同じ山手線なのに、ホームの位置が違うんだ。
ざわざわするホームの上を歩いていると、突如聞こえてくる警笛音。びっくりして肩を跳ねさせ、振り返ると同時に風圧を感じ、黄緑色の角ばった車体が視界に飛び込んでくる。喧騒に紛れてアナウンスを聞き逃していたらしい。危ない危ない。人身事故の何割かはこうやって起きているんだろうな。
『新宿。新宿。ご乗車ありがとうございます』
今度は聞こえた駅のアナウンスが流れると同時、発車メロディが流れ始める。さすが都心、人も電車も全てがせっかちだ。ざぶざぶと溢れ出てくる人の流れが止まり、飛び込むように車内に身を滑り込ませる。父さんが以前、山手線は通勤電車でなく貨物列車だと表現した理由がよく分かるな。これで二〇分くらいこのまま移動するのか。
品川で降りて京急線に乗り換え、運の良いことに、羽田空港第一・第二ターミナル行きに乗車。これがまあまあ面白くて、京急蒲田駅で、この電車はスイッチバックするのだ。
スイッチバックとは、一度止まり、反対方向に動き出す際に分岐を通過し、来た道を戻らず別の道に進むことだ。登山鉄道なんかで使われることが多いようだけど、都市部でも京急に乗れば体験できる。
そんな風に秘かにわくわくしながら運転席の後ろに立っていると、
「双矢くんって、電車好きだったっけ?」
背後から声をかけられてまた肩が跳ねた。振り返ってみると凛がいる。まさかここで合流するとは。
「お、おはよう。びっくりした……」
「そんなに驚くことないでしょ、いつも聞いてる声なのに」
君はそうやって自覚なくくすくす笑ってるけどね、綺麗な声で不意打ちで名前呼ばれてこうならないはずがないだろう。と、言えたらどれだけ楽なことか。
「ったく、少しは声が良いことを自覚しろよ」
「……?」
つい声に出てしまったが、聞こえるほどではなかったようだ。危ない危ない。
「それで、わたしの質問は無視ですか」
驚いたことで気を取られて、質問そのものを忘れていた。凛がじと目で膨れている。その頬はひとまず指でつついて萎ませておく。
「多分鉄道が好きという意味では健人がそうだと思うよ、合宿のときの様子とか見てると。ただ、京急はちょっと面白いというか」
「面白い?」
「途中で、前後が入れ替わる」
「……そうなんだっけ?」
多分凛は、四月の校外学習は京急蒲田で乗り換えたんだろう。フロアが変わるから、もしかしたら進行方向が変わったことに気付いていないかもしれない。俺も四月のときはそうだったので、ついこの間、健人に言われて初めて知ったんだけど。
「とりあえず、ここで見てたら分かるよ」
一旦つっこみはなしでお願いします。
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