第六話-10
迷った結果、当日帰りがけに普通に渡すことにしました。席隣になったアドバンテージをあまり活かせていない。
「そろそろ部活行こっか」
という風に、凛に声をかけて貰えることが増えたくらいだろう。情けない限りだ。授業のペアワークが凛と一緒になるのは良いんだけど。
隣を並んで廊下を歩いていると、凛がちらちらとこちらを見てくる。正直結構可愛い。それはさておき、言いたいことは分かっているつもりだ。いつにしようかタイミングを計りかねていたが、人通りの少ない廊下に入ったここで決めるべきだろうか。あまり後回しにしても仕方ないし。物は今朝しっかり鞄に入れたのを確認している。
「凛」
あー、これすっごい緊張する。何しろ経験が一切ないから。
「誕生日おめでとう。その、あまり高いものじゃないけど」
言いながら、鞄から取り出した小さい袋を手渡す。結局これで良かったのかは分からないが、変に飾ったものではなく、使いやすいものを選んだつもりだ。しかし凛は、視線を袋に固定したまま動かなくなってしまった。いきなりプレゼント渡すのは、距離の詰め方が良くなかっただろうか。
「……凛?」
「あ、ごめん。プレゼントくれるなんて思ってなかったから、びっくりしちゃって」
はっとこちらに意識が戻ってくると、ゆっくりと袋を手に取り、
「中、見てもいい?」
「うん」
渡したのは本革製の栞、色は本人の希望に基づき青。種類がいくつもあったのでかなり悩んだが、どんな本に挟んでも馴染む、品の良いデザインのものを選んだつもりだ。それと、
「あれ、まだ何か入ってる」
実は選びきれなかったので、栞はもう一種類買ってしまったのだ。
「……猫?」
チェーンの栞。めっきか何かで金褐色になっているそれは、チェーンの先に、小さな飾りが付いている。これも色々バリエーションがあり、猫の他にも鍵とか音符とかが並んでいた。猫を選んできたのは、これが一番可愛かったからだ。
「本革のと迷ったんだけど、結局最後まで決まらなくてな。凛ならよく本読んでるし、一つ多い分には困らないかと思って買って来ちゃったんだけど……その、どうだろう」
凛はじっと猫の飾りを見つめ、ぎゅっと胸に抱き締めた。
「嬉しい。ありがとう、双矢くん。これ、ずっと大事にするね」
その笑顔が見れただけでも、渡した甲斐があったというものだ。贈り物をするのは初めてだけど、こうして喜んでもらえたなら良かった。
翌朝、俺が少し遅く教室に入ると、隣の席の凛はもう学校に来て本を読んでいた。
「おはよう、凛」
声をかけてみると、凛は顔を上げて穏やかに笑う。
「おはよう、双矢くん」
手元の本、というか参考書だけど、凛は挨拶を返すのに合わせて本に栞を挟む。俺が昨日渡したものだ。
「それ、早速使ってくれてるんだな」
「うん、今まではボールペン挟んだりページ覚えたりしてたけど、これ便利だね。あ、猫の栞は家で使うことにしたんだよ」
「へえ、使い分けてるんだ」
「栞じゃないんだけど、前に使ってたチェーンのキーホルダー、鞄に入れて持ち歩いてたらちぎれちゃったことがあって……」
なるほどね、チェーンだとそういうこともあるのか。今度の参考にしよう。
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