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嘘告してきた女の子を助けたら懐かれた話  作者: 春井涼(中口徹)
第二部

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第六話-4

 名前を訊く前に隣のテーブルに突撃して行ったので、入れ替わるようにこちらに来た凛から、今のは石渡(いしわた)乃愛(のあ)だったと教えてもらった。まあ俺の事だから、しばらくしたら下の名前は忘れるんだろうけど。さらに凛が言うところでは、


「お兄さんの影響でイラスト描き始めたらしいよ」


「東京湾のヤクザ、絵を描くのか」


「『この絵描いたんはおどれか』ってやつか?」


「待って俺の思ってる絵と違う」


 ヤクザ語の『絵』って、確か策略とかそういうのだったよな? どちらかというと平井の方の畑じゃないか? そこで健人のスマートフォンが鳴った。


「結衣から? ……早いな、あっちもう終わったのかよ」


「先輩、今から結衣ちゃんに来てもらうことってできますか?」


「それは難しいかなあ、後から人数変えるとなると。ごめん」


「だってよ、残念だったな、旦那」


 ところが、健人はさほど残念そうにはしていなかった。


「別に俺たちも今から合流なんて考えてないしなあ。それより、多分結衣は先に帰って夕飯の支度とか買い物とか行くんじゃないか?」


「やけに家庭的」


「イベントごとの日にはよくあることだぞ? 俺、今日誕生日だし」


「「……はい?」」


 空気が固まった気がした。そういえば俺、あんまり人の誕生日知らないんだよな。家族の誕生日くらいはさすがに知ってるが、友達の誕生日はそれなりに親密でないと覚えない。というか、わざわざ訊くこともないし。話の流れでたままた知る機会があれば覚えてる、くらいな感じ。それにしたって、これは。


「お前……そういうことは早く言えよ」


「なんかすまん」


「そうそう、自分で言わないとだめだよー? 中には誰にも言わずにしれっと誕生日通過してる人もいるけどー。おめでとうくらい言わせなさいよー」


「そういう天宮先輩はいつなんですか」


「んー? 八月一九日」


「……あんまり俺に説教できる立場じゃなくないです?」


 普通に天宮先輩も誕生日過ぎ去ってた件。先輩のことはどうでも良いんだとか主張しているが、それはちょっと横暴というものではないだろうか。


「わたしは先輩の誕生日お祝いしましたよ?」


「うんうん、ありがとう。凛ちゃんは良い子だねー」


「まあ、当日知れたからまだセーフか。健人、誕生日おめでとう」


「ああ、ありがとな」


 凛と天宮先輩が追従して祝いの言葉をかけ、こちらのテーブルは誕生日ムードになる。先輩がケーキはメニューに載ってないことを謝り、健人は小西が用意してるから要らないと答える。愛妻家がよ。


「凛ちゃんは、確か来月入ってすぐだったよねー」


「はい、一〇月二日です」


「じゃああと二週間、三週間くらいか?」


「丁度三週間後だな。ちゃんと祝ってやれよ、双矢」


「なぜ俺にだけ言う」


「一番祝わなきゃいけない奴が知らなかったからだろ」


 こいつが俺と凛をくっつけたがるのはもう今更なので指摘しないが、


「ちなみに双矢、お前の誕生日は?」


「えーっと、六月二三日」


「……おい」


 この後俺も説教された。

更新一〇〇回目!

ちなみに石渡乃愛ですが、別作品で初登場するはずだった人物です。なぜか菅野台に来やがった、なぜだ。

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