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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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99/100

1-7:猫と新しい発見 振り返るとピンチはいつも自分のせい

 目の前には山の様に大きな蜘蛛。そして、僕の手には大きな剣とか銃とかの凄い武器があるわけでもなく、いつも通りの徒手空拳。


 詰んだな。


『ねぇ、マスター。どうする?ナギと合流しないとヤバいんじゃないの?』


 クロが不安そうな声をあげる。


「・・・なんとか頑張って逃げられるだけの隙を作ってみるよ」


 さて、僕達が悲観的になっている理由だけど、その理由はとてもシンプル。勢い込んで飛び込んだ鳥居がね・・・こっちからだと見当たらないのよね。出口が無いのよ。ゲーム的表現で語れば『逃げられないボス部屋』みたいな?

 そして当たり前のように、どう見ても「ターゲッティングは終了してますよ」って感じなわけで・・・蜘蛛の大きくて沢山ある目が僕の動きを追いかけてるわけで・・・


 あぁ、ほら、もう始まるみたいだし。


 巨大土蜘蛛がその長い脚の一本をこちらに向け高速で突き出して来た。

 僕はその脚を十分に距離を置いて余裕をもって避ける。まだ反撃なんて考えない。『謎の衝撃波』とか『不可視の棘に毒が~』みたいな攻撃があるかも知れないから。


 着弾地点で生き物の脚が当たったとは思えない轟音が響く。


 足元は土というより岩っぽい感じなんだけど、普通にザックリ刺さっている。

 そして、続いてもう片方の脚でも攻撃。同じように避け、同じように前脚が地面を抉っていく。ドカンドカンと大げさな音を立てながら連続で同じパターンを4度ほど繰り返した。


 マジ勘弁。


 着弾地点の様子を見る限り、見た目通りの物理攻撃みたいだけど、それでも威力が洒落になってない。僕の不自然な丈夫さを考慮に入れても、軽々しく攻撃に移るのは控えた方が良さそうな予感。

 それにしても、この蜘蛛さん、なんでだか異常に攻撃的な雰囲気があるような気がするのよね?僕に対して。なんで?初対面なのに?


『そりゃ、子蜘蛛を殺しまくったのがバレてるんじゃないの?』


 ですよねー。たぶん、そうじゃないかとは思ってたけど・・・僕は別に殺したかったわけでもなかった事を思うと辛い。

 とは言え、クロと愚痴っていても仕方が無い。幸いにも向こうの攻撃は十分避けられる速度だし、手数もそれほど多くない。攻撃には前脚の2本しか使わないし、ゲーム的な糸とか毒を吐くような攻撃も無い、今のところは。


 だから、少し攻めてみようと思う。

 攻撃は最大の防御。それにウザいと思われたら出口から追い出してくれないかなーって思わないでもない。


 蜘蛛は単調な事に、また先と同じように前足を突き込んでくる。

 今回は大きく距離を取らずにギリギリの距離でよけ、そのまま脚の関節部分を横から全力で殴り飛ばす。

 予想に反して、まるで枯れ枝を折ったかの様な軽い音を立て蜘蛛の脚が砕けた。


「おぉ、意外といけるじゃん!」


 と思ったのも束の間

 蜘蛛の脚は何事も無かったかのように空気中から滲み出て来るような感じで再生された・・・インチキでは?!

 しかも、呆気にとられた隙をついて、もう片方の脚も突き込まれて来る。

 大事を取って大きく距離を空け避ける。


 本体は動かないまま前脚で突いてくるだけだから避けられるけど・・・こっちの攻撃が効かないなら、いずれジリ貧に陥る事は間違いない。ヤバいヤバい、これ何も考えないで殴るだけじゃ絶対に勝てないパターンだ。


『ねぇ、マスター。さっきの回復の仕方を見て思ったのだけど、この蜘蛛ってひょっとしたらレイス的なアレじゃない?実体がいまいち無い感じの』


 なるほど。・・・・・なるほど!!さすがクロ!脳筋の飼い主とは着眼点が違う!!


 では、まず実験という事で。

 性懲りも無く突き出される脚を避ける。1本目余裕をもって、2本目あえてギリギリに。

 そして、地面に刺さった脚先を引き抜くタイミング。その少し前に今回は殴り砕くのではなく、手のひらで、そっと蜘蛛脚に触れる。起点を接触で示せれば、それだけで十分。


「クロ!」


 呼びかけると同時に赤い帯のような物が蜘蛛の前足を覆っていく。手で触れた前後合わせて1メートルぐらいを対象に魔力の『略奪』を図る。

 普通に肉体がある相手に対しては、その抵抗を打ち破るだけの出力を僕とクロでは出せないけど


『よし!やったわ!!』


 クロの喝采とともに赤い帯が溶ける。もちろん、赤い帯に包まれていた脚は綺麗に吸い尽くされ消えていた。


「マジじゃん?!いけるって!これいけるって!!」


 わりと絶望的な展開かと思っていたので、発見した勝ち筋にテンションが上がる!

 ・・・

 ・・・・・・

 いや、いかん、いかん。落ち着こう。クールに、クールになれ。調子に乗ったらろくな事が無いのは過去の経験から実証済み。二回も死にかけたんだから、流石にもう繰り返さないよ。

 繰り返さないって。

 蜘蛛さんは、まだ脚を吸収された衝撃でグネグネしてるから少し余裕がある。

 だから、その間に落ち着いて考える。


 どこを攻めれば一撃で勝てるか・・・ではなく、どこなら安全に攻められそうか。こんなところで無理して依城さんに心配かけるのは本意では無いので。と言うか、そもそも無理するところじゃないよね。最悪しばらく粘ってたら依城さんが来て、全てを薙ぎ払ってハッピーエンドだし。


 にしても、あの蜘蛛、全然動かない。デカすぎて動けないのか、あるいは昔に施された封印的な物の影響か。普通に考えたら『動けないから最も長さのある前足を使った攻撃しかしてこない』ってのが正解。これは、こちらにとって最大のアドバンテージ。それこそゲーム的な意味でありがちな『糸や毒を吐いたりする遠距離攻撃』があったら、かなり辛いところだったけど、どんだけ図体が大きかろうが、直線的で当てられない攻撃を繰り返すだけなら何も怖くない。


 というわけで、作戦決定。作戦名は「いのちをだいじに」


 何の工夫も無く、繰り出される前脚アタックをサクサクと避ける。そして、避け続けながら少しずつ良い感じに着弾地点を調整していく、うまく両脚が術式の範囲におさまるように。

 蜘蛛に向け距離を詰める。避けるタイミングがややシビアになるが、当たら無ければどうという事も無い。

 それに当たったとしても、たぶん死にはしない、たぶんね。


 そして、距離が詰まるほど、蜘蛛が長すぎる脚を自由に動かせる範囲は狭まっていく。

 電柱ぐらいある大きくて太い脚が何度も何度も間近を掠めていく。

 追い詰めているとでも勘違いしているのか、どんどん狙いとペースが単調になって来る。


 まぁ、あれよね、所詮は蜘蛛。脳みそが十分無い生き物の誘導ぐらいチョロいもんよ。

 そして幾度目かの回避の後、チャンスが巡ってきた。大蜘蛛の両脚が少しの時間差をつけ同じ場所へと突き込まれる。


 これを待っていた。


 強化魔術の出力を瞬間的に上げ、着弾点を横に回り込むような軌道で避ける。

 着弾の轟音、砕け散る岩盤の欠片、舞い散る粉塵。

 そんな中、地面に両脚が刺さっているのを確認した上で、余裕をもって脚を触り、クロが魔術を稼働する。


 蜘蛛の両脚が鈍く光る赤い帯で包まれ始めた。前回は脚の半ば止まりだったが、今回は僕の方から思いっきり魔力を送り込み範囲の拡大を行う。


 突き出された蜘蛛の脚の全てが瞬く間に赤い帯で包まれた。

 蜘蛛がガタガタと全身を震わせている。蜘蛛にも食われる恐怖とかあるのかね?僕は蜘蛛さんの事そんなに嫌いなわけでもないけど、依城さんの健全な精神状態維持のために死んでくれたまえ。

 攻撃手段が前脚だけだから、それさえ封じたら後は余裕よね。それに・・・

 蜘蛛の脚から奪い取った魔力を『略奪の術式』に注ぎ込み、もう一段の強化と拡大を行う。

 注がれた魔力の量に応え、赤い帯が蜘蛛の本体にまで伸びていく。


 ぐるりぐるりと端から少しずつ赤い帯に包まれていく蜘蛛。

 ここまで来ると僕はもう見ているだけ。クロは術式の制御に忙しそうだから、なんというか僕は暇。

 ぼんやり見ていると蜘蛛は隙間なく全て帯に包まれ、なんだかよく分からない物に成り果てていた。脚は全部吸収しきって溶けて消えたから・・・あれだね、赤くて薄く光っている歪な球形の何かだね。

 一件落着。ご苦労様。帰って御飯にしましょうね。


『・・・・・・あれ?変ね?これ以上は吸えないみたい??』


 ん?どういう事?もう吸い尽くしたって事?でも、まだ中身は無事みたいだし??


 その時、歪な赤い球体の正面に切れ目が入った。


 そして


「ガッッ!!!」


 何か大きな物に正面から衝突、いや跳ね飛ばされ肺の中の空気が絞り出される。

 弾き飛ばれながらも空中で自分の姿勢を意識する。そして、接地の姿勢を制御し衝突の勢いを殺す。地面を何度も転がる事になったが、衝突物に引き摺られる事は避けられたようだ。

 正確に狙いを付けられたわけでは無かったのだろう、僕の体に大きな損傷は無い。

 痛みを堪え、衝突物に対して向き合う。・・・衝突物とか誤魔化しても仕方が無いか。

 僕は自動車程度のサイズにまで縮まった蜘蛛に対して向き合った。


『魔力反応は大きく減衰しているわ。でも、この蜘蛛はさっきまでと違って、しっかり実体があるみたい。だから』


「大丈夫。分かってる。それにどっちみち、こんだけ速く動ける相手に略奪の術式はかけられないよ。ここからはガチンコで行こう」


 作戦変更「ガンガンいこうぜ」


 たまたま目に入ったのだけど、蜘蛛がやって来た方向の岩壁にボロボロの日本刀が刺さっていた。つまり、昔話から考えると、この蜘蛛は肥大化した体ごと、あの刀で壁に貼り付けにされて封じられていたと。だから、ずっと動かなかった。いや、動けなかった。そして、僕が封じられた蜘蛛の魔力を抜いて、サイズダウンさせる事で戒めから解き放ったと

 ・・・・

 ・・

 拳を握りこみながら、僕は一瞬だけ自省した。


 自業自得感がパネェ

 


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