1-8:猫と新しい発見 え?これずっと持っとくの?マジで??
早速ですがまたまた作戦変更。今度は「いのちだいじに」
というかね、もう無理。どうしようも無いの。蜘蛛がね、なんか凄く速いの。避けるので精いっぱい。
とか言ってる間にまた突っ込んでくるみたいだし。
こっちを向いて、たくさんの目でしっかりと僕の様子を観察して、一瞬身をかがめ力を溜めて
?!!
蜘蛛が僕の視界から消える瞬間、タイミングを合わせて全力の横っ飛び。気分としては命がけの音ゲー。今回もなんとかgoodぐらい。
そして後方から大きな物が地面を激しく削るギャリギャリという異音。音の方へと向き直れば、車ぐらいまで縮んだ蜘蛛が10メートル程離れたところで尻を向けて佇んでいる。
そして、またこちらを視野に入れようと向きを変えていく。
残念ながら僕は遠距離攻撃の手段を持っていないし、徒手空拳では擦れ違いに一撃入れる事も出来ない。向こうは向こうで直線の攻撃しか出来ないのに、それが決定打にならない。お互いに相性が悪い。まるで千日手みたいな状況。蜘蛛の燃料が切れるのが先か、あるいはこちらの集中力が途切れるのが先かの勝負。
・・・って、そんなのこっちが不利に決まってるじゃん。交通事故を避け続けてるようなものなんだし、そのうち轢かれるわ。
というわけで、困った時の猫頼み。
「クロ、どう?打開策プリーズ?」
『・・・正直、何も思いつかないわ。でも、あれ使えるんじゃない?蜘蛛を封じていた刀』
そうでした。そう言えば、元々はあの刀の話を調べに来たのでした。
僕から見て蜘蛛の後ろ側の壁に刀は刺さっている。今の立ち位置から考えると、次の蜘蛛の攻撃を避けて全力ダッシュで・・・いけるか?
何十年だか何百年だか知らないけど、あの蜘蛛を貼り付けにしてた刀だ。古くても、きっと使えるはず・・・使えたらいいなって。
先ほどまでと同じように蜘蛛ダッシュが来るようだ。同じことばっかりしてくれるのは本当に助かる。フェイントとか混ぜられてたら、とても対応なんて出来なかったから。
そして、それを幸いな事に今までより更に集中しタイミングを計る。
蜘蛛の脚がたわむのが見える。上体が地面ギリギリまで下がる。
このタイミングで大きくサイドステップ。
身体ギリギリのところを大きな何かが通り過ぎた感触だけがある。一瞬の風と圧力。だが、どんな手段使っているのか、その姿をはっきりと目にする事がどうしても出来ない。ただ速いだけなら僕が対応出来ないなんてあり得ないのに。
まぁ、今はそれは別にいい。
少しよろけたが、脇目も振らずに壁へと向かって全力ダッシュ!
『マスター!バレたわ!!』
速くない?!さっきまで体当たり後はちょっと溜めがあったじゃん?!常にこっちに尻を向けた体勢で一呼吸置いてたじゃん?!
慌てて壁に刺さった刀に張り付くが
「抜けない!!!」
ヤバい!想定外!!
とりあえず強化魔術を全開にして腕力で・・・ダメだ!刀の柄がグラつく!!というか、無理やり抜くとたぶん折れる。こうなったら!!
「なるようになれや?!」
『ちょっと、それは!!』
クロが制止するような声を出しているが、それを無視し僕は『刀に』強化魔術を全力で込め始めた。
何時ぞやの塩ビパイプシリーズの様に10秒もすれば黒いグズグズした何物かに変わってしまうかも知れない。でも、きっと今が踏ん張りどころだと思うから。
だから・・・
全力で役に立って潔く散ってくれ!!蜘蛛が切り殺せるなら本望だろう?!!
「どぅりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
古びた柄を握る腕に渾身の力を籠め、僕は岩盤に刺さったままの刀を振り抜いた。
ガラガラと岩の崩れる音が響く。抜けた。というか、岩を切り裂いた。
そして間近には高速で接近する蜘蛛の姿。
僕は抜いたばかりの刀を真正面から蜘蛛に叩きつける。
だが蜘蛛は止まらず、そのまま衝突した。
歯を食いしばり耐える。
角度が良かったのか幸いにも壁と蜘蛛に挟まれる事は避けられた。
とりあえず蜘蛛の勢いを大きく削ぐ事には成功したようで即死や重症ってわけじゃないようだ。が、それでも結構な勢いで吹っ飛ばされ地面をゴロゴロと転がるはめにはなった。
さて蜘蛛の様子はと
『おぉ、良い感じに切れてるわよ、やったわね』
クロの解説の通り、ただ刃を当てただけなのに蜘蛛の頭に深い切り込みが!いいね!!効果は抜群だ!いやはや良い武器を拾ったもんだ。
その時、刀からピシリと何か嫌な音が
『!!罅が入ってるじゃないの?!マスター!!どうするの?!どうしたらいいの?!まだ蜘蛛は死んでないわよ?!』
クロ大パニック。大丈夫だよ、クロ。僕も泣きそうだし、どうしたらいいか分からないから。
蜘蛛はまだ健在。でも刀も・・・まだ折れてはいない。
真ん中あたりに罅が集中している。錆まくりの刃物をいきなり振るったら・・・そりゃいくら業物とはいえ
「さよなら、僕の刀。短い間だったけどありがとう」
再び刀に魔力を込める。ここで蜘蛛を仕留めるためには、刀に無理をさせる以外の選択肢は無いのだから。
それにしても、この刀自体に何かの術式が込められているような気配がある。強いて言うなら土蜘蛛特攻?さっきも突っ込んでくる蜘蛛の動きがはっきり見えたし、恐らくは蜘蛛が使っている妨害の魔術的な奴を突破してるって事なんだろうね、自動的に。今だって蜘蛛がこの刀を警戒して僕と距離を置こうとしている事が、なんとなく伝わって来る。
というわけで、この機を逃す手は無い。刀さんには十分な魔力を提供させて頂くので精いっぱい頑張って頂きたい所存。
まだうまく動けない蜘蛛に向かって一気に距離を詰める。
蜘蛛は最初と同じように前脚を突き出して牽制しようとする。だが・・・
「ふっ!!」
気合とともに刀を袈裟斬りの形で振るう。小刀ぐらいまでなら使いこなせる自信はあるが、重さも長さも長大な日本刀で僕が出来るのはこの程度。
だが、そんな拙い腕で振るわれた刃でも、蜘蛛特攻の成果か、蜘蛛の両脚は綺麗に切断され、地面にその切れ端を落とした。
蜘蛛が今までに無く大きく怯む。
弱点はよく分からないけど、とにかく最大限の成果を狙うべく、刀を突きの形で構え直す。これなら振るい方の問題は出ない。そして狙うは当然の如く頭。
蜘蛛は折れた脚で健気にこちらを押し返そうとするが、少々小突かれた程度で怯む意味はもう無い。
無理やり蜘蛛の顔のすぐ前まで踏み込み、罅割れた刀をその頭の真ん中に突き込んだ。
思いのほか抵抗は無く、刃はスルリと蜘蛛の頭蓋に吸い込まれる。
刃が柄の近くまで一気に食い込んだ。せっかくなので手首の力で刃の向きを変え殺傷力を上げてみる。
パキリ
やっちゃった。
折れたわ、刀。
あー、真っすぐ刺して満足してれば良かった。
普通に考えたら頭を刺した時点で死んでるって。なんでわざわざ捻った。
やべぇ
これ依城さんにどう説明しよう。わざわざ離島まで付いてきてくれたのに。どうしよう、マジでどうしよう。
『見て、マスター!やったわよ!!』
蜘蛛は体の形を維持出来ずにドロドロと溶け始め、そして子蜘蛛と同じように空気と一体化するかのようにして消えて行った。
最後に残ったのは手のひらサイズの蜘蛛の遺骸とパッキリ折れた刀の上半分。
『・・・あぁ、やっちゃってたのね、マスター』
「ごめん、本当にごめん」
申し訳ない。本当に申し訳ない。みんなに苦労もかけて、島の人も蜘蛛災害?に巻き込んで、その成果が折れた日本刀。
『まぁ、あれよ。折れたと言っても打ちなおしたり加工したりすれば使い道もあるわよ、たぶん』
あるといいなぁ、使い道。でも折れたら普通に錆びた金属の塊ってだけのような気が?
その時、クロが何かに気づいた。
「あれ?この刀、なにか出てない?」
確かに。刀から溢れ出る魔力のような・・・これは、さっきの蜘蛛の気配??
僕から分離したクロが頭の上からヌルリと降り刀を検分する。
「なるほど・・・なるほど?」
尻尾をフリフリ、割れた刀身をクンクン。散歩に出た猫みたいで可愛らしい仕草。
「小さな破片があるかもしれないし危ないよ」
・・・・・・・
・・・無視だ。返事もしてくれない。
まぁ、猫だからね。新しい玩具に夢中の猫だからね。仕方ないよね。
「マスター、ちょっと割れた刀身の方を握ってみて」
手を切らないように注意しつつ、拾い上げた刀身を掴み取る。
おや?なんだかジワジワと魔力が抜ける感じ。
「やっぱり。この刀、いえ刀に込められた術式が魔力を吸い込んで何かに変換してるみたい。折れてもちゃんと機能してるみたいよ。やったわね、マスター」
ふむ
「単純に喜んでいいのか分からないけど、この刀から漂っている気配・・・さっきの蜘蛛じゃない?大丈夫、これ?」
「そうねぇ。止めをさした時に取り込んだのかも知れないわねぇ。あ、そうだ。魔力が抜けると取り込んだものも霧散しちゃうと思うから、あの・・・あの人に見てもらうまで、そのまま持っててね」
あの人?柏木さんかな?そろそろ名前を憶えてあげてもいいと思うよ?にしても
「こっちの折れた刃とむき出しの日本刀を、ずっと持っとくの?」
「何かで隠してもいいわよ?」
そういう問題では無い。
船とバスに乗らないと帰れないのだけど?このまま持って帰れと??
え?マジで??




