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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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1-5:猫と新しい発見 憧れの新スタイル(不採用)

 露天風呂近くに他の蜘蛛がいなかった事もあり、一旦民宿に戻る事になった。装備一式を取りに戻るという事だけど・・・正直、蜘蛛相手に備えとかいらないような。


「いやいやいや、あんなの完全武装で遠くから焼き殺すぐらいで丁度いいんですって!!」


 と依城さんが熱心に説得してくるので仕方なく。

 まぁ、油断して死にかけるのは僕の得意技なので、準備をしっかりするに越した事は無いのだろうけど・・・でも蜘蛛ねぇ、それこそ放置してても何の害も無いんでは?猫島もあるんだから、蜘蛛島とかあってもいいよね?


「気が乗らないのは分かるけど、たぶん世間的にはナギの反応の方が正しいわよ」


 飼い猫にまでたしなめられた・・・そうかぁ

 風呂から民宿までは歩いて数分。急がなくても、すぐ到着する道のり。とはいえ、ゆっくりする気分でも無いし、少し早足でサクサクと歩く。

 そして、ちょうど民宿の近くまで戻ってきた時、唐突にあちこちからサイレンの音が響きだした。田舎にあるって噂の防災無線だね。初めて聞いたや。


「・・・蜘蛛かなぁ」


「蜘蛛に決まってるじゃないの」


「もちろん蜘蛛ですよ!」


 サイレンは響くが内容のアナウンスは流れてこない。そりゃ、そうだ。意味不明だものね。言いようが無いよね。


『・・・・村民のみなさん!非常事態です!大至急『よりあい会館』まで避難をお願いします!

 出来る限りの素早い避難をお願いします!繰り返します・・・・』


 なるほど。事態の説明は避けて、とりあえず避難を優先するという事か。さすが役人の人、賢い。人命第一ですものね。

 おっ、民宿の人も避難するみたい。ちょうど出てきたところで会えて良かったよ。擦れ違ってたら、忍び込まないとダメだったから。

 にしても、島民の教育が行き届いてる。やっぱり離島だと津波とかが怖いからかな?


「あら、お客様方も帰ってきたの。いま放送があったけども」


「ええ、僕達も最低限の荷物だけ持ったら避難させてもらいますね」


「ほんと、いきなり何があったんでしょうなぁ・・・すみませんが、よろしくお願いします」


 そう言って民宿の人は去って行った。戸締りとかしないんだね。田舎の人、凄い。


「はいはい、ぼさっとしないで!さっさと用意して、さっきのおじいちゃんの家に行くわよ!」


 クロに急かされ部屋に行って用意を始める、簡易にだけど戦闘の用意を。

 と言ってみたところで、持ってきてるのは柏木印の手袋と靴だけ(両方真っ黒)なので僕の準備はすぐに終わる。投げナイフという名のペディナイフ(調理用)もどっかにいっちゃったし。また徒手空拳だよ。


 というわけで暇だし、依城さんが何の用意をしているかを眺めてみる。

 用意というか、着替えていた。

 風呂に入る前には柔らかそうな生地のラフな部屋着に着替えていたのに・・・いや、見てたらいかんね。セクハラダメゼッタイ。

 壁の方を向いて座る。ついでに畳の縁を眺める。変なとこで防御力無いよね、依城さん。

 その時、クロが僕のズボンの裾をくいくいと引っ張った。なんぞ?


「ねぇねぇ、ナギが着替えてるわよ?」


「知ってるよ?」


 だから、ちゃんと下を向いてるよ??正解でしょ?


「・・・ま、良しとしましょうか。今は非常事態みたいだし」


 果たして大きめの蜘蛛が出てきた程度の事が非常事態なのだろうか?脚を入れても、やっと人間と同じ大きさぐらいだし、放っておいても別に・・・


「さぁ、行きますよ!赤松さん!」1


 準備が終わったらしい。ジャージ姿で運動靴を持って、気合が復活した依城さんがカトキ立ちでそこにいた。気合いが入ると、その姿勢になるんだね。


「スポーティな恰好も似合うね」


 気合にはお応えしましょう。


「?!今はそういうのはいいんですよ!!そういうのは・・・また後でお願いします!!」


 そう言いながら僕の肩をバシバシと叩く。

 よし、いつも通り。


「いちゃついてないで、そろそろ、おじいちゃん家に行ってあげないとヤバいんじゃない?」


「たかが蜘蛛だし、そんなに気にしなくても」


「いえ、あれ普通の人には結構ヤバいですよ。毒とかあるかもしれませんし」


「・・・そっかー、なら急いで行こうか。依城さんって狙撃みたいな感じの事出来たよね?」


「ええ、魔術師ですから」


 僕も魔術師だけどね、出来ないけど。まぁ、いいや、方針は決まった。



 出発前に再度、民宿の玄関からクロに探査をしてもらう。蜘蛛の場所が散ってたら村上さん家に行く意味も無いし。


「ウジャウジャいるわねぇ、あのおじいちゃん家」


 ・・・クロってさ、人の名前、本当に覚えないよね。


「了解。じゃ、一気に近づいて、飛び上がって高いところから狙い撃つという事で。さっきも上側からの攻撃には全然対処出来てなかったからさ」


 真正面からでも反応出来てなかったけど。


「んじゃ、どうぞ」


 作戦は説明したので依城さんに背中を向けて受け入れ体勢へ。


「お、おんぶですか?!」


 僕が乗り物役をやりましょう、みたいな。

 たくさん目標がいるのに一匹ずつ殴るっての、あれじゃん、無駄じゃん?だったら僕は移動砲台の移動部分に徹する方が良くない?という思考。


「せめて、せめて!前側にしてもらえませんか!!」


 顔が真っ赤。恥ずかしいなら無理しなきゃいいのに。


「もちろん、よろしくってよ、お嬢様。でも、ちょっと怖いかもよ?速いし高いし。まぁ、でも依城さんなら大丈夫か。頑張ってね。んじゃ、クロ行くよ」


 依城さんをお姫様抱っこし、強化魔術の出力を上げる。

 狙うは先手必勝、迅速果敢。一応、普通の人にあんまり魔術を見て欲しくないってのもあるし。


 軽くその場で3回ほど飛んで調子を確かめる。大丈夫。人を一人持ったぐらいでは何の影響もない。行ける。


 大きく一歩目を踏み出す。そして地面を蹴るように、飛ぶように、加速を開始する。


 まず出来る限りの加速を重ねる。

 踏みつけたアスファルトが足元で砕け散る。踏み台にしたブロック塀が衝撃で崩れ落ちる。

 悪いのは蜘蛛なので特に気にせず障害物を飛び越え、踏み壊しながら村上さん宅へ向かう。

 元々たいして距離が無かった事もあるし、バカみたいな加速もしているしで、ものの数秒で目的地が見えて来た。


 なので、村上さん宅の少し手前にある家の屋根を踏み台に大きく跳躍する。

 足元で屋根を踏み壊した事を感じながら、ビルで言えば5階分ぐらいだろうか、軽く10メートルを超える高さまで飛び上がる。


 視点が上がり視界が大きく広がる。そして、寒々とした空の中、僕は目標を確認する。


 見えた。


 村上さん宅の周りに、というか庭に蜘蛛がたくさん。

 20匹はいるね、少なくとも。田舎で庭も広めとはいえ、人と同じサイズの蜘蛛が一か所に集まってウジャウジャしてると流石に辛い物がある。


 それはそれとして、跳躍もそろそろ頂点、胸に抱いている依城さんの様子はと・・・おぉ、加速にも高さにも恐れる事なく、しっかり凛々しい顔をして目標を見据えている。流石、依城さん。信頼出来る自慢の彼女です(戦闘力的な意味で)。


 空中にいる僕と依城さんの周りに禍々しい感じの黒い魔力が薄く球状に展開された。そして、その次の瞬間、それは無数の小さな槍となり、眼下の蜘蛛に向け降り注いでいく。


 加速した意識でも全ての軌道を追う事が出来ないほど高速で大量の攻撃。


 鈍重な蜘蛛は抵抗さえ出来ずに次々に撃ち抜かれて行く。


 上空まで様々な物が砕け散る音が響く。・・・外れた槍が庭とか家の端っこもそこそこ撃ち抜いてるけど・・・無理ないよね。諦めよう。悪いのは蜘蛛だし。


 そうこうしている内に地面が近づいて来た。


 強化魔術を使っている僕自身は着地の衝撃なんて無視出来るけど、依城さんはそうもいかない。なので、落下中に魔力障壁の出来損ないを地面にぶつけ、衝撃を弱め、膝のクッションを最大限に効かせてからの着地!


 気分は卵を抱えながら新体操してるみたいな感じ。した事ないけどね、新体操。結果はもちろん無事に成功。依城さんには殆ど衝撃を伝える事なく地面へと到着。


 そして、撃ち漏らしていた蜘蛛を依城さんが黒い小さな槍の連打で片づけて行く。


 地に足が付いて安定したからか発射速度がさっきと段違い。まるでガトリングガン。どう見てもオーバーキル。・・・本当に蜘蛛が嫌いなんだね。


 ちなみに、地に足が付いてると言っても、まだお姫様抱っこスタイルのまま。気分的には嬉し恥ずかしと言うより、重火器を抱えているような妙な興奮がある。薙ぎ払えー、みたいな。

 そして、僕に抱えられたままの依城さんは何かに取り憑かれたかのように槍を打ち続ける。


 どんどん撃ち抜かれる蜘蛛。

 崩れるお家の外壁。

 抉られる庭。

 消し飛ぶ庭木。


 ねぇ、これ撃ち過ぎなんじゃ・・・


「ナギ、もういいわよ。この辺りに蜘蛛はもういないみたいだから」


 いつの間にか分離していたクロに止められ、ガトリングガンの掃射は終了した。

 やり過ぎた感じが凄くするけど、正直、だいぶ楽しかった。もう少し踏み込んで言えば、これもっとやりたい。


「ねぇ、依城さん。これから荒事はこのスタイルで行こうよ?依城さんが大砲とか機関銃の役目で、僕が高速機動兼発射台の担当。わりと無敵じゃない?」


 ・・・・・・・

 ・・・・・


 返事が無いので顔を覗き込んでみると、見事に蒼白だった。

 あー・・・高速機動にいきなりの跳躍・・・そらキツイかぁ。良いアイデアだと思ったんだけど。


 その時、家の中から誰かが出てきた。というか普通に村上さんだった。そら、そうよね。そら、確認しに来るわ。庭から何かが崩れるような音がガツンガツンしてたんだから。

 とは言え、色々探られるのは正直面倒。今回のテーマ通り先手必勝で行きましょう。会話の主導権を握って、さっさと避難してもらうのです。


「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」


「あぁ、私は大丈夫、あの大きな蜘蛛が出てきて、すぐに家に駆けこんだから・・・だが、これは一体」


 荒れ果てた庭にショックを受けているのか、それとも大きな蜘蛛が怖かったのか・・・怖いかなぁ、蜘蛛。


「大丈夫ですよ。ここにいた蜘蛛は、私と依城が一掃しました。他の皆さんは『よりあい会館』というところに避難されているそうです。私達も少し調査したら向かいますので、先に避難しておいて頂けますか?」


 色々と考えられる前にご退場頂く。ハリーハリー。


「あぁ、そうだな、分かった。すまないが、あとは頼むよ」


 村上さんはそう言うと、こちらをチラチラ見ながら小走りに去って行った。

 よしよし、これでオッケー。これで心置きなく怪しい魔力の発生源を調べられるってもんよ。居間の下の方とか言ってたよね、確か。

 にしても、最後のチラ見が気になるなぁ。・・・あれか?クロが実体化して『頭の上に猫』って謎スタイルになってるからかな?

 そんな事を考えていると、服の胸元が力なくクイクイと引っ張られている事に気が付いた。


「ごめん、ごめん。ちょっと考え事してたや。どうしたの依城さん?」


「・・・あの・・恥ずかしくて・・・ちょっと・・・そろそろ下ろして」


 なるほどなー。


 頭に猫乗せて、お姫様抱っこで女の人を引っ付けてる変人に「もう大丈夫です」みたいな事を言われても面白みしか無いわなぁ。村上さん、よく言う事聞いてくれたね。お人好しか。


「ねぇ、聞いてますか・・・」


 せっかくなので、お姫様抱っこはしばらく継続させてもらった。

 


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