1-3:猫と新しい発見 蜘蛛の昔話と浮かれる旅行者
船での移動は実質30分程度しか無かった。見た目はアレだったけど高速船という名前は伊達では無かったという事。はやいはやーいって感じ。
まぁ、あるいは単純にそんなに本土から離れて無かったからかも?
ちなみに乗客は案の定、僕達3人(2人と猫一匹)だけだったので道中は遠慮無く満喫させて頂きました。三人で窓にへんばりついて海を眺めるのも楽しいもんですよ。
特にクロのテンションが高くて面白かった。前に海に行った時も海岸までだったからね。初めての大海原。旅行への期待もあってテンション上げ上げ。限界まで伸ばした尻尾をぶんぶん振り回してて、見ているこっちも面白かった。
そして到着した目標の島はというと
「・・・思ったより寂れてますね」
船から降りるなり依城さんがぽつりとそう言った。
昔は観光客向けで栄えた時期もあったのだろうか、船を降りたところに商店街らしき物の痕跡があった。というか痕跡しか無かった。もっと丁寧に言えばラーメン屋さん以外はどこも営業していなかった。
何処にでもあるよね、ラーメン屋さんって・・・案外、夏場に来たら他に営業してる店もあるかもしれないけど。ほら、海が売りの島にさ、わざわざ冬に来る観光客なんて僕達以外は普通いないしさ?ぶっちゃけ今の時期の海なんて見てても寒々しいだけだもの。まだコートはいらないけど、僕でさえ厚手のシャツとジャケットになるぐらいの気候だから、そら他のお客さんなんていないよねって。
「ほら、別に観光客用のお店に用事があるわけでもないし、まずはサクサク例のアレの話をしに行こうよ」
「そうですけど、ちょっと残念ですね」
「とりあえずお土産は買えそうにないものね」
そんなこんなで上陸するなり旅行特有のハイテンションは終了。でも、旅を楽しむ前に、まず目的を果たさないといけないし、ここらで一回落ち着いた方が良かったのかも知れないよ?
前向きに行こう、前向きに。
そして三人でプラプラと歩きながら件の刀剣とやらを知っている方のところに向かう。別にこちらが招かれたわけでもないのでお迎えとかは無し。というわけで気楽に駄弁りながらプラプラと。
「この田舎っぽい雰囲気、というか寂れた感じ、私が昔住んでたところをちょっと思い出します。普段はずっと都会にいるから少し懐かしいかも」
「へぇ、そうなんだ。僕が引っ越す前に居たところも、こんな感じだったかぁ。夜とか人の気配なんて全然無くてさぁ」
「それで油断して夜中の秘密特訓をSNSに晒されたんですよね。まだ半年弱しか経ってないのに懐かしいです」
「あれは面白かったわねぇ。ナギがいきなり怒鳴りこんでくるし」
クロが僕の頭の上でしみじみと語る。いやホントに懐かしいわ。
「怒鳴ってませんよ。少し怒っていたかもしれませんけど」
そう言えばだけど振り返ってみれば「ここでの僕たちの出会い方」ってなんか違和感があるのよね。夜中の一人大運動会ぐらいで協会側にバレるって考え難いような?
「ねぇ?赤松さん、そんなに怒ってなかったですよね?」
「うん、あの時は怖かったよ。正直もうダメかと」
「えー、普段そんなに怖がったりしないじゃないですかー?意地悪言わないでくださいよー」
そんな感じに依城さんを弄りながら田舎道を歩き情報提供者のお宅へ向かう。
先方のご厚意で昼ご飯を用意してくれているそうなので丁度良い時間に到着したいもの。幸いにも迷うほど複雑な街ではないので、そこは問題無さそうだ。
「おー、たぶんあそこの大きなお家じゃないのー?なんか薄っすら魔力反応があるしー」
そして、しばらく歩いたところでクロが目標地点を無事発見。というか、魔力反応って・・・おかしい・・・情報提供者は普通の人のはずなのに。
毎度おなじみの嫌な予感がする。
いや、先入観は良くない。ニュートラルに行こう、ニュートラルに。
「魔術師の家系ってわりと断絶しやすいんですよ、後継者問題的な意味で。今回の協力してくれる方も魔術回路が無かった人のご子息とかなのかも知れませんよ。魔術の知識が伝えられて無いから、残された霊装の扱いに困ってたとか、そんな話なのかも?」
依城さんの名推理。というか予測、いや解説か。こっちの世間の常識が無いので助かります。ありがとう。
「うん、そんな感じだよね、きっと。依城さんが居てくれると色々教えてくれて助かるや。ありがとう」
「いえいえ、いいんですよ、これぐらい。だって、ほら、私達ってそういう関係なわけですし」
どういう関係さ、と思わないでも無いけど、なんだか嬉しそうにクネクネしている依城さんを見ると・・・まぁ、別にいいかという気分。
「どういう関係よ?」
クロは我慢出来なかったみたい。猫だからね。我慢とか苦手だもんね。
でも気分よくクネってるとこに水を差すのもなんなので、クロにハンドサインで「深堀り良くない」と指示を出す(ちなみに先のクロの言葉は依城さんの耳には届いていなかった模様。自分の世界に入ってるもんね。仕方ないよね?)
そして到着したお宅は良く言えば伝統ある日本家屋。悪く言えば、だいぶ年季の入った古い造りのお家。きっと50年は固い。
呼び鈴を押すと、ちょうど待っていてくれたのだろう、家主である村上さんが出迎えてくれた。白髪交じりの普通のおじいちゃんだ。体型も普通、恰好も普通の洋服、怪しいところは何も無い。もちろん肌の色も普通の人間の範疇。大丈夫。大丈夫なはずだ。
「はじめまして。連絡させて頂いておりました赤松と申します。本日はよろしくお願いします」
そう言いながら偽物の名刺を渡す。
僕達は都内の大学の研究室所属という事になっている。依城さんと一緒に民俗学とやらの調査をしているという設定。教授役が支部長で、下っ端が依城さんと僕って事。二人とも学校なんか行ったことないのにね、変なの。
村上さんから特筆すべき事も無い、ある意味で素晴らしい自己紹介を受け、そのまま用意してくれていたお昼ご飯を頂く流れになった。
珍しくトラブルも暴力も無く淡々と物事が進む。実に素晴らしい。
お昼ご飯も普通の一般的な家庭のもの。御飯、みそ汁、魚の煮つけ、卵焼き。そして、僕達が手土産に持ってきた焼き菓子・・・というか持ってきた僕達が食べちゃっていいの?
ちなみに、クロは普通の人の前で姿を現すわけにもいかず頭の上から僕達が食べているのを見ているだけだった。時々、頭皮に爪が食い込んでいるのが彼女の心境を表しているのだろう・・・晩御飯は個室で一緒に食べられるはずだから許して。
もちろん、御飯は普通に美味しくて、普通に良かった。でも食事中のお話は『昔から伝わるという暗めの物語』でテンションはイマイチ上がらなかった。僕達は黙ってふむふむと聞いているばかりだし。依城さんは時々「なるほどー」と謎の相槌を可愛らしく打っていたけど、ちゃんと聞いているかはかなり怪しい。
そして、その話の内容は、もちろん、僕達が聞きに来た「怪しい刀剣」の物語。村上さんは情感たっぷりに話をしてくれたが、長かったので要約すると
『この島には昔から土蜘蛛という妖怪的な物がたくさん巣くっていた。その蜘蛛に島民は苦しめられ怯えて暮らしていたが、何処からともなく表れた武士がバッタバッタと切り倒し、蜘蛛の親分を自分の宝刀で山の中の大岩に縫い留めて封じた』
という話だった。
「ほれ、そこの山の中に神社があってな。その地下の洞窟で今もその土蜘蛛は眠っているという話らしいぞ。実際には何も無かったがな」
と、これだけの話だ。たった、これだけの話なのに一時間以上かかったよ。お年寄りの話は長いよね、やっぱり。というか魔術師でも無い人に話を聞いたところで、実のある話にならないのは分かっていた。でも、それでもあえて聞いた理由は
「伝承に語られるような物は何も見つからなかったが、専門家の君達なら、きっと違う物も見えるだろう。今日は少し休憩して明日にでも行ってみるといい」
その理由は単純に村上さんが山の持ち主だったからだ。
流石にね、一日で終わるとも限らないのに調査を強行するのはトラブルの元ですから。僕と依城さんでも何の罪も無いおじいちゃんを殴り倒すのは、ちょっと良心が咎めますもの。
というわけで、村上さん家でのミッション終了。無事、入山許可をゲットしました。というわけで去りましょうか。
「妻を亡くしてから、こんなに話をしたのは久しぶりだった。楽しかったよ、ありがとう」
村上さんは別れ際にそう言った。好々爺って感じだ。僕や柏木さんは、きっとこういう風には成れない気がする。
「私達もお話が聞けて嬉しかったです。それに美味しい御飯まで頂いて。本当にありがとうございます。調査が終わったら寄らせて頂きますね。では、また」
おぉ、凄い。依城さんが外向けの応対をしているところって地味に初めて見た気がするけど、まるで良いところのお嬢さんみたい。やるじゃん。
僕?しゃべるとボロが出るから出来る限り静かにしてたよ。
そして村上さんと別れて次は民宿に向かう。とりあえず荷物置かないといけないし、今後の計画も立てないと。とは言え、まず最初にやるべきなのは
「結局はその伝承にあった洞窟とやらに行ってみるしかないよね」
「そうですね・・・でも本当に何か霊装的な物があったりするのでしょうか?完全に何処にでもある昔話でしたけど」
依城さんが疑念を呈しているが、正直、僕も同感。柏木さんからの情報じゃなかったら、もう速攻で帰る準備していると思うもの。
「あら?二人とも気付かなかったの?あのお家の地下に何か埋まってたわよ。魔力の痕跡っぽいのが居間の下の方から微かに感じられたし。まぁ、二人は一生懸命御飯食べてたから気が付かなかったのかも知れないけど」
そういや家に入る前にも魔力がどうのこうの言ってたね。家主ではなく場所の方に何かあったわけか。もう少し話を聞いておくべきだったかな?
にしてもクロは自分が御飯に有り付けなかったのに拘り過ぎ。別に使い魔だから食べなくても問題無いのに・・・まぁ、でも一人だけ食べないってのも寂しいか。
「晩御飯は皆で一緒に食べようよ。個室で御飯食べられるらしいからさ」
「へぇ、民宿って食堂的な場所で他の人と一緒に食べるのかと思ってました」
「ねぇ、ナギ。民宿とは言っているものの実際は普通の家なんじゃないの?」
クロの素朴な指摘。だが恐らくそれが正解。客間だけ綺麗なお部屋って感じの民家なんじゃないかな?
「泊るところは普通の民宿だけどさ、お風呂は近くに温泉があるから、それを使えるんだって。
なんか観光客用に作ったとか」
僕が言い出しっぺの旅行なんだし盛り上げポイントをアピールしてみた。温泉だよ?凄くない?ちょっと寒いし、丁度いいよね?そんな感じ。
「!!!いやいや、いきなりお風呂の話とか、もうホントに!」
そう言いながら依城さんは何時ぞやのように僕の肩をバシバシと叩く。そして顔を赤らめクネクネと
また過剰な反応を・・・別に嬉し恥ずかし的な文脈なのではなく、普通に観光名所的なノリで伝えただけなのだけど。
ちなみに、ここから数時間後に観光気分は消し飛ぶ事になる。だけど、まだこの時はそんな事になるとは露ほども思っていなかった。




