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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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エピローグ3 僕達はそのためにここにいるのだから

 家の近くにある高級ホテル、その中に僕一人なら絶対に行かないような喫茶店がある。

 だが今日は残念ながらそこで待ち合わせ。もちろん、着ていく服なんて無いから、Tシャツ・ジーパン、そして寒いから上に黒いジャケットを羽織っての出陣。


「マスターはもう少し服装に気を使った方が良いわね」


 道すがら僕の頭の上でクロがぼやく。だけど面倒なので黙殺する。服って何を買ったらいいか分からないんだよね、正直。


 頭にクロを乗せたままプラプラと綺麗な街並みを眺めながら歩く。協会から用意してもらったマンションがある街は本当に綺麗なところ。自分で引っ越し場所を選んでいたら絶対に住む事が無かったと思う。それこそ、今だって散歩するだけでなんとなく違和感を覚える程なのだから。

 そして近所にありながら初めて来たホテルは想定以上に高級感が溢れる場所で・・・ちょっと場違いな感じが


「ねぇ、場所のチョイスを間違えた感じしない?」


 クロがスッパリ言ってくれたが、実際そんな感じ。

 待ち合わせの時間まで少しあるので店に入り紅茶を頼んでみた。普段は家で緑茶しか飲まないから知らなかったけど、定食ぐらいのお値段するんだね、外の紅茶って。


 美味しいのか美味しくないのかさえ分からない紅茶を飲みながら、ぼんやりと時間を潰す。ゆったりとした空間で、木製の重厚なテーブルと椅子があって、窓からは綺麗に整えられた街路樹が見えて、きっと好きな人にとってはくつろぎの空間なのだろう。でも、僕には退屈なだけ。流石にこの高級感溢れる場所でスマホゲーを遊ぶのは僕でもキツイ。


 そんなわけで、ただぼんやりと待つ。

 5分程度経っただろうか待ち人が来たので片手をあげ、こちらへと呼んだ。


「・・・ねぇ、流石にこの雰囲気の店にその恰好は無いでしょうに」


 いきなりダメ出しから入るか。

 この無礼な人は四谷さん。記憶にはあるが、僕が『ここの僕』として会うのは初めての人。でも、僕がこれから必要になるものを持っているキーパーソンの一人。

 ちなみに、見た目はパシッとスーツを着こなし背中に届く黒髪ストレートで、まるで何処かの敏腕秘書って感じ(そんなの見た事ないけど)


「ほら、別にデートってわけでも無いし、気合とか入れなくてもいいかなって」


「そりゃ私もそういうつもりじゃないからスーツで来ましたけど、お店の雰囲気と合う合わないとか気にならないの?」


「全然」


 即答すると四谷さんは頭を抱えて「ダメだこりゃ」みたいなジェスチャー。


「あぁ、そういえば、あなたのカノジョもツナギみたいな服でサロンに来たわよ。似た者同士なのね」


 ・・・うん、何も言い返せない。

 こちらが黙っている間に四谷さんは自分の分の飲み物を注文していた。なんとなく居心地悪いし、さっさと話をすませちゃうか。


「早速だけど目的の物は確保出来た?」


「ええ、あの時に回収してた物で大丈夫だったわよ。薬の方が妙に大拡散してたせいで、中途半端な個体が増えすぎてどうしたものかと思っていたの。助かったわ。ありがとう」


「そりゃ、良かった。ところで何に使うの、あれ?魔力結晶ならともかく」


「あら?ご存じなかった?あの薬に適応出来た魔術師から採れる物、それこそがある意味では本当の『変若水』の材料なんですよ。名前は適当ですけどね。不死信仰の霊薬、西洋のエリクサー、生命力を増大させる神秘、つまり」


「それって、永遠の若さがー、みたいな?」


 クロが聞きにくい事をスパッと切り込んだ。


「若さって・・・まぁ、そうね。私達魔術師にとって一番のネックである時間。それを解消するアプローチの一つよ。まさか吸血鬼になるってわけにもいかないしね。そんな事すると怖い人達が来ちゃうし」


 あんまり聞いても興味が湧かんね。僕に必要なのは将来の時間とかじゃないし。

 店員さんが四谷さんのお茶を持ってきてくれたので少し休憩。

 その間に思考をまとめておく。

 例の薬物は四谷さんが変若水とやらを作成するために作った。適応者に服用させると体に変異をもたらすと同時に、使用者の魔力を圧縮し結晶を作る。適応度合いによって変異の度合いは色々。白くなったり、白くて大きくなったり、白い犬になったり。

 でも何者かの横やりが入って薬を粗製乱造されまくって四谷さん困惑。そこを僕がチートな能力で無理矢理解決。そして、その見返りに『これからの僕に必要な物』を頂こうってのが今の状況。


「まずまずね」


 四谷さんが紅茶を褒めている。なるほど、育ちが良い。


「で、あなたが御所望の魔力結晶だけど、薬をバラまかれたおかげで腐るほど在庫があったの。宅配便で送ったから明日中には届くと思うわよ」


 おぉ、交渉とかは不要らしい。しかも発送済みって・・・宅配便で大丈夫?使い方によっては結構な危険物だけど。


「それにしても、何に使うのあれ?大概の魔術ならあなたのカノジョに頼めばやってくれそうだけど。なんかもう魔力底なしって感じでバンバンぶっ放してたし。

 というか滅茶苦茶ね、あの子。絶対に協会の中で痛い二つ名とか付けられてるタイプよ。破壊神とか、そんな感じの」


 相変わらず酷い言われよう・・・だけど依城さんが生み出した惨状を考えると、これもまた反論出来ない。それはそれとして


「結晶の方の用途はまだ秘密って事で。そのうち分かると思うから」


「ふぅん、そう、あなたには恩もあるしね、深入りしないでおくわ。でも協会にバレた時に私を巻き込む事が無いようにお願いするわね」


 そう言うと、四谷さんは残りの紅茶をグィッと飲み干し伝票を持って行ってしまった。


「奢ってもらったみたいね。・・・大物ね、彼女」


 クロが謎の感想を述べているが、確かに大物ムーブっぽい感じだった。また会う事があれば、今度は僕が何かをご馳走する事にしよう。




 そして、四谷さんの言う通り翌日午前中に注文した魔力結晶は無事配達された。

 普通にクロネコヤマトで、何故か段ボール一杯。これ、要求数の3倍ぐらいはあるね?大漁だ!


「これだけあったら足りなくなる事はないわね」


 クロさん上機嫌。尻尾も高く伸びご満悦。


「普通に余らせるだけなんじゃない?使い道も無いし」


「そうねぇ・・・あれじゃない、あの・・・ちょっと名前が出てこないけど、あの人に渡せば新しい装備とか作ってくれるんじゃない?」


「柏木さんね。というか、まだ名前覚えてないとか驚きだよ」


「ほら、だって、猫だし。忘れっぽいのよ?」


 首を傾げなら可愛らしく言っているけど、クロって猫じゃないじゃん。・・・いや、可愛いから猫でいいのかな?


「後の事は後で考えるとして、とりあえず、これで最低限の素材は揃ったわけだよね?」


「ええ、そうね。このままだと成功する目は無いけど、とりあえず舞台には上がれるわよ」

 つまり、これからと。


「まだ時間はあるわ。急いでも仕方ないし、頑張っていきましょう、マスター」


 うん、そうだね、その通りだ。


 だって、僕達はそのためにここにいるのだから。







 第一部2章:猫と魔術師のお仕事 完

 


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