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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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7-4:猫と今回の振り返り 健やかなる時も病める時も?

 さて部屋に残ったのは依城さんと僕の二人だけ。

 とりあえず、依城さんの正面の場所へと座りなおす。頑張ろうとは思うものの具体的にはどうすべきか・・・いや、どうしたいか、どう伝えるべきか。


「そう言えば、お話する時にクロちゃんがいないのって初めてですね」


「そうだっけ?でも、わりと寝てるし、そんなに存在感無くない?」


「それはそうですけど。・・・ひょっとしたら、私達に気を使ってくれてたんですかね?猫型といっても別に猫そのものじゃないわけですし、そんな頻繁に寝てるわけでも」


「わりと普段から、あんな感じよ。いつもカニカマ食べて寝てる感じ。たまに仕事もしてもらってはいるけど」


 そういやクロって僕が展開してる魔術のはずだけど細かい仕様は分からないや。別人格だし勝手に動いてるし、仕組みとか分からなくても問題は無いのかな?


 そして会話が途切れた。

 そりゃそうよね。依城さんの表情も・・・かたい。

 うん、頑張りましょう。僕が頑張りましょう。


「これからの事もあるし、僕達の関係をさ、一度整理しといた方がいいかと思って。ずっと曖昧というか、はっきりしないと言うのも」


「嫌です」


 依城さんはハッキリした声でそう言った。


「何処かの記憶の影響とか、やるべき事とか色々あるかもしれないですけど、そんなの別にいいじゃないですか。別に・・・私達の関係・・・うまくいってるから、それでいいじゃないですか。昨日も今日も楽しかったじゃないですか。これ以上、独りで何処かにいってしまうような事は・・・もう・・・」


 最後は消え入るような小さな声だった。

 と言うか、ヤバいね。ヤバい勘違いだね。訂正は素早く、そして的確に。


「ごめん。僕の言い方が悪かった。そうじゃないの。そっちじゃないの。いくら口下手な僕でも、付き合っても無いのに別れ話みたいな事をするわけないじゃない」


 少し様子を見る。きょとんとした感じ・・・大丈夫かな?話を聞ける状態かな?


「・・・赤松さんはそんなに口下手って感じでもないですよ?」


 よし。会話は擦れ違ってるけど、とりあえず話を続けられそうだ。


「うん。ありがとう。これからも頑張って話をするからよろしく。で、それは一旦横においといて。

 えとね、僕が言いたかったのは・・・うまく言葉が出てこないけど・・・僕はこれからも依城さんと仲良くしていきたいと思ってて。仕事の話とか魔術の話とか、もちろん、養って貰うとか、僕のややこしい事情とか、そういのは全部抜きにして。だから・・・古いのかも知れないけど、これからも一緒にいる理由を明言しておかないと、流石に男性としてどうかと僕も思わない事もなくて」


 その時、依城さんが「ちょっと待った」みたいな感じのポーズ。具体的には自分の手の平をこちらの顔に向ける形で突き出した。


「ちょっと待って下さい。いま飲み込みますので」


 正しく「ちょっと待ったポーズ」だったらしい。手を突き出したまま、少し俯きながら目も閉じ考え込んでいる。


 ・・・・・・

 ・・・


 そして顔を上げ・・・ると何故か満面の笑顔。


「あれですね!要は健やかなる時も病める時もってやつですよね!!」


 実に晴れやか!


「そこまでは言ってないよ」


「・・・・・・そうでしたか、早合点でしたか・・・すみません」


 一気に火が消えたようにしょんぼり俯く依城さん。この人は本当に勢いが凄い。始めて会った時から思ってたけど、まさに猪突猛進。

 実直で裏表が無くて明け透けで・・・だから・・・


「ねぇ、依城さん。これからも一緒にいたいので僕の恋人になってくれませんか?」


 言葉を重ねすぎると混乱が起きるようなのでシンプルな方が良い、きっとね。

 ・・・・・・

 あれ?リアクションが無いな。

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 しばらく待っていると、依城さんがゆっくりした動きで顔を上げた。


「んふふふふふ」


 にやけた顔で鼻息荒く興奮していた。なんか想定してたリアクションと少し違うな。


「もちろん!いいに決まってるじゃないですか!それにしても、そうですか、ついに・・・ついに!ねぇ、赤松さん、私の事を好きなんですか?」


 依城さんはニマニマしたまま変な質問を・・・答えはyesだけど・・・なんか、ちょっと


「そりゃ、もちろん」


 とりあえず正直に回答するに留める。



「そうですかぁ、そうですかぁ・・・んふふふふふ」


 呟きながら依城さんは俯く。そして、パッと顔を上げると


「ありがとうございます。とても嬉しいです。これからも仲良くしましょう」


 満面の笑顔だった。


 お互いに言葉はうまく使えなかったけど、でも大丈夫。

 きっと僕たちはこれでいい。






「おぅ、話はついたか・・・そうか、そうか、良かったな、依城」


 部屋から出るなり支部長さんが様子を見に来たが、ニコニコ顔の依城さんを見て自己完結して泣き出した。あれなのだろうか・・・娘が嫁に行くお父さんのような感覚なのだろうか。まだ結婚はしてないけど。


「あの、すみません。さっき支部長と話をしていて気づいた事があるんっすけど、ちょっといいっすか」


 唯一普通のテンションの柏木さんが頑張ってくれている。そうだね、ここは職場で、一応仕事中だった。


「はい!もちろんいいですよ!!」


 依城さんはかなりアッパーな状態なので、返事とは裏腹にきっとよろしくない。

 そして再度応接スペースに戻って来る我ら。クロもテーブルの上で待ち構えていた。ちなみに、支部長は自分の席に戻ってまだ泣いている。


「盲点というか、もう済んだ事にしてしまってたんっすけど、お二人は『佐藤幸信』の事は覚えてるっすよね?」


「「???」」


 依城さんはまだニコニコしている。覚えていないどころか、そもそも今この話を聞いているかどうかさえ怪しい。


「ごめん、誰だっけ?」


 仕方が無いので僕が話を進める事にする。


「あれっすよ、駅でテロをして赤松さんに始末された奴っす。依城さんが見つけてきてくれた情報提供者からの資料にあったんっすけど、あいつが今回の薬、通称『変若水』の量産工場を最初に立ち上げたらしいんっす。でも、そこにちょっとおかしな事があって」


「あぁ、あれでしょ。魔術に縁もゆかりもない人がなんでそんな事を出来たのかって」


「ええ、それっす。それに加えて、あいつは偶然の要素が強いとはいえ、一度依城さんに勝利してるっす。あり得ないんっすよ、そんな事は。

 例えば、俺だったら、どんなに用意をしても、そんな事は絶対に不可能っす。素人が簡単に魔力を扱える設備を用意出来るはずも無いし、熟練の魔術師を撃退出来るような霊装を準備出来るはずも無いんっすよ。それに用意出来たところで扱うのは」


「そういや、魔法の盾にめっちゃ振り回されてたわ」


 クロも僕に続いて証言を重ねる。


「今のわたしなら分かるけど、あの盾、バカみたいに高度な術式で編まれてたわね。それこそ触媒も無しに準備出来るものじゃないし、そんなのを使ってるわりに当の本人は素人丸出しだったし。なんというか凄くバランスが悪かったわ」


「あの時も赤松さんが助けてくれたんですよねぇ」


 まだホワホワした感じの依城さん。ポンコツ感が溢れているので、ちょっと放置させて貰おう。


「つまりは、情報を提供してくれた人と、量産実行犯の・・・その何某と、依城さんに抹殺された転売ヤーのグループ以外に、まだ黒幕的な誰かがいると?」


「恐らくその通りっす。その盾の事から考えると、生半可な関係団体とかじゃなく、もっと本格的な魔術よりの組織っすよ、たぶん。赤松さんとクロちゃんは何か心当たりは無いっすか?」


 早速、並行世界の知識が使えるかどうかに当たると。順応性が高いなぁ、流石。でも・・・


「無いわね、心当たり。そもそも他の世界ではこんなに早くナギとマスターが事件に巻き込まれる事自体が無かったみたいだし。

 案外、その黒幕の人?が何かしたのが、この世界の分岐の要因なのかも知れないわね。それこそ正確な事は外から観測できる人でもいないと分からないけど」


 クロがすらすらと答えてしまった。僕の頑張りどころ、さっきから、あんまり無いような。


「そうっすか。そうなるとヒント無しっすか。こんな大きな事件だったのに、まだ存在すら掴めていない重要人物が残ってるっての、かなり気持ち悪いっすね」


「そうねぇ。大人しくしてくれてたらいいんだけど。こっちにはナギがいるから、いざとなれば力づくで処理しちゃえばいいんだけど」


「へ?何か言いました??」


 ちょっと惚けてるけど僕の彼女って暴力方面では万能の切り札なんだぜ?


 しかしなぁ、変若水(自称)の件は分かるとして、その黒幕さんは素人に肩入れしたり、貴重な霊装を無駄遣いしたり、一体何のために動いていたのやら。これ以上のイレギュラーは避けたいんだけどね、本当に。

 


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