7-3:猫と今回の振り返り そうだ!私が養ってあげますよ!
クロの話が始まった。
観客は依城さん、支部長さん、柏木さん、そして何故か蚊帳の外の感じさえある僕の4人。おかしいな張本人のはずなのに。
「マスターはね・・・・」
僕の基本情報が語られていく。
限定的ながら並行世界の自分の情報を取り出せる事。
それによって魔術師として異常な成長を遂げ、そしてまだ先がある事。
情報を取り込む事それ自体の負荷で本人が壊れるため、その情報の管理魔術としてクロが存在する事。
そして、今回の事件での情報定着の無理な加速により人格がやや不安定になっているため、しばらくは安静にさせてやって欲しい事。
あれ?僕って今そんな状態なんだ。知らなかった。不安定なの?
「情報定着の加速・・・あれっすか、あの病院で使っていたハサミで白い犬をばっさりいった魔術の時っすかね?」
自分の事だけどさっぱり分からん。ハサミで犬をバッサリ?意味が分からん。
「わたしも見てたわけじゃないから分からないけど・・・たぶん、それも該当するわね。不完全だけどマスターの・・・必殺技みたいな物だと思うわ、地味だけど。
それと回復魔術も影響が大きかったはず。どっちも今のマスターにはとてもじゃないけど使えない魔術ですもの。本当はもっと先で、もっと情報が馴染んでから、やっと使えるようになるはずの物だから」
ふーん、そうなんだ。実感ないなぁ。あっ、でも
「必殺技が地味な奴って事は、僕は結局ビーム的な魔術を使えるようには」
「・・・残念だけどならないわ。何処のマスターも放出系は無理だったみたい」
そっか、クロも憧れてたのにね、ビーム。今の肉体派魔術師みたいな流れを延長していっても「ビームはないだろうな」って気はしてたけど、残念だね。
「なるほどっす。話の内容はおとぎ話めいて荒唐無稽っすけど・・・目の前に赤松さんっていう本物がいる以上は認めるしかないっすね。意味分からんけど凄いっす!」
柏木さんは納得してくれたようだ、僕にも未だに飲み込めてないとこあるのに。
早くね?ちょろくね?というか、「凄いっす」って言ってたらいいやって感じになってない?
「あぁ、すまん。俺も質問いいか」
涙が止まった支部長さんからも質問だ。当たり前のように僕ではなくクロの方を向いているのが少しだけ悲しい。
そう言えば依城さんが静かなのだけど、この辺りの話は既に聞いていたって事なのかな?誰から?って言ったら僕からなのだろうけど覚えてないわけで・・・結果として観客のポジションが丁度良かったかも。
「前に解読を依頼された強化魔術の術式がやたら複雑だったのは、あれか、それも並行世界とやらの影響か?一応、今も解読しようとはしてるんだが、正直さっぱり分からなくてな」
「あー、ごめんなさい、依頼した時はわたしも全然記憶が無かったから。あの術式って送られてきた記憶のデコードも含んでるのよ。だから、術式自体を読み取ろうとしても暗号文の塊みたいになってて」
「なるほど!そりゃ分からんな!せめて暗号表が無いとな!」
支部長はそう言って大きな声で「ハッハッハ!」と笑っているが・・・どこが面白ポイントだったのだろう?柏木さんも依城さんも苦笑いしている。やべぇ、僕も愛想笑いしとくか。寂しい・・・全然ついていけない。
「ま、それはそれとしてだ。目的ってのは言えないんだろ?」
「ええ、ごめんなさい。意地悪してるわけじゃないのよ。その情報が漏れる事によって、この世界にどんな影響があるのかが分からないのよ。
今回のマスターのケースで言えば、何が切っ掛けだったか分からないけど、他の世界よりも随分と早く魔術を習熟する必要が出てきてしまっているの。流石にもうこれ以上のイレギュラーは避けたいのよ」
「そうか・・・情報そのものが世界の有りように影響を及ぼすという事か。仕組みは分からんが、クロの中に留めておけば干渉は起こらないってわけか?」
「そうよ!流石ね、支部長さん!そこに気づくとはやるわね!わたし自体は、一種の結界じみた魔術なのよ。マスターの存在を軸にして時間と情報を区切り取る結界のようなもの、それがわたし。蓄えた情報はマスターに伝えない限り、この世界に何の影響ももたらさないわ。後で説明しようと思ったけど、凄いわね!流石ベテラン魔術師!」
自分の凄さを理解してもらえたからかクロは嬉しそうだ。興奮して尻尾もピンと立っている。
「これだけヒントを貰ってたら一端の魔術師なら分かるだろ?」
支部長は当たり前って感じの顔をしている。
柏木さん、頷いている・・・分かってそう。
依城さん、無表情で俯いている。分からなかったか。
僕?もちろん分からないよ。というか、初耳だよ。
「おい、赤松・・・依城はともかくお前まで不思議そうな顔をしているのは」
申し訳ございませぬ。わたくしには理解出来ぬもので。
「はぁ、クロちゃんは凄い子だったんですねぇ。あれ?でもその結界の魔術って、結局は赤松さんが使ってるんですよね?凄いじゃないですか??」
依城さんの素朴な疑問。でも
「いや、使ってる自覚は全然無いよ。なんかよっぽどの事が無い限り自動で動くように自分を作り替えたみたい・・・自覚はないけど」
「作りかえたって」
「クロの術式を発動する前にじわじわ変えていったみたいよ、何年もかけて。んで、クロを呼び出せてからは魔術を使うたびに少しずつ本体に記憶を流し込んでいくって流れ」
「だから、さっき安静にって言ってたんですね、その意図は赤松さんに魔術を使わせないようにって事ですか。なるほど。納得です。でも魔術を使えないと仕事出来ないですよね?」
依城さんが素直な疑問で僕の胸を抉る!
そうだよ、魔術が無いと僕が協会で出来る事なんか無いよ。事務作業とか出来る気もしないし。無職だよ。
「そっかー、ねぇ、赤松さん、別に仕事が出来なくてもいいじゃないですか。無理して死んじゃったら元も子もありませんし。
そうだ!私が養ってあげますよ!どうせお金は余ってますし、赤松さんの生活は私が面倒見てあげます!そしたら何の問題も無いじゃないですか!ねぇ、そうしましょうよ?!」
明るく元気に朗らかにぶっこむ依城さん。おぅ・・・・凄いの来たなコレ。空気が一瞬にして固まる感じ。
「あれ?私、変な事を言いました?」
本人だけがその意味合いを分かっていない。支部長がため息をついてから
「なぁ、依城・・・流石にな、そういう事はもっと言葉を選ぶべきだと思うんだよ、俺は」
「はぁ?」
分かってねぇ。でも僕には、ここで助け舟を出せるだけのガッツは無い。一体どうしたら?
「まぁ、いい。給料の事は気にするな。生活費ぐらいなら出してやれる。こんな事で優秀な戦力を手放すわけにはいかんからな。
だが赤松よ、依城にあそこまで言わせておいてダンマリは無いだろうが。俺たちは外に出てるから二人で話をしとけ」
そりゃ、そうか。先送りにも限界あるよね。
「マスター、頑張って」
クロもそう言って部屋を出て行った。
さて、ここからは僕が頑張らないと。




