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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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7-2:猫と今回の振り返り 僕の意思ってあんまり確認されないよね?

 依城さんは始業前に「着替えるから」と言って、お家に帰って行った。僕と柏木さんはコンビニで下着だけ買ってトイレで着替えて終了。男なんてこんなもんですよ。夏ならTシャツも買いに行ってるけど。

 にしても、僕達いつまでこっちにいるのでしょうな?荷物どころか財布すら持ってないんだけど。ちなみに、僕達二人はダラダラとしてるけど、支部長さんは事務所に到着するなりパソコンに向かってキーボードをガチャガチャとしている。結構な速さでガチャガチャと。表情も凄く真剣で・・・近づこうとすら思えないぐらい。

 いやはや実に仕事熱心な事で。僕じゃ手伝えないし、柏木さんはグロッキーだけど、頑張って下さい!というか、マジでここって事務員すらいないのか。悪いけど依城さんは戦力外だろうし。まさかオフィスでやるべき仕事を全て一人でこなしている?恐ろしい。なんて恐ろしい労働環境だ。ご安全に!

 そんな事を考えながらも二人と一匹で半分寝たような姿勢でくつろいでいると、普段何の仕事をしているか想像出来ない依城さんが帰って来た。


「すみません。遅くなっちゃって。あら?どうしたんです柏木さん?まだしんどいんですか?」


 そりゃ、一時間ちょっとで完治はせんよ。ナチュラルに無茶を言う。


「ねぇ、課長、何時ぐらいから時間貰えますか?」


 うぉっ、あの集中して仕事に励んでいる支部長さんに何のてらいもなく話しかけただと?!しかも一方的な要求?!なんて奴だ!!


「あぁ、そうだな・・・あと一時間ぐらい待ってくれ。急ぎの案件だけ片づける」


「分かりましたー」


 依城さんはそう言って楽し気に予定を確定させてしまったが・・・とても部下という立場には見えない。あれだ、やっぱり依城さんは大物だ。良い意味でも悪い意味でも。


「ねぇ、赤松さん、体調は大丈夫ですか?」


「ん?そりゃ僕はあんまり飲んでないから元気だよ?」


「いえ、そうじゃなくて、二日前まで入院してたんですから、疲れとか出てないかなぁって」


 笑いながら依城さんはそう心配してくれた。


「そういや、そうだったね。忘れちゃうぐらいには元気だよ」


「ははは」「ふふふ」と笑い合う僕達二人。


 こいつらマジかよとグロッキーな顔で僕達を見る柏木さん。応接ソファーで寝ているクロ。独り黙々と仕事をしている支部長さん。今日も平和で何よりです。そして色々と深く気にするのは止めよう、僕はそう思った。



 それからしばらくの間、僕は柏木さん用の『ウコンの力』やクロ用の『カニカマ(ほぼカニは無かった)』を買いに行ったり、依城さんはメールチェックをしたりで時間を潰した。

 依城さんは支部長さんと違ってあまりキーボードを叩いたりしてなかったのが不思議・・・きっと気のせい。


「よし!おい依城!だいたい終わったから話を聞くぞ」


 一時間を少し過ぎたところで支部長さんからお声がかかった。


「はーい。では、赤松さんも柏木さんもこちらへ」


 そう言って奥にある小部屋に案内される。


「あっ、クロちゃんもお願いしますね」


 クロは僕の外付けの頭脳みたいなもんだからね。そりゃ話し合いには参加してもらわないとダメよね。ソファーからクロを抱き上げ部屋に入る。・・・半分寝てる感じでダラリとしてるけど・・・まぁ、いいか。猫だし。


 その小部屋は打ち合わせ用のスペースのようだった。大きな机とオフィスチェアが何個かあるだけの簡素な造り。

 とりあえず適当に依城さんの横に座り、クロは机の上に置いておく。毛づくろいをしてクルリと丸まって寝る体勢・・・寝たらダメだよと優しく撫でて起こす。

 何故か依城さんが部屋に防音のための魔術を施した。


「今からする話は他の人に聞かれるわけにはいかない内容のものです。もし意図的に漏らすような事があれば・・・私が確実に報復を行います。覚悟して聞いて下さい」


 中身も分からないのに一方的に『歯向かったら殺すぞ』宣言来ました!しかも言っている相手は同僚と上司!これは厳しい!!脅迫はいかんよ!

 と茶化したいところだったけど依城さんの顔がとてつもなく真剣だったのでやめた。ちょっと怖い。ごめんなさい。ちゃんと邪魔しないで聞いてます。


「別にすぐに何かをして欲しいってわけじゃないんです。これから先、何かが起こってしまった時に、あるいは起こるのを防ぐために、お二人には私達の力になって欲しいんです」


 二人?だれか余ってません?


「・・・・・・赤松さんは限定的ではありますが並行世界の観測を行っています」


 !!!!!

 おいおいおいおい!なんでいきなり人の最大の秘密バラしてるの?!自分でもいまいち詳細が分かってないのに!

 ほら、クロも目を真ん丸にして驚いてるし、支部長も柏木さんも固まってるじゃん。


「私にも理由は分かりませんが、何かに備えて力を付けるために、何処かの世界の赤松さんが作った術式で実現しているらしいです。ね?そうですよね??」


「・・・はい、その通りでございます」


「それでですね。最初は私が強くなって、赤松さんだけが無理をするような事にならないようにしようと思ったんですよ。私が代わりに頑張ればいいかなって。

 でも、やっぱり、そんなの出来なくて。今回の件だって組織の力や情報をくれた人の助けが無ければ、私だけじゃ・・・振り返れば、私って単に暴れただけですから」


「いや、単独で一つの組織を潰すのを『暴れただけ』って表現するのもどうかと思うっす」


 おぉ、さすが柏木さん。言いにくい事をスパッと伝えてくれた。


「誰かがお膳立てしてくれなきゃ何も出来ないってのは全然たいした事ないですよ。だからこそ、お二人には味方でいて欲しいんです。これから何があるかは・・・きっと赤松さんもクロちゃんも教えてはくれないんでしょうけど、でも」


「なぁ、依城。普通に考えたら『詳細は分からないけど、何か大変な事が起こるかも知れないから、その時は協力しろ』とか曖昧な事を言われても誰も相手にしてくれんぞ」


 支部長さんはいつも通りの口調で語りだした。依城さんは・・・悲しそうにそれを聞いている。


「だがな、よく考えてみろ。俺や柏木に限っては、わざわざそんな事を言う必要は無いだろ?

 俺がお前の事を突き放すわけが無いし、柏木は自分が巻き込まれる事を承知で赤松を助けただろ?

 なら、次に何かあっても同じようにするに決まってるだろうが?わざわざ、お前らしくも無く気合入れる必要なんか無いんだよ。分かったか?」


「・・・・はい。ありがとうございます」


 依城さんは少し涙ぐんでいた。

 二人の間の事は分からないけど、きっとここに至るまで色々な積み重ねがあったのだろう・・・そういや、僕と柏木さんの間には積み重ねとか特に無かったような気がするね。でも、柏木さんも感じ入ったような雰囲気でうんうんと頷いていた。まぁ、いいか・・・仲良き事は素晴らしきかな。突っ込みを入れるのも野暮よね。


「しかしなぁ、『私達の力になって欲しい』か・・・あの誰とも話すらしなかった依城がなぁ」


「!!!いや、それはちょっと!昔の事は関係無いじゃないですか?!」


「・・・ううっ、くっぅう」


 支部長さんが突然声を押し殺すようにして泣き出した。なんで??


「俺はなぁ、ずっとお前の事が心配で心配で。でもなぁ、ずっと魔術の事しか興味の無かった俺に出来る事なんて、本当にささいな事ばかりで」


「良かったっすねぇ」


 柏木さんがまた相槌マシーンになっている。なんだ、この状況??

 赤面している依城さん。

 泣いている支部長さん。

 感動しているっぽい柏木さん。

 僕は最低限の流れしか分からない感じで、もう完全に観客モードでございます。

 というか、結局、これは何の会なの?僕はどうしたらいいの?人生経験が偏っているせいで、こういう時の振る舞い方が分かりません。なんとなくオロオロするばかり。


「マスター、もうちょっと落ち着きなさい。みんなで頑張りましょうって互いの意思を確認してる場面なんだから、マスターはドーンと構えておけばいいのよ」


 クロはテーブルの上で寝そべったまま、無意味に堂々と語っているが・・・流石の僕でもそれは違う気がするよ。


「いや、それはどうでしょう?」


 ほらねぇ、依城さんでも突っ込みたくなるぐらい流れ読めてないわけじゃん(ちなみに本来なら最初に突っ込みそうな支部長はまだ泣いている)

 というか、依城さんはクロにも話があるようだよ。ほら、クロや、せめて身体を起こして。


「話せるところだけで良いから、少しだけでも事情を説明してくれないでしょうか?並行世界の赤松さんの記憶・・・今のクロちゃんならコントロール出来てますよね?」


 普段の言動からは想像も付かないけど、依城さんも超一流の魔術師。クロが何をしているのかは既に理解しているのだろう。・・・覚えてないだけで僕がペラペラしゃべった可能性も高いとは思うけど。


「そうね。私もナギがどこまで知ってるか分からないし、簡単に説明させてもらうとするわね」


 そして張本人である僕の意見は特に求められる事無く、僕についての話が始まった。

 


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