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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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7-1:猫と今回の振り返り もうお酒は飲まないで

 今日の目覚めは実に快調。久しぶりに何の心配も無く、ぐっすり眠れた気がします。赤松さんが無事に帰ってきて復讐も完了してスッキリ快眠って事なのでしょう。最近は眠りにつくのは遅いし、途中で目は覚めるし、朝も早い時間に目が覚めちゃうしで疲れてたんですよね。

 で、それはそれとして


「ここどこ??」


 自室かと思えば何故か知らないベッドに知らないお部屋。というかホテルですね、ここ。

 記憶が何もありません。しかも、なんでか分からないけど裸で寝てましたね、私・・・

 覚えているのは中華料理を皆で食べに行って

 そうだ!

 課長に水みたいに透明なお酒を注いでもらって・・・うん、そこから何の記憶も無いですね。

 記憶を失う程にお酒を飲んで、次の日の目覚めがホテルで裸・・・あれ?これ、ヤバくないです?え?本当に???マジ??


「おはよー」


 その時、何処からともなく赤松さんの声が?!


「左側の下だよー」


 やたら大きなベッドなのでズリズリとシーツで体を隠しつつ左側に移動。なぜか赤松さんが床でうつ伏せに寝ころんでいました。


「えと・・・何してるんですか?」


「まず状況説明をさせて下さい」


「はい。それはいいですけど」


「依城さんは昨日酔っ払って眠ってしまいました。何度起こしても、すぐに寝てしまうので背負ってホテルに連れて来させてもらいました」


「はぁ、それはご迷惑を・・・ありがとうございます」


「いえいえ、どういたしまして。ですが、そこから少し問題がありまして」


「なんでさっきから敬語なんですか?」


「・・・よく考えると、ちょっと色々と反省点がありまして申し訳ない気持ちが」


「はぁ、そうですか」


 なんなのでしょう


「えと、まずは部屋割りについてなんですが・・・支部長が部屋を用意してくれてたんですけど二人部屋でして」


「ん?・・・支部長は柏木さんと泊ったんですか?4人で2部屋?」


「二人はそれぞれ個室です。よく考えないで依城さんと僕を同室にしてしまいました。すみません。

 でも、あれです。下心で部屋割りを決めたわけじゃないです。本当です。何も考えてなかっただけです。もちろん、指一本・・・いや出来る限り触れては・・・いません。大丈夫です」


 出来る限り・・・まぁ、赤松さんの事ですし無茶はしてないでしょうけど。でも、ちょっとだけ、ちょっとだけ意地悪したい気分になりますね。


「・・・少しは見たり触ったりしちゃいましたか?」


「少しだけ。いや、ホント悪気は無くて」


「ふぅん、そうですか。なんで少しだけ・・・しちゃったんです?」


 あぁ、なんだか悪女っぽい感じで楽しいかも。


「・・・夜中にいきなり起きてきて『お風呂に入ります』って言って部屋の真ん中で脱ぎだして、しかも、そのまま寝ちゃったから」


「・・・・・・ごめんなさい」


 全面的に私が馬鹿でした。


「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」


 そこでお礼を言われるのも、ちょっと。


「えと、それはそれとしまして、最初に戻りますけど、なんで床でうつ伏せなんですか?」


「さっきまで普通に床で寝てたけど、依城さんが起きてくる気配がしたから緊急避難。起き抜けに裸見られるとか嫌でしょ?」


「そういう事でしたか。そこまで気を使わなくてもいいのに」


「そう?じゃあ、せめて顔だけでも上げていいかな?」


「・・・やっぱりお風呂に入ってからにしてもらっていいですか?」


「了解。依城さんが風呂場に行くまでは、このままの体勢で。ちなみにだけど、儚い理性を保つために眼も閉じたままだからね。超安心超紳士」


「流石ですね。紳士というか、ちょっと意味不明ですけど」


「自分を信じてないだけだよ。じゃ、僕のメンタルのためにもサクサクお風呂にいってらっしゃい。服は入り口のとこのハンガーに一式かけてあるから」


「はい、行ってきます」


 そろりとベッドから抜け出す。目をつぶってもらってると言っても、なんだかちょっと気恥ずかしい。

 でも何故でしょうか。床にうつ伏せで寝ころんでいる意味不明な赤松さんの姿を見ていると・・・やっぱり少し悪戯心が湧いて来ます。

 そっと赤松さんの傍まで歩いていく。

 うつ伏せになっている彼の横に両膝をついて座る。

 ・・・・・・

 彼の背中を横から両手でそっと触ってみる。

 ・・・

 そして、右手の平でそっと背中を撫でていく。ビクリと赤松さんの体が震えた。


「大丈夫ですよ、私は信じていますから。でも、そこまで無理しなくても・・・いいんですよ?」


 そう言いながら、私は


「あら、思ったより大胆なムーブするのね」


 クロちゃんが少し離れた椅子の上から欠伸をしつつ、こちらを眺めていた。


「うぁ!?」


 見られた!調子に乗りまくった私の痴態を!!!


「大丈夫よー、マスターもノリノリだし続けてくれたらいいわよー。大丈夫、大丈夫。わたしは今から霊体化しとくしー。頑張ってねー」


 そう言ってクロちゃんの姿は見えなくなった。・・・って頑張れるか!!

 私はダッシュで風呂場に籠る。

 恥ずかしい・・・あぁ、もう、ホントに・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 さて体も洗って歯も磨いて気分はリフレッシュ。服も下着も昨日のままなのが辛いけど、そこは我慢。いえ、仕事の前に家に一回帰らせてもらいましょう、やっぱり嫌。

 そして洗面スペースから出てみると赤松さんはベッドの前で正座していました。その視線の先、ベッドの上にはお座りの姿勢のクロちゃん。

 なんぞ??


「あっ、ナギ。マスターにはちゃんと言い聞かせておいたから大丈夫よ!」


「なにを?!」


「もぅ、分かってるくせに」


 なに、その嫌らしい感じの口調?!いやいやいや、絶対先走った事を言ってるでしょ?!赤松さんが勘違いしたらどうするんです?!って、なんでか憔悴した顔してるし。


「依城さんには色々とご迷惑を。ごめんなさい」


 何故か謝るし。


「いえ、何の問題も無いと思いますけど」


 よく考えるまでもなく、私が謝る場面ですよね、今って。


「マスターとナギって本当に・・・。まぁ、いいわ。急いては事を仕損じるとか言うものね。とりあえず切り替えて朝ごはんを頂きに行きましょうか。みんな待ってるわよ!」


 元気だなぁ、クロちゃん。そして頑張れ、赤松さん。

 というか、この謎の一幕のおかげで気恥ずかしさとかぶっ飛びましたね。良かった、良かった?


 三人でホテルの一階まで朝ごはんのために出発。エレベーターの中でも赤松さんは眠たそう。欠伸ばっかり。


「あぁ、ごめん。あんまり寝れなくてさ」


「床でしたもんね・・・」


「いや床も結構快適だったよ。そんなに硬く無かったし・・・ほら、でも、ちょっと緊張して」


 なるほど。流石に赤松さんは丈夫ですね、って、あれ?緊張??それって


「・・・もう!ホントに!もう!!」


 感情の高ぶりに任せて赤松さんの肩口をバンバンする。ホントに隙あらばこの人は!!・・・あー、恥ずかし。


 一階の食事スペースはエレベーターを降りてすぐの場所でした。朝ごはんはビジネスホテルによくあるビュッフェスタイル。わりと遅いので人はまばら・・・課長と柏木さんが先に食べてますね。


「おはようございます。あら、柏木さんどうしたんです?なんだか具合悪そうですけど」


「・・・・おはようございます・・・そりゃ、二日酔いに決まってるじゃないっすか」


 可哀想・・・課長は平気そうですね。普通に「よっ」って軽く挨拶しながらモリモリ御飯食べてますし。


「そういや依城さんは何で平気なの?僕はほとんど飲んでないからともかくとして」


「私ですか?私は常に肉体の恒常性を保とうとする魔術が動いてるんで。大概の不調は一晩寝たら治っちゃいます」


「おー、すげー流石最強。マジチート」


 赤松さんの褒め方が心なしか雑になってきたような気がします。


「さぁ、御飯食べましょう!わたしにもこっそり頂戴ね。今日はなんだか何か食べたい気分なの」


 クロちゃんに急かされて私達も御飯を取りに向かいます。赤松さんはベーコンとかウインナーの方に向かいましたね。分かりやすい。課長は和食、柏木さんはジュース。私は・・・パンにしましょうかね。小さいベーグルとサラダを少し、デザートに果物をとって席に戻る。昨日は中華でちょっと油っぽかったですから。赤松さんも戻って来ましたね。ケチャップべったりのベーコンとポテト、それと少しだけパン。偏りが激しいですね。


「「いただきます」」


 もしょもしょと食べ始めますが、正直、美味しくもなく不味くもありません。ビジネスホテルの可もなく不可もない朝食って感じです。

 クロちゃんと赤松さんは・・・無駄に精密な人払いの魔術をピンポイントで展開しながら二人で御飯を食べています。いや、まぁ、いいんですけど、魔術の使い方が、あまりに日常的過ぎて・・・神秘・・・魔術って神秘のはずなのに。

 あっ、そうだ。みんなが揃ってるし、ここで言っておかないと。


「あの、すみません。後で課長と柏木さんに相談させて欲しい事があるんですよ。ちょっと大事な事なんで時間もらえます?」


 課長が胡乱気な目をしながら


「それはあれか、昨日の朝、唐突に出現した謎の廃墟のこれからについて頭を悩ますよりか大事か?」


「えぇ、それはもちろん。そんな過去の事とは比べ物にならないぐらいの大切な事ですよ」


 そう、一晩経って思ったのだ。やっぱり私独りで悩んでも仕方ないって。借りれるものは力でも知恵でも何でも借りようって。

 その当事者は今も飼い猫と一緒にベーコンに夢中で聞いてないみたいですけどね。

 


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