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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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6-5:猫と僕と彼女の気持ち 言ったでしょう。報復ですよ

 薬の分析依頼だけ出して、私は一旦自宅に戻りました。四谷さんから貰ったデータの確認なのですが、協会側に漏れる可能性を考えると自宅でこっそり作業した方が良いかなと思いまして。どうせ後ろめたい内容がてんこ盛りなのでしょうし。


 ちなみに、USBメモリに入っていたのは、薬の製造工場の見取り図、製造方法、制作に携わっている人員等々、どう見ても関係者でないと手に入らない情報が山盛りでした。「四谷さんは何を隠しているんでしょうね?」そんな事を呟きながらも中身をツラツラと眺めていく。


 結局のところ、製造・販売を担当しているのは、いつも通りというか、よくある話で暴力団兼魔術系の団体、製造場所は乗っ取った小さな会社の工場という・・・まぁ、ひねりの無い物でした。

 四谷さんの作った薬の材料は人間、あるいは魔力が結晶化した物、必要な設備は材料を入れる箱と出来た物を希薄化する装置だけ。

 明らかに最初からコピーしやすい構造を取っていたとしか思えません。どう見ても大量生産が前提の製法ですもの、これ。でも、彼女がわざわざそんな事をするメリットが分かりません。その辺りに隠し事があるのでしょうが・・・


 でも、そこは置いておきましょう。

 そんな事は大事ではありません。放っておいて良い事です。大事なのは、この人達が赤松さんを殺そうとしたかどうか。私が報復すべき相手なのかという事。それ以外は時間も無いし無視で構いません。

 そんな事を思いながら資料を見て行くと、たぶん私を説得するためなのでしょうが、別紙として「誰が計画し誰が実行犯だったのか」が色々な観点でまとめてありました。

 とても端的で分かり易く意思決定に大いに役立つ感じです。私ならこれだけ綺麗に情報をまとめる事なんて出来ない。流石、研究者肌の人はちょっと違う。私も何か困ったら彼女に依頼してみようか・・・いや、やっぱりなんかムカつくから、その時は柏木さんにお願いしましょう。


 資料をザッと流し読みすると、計画の立案から物資の調達までかなりの人数で行われている事が分かる。それこそビルの周囲に張り巡らされた結界の用意なんて協会外部の人材を活用してまで行っている。燃料や爆薬の調達もやけに複雑な経路で行っており、バレる事なく確実に実行する事に執念を燃やしている事が分かりますが・・・何故、そこまで赤松さんに拘っていたのかが分かりません。たかが数回取引を妨害した程度なのに。

 そう思って資料をどんどん見ていくと最後に四谷さんからのコメントが入っていました。


 あの薬の製造・流通の目的は違法な薬物の市場構造に変化をもたらす事と推定される。『魔術の知識がある者さえいれば比較的安全かつ容易に量産可能な新薬、それを用いて市場の再構築を行い、直接的に魔術師の地位を向上させる』それが最終的に目指す場所では無いかと。


「なるほど。要は魔術師がいたら簡単に稼げるようにしようと。んで、その邪魔をするであろう協会への嫌がらせか牽制か何かのために赤松さんを爆殺しようと・・・」


 だいたい分かった。実に下らない。四谷さんの言っている事が本当かどうかは分かりませんが。まぁ、どっちみち薬の製造なんかで世に出ようとしたら「全員さよなら」は確定なので真偽はそこまで重要ではありませんね。

 それこそ日本支部で手に負えないと判断されたら本部から人が派遣されて速攻で圧し潰されて終了コースなわけで・・・流石にその場合は課長の首も飛ぶかも知れませんけど。課長可哀そう、あんなに頑張ってるのに。


 うん、課長にはお世話になってますし、サクサク進めて行くことにしましょう。とりあえず、薬の製造を今も行っている事が事実なら、それ以外は間違っていても問題ないですし。じゃあ、用意に移りましょうか。善は急げってやつです。




 そして翌朝、朝というか、まだ深夜かな?真っ暗な中で四谷さんと待ち合わせ。私は少し早めに指定した集合場所で待機中。目標の工場は寂れた町の、これまた寂れた工場ばっかりの一角。元々はリネンサプライ事業を行っていた会社らしい。よく知らないけどクリーニング的な?そういう事業らしい。とうに廃業してるから、そこはどうでもいいんですけど。その空いた工場に色々と機材を持ち込んでお薬の生産を行っているとの事。試験製造から数えて既に2か月以上も稼働しており、一晩に満たない調査でも人やら物やらの動きをしっかり確認する事が出来ました。


 もちろん、調査がそこまでスムーズに進んだのは四谷さんからの事前情報あっての事ですけど・・・それがどう見ても内部リークなわけでして。まぁ、いいですけど、正直、人としてちょっとどうかとは思いますね。


 そして、いま私が待機しているのは、目標横の建物の屋上。いい感じに距離があるのでお薬製造工場の全景が気持ち良い感じに一望できます。ちょっと寒いですけど。あと少しの辛抱ですので。


「おはよう。噂通りに豪胆な人ね。まさか翌朝に決行だなんて思わなかったわよ」


 四谷さんは指定の時間通りに現れました。今日はちゃんと戦闘用と思われる真っ黒でツナギみたいな服を着ています。うむ、これでいい。


「その恰好の方が好感度高いですね」


「そうかしら?私にはあまり似合っていない気もするのだけど?」


「そんな事ないですよ。すっきりしてていいと思います」


 とりあえず褒めておく。

 次の機会があるかどうかは知りませんが、これから私の前に出てくる時は常にその恰好でいて欲しいですね。


「ところで、どうするの?そろそろ計画を教えてもらってもいいかしら?」


「そんなにややこしい事はしませんよ。稼働時間を狙って一網打尽にするだけですし」


 この工場、扱っている物が物なので操業時間が滅茶苦茶。夜の11時に稼働開始で、朝の4時には稼働終了という謎の操業スタイルだったり。そのせいで、こんな暗いうちから作戦開始となったわけですが、周りの会社さんに被害が出にくいという面では良い事かも知れません。

 ちなみに、いま私達がいる建物ですが、普通に操業している会社なのでセキュリティを眠らせた上で勝手に利用させてもらっています。大丈夫。朝の勤務が始まるまでには撤収しますので。ひょっとしたら騒ぎはまだ続いてるかも知れませんけど。


「一網打尽は分かるのだけど、たった二人で?」


「厳密には私独りですね。と言っても準備は他の人にも手伝ってもらってますので、厳密には私だけで片づけるという言い方も少し違うかもしれませんが」


 そう、当然の事ながら仕込みは既に終わらせている。


「最近、自分が何をしたいか考えてたんですよ。それで二つ思い付いたんです。まず一つは私の強さを知らしめる事。そして、二つ目は報復。こっちは協会に歯向かった人がどうなるかを示す上でも非常に重要ですし。取り急ぎ、今回は後者だけですね、出来るのは。もし生き残った人がいれば色々と出来る事もあるかもしれませんけど」


 流石にそれはちょっと無理でしょうね。


「生き残った人がいれば・・・って、あなた何をするつもりなの?」


「言ったでしょう。報復ですよ。ちゃんと赤松さんと同じ目に合ってもらわないと」


 そして、私は行動を開始する。

 工場の建屋を覆うようにして事前に仕込んでいた結界を起動。急ごしらえの物ですが起動と維持を私の魔力、つまり、通常の魔術師とは比較にならない程の大出力で行っているので、何があろうと中から外に出る事は出来ません。ここからでも薄っすらと黄色い壁で工場が囲われているのが見て取れるぐらいには強固な結界です。もちろん、上側も覆って完全密閉を実現。音・熱・爆風を完全ガード。


 次いで本番の術式の起動。こちらは威力を上げる工夫の一環として3つの術式を同時起動する方式を採用しました。一つずつ起動準備まで持っていき待機状態に


「・・・っ!」


 3つ目を待機状態にすると同時に起こる頭痛と眩暈。消費される魔力の量には耐えられても制御を行う私の頭への負担が大きいみたい。でも、これで終わりだから・・・よし、3つ目も待機状態に設定完了。


 にしても頭痛が酷い。まるで頭の中を針で突き刺しているかのよう。待機のままは辛いし、この状態を続ける意味も無いのでさっそく


「術式展開」


 私のフレーズをキーに3か所に分散させていた爆破の術式が同時に起動した。


 結界で完全密閉された工場の中で爆発が起こる。音も衝撃も漏らさない完全密封の爆発。


 狭く区切った結界の中で大きな火球が3個発生しているのが見える。火球に触れた所から建屋が捲れ上がるかのように形を崩していく。結界に阻まれ外に逃げる事の出来ない爆発の力が狭い範囲で暴れ狂う。

 言い方は悪いけど、コップの中の大嵐とでも表現する感じでしょうか。荒れ狂う炎のせいで、もう何が起こっているかを外部から見て取る事は出来ません。そして、発生した爆縮が、結界を維持するための負荷を急激に増大させ、私を締め上げる。


「ぐっっ!」


 歯をぎりぎりと食いしばりながら、その場にうずくまる。まるで何かで頭を殴られたような衝撃。痛みで視界が暗くなる。


 だが、そんな高負荷がかかるのは予定通り一瞬。爆発に鎮火とともに、すぐに耐えられるレベルまで負荷は下がった。


 私は立ち上がり目標の状態を目視で確認する。


 計画通りに3つの魔術は結界の中で荒れ狂ったようだ。というか、結界の中が爆炎の名残なのか溶けた何かが舞っているのか、なんだかよく分からない感じになっていて、とりあえず爆破に成功したという事ぐらいしか確認出来ない。


『目標は達成したかな』そう思い結界の上部だけ開けてみる。


 もくもくと有害そうな煙が上がった。・・・暗くてあんまり見えないから別に問題無いでしょ。


 上からガスを逃がしたからか、それとも温度が下がったからか中の様子が少し見えてきた。


 工場の様子は・・・・赤黒い感じになってるのが分かりますね。建屋の原型も無さそうです。

 ふむ、これで良しと。まずまずの結果と言って良いでしょう。


「これで終わりましたかね?赤松さんと同じ爆殺ですし、亡くなられた皆様も本望でしょう」


 一仕事を終えた気分。よくよく考えたら、これって破壊力という意味では今まで私が使った魔術で最大のような気がします。これなら「目標その1」も果たした事には・・・ならないでしょうね。こんなの時間さえかけたら魔術以外でも実現出来ますし。


「ねぇ、依城さん。ここの暴力団の首魁は結構な魔術の使い手と聞いていたのだけど・・もう死んじゃったかしらね?」


「どうでしょうか?備えによっては生き残っているかも知れませんよ」


 一応、魔力を探査してみる。うん、自分の魔術の残滓で凄く分かりにくい。この方法は不意打ちでデカいのをぶっ放す時以外はダメですね。細かい捜し物とか以ての外です。


 その時、爆発現場の中心近くで急に大きな魔力が発生した。


 ほうほう、これは、これは。


 結界を解除し、身軽な状態に戻る。

 結界の解除で流入する空気が増えたからか嫌な感じの熱波が周囲に吹き荒れる。おぅ、せめて冷ましてからにするのでした。気持ちわる。ちょっと帰りたくなりましたが気分を入れ替えてと。


「さて、危なそうな予感がするので、四谷さんはちょっと隠れといて下さいね」


 そう言った途端にバタバタと必死で四谷さんが走って離れていく。戦闘能力はそれほどでも無いってのは本当だったみたいですね。それも嘘かと思ってました。なんだか、ちょっと気分がいいです。


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