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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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6-4:猫と僕と彼女の気持ち 難しい話なら、猫を通してもらえません?

 クロが応接テーブルの上でカニカマを食べている。

 僕はクロが食べやすいようにカニカマを短く切って前に置いていく。

 小さな口でハムハムと食している。食べている猫は可愛い。食べている猫を見るのは楽しい。なんと素晴らしい癒しの時間。


「いまいちね、これ」


 食べるのを一瞬止めたクロが呟いた。

 そうっすか、コンビニで適当に買ったやつではあるけれど・・・残念。

 とりあえずクロ用に千切ったカニカマを僕も食べてみる。


「・・・いや普通に美味しいじゃん?」


「違うの。あれなのよ、ほぼカニはもっと味に深み?というかコク?みたいなのがあるのよ。これとは違うのよ。分からないかしら?」


 分からんです。


「後でスーパー行って買ってくるよ」


「売ってるっすかねぇ。あれ作ってるメーカーって赤松さん家の近所だから向こうでは何処でも買えたっすけど、東京となると別のメーカーが強いんじゃないっすかね?」


 柏木さんが明かす衝撃の事実。


「マジ?うちの近所で作ってるのアレ?」


「前によらせてもらった時、帰り道で工場見えたっすよ」


「・・・ねぇ、マスター。帰ったら行ってみない?ひょっとしたら限定商品とかあるかも」


 限定のカニカマ??いやまぁ、行くのは別にいいけど・・・一体何がクロをそこまで引き付けるんだ?ちっとも分からん。


「ご歓談中のところ申し訳ないが、個人的にちょっと気になる事があるんだ。聞いていいか?」


 通称課長、実態は協会の極東支部・支部長である磐田さんが飲み物を片手に僕達のところにプラプラとやってきた。

 僕たちが今いるのは、日本人なら誰でも聞いたことのある妙に有名な街、秋葉原。そして、そこの高層ビルにテナントとして普通に入居している魔術協会の極東支部。そう、今から始まるのは僕達へのインタビュー(尋問)だ。




 病院帰りの車の中、何故協会から呼ばれているか柏木さんから説明があった。

 行方不明になっていた時期にどうしていたか?

 一体なぜ姿をくらませていたのか?

 協会としては、この2点を明確にしたいとの事。なんか組織としての体裁とか何かそんな話なのかな?裏切り者のせいで焼き殺されかけたって考えたら「普通逃げるんじゃない?」と個人的には思うけど。まぁ、それはそれとしても


「聞かれたところで、ほとんど覚えてないよ?」


「わたしも爆発からこっち何も覚えてないわよ?」


 当の本人達が何も覚えてないから証言出来る事が無いのよね。


「あれ?入院中は仕方ないにしても、民宿に移動した後は普通に覚えてないっすか?会話もしてたし、戦闘の用意も自分でしてたっすよ?」


「いや、それが全然。爆発に巻き込まれて跳んで逃げて、んで、いつの間にやら昨日だったのよ」


「・・・やっぱり頭を打ってたんっすよ。治って良かったっすね。やっぱ戦闘系の魔術師って丈夫なんっすかね?」


「いやいや、柏木さんがすぐに治療してくれたからじゃない?たぶん魔術の神秘的なやつだよ」


「ははっ、何言ってるんすか。俺が回復魔術みたいな高度なの使えるわけないじゃないっすか。赤松さんがボロボロの状態なのに自分で治したんっすよ。どっかの無免許の外科医が自分で自分の手術するみたいな感じっすね。正直メッチャビックリしたっすよ。マジか、この人、マジかよ、みたいな感じっす!」


「はははっ」と愛想笑いをしながらクロの様子を伺う。頭の上のクロは笑うわけでも無く沈黙を保っている・・・あとで事情を確認しとくか。だって僕は強化魔術しか使えない、人を殴るしか芸の無い魔術師擬きなのはずなのだから。




 そして到着したのが魔術協会という言葉の響きに反した高層ビル。しかも場所は秋葉原。申し訳ないけど、ここは町はずれの洋館とか、あるいは予想を裏切る古い日本家屋とか、そういうのでお願いしたかった。普通にビルのテナントとして入ってるのは違うかなって(ちなみにテナント名は信用調査会社になっている)

 事務所(もう支部と呼ぶのさえ違和感がある)の中は、こじんまりとしていて・・・事務机と応接セットがあって・・・・魔術協会に対して持っていたイメージが更に崩れた。


「おぅ、期待外れだって感じの顔だな」


 ぼんやり眺めている僕に初老の男性が話しかけてきた。


「磐田だ。依城には何故か課長って呼ばれてるが、極東支部の支部長だ。といっても、実際は支部っていうより出張所ぐらいの規模しか無いけどな」


 にこやかに話しながら磐田さんが応接用の席に案内してくれる。というか支部長しか人がいないのだけど?日中だし外回りとかでいないだけだよね?ほら、席は何個かあるし。


 にしても、この磐田さん、なんだか魔術師というより何処かの喫茶店のマスターでもやってそうな雰囲気。服はスーツだけど着崩しているし、髪は後ろに流してお洒落っぽいし、話し方も軽い感じだし。

 というか、魔術師っぽい人とか全然出てこないなぁ、本当に。僕のイメージが古すぎるだけなのだろうか?ベテランの人まで、こうも軽い雰囲気というのは・・・


「おっ、その残念そうな顔は・・・あれか?依城か?あいつなら悪いが今日は別件で外に出ててな。夜には帰ってくるから、ここで待っててくれ」


 違います。

 全然違うけど・・・そうか依城さんいないか。お迎えにも来てなかったから違和感があったけど、別の用事が入って来れなくなったってわけか。んじゃ、お言葉に甘えて待たせてもらおうかな?


「さて、待ってる間、何もしないのも暇だろうし、少し話をさせてもらっていいか?」




 そうやって緩くヒアリング調査が始まったが、結局、僕たち二人は何も覚えていないし、柏木さんからの聞き取りは既に終わっていたしで、速攻で場はグダグダになってしまった。あっという間に休憩タイムからのおやつを仕入れ雑談タイムのスタート。

 クロにカニカマを食べさせるのも久しぶりな気がするなと思っていた時、


「個人的にちょっと気になる事があるんだ。聞いていいか?」


 磐田さんが「仕事ではないんだが」的な前置きを入れて話を始めた。だいたい、こういう前置きが来る時の方が重かったりするよね?


「あれだ・・・お前の昔の事なんだが、自分でどこまで自覚があるんだ?単純に出自を隠したかったってわけじゃないんだろう?」


 ふむ。身構えていたけど、さっぱり分からない。なんのこっちゃ?


「マスターに聞いても分からないわよ。まだ記憶が戻ってないもの」


 カニカマを食べながらクロがさらりと答えた。

 驚愕の事実。・・・僕、記憶無いの???全く自覚無いよ??


「おい、なんでお前まで驚いてる?」


 磐田さんからの鋭い突っ込み。見れば、ついでに柏木さんも驚いている。


「いや、まさか自分が記憶喪失だったとは」


「ねぇ、マスター、昔に飼ってた猫の名前って思い出せる?」


「そんなの・・・・・・・・・・・・うわ、ホントだ。分からない。どうして」


「マスターの記憶は魔術で制御がかかってるわ。マスターが語るところの昔の話は、たぶん『自分の今の行動と帳尻を合わせるために用意されたストーリー』なんだと思うの。

 だから少し突っ込んだだけで『猫を飼ってたはずなのに名前すら思い出せない』みたいな下らない矛盾が簡単に見つかってしまう。今のマスターはそんな不安定な状況にあるのよ」


「なるほど、それでか」


 磐田さんは何か納得がいったようだ。そして置いてけぼりの僕と柏木さん。


「あの、さっぱり事情が分からないのですが」


 思い切ってクロ先生に質問してみる。


「大丈夫よ、マスター。まだわたしも自分の中の情報を整理しきれてないけど・・・もう少ししたら説明してあげるわ。安心して」


「そう・・・」


 自分の事なのに猫まかせ。これでいいのだろうか?というか、別に問題とか今までも感じてなかったからいいのかな?


「じゃあ、別にお前は何か思惑があって依城に近づいたりしたわけじゃないんだな?」


「それこそ、まさかよ。ナギがいきなり家に踏み込んで来たのが始まりだし、わたし達には何の意図も無いわよ」


 当たり前のように僕の代わりに質問に答えるクロ。ありがとうございます。


「そうか、良かった。いや、何を置いてもそれを確認したかったんだ。ありがとうな」


「どういたしまして」


 クロは尻尾を立てながら自信ありげにそう応えた。さっぱり事情は飲み込めてないけど話がまとまったようで良かったよ。


 ちなみに柏木さんは静かに話を聞いているだけ。彼も付いていけてないみたい。一人じゃないって素敵よね。


 とりあえず、いつの間にか新たな苦労を背負い込んでいるっぽい我が家の猫さんには後で美味しい物を食べさせてあげましょう。

 頼りない飼い主に出来るのは、それぐらいだから。


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