6-3:猫と僕と彼女の気持ち 私が気になるのは一つだけ。
指定された待ち合わせ場所はググってみたところ都内の喫茶店みたいなお店でした。サロン?って書いてありましたけど、喫茶店との違いが私にはよく分かりません。病院から結構距離はありますし、何だがこじゃれた感じだし・・・なんとなく気に入りません。
病院からタクシーを拾って直接向かいます、もちろん装備一式も持ったまま。服も霊装のままですけど・・・別にそのままでいいでしょう。お茶を楽しみに行くわけでもないのですし。
タクシーの中から既に向かっている旨のメールを送る。
しかし、言われるがままに向かっていますが偽情報だったらどうしましょうか。・・・分かった時点で暴れたらいいですかね?悩んでも仕方が無いので「なるようになれ」って感じで行くのが良い気がします。
さて、暇が出来たので到着まで目を閉じてぼんやりと考え事タイムです。これからの事、これまでの事。考えて何が変わるわけでも無いですが、とりあえず気は紛れるので。
30分ほどで目的地の喫茶店?サロン??まぁ、なんでもいいや、待ち合わせ場所に到着しました。店の人に質問するのも面倒なので、初手で電話。
「指定された場所まで来ましたよ。勝手が分からないから入口まで迎えに来てくれませんか?」
『普通は受付に頼みません?・・・いいですけど、ちょっと待ってて下さいな』
いちいちしゃべり方が癇に障る。何故だか分からないけど相容れない物を感じる。
そして現れたのは水商売の人のような煌びやかな姿をしたロングヘアーの若い女性。
「はじめまして依城さん・・・あら、あなた凄い恰好で来たのね」
「いいでしょ、別に。これからデートってわけじゃ無いんだから」
「へぇ、それもそうね。こっちよ、付いてきて」
おしゃれなドアを潜り、上品な恰好の店員さんの好奇の視線を浴び、奥まったところにある個室に案内された。猫脚の落ち着いた色合いのテーブルに、装飾過多な照明、窓の外には綺麗な庭。馴染めない雰囲気ですね。
「で、話は?」
扉を閉めるなり、そう切り出す。
「ちょっと落ち着きなさいよ。お茶でも飲んだら?美味しいわよ」
そう言いながらメニューを渡された。あまり興味も湧かないのでサラリと眺めて返す。
「適当な紅茶でいいですよ。よく分からないので」
「そう。分かったわ」
そう言って、ボタンのような物を押した。居酒屋にあるような奴と同じようなシステムですかね。
しかし、この人、高級そうな店に慣れてる事もそうですし、見た目もちょっと今まで私の周りにはいなかった感じのタイプ。
髪は腰にも届きそうな真っすぐの黒髪、私には維持の仕方が検討もつきません。服装は・・・表現する事もうまく出来ませんが、艶々した生地でちょこちょこ肌が出ている物を着ています。今の時期には寒そうですけど、そのまま外に出る事を想定していないんでしょうね。ちなみに、私は今とても丈夫なツナギの様な服を着ています・・・
お顔はキチンと手入れが行き届いて傷一つなく、化粧も薄くしてあって、眉も整えてあるし・・・目もぱっちりしてるし・・・なんだかうまく表現出来ませんが・・・端的に言えば見ているとムカついてきます。
・・・・・・
・・・
いつの間にかボーイさんみたいな人が注文を聞きに来てくれていました。そういや全部任せてていいんですかね?まぁ、いいですか。依頼される側みたいだし、堂々としときますかね。いまいち、こういうお店での振る舞いは分かりませんし。
「依城さん、いきなりで悪いけど、もう少し見た目にも気を使った方がいいんじゃないの?カレシさんもがっかりでしょう、それじゃ」
「はぁ?!いきなりなんですか、失礼ですね!・・・赤松さんはそんなの気にしませんよ。それに現場帰りのまま来たから酷いだけで普段は私だってこんなんじゃないですよ」
そもそも彼氏でないのは黙っておこう。正直に話すのもなんかムカつくので。
「そう、それなら良いけど」
サラっと流されてムカつきましたが、丁度その時、私の分のお茶が運ばれてきたので黙っておく事にしました。目の前でカップに注いでくれる・・・メイドカフェみたいな感じですね?いや執事カフェですか??
そして用事が済むと執事かボーイか知らないけど、店員さんはそそくさと部屋から出て行った。
「私は四谷マリ。これからよろしく頼むわね。あなたの事は赤松さんから聞いているわ。彼が知る限り最強の腕利きだから絶対に敵に回すなと、そう言われているの。間違いないかしら?」
「・・・ええ、間違いありませんよ。極東支部が抱える最大戦力は私です」
赤松さんの期待に応えよう。でも敵に回すなってどういう?この人って協会と仲が悪いの?
「そう、それは良かったわ。電話でも少し話をしたけれど、私があなたに頼みたいのは最近流行っている薬の『横流し』、それをしている奴を懲らしめて欲しいのよ、徹底的に」
「はぁ、それはいいですけど、なんで私に直接言うんですか?普通に協会に垂れ込んだらいいじゃないですか。すぐに解決しますよ?」
「出来れば横流しって表現の時点で気付いて欲しかったのだけど・・・あの薬『変若水』って呼ばれてるのかしらね?あれを作ったのは私なのよ。
そして、やたらめったら流通してるのは私が作った物のコピー品。というか劣化品ね。そんなわけで、協会に行ったら私も御用になっちゃうのよ。だから、わざわざ身を危険に晒して直接依頼してるの。分かった?」
物言いが妙にムカつきますけど、言いたい事は分かりました。でも
「四谷さんは何故その薬を横流ししている人を・・・その・・処分したいんですか?」
魔術師的には放っておいても問題は無いような?別に社会への迷惑とか考えてないですよね?どうせ。
「あの薬はね、本当は麻薬でも無ければ魔力回路の強化薬でも無いのよ。もちろん、あれよ、人間を改造したり狼にしたりする薬でも無いわよ。
とある魔術への適正を調べるための試薬だったのだけど、被験者が摂取したくなるような、癖になるような成分を入れてたら、そこばっかり注目されちゃって。
ねぇ、覚えてる?佐藤ユキノブの事」
「いえ、知りませんね」
聞いたことも無い名前だと思いますが。
「・・・・・・あんた達が殺したテロ犯よ」
「あぁ、あの人」
「流石にその態度はどうかと思うわよ。あいつに薬の製造を手伝わしてたんだけど、どうもそこから漏れてたみたいでね。しかも、情報漏洩だけでなく劣化品を量産して広めちゃったみたいで。この前も白い狼が一杯いたでしょ。あんなにたくさん失敗作が出来てるなんて思ってもみなかったもの。私も正直ビックリしたぐらい。
・・・それはともかくとして、私は『私が作ったもの』が下らない金儲けの道具として使われてるのが辛抱ならないのよ。あいつら『新種の量産しやすい麻薬を手に入れた』ぐらいしか思ってないもの。
それに・・・あの薬、ちょっと製造方法に問題があって、量産を続けられると私もたぶん手配がかかるっていうか」
「そういえば、テロ犯のアジトに踏み込んだ時、人から魔力を吸い上げる装置がありましたね」
「そういう事。あの薬は人間から作られてるの。だから、大事になって魔術協会の本体が出てくる前に片をつけたいのよ。分かるでしょ?」
「それは別にいいですよ。私も別に『罪を償え』とか、そんな固い事を言う気はありませんし。
私が気になるのは一つだけ。そこに赤松さんを殺そうとした人がいるんですかって事」
そう、何をするにしてもケジメは付けておかないと。
「・・・ええ、それは間違いない、と思うわ。私の薬の劣化品で一儲けしようとしている奴ら。そいつらと暴力団の取引を何回も邪魔した魔術師。そいつを派手に殺して見せしめにしよう・・・って話だったらしいから」
本当だろうか?何処まで信ぴょう性があるのだろうか?あくまで「らしい」という話。でも・・・
「ほら、疑ってるなら、ちゃんと薬のサンプルも持って来てるし。劣化してない本物の方」
「分かりました。では持ち帰って今日中に検証させてもらいます。結果次第ですが、決行は明日でいけますか?」
「・・・私は大丈夫。でも随分と早いけど大丈夫なの?」
「えぇ、赤松さんの事も知っているようですし、基本的にはあなたの事を信用しようかと思います。薬を調べるのも念のためというところですよ。
ところで場所なんですが今日教えてもらう事は出来ますか?場合によっては仕込みも必要かも知れませんし」
「ええ、これよ」
USBメモリを握らされた。
「中には地図以外に調査資料も入ってるから目を通しておいて。私は直接の戦闘能力はそれほど無いから。裏切らないでよ」
ここに来て初めて真剣な顔をしている。ひょっとしたら今日は顔見せぐらいのつもりだったのかも知れませんね。いきなり話が決まってビックリと。
「大丈夫ですよ。赤松さんが絡んでいる限り、私は裏切りませんから」
「そう、彼は幸せものね」
本当は彼女でも何でも無いのですけど、今はまだ。・・・でも、この人には知られない方がいいような気もしますね、勘ですけど。
「じゃ、また後で連絡ちょうだい。待ってるわよ」
これが彼女、四谷さんと私の最初の出会いだった。




