6-2:猫と僕と彼女の気持ち あなたがやる気になる情報をあげましょう
病室で眠る赤松さんとクロちゃん。二人を見ながら、私は思い出していた。もう一人の赤松さんの悲しそうな顔を、最後のあの言葉を。
私はどうしたら良いのでしょうか。
鈍い私でも流石に分かります。彼の行動の動機か、あるいは動機の一部か・・・私の存在が彼の行動に大きく影響を及ぼしている事は。「私のために」なんて己惚れた事を言うつもりはありませんが・・・
死んだように眠る赤松さんを見ていて思う。
私はもう2回も彼に助けられた。私の方がずっとずっと彼より強いはずなのに。
これから私は何回彼に助けられるのでしょうか。
そして、いつか、彼の力が及ばない状況で・・・私は死ぬのでしょう。それが彼の人生を歪める原因になる事は、きっと間違いではないはず。
・・・・・・
・・・
馬鹿じゃなかろうか?
私は・・・あれか、物語のヒロインか何かか?そこまで分かっていて、めそめそしているだけの馬鹿な女か?
そんなの私がもっと強くなって、彼を追い詰めるような事態を起こさなければ良いだけの話じゃないですか。
そうですよ。なんなら、もう彼を現場に出さなければ良いんですよ。何かあっても私が前に出れば、そうすれば、きっと
その時、ゴソゴソと衣擦れの音が聞こえた。考えに没頭していて気付くのが遅れました。赤松さんが起きそうです。
普通にしておかないと。いつも通りの気楽で素敵な依城さんを作らないと。
・・・よく考えたら起きるまで待ってるんじゃなくて、その間に身支度を整えておくべきでした。久々に会うってのに服は戦闘用、化粧もしてない、髪はボサボサ・・・少し失敗しました。まぁ、彼がそういうところを気にしているとは思わないですけど。いえ、それどころか気合を入れた時でさえ何も気付かないような人ではあるのですけれども。
そして、意識を取り戻した彼と少しだけ話をして、私は病室を出た。久しぶりにあった赤松さんは、やっぱりいつも通りで。ごく普通に私の事も気にかけてくれて・・・涙もろくてダメですね。私もそろそろ年でしょうか。
泣き顔を見せるわけにもいけないので早々に病室を出て待合スペースで感情を落ち着かせる。宙を眺めてぼんやりしてみたり、病院って色々な人がいますね、とか思ってみたり。あれですよね。先の事は先で考えればいいですよね。今のところは無事帰って来てくれただけで満足しないと。
とにかく一旦落ち着きましょう。私がしっかりしないと。何がどうなっていくかの経緯は分からないですけど、赤松さんは全速力で綱渡りを続けるような生き方をしてしまうのでしょうし。
まず落ち着いて、これからの事をゆっくり考えましょう。課長に相談してもいいし、柏木さんも力になってくれるかも知れないし。
うん、そうしよう。独りで抱え込むのはやめましょう。私が悩んだところで良い答えを準備出来そうな気もしませんし。よし。次の行動が少し具体的になると、ちょっと気分が落ち着いた気がします。
そして落ち着くと気付く事もあるわけで。仕事用のスマホに着信が入っていました。しかも、わりとたくさん。1時間ちょっと前から誰かが立て続けに電話をしてきていたようですが、赤松さんの横で物思いにふけってた頃なので、まぁ、仕方ないですね。折り返すのも面倒ですし、電話帳に登録してない人だし、別に放っておいてもいいでしょう。そう判断しスマホを仕舞い込もうとした時、またかかってきました。
・・・仕方が無いので出てあげる事にします。トコトコ歩いてフロア端っこの電話コーナーへ。
「はい、依城です」
『何回もかけてるのに無視するとか、どうなってんのよ!!』
想像通りにお怒りのご様子・・・でも知らない声ですね。感じからして若い女性でしょうか?
こんな業界なので声の印象なんて、あまり当てにはなりませんけど。
「申し訳ございません。病院にいたので電話に出る事が出来なかったんです。ところで、失礼かも知れませんが、どちら様でしょうか?今日は特に急ぎの案件等は無かったと思うのですが」
下らない事で電話してくるんじゃねぇぞ。こっちは忙しいんだの意。
『あぁ、そうなの、病院・・・んじゃ、仕方ないわね』
怒りはすぐに収まったようです。というか、早く名乗ってよ。
「あの、すみませんがお名前を」
『ん?名乗っても知らないと思うわよ。会ったこと無いし』
舐めてるのか、こいつ。
『あれでしょ、あんた赤松のカノジョなんでしょ?あいつが腕利きだって言ってたから一つ仕事を頼みたいのよ』
「お仕事の依頼でしたら協会を通してもらわないと」
赤松さんのお知り合い?どういう事でしょうか、少なくとも彼が私の知らない魔術師と出会う機会なんて無かったはずですけど。
『めんどくさい事言うわねぇ、あなた。あいつは豪胆な人だって言ってたのに』
豪胆って、赤松さん・・・私の事を一体どんな人間だと
「いえ、ちょっと大きな事件もあったばかりなので慎重になっているだけですよ」
『・・・そう、まぁ、それも分かるわね。いえ、確かにその通りね、ごめんなさい。じゃあ、あなたがやる気になる情報をあげましょう。それも、とびっきりの。あなたのカレシを焼き殺そうとした奴、まだ生きてるし、今もコソコソ悪だくみしてるわよ』
・・・・・・
・・・
背中がゾワゾワする。周りの音が遠のいて、視野が狭くなる。
『そいつの居場所を掴んだから処分して欲しいのよ。私一人じゃ、ちょっと難しくて・・・
ねぇ、聞いてるの?』
「えぇ、聞いてますよ。その人はどこにいるんですか?」
自分でも驚くぐらいの低い調子の声が出た。
『細かい事は会って話をしましょうか。流石に電話だと漏れるかも知れないしね?待ち合わせ場所はメールで送るから。
それにしても・・・思ったよりやる気が出たようで嬉しいわ。じゃ、また後で会いましょう』
言いたい事だけ言って電話は切れた。
そっか、最初にやらないといけないのは、これか。




