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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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5-7:猫と僕との関係 会いたかったんだ、もう一度

 とりあえず赤松さんの荷物から敷物を出して床に広げた。

 赤松さんは魔方陣の真ん中、私は魔方陣の外側ギリギリという位置関係。なんとなく体育座り。


「ごめんね。まだしばらくは魔方陣の中心から動けなくて。狭くて息苦しいところだけど、しばらくゆっくりしててよ」


 こんな暗くて何も無いところでも赤松さんの様子は不自然な程にいつも通り。


「ねぇ、どうしてこんなところに隠れてるんですか?」


「・・・・・・まぁ、そりゃ、気になるよね。ここはね、僕が昔に世話になっていたところ。ちょっと時間のかかる術式だからさ、誰も来ないところに行きたかったんだけど、ちょうど良い場所がここしか思いつかなくて」


「そんなの私に相談してくれたら良かったじゃないですか?場所ぐらい幾らでも用意してあげますよ」


「いや、それはそうなんだけど」


「この期に及んで、まだ隠し事って流石の私も怒りますよ。さっきの質問にも答えてくれてないですし・・・ねぇ、前に会った時、私の事を『ナギ』って呼んでましたよね?何か心境の変化でもあったんですか?今までずっと『依城さん』って呼んでたのに」


 赤松さんの目をじっと見る。


 あっ、逸らした。そして、そのまま天井を見上げた・・・隠し事、超下手ですね。


「そんなところから怪しまれるとは思わなかった。ぬかったわー、君にだけはバレないようにしようと思ってたんだけど。まぁ、今この場所が見つかった時点で、もう隠し通せるものではないとは思うけど。分かったよ。伝えられるところは伝えるよ」


 そう言って赤松さんは視線を私に戻した。・・・その表情は何故かとても疲れているようで。


「はぁ・・・何から話そうか」


「とりあえず、この魔方陣についてからでどうですか?」


 最初は話しやすいところから。そして徐々に核心に向け進んでいこう。


「おぉ、相変わらず凄いね。ピンポイントでど真ん中を狙うなんて。よく分かったね。この話だけで概ね僕の事情は分かると思うよ」


 マジですか。適当に選んだだけなのに。そんな内心をおくびにも出さず「当然ですよ」みたいな顔を崩さない様に注意する。ちょっとぐらい、私も先輩の威厳とか欲しいのです。


「まずね、この魔方陣だけど、クロを再構成するためのものなんよ」


 サラっと話が進んでいく。確かにクロちゃんの姿が見えないなとは思ってましたけど。


「クロは普通の使い魔と違って、僕の演算領域の一部を疑似的に切り分けて実体化させてるのよ。だから爆発に巻き込まれて意識が混濁してる時、存在を維持出来なかったんだよね。とはいえ再構成するのに結構な時間も魔力も必要だし」


「ちょっとストップ!なんか今すごい事を言いませんでした?演算領域を切り分けるって・・・

 じゃあ、クロちゃんの中の人は赤松さんなの???」


「いや、そういう訳でも無くて。物理的に完全に分かれた別人格だよ。記憶と思考は僕の脳みそに依存してるけど、クロ独自の意思はちゃんとあるから大丈夫だよ」


「そうですか・・・でも何でそんなに複雑な事をしているんですか?今だって、クロちゃんの再構成のために身動きさえ取れない状態になってますし」


 全くメリットが分からない。普通の使い魔の方が良いとしか思えない。

 自分の演算領域を削るって事は、常時魔術の行使に制限がかかっているのと同じ状態なわけだし。


「ちょっと説明が難しいのだけど・・・クロは僕にとっての安全装置みたいなもんなのよ。

 分かってもらうためには順を追って話をしないといけなくて、とは言え時間もそんなに無いし簡潔に行かせてもらうけど。そうだね、まず多世界解釈、並行世界、この概念は分かるよね?」


「ええ、選択により世界は分岐し続けているっていう考え方ですよね。いわゆる並行世界・パラレルワールドの考え方」


「そう、それそれ。そしてさ、僕の特性・・・いや僕の魔術特性は、並行世界の僕自身と記憶を共有出来る事。

 元々は大した特性じゃなくて、共有出来る内容は極わずか、それにその内容だって自分で選べるわけでもなく、正直に言えば『ちょっと既視感を覚える事が多い』その程度の物みたいなんだ。でも、何処かの並行世界の僕がそれをコントロールする方法を開発してさ。それで僕は」


「もう一回ストップ!ちょっと情報量が多くてよく分からないから、ちょっと待って!

 えと、要するに赤松さんは並行平行世界から知識を引き出せると?それって人が扱える領域を超えた、つまり『魔法』なんじゃ」


 なんでクロちゃんの事を聞いてたのに魔法の話が。さっぱり分からない。


「いや、そんな大層なものじゃないんだ。送信する内容は選べても送れる量は多くないし、受信する内容も選べない。それにそもそも並行世界に干渉する術もない。

 僕には魔法の使い手みたいに『世界』を変えるような力はないんだよ。実際のところ、少しズルをして素早く強くなれるぐらいしか『分かり易いメリット』は無いんだ」


 いまいち理解出来ないですけど、とりあえず赤松さんの身に起こっている事はなんとなく分かりました。

 強化魔術の異様なスピードでの習熟、長年の戦闘経験に裏打ちされたかのような身のこなし。これらは並行世界からの情報流入で実現したと・・・うん、さっぱり分からない・・・理屈は通るけど、うまく飲み込めない。


「でもね、送る内容は選べても受け取る内容は選べないっていう仕様には正直無理があってね。

 僕から見た並行世界・・・今は既に『情報伝達の手法が存在している世界の可能性』しか無いんだけど、それがね、増え続けてるんだよ。

 んでさ、情報って言っても別に書き物だったりするわけじゃないから、どうしても色々な周辺記憶も一緒に他の世界に送り込んでしまっててさ。それでもって、人格ってのは『持って生まれた物』と『記憶の積み重ね』で構成されているわけで」


 それは、つまり「無尽蔵に他人の情報が自分の中に流れ込んで来るみたいな状態」という事?そんな事を続けていたら・・・


「だから、記憶の流入が無秩序に続くと、遅かれ早かれ現実が正しく認識出来なくなるか、人格の崩壊を招く事になってしまって。それを回避するために開発された魔術が」


「すみません。また止めてごめんなさい。なんで・・・そんな無茶を?」


 早く強くなる事ぐらいしかメリットが無いって言ってたのに。それなのにリスクがあまりに大き過ぎる。


「・・・それは、まだ言えない。少なくとも今の『僕』の口からは言えない。すまない」


 明確な拒絶だった。

 赤松さんから拒絶されるなんて思ってもいなかったから想像以上に衝撃があった。

 でも、そんな私の気持ちを置いて赤松さんは語り続ける。


「話を戻すけど、それを回避するために自分の演算領域を切り分けた疑似人格に並行世界からの情報のコントールを任せる術を開発したんだ。

 それがどの並行世界でも『クロ』と名付けられる使い魔型魔術の正体。全ての情報は一旦クロに蓄積され、そこから必要な物を適宜僕本体にインストールするってわけ。

 そして、いま僕の周りに展開してある魔方陣の内容が、クロを構成する術式と、現時点でクロが管理している情報。

 だから、さっきナギが踏んだ時に見えた物は並行世界の僕の記憶・・・なんだと思うよ。自分以外が触れたらどういう風に見えるかは、ちょっと分からないけど」


「・・・私が見えたのは、『私の知らない私の姿』でした」


「そっか。まぁ、何処の僕もナギとは付き合い長いから」


 何処となく悲しそうな顔で赤松さんはそう言った。正直あまり分かったとは言えないですけど雰囲気は掴めた・・・ような気がします。でも、それはそれとしても一番最初の疑問が解けていません。


「ところで、ですけど・・・事情は分かりましたけど・・・何で一人で隠れてコソコソこんなところでクロちゃんを呼び出すための術式の用意してるんです?別に私には言ってくれてもいいじゃないですか。どうしても隠したい秘密ってわけでもないんですよね?」


 壮大な話が入ったところで誤魔化されてはあげない。私は置いて行かれて怒ってるんです。怒っていたんですよ。


「・・・それはごめん。どっちか言うと今の僕の状態はナギにだけは知られたくなかったんだ」


 また、ナギって呼びましたね。それは別にいいですけど・・・『私にだけは』ってどういう意味が


「今回、どうしても『ここの僕』では使えない魔術を行使する必要があって・・・クロ無しの状態で情報の取得を加速したんだ、何回か。特に入院中に使ったやつの影響が大きくてね。

 あれだよ、分かりやすく言うと、今こうして話をしている僕は『ここの僕』じゃない。並行世界の中でも、一番長生きして一番たくさんの情報を提供している『僕』の人格が疑似的に表に出て来てしまっているのが今の状況なんだ。

 もちろん、完璧な人格の再現が出来ているわけでは無いから『だいぶ多めに混ざっている』って感じの状態ではあるのだけど」


 感じていた違和感の正体が分かりました。今の赤松さんは、私が知っている赤松さんじゃ無かったんだ。


「・・・それはクロちゃんを復活させたら元の状態に戻るんですか?」


「そうだね、察しが良くて助かるよ。恐らく大体は前の状態に戻るはず。そのためのクロだからね。ただ、それでも僕は常に他の世界からの情報に影響を受けているから・・・これからも、君の知る『僕』のままでいられるかは、正直なところ微妙かも知れない」


「だったら!・・・だったら、もう、そんな魔術を使うのなんて止めたらいいじゃないですか!」


「ごめん。それは出来ない」


「だったら・・・」


 肝心な事を伝えてもらっていない。そうは思うけど・・・・でも・・・


「僕達には『どうにかしたかった事』があってね。そのために、届くはずの無い手をそこに届かせるために、この魔術を作ったんだ。確かに問題も多いし、この方法でどうにか出来るかも分からないけど」


「・・・いま話をしている赤松さんはどうだったんですか?」


「僕に出来る事は他の世界の可能性を夢見るぐらいなものだよ。それに『僕』は70近くまで生きたからね。もう十分だよ。出来る限りの事は他の『僕』に伝える事が出来たようだし」


「そうじゃなくて!いま話をしている『あなた』のために、『あなた』がしたかった事は無かったんですか!そんなよく分からない他の世界の話とかじゃなくて!」


 私は・・・私の知っている赤松さんだけでなく、目の前のどこか知らない世界の赤松さんにも感情移入しているようだ。だって・・・


「僕自身の望みか・・・なんだろうな。あの日からこっち、そんな事を考えた事も無かったや」


 赤松さんは悲しそうな顔をしている。

 会話が止まり沈黙が落ちた。

 ・・・・・・

 ・・・

 そして、しばらく経ち、足元の魔方陣から出ている光が少し強くなって来た。


「あぁ、もうそろそろだ。もう少しで君にこっちの『僕』を返してやれる。すまなかったね、本当に」


 何か声をかけたいけど、頭の中がぐちゃぐちゃで言葉が出てこない。


「さっきのさ、僕自身の望みだけど。それなら、もう叶ってるや。

 僕はね、会いたかったんだ、もう一度」


 その言葉が終わるのに合わせたかのように、魔方陣からの光は消えた。

 残されたのは眠るクロちゃんと赤松さん。



 私は・・・少しだけ泣いた。

 


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