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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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5-6:猫と僕との関係 彼の痕跡を求めて

 昨日はどこぞの農村で大暴れ、今日は廃村に向かって一人山歩き。明日は一体どこに向かう事になるのでしょう?


 というわけで、一人重いリュックを背負って山登り中の依城です。

 途中までは自転車だったんですけどね。獣道みたいになってきたので今は徒歩でテクテク歩いてます。いざという時に備えて体は鍛えてますので山登りぐらいへっちゃらですよ。心配なのは暗くなるまでに帰れるかどうかぐらいのものですね。




 事情を朧気ながら知った私は翌日朝一で「赤松さんの産まれた場所」・・・かも知れないところへと出発しました。あのタイミングで課長が私に情報を入れてきたって事は意味があるのでしょうし、じっとしているよりか何かしている方がマシだと思ったので。


 目的地は東北の山奥、今はもう何も無いところでした。新幹線、在来線と乗り継いで、そこからは地元で雇った人に車で行けるところまで行って貰うという異常にアクセスの悪い場所です。

 ちなみに、運転手さんは一日拘束する形で雇わせてもらったからか非常にサービスが良く(現地調達の自転車の車への積み込みまでやってくれました)、しかも事情を質問してきたりの干渉もございません。奮発した甲斐がありました。公共交通機関なんてあるはずもない山の中、とても助かります。

 そんなわけで、私達を乗せた車はグングン山の中を進んでいきます。まぁ、目的地までは行けないのですけど、行けるところまではショートカットしましょうって予定なので。

 案の定、目的地まであと山一つといったところで


「あぁ、悪いけど、車で入れるのはここまでみたいだな。ここからは自力で行ってくれるか?」


「ええ、了解です。また帰る頃には電話入れますのでお願いしますね」


「あぁ、それはいいが・・・・いや、何でもない。気をつけてな」


 トランクから自転車を下ろしてもらい、車が戻っていくのを見送った。

 私の目の前には「通行禁止」と注意書きされた錆びたフェンスがある。別にそこから道が無いとか、あっても災害で荒れ果てているとか、そんな事は無い。この先にあった「村」で事件が起こってしまったから道が塞がれているだけ。

 このフェンスを越えるという事は、その過去の事情に踏み込むという事に他ならないのでしょうね、きっと。


「と言ったところで、私は過去の事情とか知ったこっちゃないんですけど」


 フェンスの向こうに自転車を落とし、自分もフェンスをよじ登る。背丈の低いフェンスで良かったです。こんなところで魔術に頼るのもなんだか馬鹿らしいですしね。カニの殻を剥くのに魔術を使うような人も世の中にはいますけど。

 そこからは坂道を自転車でぐいぐい登っていく。思ったより急勾配だったので前言撤回して強化魔術を使う。まるで電動補助付きの自転車のように坂道もすいすい。・・・やっぱり使えるものは、ちゃんと使うべきですよね?

 そして舗装された道が尽きたところで自転車をそこに放置し徒歩に切り替える。気候は寒くなりかけていますが、着ている霊装の効果か、あるいは単純に体を動かしているからか、ちょっと暑さを感じるぐらい。


 そう言えば・・・なんだか、もう長い間、偽OLモードになっていない気がします。ずっと魔術師として活動したかったはずなのに、いざそうなると・・・なんだか懐かしいような・・・いえ、山登りが魔術師らしいかっていうと、それはそれでよく分からないのですけど。


 独りで黙々と歩いていると思考があっちに行き、こっちに行き、よしなし事を考えるばかり。

 この先で何か得るものはあるのでしょうか?課長が出してきた情報なのだから、私達には伝えていないだけで、赤松さんとの関係を示す根拠的な物がある・・・と思いたいですが。でも、そもそも彼の過去を知ったところで今の問題が解決するとは限らないわけで。

 今の問題・・・本質的には彼が行方をくらませている事自体はあまり問題ではありません。いつか帰って来てくれるなら。


 でも、赤松さんはどんな理由で、私達と行動を共にしているのでしょうか?なぜ協会に属してくれているのでしょうか?

「たまたま手に入れた魔術、そして、それを活かせる職場に誘われたから」そんな理由かと思っていましたが、もし課長の推測通りに元々こちら側の、魔術側の人であるならば・・・それに、もし今回の「変若水」と呼ばれている薬の件に以前から関りがあるようなら

 全ては想定でしかありません。根拠も何もないところに想像を足しているだけだから夢想と言ってもいいかもしれません。私達は、何も知らないし、何も分からないのだから。


 そんな事を考えながら一人歩きを続けていると、思いのほか早く目的地に到着しました。

 人払いの術式は要所要所で刻まれていたものの、それ以外に到着を阻むものは何もありませんでした。不用心な気もしますが、きっと「ここにはもう何も無い」という事なのでしょう。

 でも、私はそれでもかまいません。とりあえず村の中に入ってみて、話はそれからです。


 村の中にあるのは廃屋ばかりでした。道には草が生え放題。崩れかけた建物、壊れた農業機械。そんなものばかり。争いの痕跡が無いのは昔に誰かが片づけたのか、それとも単純に年月が風化させたのか。

 ふらふらと村を見て回る。


 見事に何も無い普通?の廃村です。普通が何かはよく分からないですけど。なんとなく張りつめていた精神の糸が切れたので、開けたところで体育座りをして携帯食をモソモソ食べる。

 時間はもうお昼過ぎ。移動の事を考えると後3時間程度で帰る必要がありますが・・・何も無さそうだし、もう帰ってしまってもいいのかも知れません。何も無いのに粘る意味は・・・


 そんな事を思いながらブロック状の携帯食を食べていた時。ふと違和感を覚えました。

 広場に面して建っている村の集会所っぽい大きな建物。その入り口ドアの前、そこに生えている草が倒れている。まるで誰かに踏まれたかのように。


「うっわ、マジですか」


 思わず声が出た。

 これ当たりじゃないです?うちの課長マジで凄くない?魔術?いや、もうこれ魔法?!

 とりあえず慌てて携帯食を飲み込み、少し水を飲んで集会所の扉をそっと開ける。


 ドアは古いものの簡単に開ける事が出来た。

 中をそっと覗く。もちろん真っ暗だし、何も無い伽藍洞の空間が広がっているばかり。

 だけど、何も無いはずがない、そう思って目を凝らすと床に何かを引きずった跡があるのが分かる。年月の経過で厚く積もった埃が私に教えてくれる。

 そこにあったのは、地下へと続く階段。元々は床に一体化するような素材で蓋をしてあったのでしょう。でも、今は私の前に来た「誰か」がこじ開けたせいで、その蓋は階段の上に適当に乗せてあるだけになっていました。

 強化魔術で視力を底上げし暗闇の中での視野を確保する。そして、蓋をのけ、地下へ続く階段を降りる。




 地下室は上の集会所よりも広大で複数の小部屋に分かれていました。そして、そこには一切何の痕跡も残されてはいませんでした。それこそ壊れた機材や家具も含め、文字通りに何もありません。いくつか部屋を覗いてみましたが完璧にもぬけの殻。


「何も無いという事」が、この地下室が、この村で起こった事件の中心地であった事を物語っている。だけど・・・私は別に過去の事件の答え合わせをしに来たわけじゃない。だから、そんな事は別にどうでもいい。


 そのまま引き続き奥へ奥へと進んでいく。

 何も見つからないまま進むうちに、うっすらと光が見えてきました。

 どうやら奥にあるスペースで誰かが何かをしているようです。微かにだけど魔力も感じられます。

 念のため、魔術の補助に使っている小刀をいつでも抜けるようにしておく。

 暗がりを気配と魔力を殺して進む。


 誰かがいる。


 いつでも攻撃に移れる準備をしつつ、部屋の中を覗き込む。

 そこにいたのは


「お疲れ様。まさか見つかるとは。どうして分かったの?」


 そこにいたのは苦笑いを浮かべ胡坐をかいている赤松さんでした。

 速攻で見つかったのは良かったですけど・・・流石にその態度は腹が立ちますね。一体私がどんな思いで

 ・・・・・・

 ・・・

 ひとこと言ってやろう。私はそう思い距離を詰めながら話し始めた。


「先に言うことがありますよね。一体どういうつもりで」


「止まって!その魔方陣は踏んだら」


 遅かった。足元からの薄青い光が一瞬で身体を駆け上がる。

 意識が混濁する。体から力が抜け崩れ落ちる。

 何故か分からないけど頭の中に様々な映像が浮かび上がる。でも何を見ているか理解出来ない。気持ち悪い。

 そして気が付けば私は何事も無かったかのように茫然と立ち尽くしていた。訳が分からなくて、赤松さんの方を見る。


「ああ、ほら言わんこっちゃない。大丈夫?気持ち悪かったらしばらく横になって・・・いや、ここは汚いか。あっちの端っこに僕の荷物があるから、その袋の方に」


「ねぇ、さっき魔方陣を踏んだ時、私の姿が見えたんですけど、あれは・・・何?」


 さっき見えた内容はほとんど認識出来なかった。でも、その中に少しだけ分かったものがあった。それは、ところどころに差し込まれていた私の姿だった。

 


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