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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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5-5:猫と僕との関係 全部ウソって一体どういう

 お留守番の依城です。あの日、結局、赤松さんは帰ってきませんでした。


 振り返ると様子もおかしかったし、「やるべき事が~」みたいな事を言ってましたし、まぁ、何か事情があったんでしょう。

 だが、しかし!私はめそめそしながら、ただ帰りを待つような人間ではないのです!それは前にやったし!今回はヒントもあるし!!


 というわけで、柏木さんの尋問中です。

 私がやると危ないという事ですので、代理で課長がやってくれています。何が危ないんですかね?流石の私でも尋問中に暴力を振るったりはしませんよ、たぶん。




 赤松さんが帰って来なかったあの日、地元の団体にヤバいぐらい荒れ果てた現場の撤収作業を任せ、私と柏木さんは、そそくさと東京に戻りました。私達があの場に留まっても出来る事は無いし、ぶっちゃけ「作業の邪魔になるから、さっさと帰りたまえ」という雰囲気だったので。


 そして帰って来るなり、課長が柏木さんを連れ個室に籠って取り調べを開始。もう晩御飯時も過ぎているのに大変な事ですね。

 すぐに終わりそうにも無いので、自販機でコーラを買ってきて自席でのんびり休憩タイム。ぼんやりと思考を巡らせてみると、柏木さんが誰にも頼らず単独で行動した事には一理ある事が分かりました。赤松さんは協会からの仕事として出向いた先で爆殺されかけた。ビル一棟を綺麗に燃やし尽くしていたそうだから、その準備にもそれなりに時間がかかっていたはず。燃やしても良いビルの用意、燃料、脱出を防ぐための結界、ひょっとしたら足止めをするための決死隊。用意するべきものは他にも色々とあったはず。それなのに全く情報が漏れていない。普通に考えたら、そんな事は起こりえないはず。・・・凄く恨まれてたんですね、いつの間にか。

 それはそれとして、そんな状況を作り出すためには内通者が必要であろうと判断されても仕方ないわけで。そんな状況で、大怪我を負った赤松さんを抱えて協会に行く気にはなれないわけで。


 まぁ、実際のところは、あの薬物汚染の広がりようから考えると、関係団体のあちこちに協力者がいたってのが正解なんでしょうけど。


 というか、どんな事情があるにしろ、私には情報くれても良くない?そんなに信用ならないのかな?

 自己分析をしてみる。

 私自身が赤松さんの情報を売る・・・この線は他人から見ても無いと断言出来るでしょう。特にお金に困ってるわけでもないし、それに外側からなら「親しい間柄」にしか見えないはずだし、公私混同もしてるし、この線は無いなと誰でも判断してくれるはず。

 なら、次に気になるのは私から情報が漏れる可能性。例えば盗聴、メールの傍受、そんなスパイ大作戦みたいな・・・うん、抵抗出来ないですね。


 これかぁ、これかなぁ?確かに私に情報を伝えたら漏れるかも。分かんないもん、メールの傍受とかされても。

 こう考えると疑心暗鬼な状態だった柏木さんに「なぜ私に情報をくれなかったの?」とか言ったら可哀想ですね。

 むしろ赤松さんはその辺り全然気にしてない感じだから、帰って来たら情報漏洩の怖さを説明しておいてあげた方がいいかも知れません。対応方法があるかは知りませんけど。


 そんな感じに考え事という名の暇つぶしを一人楽しんでいました。正直、今日はちょっと疲れましたしね。流石の私も朱天の長時間の顕現と魔術連続ぶっぱは堪えました。でもトータルで考えると、今日はちょっと楽しかったと思います。久しぶりに全力で魔術を使えましたし、赤松さんの無事も確認出来ましたし。


「おーい、依城、終わったぞー」


 おや、課長のお呼びです。早かったですね。


「おい、柏木に礼を言っとけよ。だいぶ大変だったみたいだぞ。あとな、赤松氏の場所は彼も知らんらしい。今後の動き方については、二人で相談して決めておいてくれ、明日の朝までにな。

 俺はもうしんどいから帰る。あとは明日、明日やるから、今日はもう勘弁してくれ」


 そう一方的に言って、そのままマジで課長は帰って行きました。本当に疲れてるんでしょうね。可哀そうに・・・誰か手伝ってあげたらいいのに。


「お疲れっす。とりあえず、大体の経緯は課長に話たっすけど、あの白い犬擬きが人間の変化した奴とは・・・俺、あれ装備の素材に使っちゃったっすよ」


「ありがとうございました」


 部屋から出てきた柏木さんに深々と頭を下げる。なかなか伝わりにくいとは思うけど、まずお礼だけはちゃんとしたかったから。


「いやいや、いきなりどうしたんっすか?!」


 やっぱり伝わらなかったので、その姿勢のまま言葉を追加する。


「大怪我を負った赤松さんを助けてくれたと聞きました。だから、ありがとうございます」


「いやいやいや、赤松さんは俺の命の恩人なんっすから、そら何かあったら助けますって!!だから、頭を上げてくださいよ。そんな御礼を言われるような事じゃないですって。依城さんも機会があったら同じように助けるっしょ?!」


 何故か柏木さんは少し必死なご様子。


「そうですね。それでもありがとうございます。これからも、赤松さんをよろしくお願いします」


 いえいえ、こちらこそと柏木さんもペコペコ頭を下げ、よく分からないが実に日本人的な状況が発生した。皆が助け合えるのは良い事だ。仲良きことは美しきかな。ちょっと意味違うかな?

 それはそれとして、柏木さんに応接用の椅子への着席を促しながら次の話題へ移る。


「でも本人はいないんですよね。どこ行っちゃったんでしょうか?」


 柏木さんが行先を知らないとなると、またもやノーヒントなんですよ。携帯も持っていないみたいですし。


「あー、それなんっすけど、さっき課長が独自に調査してる内容を共有してもらったんですけど・・・見てみます?」


「はぁ、それは是非」


 俺もまだ全然見れてないんっすけどね、そう言いながら、柏木さんが資料をバサバサと机の上に並べていく。うん、ちょっと引くぐらい色々ありますね。

 銀行口座やクレジットカードの履歴に始まり、素行調査の結果や過去の経歴を洗った資料まで。・・・プライバシー侵害しまくり。なんでここまで調べられてるの?というか、これの理由を聞かれるのが嫌だから、課長って先に帰ったんじゃあ。


「とりあえず行方のヒントを探るには・・・まずは資金の流れっすかね」


 柏木さん、超ノリ気。あれかな、ひょっとしたら彼も黙って置いて行かれたからムカついてるとか?

 うん、私も分かりますよ、その気持ちなら。

 とりあえず、サラサラと眺めますが・・・あまりにシンプル過ぎる。入金は協会からの給料だけ、カードの履歴は大体アマゾン。ミニマムなライフ過ぎる。その一方、振込みは毎月月初に何か所かに数万円ずつ。これ合計したら給料額面の半分近くになりますね・・・「ひょっとしたらヒントになるんじゃ」そう思い振込先の名称をスマホでググる。


 はい。意味は無さそうです。全部猫の保護団体でした。そーですよねー、猫好きでしたねー、そう言えば。はいはい、ノーヒントでしたー。


 私は安定の空振り。「柏木さんはどうかなー」と思って見てみると、過去の経歴一式が納められた封筒をひっくり返して中身を検分しているところでした。凄く一生懸命なお顔。

 でも、あんまり過去を漁っても面白くないと思うなぁ。まぁ、素行調査の方も面白くないと思いますけど・・・暇ですし、私も一応資料を見てみましょうか。


 素行調査の結果は、そもそも家からあまり出ていないですよ、という極端に意味の無い物でした。道理で近所のお店の事もよく知らないはずです。はい。というわけで、こちらも空振りです。


「ちょっと依城さん。見てもらってもいいっすか」


 柏木さんが資料を押し付けてきた。

 ・・・・・・

 ・・・

 その資料には赤松さんの過去の経歴が記されているはずだった・・・けど結論から言えば、「全て不明」それだけが記載されていた。


 そもそもの戸籍からして偽造。出身地も通っていたはずの学校も虚偽。実際に赤松さんが居た痕跡は何処にも無い。

 長い資料だが、記載されているのは結局それだけだった。

 訳アリの魔術師なら経歴の偽装も不思議では無いですけど・・・赤松さんは少し前まで「普通の人」だったはずなのに。一体どういう・・・


「次はこっちを見てください。これは支部長が独自に調べていた内容なんですが」


 何も言わずに次の資料を受け取った。


 それは今から十数年前に廃村になった「とある場所」について書かれた書類。そこは過去に存在したある組織によって運営されていた「試験場」だった事。正確な時期は把握出来ていないが内部のトラブルで試験場が崩壊した事。そして、そこに居た試験体は運営していた組織の手を離れ逃亡した可能性が高い事。


「手書きのメモが入ってましたが、もうこの組織自体は協会が潰してしまったそうっす。そして、この組織が作ろうとしていたのは人工的な魔術師、後天的に魔術回路を増幅した人間、つまり赤松さんがその該当者、試験体の一人なんじゃないか、磐田さんはそう思っているみたいっす。これ、どうしたらいいっすかね?」


 そっか、クロちゃんの機能って・・・。色々な思いが溢れて来る。だけど・・・


「まぁ、あれ・・・ですね。明日の朝一でそこに行ってみます。最後に会った時、何か事情がありそうでしたし、ひょっとしたら」


 待っているだけというのは、ちょっと辛そうなので。


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