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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部4章:猫と僕と知らない世界

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4-1:悪鬼の中に潜む者 きっとこれが最後の戦いだ

 止まった世界の中で、それは語り出した。


「おぉ、すまんな。驚かすつもりは無かったんじゃ。何か物思いに耽っておったようじゃから、少し待たせてもらっておったんじゃ」


 声の張りのわりに、まるで老人のような話し方だった。何処かワザとらしい気もするけど。


「いやな、お前さんが色々とぶっ壊してくれたおかげで、やっと外に出られたんじゃ。まだ少しぐらいなら待ってやれるぞ」


 赤い衣と黒を基調にした鎧を着こんだ男性はそう言って静かに腰を下ろした。

 年の頃は・・・口調程には老人って感じもしないけど・・・細かくはよく分からない。そして、彼の鎧は朱天のような威圧感のある形じゃない。それこそ誰もが見た事のある昔の合戦で使われていたようなシンプルな鎧兜。って、あれ?そう言えば・・・いま普通に会話してた?


「そうそう、先に言っとくが、今この『世界』は停止させてあるからの。悪いが、お前さんの術式の制御も奪わせてもらっておる。何せ、あのままだとアッと言う間に『世界』が壊れて、何も出来ないまま終わってしまっておったからの」


 なるほど。とりあえずは、一息付けて助かるって事で良いのかな?・・・制御を奪われている事に思うところが無いわけでは無いけれど・・・ついでに言えば結界はともかく僕自身にも干渉出来てるのは全くの意味不明で気がかりだけど。まぁ、でも、今は気にしなくてもいいかな。

 だって・・・こいつは・・・いや、この人は


「儂が誰かの説明はいらんじゃろ?さっき体が作り直される時に色々と知識も放り込まれたんじゃが・・・お前さん達、魔術師ってのは色々と物知りで賢いんじゃろ?なら分かっておるわな、儂が誰なのかは。一応言っとくがの、この口調はただのキャラ作りという奴じゃ。現代風で他に良い感じのものがなくての」


『マスター、流石に分かってるわよね?』


 相変わらずちょっと失礼だね、うちの猫は。


「特に召喚とかした覚えは無いのだけど、今は英霊として存在している・・・という事?」


「左様。よく分からん神でも無ければ、何処ぞの田舎者の守護神でも無い。英霊『楠木正成』そのものとして儂はここにおる。しかし・・・自分で英霊とか言うの正直小っ恥ずかしいの。ただの事故で出て来たみたいなもんなんじゃし。

 まぁ、それはそれとしてじゃ。儂の自己紹介も済んだし本題に入らせて貰おうかの。この状態が、いつまでも続くというわけでもないんでの」


 よっこらしょ、そう言いながら、しかし異常に身軽な動作で楠木正成公は立ち上がった。聞いた事はある、英霊召喚は呼び出された人物の最盛期の姿での顕現になると。そうなると年寄り臭い話し方をしていても、肉体的には然程高齢というわけでも無いと・・・そもそも確か没年は40歳ぐらいだった気がする・・・本当にただのキャラ作りじゃん、あの話し方。


「儂はなぁ、ずっと昔に戦場で死んでのぅ。そこからの事はよく知らんが、いつの間にか後の時代の者に祭り上げられて、気が付いたら田舎魔術師の守り神みたいな妙な物になっておっての。

 意識は曖昧じゃったし、力だけ騙し取られているみたいな生活で、ずっと気分が悪くての。

 だから、今の状態は儂にとっては良い機会なんじゃ。下らん神性から解き放たれ、英霊としての役目があるわけもなく、有るがままの儂として振舞える。こんな好機は恐らく儂の生涯で、もう二度と無いじゃろうな」


 もう死んどるけどな!そう笑いながら彼は続けた。


「儂はなぁ、この『生きていた時では考えられないような力』を使って一度全力で戦ってみたかったんじゃ。ずっとボンヤリした意識のまま眺めておるだけじゃったからな。での、そんな事を思っている儂の前に最高の機会が転がってきたわけじゃ。どうせ、まだ隠し玉はあるんじゃろ?あれで終わりって事もなかろ?」


 あぁ、その通りだよ。使うかどうか分からないとは思っていたけど、まだ残ってはいる。


「確かに・・・切り札はある。でも、かなりリスクが高くて、あなたの要望に応えるという理由だけでは実行出来ない」


「そうかぁ、神霊に近い物に普通の人間が対抗しようと思ったら・・・そんなものかのぅ。・・・分かった。こうしよう。そこに倒れとるあの娘、あいつを儂が助けてやろう。どうせ、このままだと儂が消えたら一緒に死ぬしの」


 そうか。やっぱり、この程度じゃダメか。


『マスター、そうは言っても敵なんだし全面的に真に受けるのは』


 クロの忠告は最もではあるけど


「大した手間でも無いし、あの娘との戦いは、あれはあれで面白かったしの」


 そう言うと彼は刀を抜き中空で振りぬいた。

 何の装飾もないシンプルな、まさに質実剛健とでも言うべき打刀。


「これで儂とあの娘の繋がりは切れた。あの娘は今までのように儂の力を振るう事は出来んくなるが・・・・まぁ、十分じゃろ。それと物のついでじゃ」


 今度は刀の切っ先をクルリと回した。

 さっきもそうだったけど、どんな魔術が発動しているかサッパリ理解出来ない。いや、そもそも魔術が発動しているかどうかさえ認識出来ない。仮に今の状態で勝負をするとすれば


『・・・マスター、ナギが』


「なっ?!」


 クロの声で気付かされた。僕のすぐそばにいた依城さんの姿が・・・


「大丈夫じゃ。心配せんでええ。これからの儂らの戦いの邪魔になるからの。元居た場所に還しただけじゃ。お前さんが無事に生き残ったら、またすぐに会える。心配するな。

 あの娘を死なせない事がお前さんの目的じゃったんじゃろ?やったじゃないか。目標達成じゃ。おめでとう。めでたし、めでたし。

 さて、後顧の憂いも無くなったし、これでお前さんは儂の望み通りに奥の手やらを切ってくれるはずじゃな」


 不自然にニコニコしながら、朱天・・・いや、正成公は僕への要求を再開した。


「分かったよ。やるよ。流石の僕もそこまでしてくれた相手に対して無下に断ろうとも思えない。まだ実感が無いから喜べないし微妙な気分ではあるけどさ。

 今から準備するけど絶対に戦闘中に結界を崩す事は無いようにお願いしますよ。外で使えば世界から修正される事は確実なんですから」


「なるほどの・・・なら結界は儂の方に寄せて強化しておこうかの」


 そう言うと、彼は右手を天に向け真っすぐに伸ばした。・・・切り落とした右手首も完全に回復してやがる、僕の左手は無いままなのに。


 そんな事を考えているうちに当たり前のように変化は起こった。


 壊れかけた僕の故郷の幻想が塗り替わっていく。歪んだ曇り空は青空に、荒れた地面は石畳に、遠くに見えていた山々はビルが立ち並ぶ光景に。

 この光景は・・・


「初めてにしてはうまくいったわい。ここは儂が祭られとる場所。と言うか、儂が神様をしとる神社での。そこを中心に現代の景色を構築したんじゃ。

 なんかな儂固有の能力として陣地の設営みたいなのがあっての。それを活用したんじゃよ。ここなら暴れまわっても壊れないし『世界』とやらに見つかる事もないじゃろ?」


 断る理由も、出来ない理由も無くなったね、完璧に。正直なところ、断ったら、その瞬間に叩き切られそうな予感もしているのだけど。


『マスター、いいのね?どうなるか分からないわよ』


「あぁ、構わない。ここがたぶん最後の踏ん張りどころだから」


 僕はそう言うと空間魔術の圧縮を全て解いた。目の前に残りの魔力結晶を全て浮かせ待機させる。残数は20個弱。潤沢とは言えないけど必要十分ってところのはず。


「お待たせしました、正成公。今から切らしてもらいますよ、僕の最後の切り札を」


 さぁ、始めよう。


 きっとこれが最後の戦いだ。

 


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