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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部4章:猫と僕と知らない世界

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3-4:全てはこの時のために 神に祈りたい気分ではあったけど

目の前に迫り続ける剣尖をひたすらに弾き続ける。狙いは単調、振りも直線的。ただ速さだけは常軌を逸している。


「魔力で覆われた刀」と「魔力が固まって刀のような形になっている物」その二つが幾度も衝突を繰り返し、目の前の空間が青白い燐光で満たされる。

接触のたびに甲高い金属音と光が撒き散らされ、遠目に見れば美しいと思える光景が広がっている事だろう。


だが、僕にはそんな美しさは少しも響かない。いや、それどころか・・・


『ねぇ、クロ、まだなの?!もう結構辛くなってきたのだけど?!』


既に余裕は無くなりつつあった。


『まだよ!!正確にナギの位置が掴めない限りは発動しても空撃ちになっちゃう!!』


身体能力ではこちらが勝っているとは言え、延々と続く剣戟に限界を感じ始める。こちらはいくら強化していると言っても人間の体。それに対して相手は中身がどうなっているかも分からない影法師。連続稼働という面においては、どうしても影法師に利がある。


大きく振るわれた一撃を弾くため、体勢を下げ、斜め下から朱天の刀の側面を狙い蜘蛛の刀をぶち当てる。

刀同士の衝突は問題無い。蜘蛛の刀は朱天の力にも耐え切っている。耐えられないのは僕の体の方だ。


刀を振りぬいた右腕の筋肉が、肘関節が、踏み込んだ右足が、あちこちが一瞬にして壊れ崩れ、そして事前に仕込んだ回復魔術で癒されていく。


きっとツナギ型霊装の中は酷い事になっているだろう。

そして、また次の瞬間には迫ってきた朱天の刃を受け止めるため、治したばかりの体を酷使する事になる。痛覚はとうに殺している。だが、体が崩れ再生を繰り返すたび、体力は失われる。いくら強化していようが無限に続ける事が出来るものでは無い。

魔力だけは外付けの予備タンクのおかげで底なし状態なのが唯一の救い。これのおかげで戦い続ける事が出来る、しばらくの間は。


だが、気のせいだろうか・・・朱天が振るう刀に鋭さが加わってきたように思える。ほんの少し受け流し難い。刃を叩いて逸らそうにも、どうにもタイミングを合わせ難い。少しずつ、そんなケースが増えて来た。


性能由来のアドバンテージが失われ、それと同時に、体への負荷が増え続ける。

まだ一太刀も浴びていないのに僕の肉体は幾度も損傷と回復を繰り返し疲弊を始めている。

損傷が発生しても即治療が完了する事と、痛覚に振り回されない事だけが、僕がまだ動けている理由。だが、押され始めているのも・・・また事実。この状態が長く続く事は好ましくない。


少しだけ、ほんの少しだけでも隙が出来ればペースを立て直す事が出来る。出来るはずだが、どうにもそれは難しいようだ。

朱天の踏み込みが、先ほどよりも深く素早く、そして正確になった。もう力任せの動きとは言えない。熟練とまでは言えないが、十分に考えられた軌道で迫る剣戟。刀を振り抜く事を念頭に入れた脚運び。

何時の間にか、いや瞬く間にと表現する方が正しいか、僕と朱天の間にあったはずの戦力差は消えつつあった。


だが、こちらは『魔法』の用意が出来るまで朱天に攻撃する事は出来ない。下手に攻撃して依城さんを傷つけるような事があれば、それこそ何の意味も無いのだから。


そんな事を考えていたからだろうか。

朱天の動きを読み違えた。


今までと同じような大振りの一撃。袈裟掛けに迫ってきた軌道を先程までと同じように惰性で弾いた。弾いてしまった。


だが・・・軽い。


受けるだけで腕を破壊するような重い一撃と違い、今回の斬撃は異常に軽いものだった。抵抗らしい抵抗も感じず弾く事が出来た。


訝しく思った瞬間に気が付いた。朱天の左手に小太刀のような物が握られている。


弾かれた勢いをも利用し、朱天の体が軸足を中心に高速で回転する。そして、左手の小太刀は回転の力に後押しされ、僕の右側頭部を狙う軌道で


知覚は既に限界まで加速していた。が、自分に迫ってくる刃は、今まで以上にゆっくりと随分と正確に認識する事が出来た。それこそ、その黒くて短い刀が単なる魔力の塊ではなく、きちんと刃を再現し、波紋さえ存在している事にまで気が付けた程だ。


咄嗟に動けたのは何故だろうか。


僕は左手の小手を自分の頭と迫り来る小太刀の間にねじ込んだ。

限界を超えた稼働で左手の筋肉を激しく痛めた事が感覚で理解出来る。

だが、そんな事はどうでも良い。

左手の手首辺りで右側頭部に迫る刃を受け止めるべく、蜘蛛の刀を通じ小手に可能な限りの魔力を送り込む。受け流せないなら硬度を上げて乗り切るしか無いのだから。


重く鈍い衝突音が響く。まるで、それは硬い金属同士が激突したようで。

噛み締めた奥歯がメリメリと崩れていく。受け止めた左前腕がどうしようもなく壊れているのが分かる。


だが受け止める事が出来た。朱天の渾身の一撃を受け止める事が出来た。

今度は向こうが死に体だ。中途半端な位置で回転運動が止められたせいで上体が泳いでいる。

反撃を繰り出したいところではあるが・・・


『クロ!!』


クロに呼びかけつつ、更に一歩踏み込み、壊れたままの左手で大きく朱天を突き飛ばす。

そして、それと同時に自身は後ろに跳躍する。


意識の極端な加速が跳躍をやけに長いものと錯覚させる。浮遊感と共に壊れた体が急速に復元される感触もあり・・・端的に言えば非常に気持ち悪い。だが、やっと人心地付けた。

なんとか今の間に状況の確認を行う。


『マスター、残念だけどナギの反応がうまく掴めないの』


報告される異常事態。他のところでは、ここで詰まる事は無かったはず。それに異常と言えば朱天の強さもオカシイ。この時点の朱天なら僕が圧倒出来たはず。他のところと違う要因は・・・


『たぶん結界のせいね。外と完全に区切った事が想定外の事態を呼び起こしているのだと思うわ』


たぶん世界からの修正力みたいなのを朱天はずっと抱えてたって事なんだろうね。その負担が結界のせいで無くなったと。死人だもんね、よく考えたら。元から神様ってわけでも無いのだし。

・・・思い付く対策としては。跳躍が終わり地面へと着地しながらクロに確認してみる。


『依城さんに呼びかけてみようか?効果ありそうかな?』


『・・・そうね。意外と良いかも知れないわね』


マジで?思い付きでも言ってみるもんだ。


それはそれとして、朱天も体勢を立て直したようだ。こうなると、そう簡単に新しい事をやるだけの隙を作ってはくれないだろう。・・・・しゃーなしか。勿体ないけど


僕は空間を捻じ曲げている魔術を少し弄り、魔力結晶を一つ、中空に投げ出した。そして、間髪入れず刀でそれを叩き割る。


結晶に込められた魔力が暴発し、周囲一帯を魔力の乱流が襲った。


光も音も無いけれど、朱天からすれば閃光手榴弾みたいなものだね。魔力の塊みたいな体には辛いものじゃないかな?どうせ二回目は通用しないとは思うけど、初回なら効果はあるでしょ。

そして、このチャンスに僕は一瞬加速を解いて大声で叫んだ。


「依城さん!起きて!!」


お願い、依城さん。神に祈りたい気分ではあったけど、それは敵側なので本人に祈りを捧げてみる事にしたってわけ。



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