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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部4章:猫と僕と知らない世界

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3-1:全てはこの時のために せっかくですし一発殴っておきますか

 今日の夢はいつもと違う感じです。と言うか、何処ですかね、ここ?最近はいつも「だだっ広い草原」ばっかりだったんですけど、今日は謎の薄暗い空間。謎っていうか何も見えない感じ?暗くて周りが見通せないような、でも自分の体はしっかり見える、そんな謎具合。


 まぁ、夢ですし。別に現実ではありえないような光景でも問題は無いのですけど。

 それにしても、今回の夢のテーマは何ですかね?たぶん、今までのは「私の後悔」とか「思い残す事は」みたいなのが主題だったと思うのですけど・・・こんな謎空間にそういうのは無さそうですし。

 ・・・・・・

 ・・・

 夢の中で思うのも意味不明ですが暇です。なんとなくブラブラと歩きまわってみる・・・けど、いくら歩いても周りの景色が変わるわけでもない。歩いても止まっていても同じな気がしますね?


「なんなのよ、もぅ・・・」


 ここまで何も無い空間って有り得なく無いですか?あれですね。あんまり得意じゃないですけど探査魔術で探ってみましょう。何か反応があったら、そこまでダッシュって事で。


「・・・・・とぅ!」


 夢の中なので無意味に掛け声を上げて発動!もちろん、発動の時のポーズも必須です。テーマはうろ覚えの仮面ライダー。

 探査用の魔力波が勢いよく謎空間に広がっていきます。いつもは出力が強すぎてうまく行かないんですけど、ここだと障害物も壊してしまう物もないので簡単で助かります。


「!!!」


 反応がありました。しかも私のすぐ後ろ。

 変に愉快だった気分を一瞬で冷まし、強化魔術を発動させ距離を取りつつ後ろを確認。

 そこにいたのは・・・以前にも何処かで見たような気がする黒い影。そんな影が人の形をとって、こちらをじっと見ている。


 もう「誰でしょうね?」なんて惚けた事を言うつもりはありません。


「朱天ですよね?」


 影は聞いているのかいないのか。返事は当たり前のように無いですし、リアクションもありません。まぁ、でも朱天なんでしょうね。普段呼び出す時とはだいぶ印象が違いますけど、他に心当たりも無いですし。


 にしても、向かい合っていると思う事がありまして。普段からいいように使ってる自覚はありますけど、朱天に取り殺される理由も私には無いんですよね。貰いものですし。正直なんかムカついてきました。こいつのせいで赤松さんはあんなに苦しんでいるわけで。

 夢の中ですけど・・・せっかくですし一発殴っておきますか。意味は無いけど少しぐらい気も晴れるでしょう。


 そうと決まれば善は急げ。


 限界まで魔力を込めて強化魔術を展開する。

 動きのイメージは藤野さんが今までに何回も見せてくれました。大丈夫。今の私なら動けるはず。

 力を込めて一歩目を蹴り出し、朱天に向け一気に踏み込む。真っ黒の空間だから速さが掴みにくいけど、今までで一番速い踏み込みのはず。それこそ赤松さん並みの速度が出ている・・・と思いたい。


 私の接近に対して、朱天らしき黒い人影は動きを見せない。


 だから、私は更に踏み込む速度を上げ、全力で拳を振りかぶり、影の腹に衝撃を叩きこんだ。

 強化魔術で爆発的に底上げした膂力と莫大な量の魔力の全てを込めた一撃が、朱天の体のど真ん中に着弾した。


 が・・・何の感触も無い。反動も無い。衝撃音も無い。自然に中空で打撃が止まったかのよう。もちろん、黒い影は微動だにさえしていない。


 まぁ、夢ですしね。


 すっと気分が冷めた。気も晴れないし、つまらない。やるんじゃなかったって感じです。頑張ったのが馬鹿みたい。


 はぁ、つまらない。こうなると、もう早く目を覚ましたい限り。明晰夢とかろくなもんじゃないですね。

 その時、私はふと至近距離にある朱天の顔を見上げた。そこには何の表情も無いのっぺらぼうの顔があるばかり。


 でも、どうしてでしょうか・・・私にはその何も無い顔が笑っているかのように。





 目が覚めました。


 ・・・うわ、汗びっしょり。迫真の夢でしたからね。普通に夢の中なのに魔術使ってましたし・・・・殴れなかったですけど。殴れなかったですけど!


 にしても、最後のアレはゾッとしました。朱天って感情とかあるんですかね?それとも単純に私の気のせい?・・・所詮は夢の話ですけど。それはそれとして、時間はまだ夜中みたいです。まだ真っ暗。目が慣れてきましたけど・・・あれ?今日は和室で寝てて・・・横に赤松さんもいるはずですけど・・・・いませんね。


 あれ?

 あれれ??


「おはよ。と言っても、まだ夜中だけどさ」


 少し離れたダイニングから赤松さんの声が。


「・・・眠れないんですか?」


「ちょっと緊張しててね。依城さんは変な夢でも見たのかな?」


 確かに変でしたね、あれは。


「ええ、そうですね、変な夢でした」


 赤松さんは一人でダイニングの椅子に座り何かを飲んでいる。なんだか珍しく落ち着いた雰囲気。・・・お酒でも飲んでるのかな?


「大丈夫。もう今日を最後にそんな夢は見ないから。今日で終わりだから」


 ・・・・・・

 ・・・


「ねぇ、何、飲んでるんですか?」


「プロテイン」


「いやいやいや!?この流れで!そんな雰囲気で!何でプロテインですか?!」


「うるさいわよ!ナギ!!何時だと思ってるの!!」


 思わず大きな声が出て、速攻でクロちゃんに怒られました。と言うか、私の枕元にいたんですね。黒いから分かりませんでした。


「ごめんなさい」


「ん、いいのよ」


 そう言うとクロちゃんはまた枕元で伸び始めました。グーッと伸びて、そのままダラリと。

 ・・・眠りましたね。流石、猫。寝つきが速い。そんなクロちゃんを横目に私はそろりと立ち上がり、赤松さんの方へと向かいます。


「ご一緒していいですか?」


「うん。いれようか、プロテイン?胃にも優しいよ、特に美味しくはないけど」


「いえ、それは別にいらないですけど」


「・・・そう」


 話す事が思いつかなくて静かな時間が流れていきます。まぁ、夜中ですしね。時計を見ると三時半。そりゃ静かなわけです。


「寝なくても大丈夫なんですか?」


「数日ぐらいなら大丈夫。明日を万全の状態で向かえられるように備えは色々としてあるから」


 それは、つまり、寝ない程度では問題にならないぐらいには備えているって事ですよね。・・・体に悪そう。それに、さっきの言いぶりからすると眠れなかったのは今日だけって事じゃないのでしょうね。

 あまり意味は無いかも知れないですけど、流石にちょっとぐらい・・・ちゃんと眠って欲しいですね。


「一緒に寝ましょうか?今なら手も繋いであげますよ?」


 そう言うと彼は何故か少しビックリしたような様子で


「そうだね。お願いするよ。最近うまく眠れなくて」


 穏やかにそう応えてくれた。



 その後、赤松さんが本当に眠れたのかどうかは分かりません。

 でも、私は彼の手を握っているとすぐにまた眠る事が出来ました。


 願わくば、彼も同じように・・・



 そして、約束の日が始まりました。

 


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