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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部4章:猫と僕と知らない世界

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2-5:猫と僕の最後の仕上げ これからの事は・・・また今度

 それは赤松さんがお家に戻って丁度3週間が経ったある日の事。

 いつもと同じように、彼からのお誘いはメールでの連絡から始まりました。


『明日から1週間休みを取って、こっちに来て欲しい』


 それだけの内容のシンプルなメールでした。彼はいつもやけに長い文章で些細な事でも丁寧に丁寧に説明してくれるんですけど、そういうのは一切無しで直接的な文章だけ。

 地味に初めてですね、こういうのは。


 諸々の事情に目を瞑れば『私を都合の良い女扱いして!一回お説教してあげないとダメですね!でも何故でしょう?たまには、こんなのも・・・悪く無いかも』みたいに遊ぶ事も出来るのですけど、今回ばかりは流石におふざけを入れる隙間は無いでしょうね。

 と言うわけで課長に相談です。・・・相談って言うか、申請って感じですけど。


「課長、すみません。明日からお休みを頂きます」


「あぁ、赤松から連絡は貰ってる。当日の用意は俺たちに任せておけ。俺も前日には現地入りするから、それまで依城はゆっくりしてて良いぞ」


 おぅ、根回しは万端なわけですね。


「そうだ。柏木は先週から現地入りしてるから土産を買う時は、気が向いたらでいいから、あいつの分も買ってやってくれ。あいつもかなり頑張ってるからな。ちなみに、四谷さんは・・・何処にいるかは知らんが、まぁ、当日には会えると思うぞ」


 なるほど、把握。つまり、準備万端になったから私に声がかかったわけですね。


「あれ?という事は1週間は完全にフリータイムですか?」


「あぁ、だから言っただろ『ゆっくりしてて良い』ってな。あいつも・・・赤松も、だいぶ緊張してるだろうから、うまいもんでも一緒に食ってリラックスさせてやれ」


 そう言われて私は少し考え込んだ。

 なるほど。

 正直、赤松さんが緊張してるとこなんて・・・高級なお店に入った時ぐらいしか見た事が無い。荒事に向かう時さえ、ひょうひょうと、それこそ『問題なんかあるわけないじゃないですか』みたいな顔をしていたから。


「赤松さん、大丈夫そうですか?」


「そりゃ大丈夫なわけないだろ?普通に考えたら分かるだろ、それぐらい」


 私ちょっと分かって無かったです。


「とは言えだ、お前はそこんとこは気にしなくても別にいいと思うぞ。あいつはお前のために気合入れて無茶やってるんだ。お前が心配するのも、ちょっと違うだろ?『私の為に頑張りなさい』って感じでドーンと構えてりゃいいと思うぞ?」


「はぁ、そんなものですか」


 本当にそう?課長、ノリでしゃべってません?


「先輩、今日はもうあがってもらっていいですよ。明日からの用意も必要でしょうし」


 藤野さんも協力的・・・って、もう事情を知ってる事を隠そうともしてないんですね。と言うか、下手を打てば一番事情を理解していないの私ですね!ちょっと恥ずかしいです!

 それはそれとして、せっかくですのでお言葉に甘えさせて頂く事にしましょう。


「ありがとうございます。では、早速お土産を買ってから行ってきます。先に現地で待ってますね」


「あっ、すみません。私はちょっとこっちでやる事があって」


 藤野さんは申し訳なさそうにそう言った。

 空振りです。藤野さんは事情は知ってるけど現場サイドの人では無かったようです。ちょっと残念。


「そうでしたか。じゃあ、再来週には戻ってきますから、その時まで少しさよならですね」


「・・・はい、お元気で」


「そちらこそ」


 私と藤野さんはこうして、少し無理をしたかも知れないけど、笑顔で別れの挨拶をかわしました。そして、その後ろでは課長がまた涙ぐんでいました。最近多いですね。


 そこからは最近よくあるお決まりの行動パターン。こちらでしか買えない類のお菓子を中心に色々とお土産を買い込んでいきます。とりあえず赤松さん家でダラダラ過ごす前提でのお買い物。それにしても向こうに着いたら何をしましょうか?せっかくですし楽しい事をしたい気もしますし、三人でゆっくりしたい気もします。少し暑くなってますけど鍋もしたいですね。エアコン入れて部屋をギンギンに冷やして。きっと楽しいです。


 ・・・・・・

 ・・・


 あと1週間、何をしたらいいんですかね?私は、彼の為に何が出来るんですかね?

 買い物をしている時も新幹線に乗っている時も今日はそんな事ばかり考えていた。だから、と言うわけでも無いのだけど、すっかり事前の連絡を忘れてましてね。

「明日来い」って言われたのに、前日の夜に来るとか・・・まぁ、悪い気はしないでしょ?・・・しないですよね?


 ・・・・・・

 ・・・


 今更ジタバタしても仕方ない。腹を括って突撃あるのみ、そう方針を決定したのは、赤松さんのマンションのロビーに着いてから。また、いつぞやのように、ギリギリまで迷ってしまいました。ウソです。到着しても、まだ迷っています。


 とは言え、マンションの入り口で、いつまでも不審者ムーブをかましているわけにもいけません。最近はすぐに通報されてしまいますから。


 えいやと呼び出しボタンを押す。

 鳴り響く呼び出し音。

 ・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・・

 ・・・

 まさかのお留守です。

 どうしましょうか。このパターンは考えていませんでした。・・・よく考えれば、赤松さんの事なんだから「明日来い」って言ったら、それに備えて買い出しとか行ってるに決まってますよね。


 やってしまいました。どうしましょう。せっかく早くに来たのに。・・・・・・よし。少々ばつが悪いですが電話をしましょう。今更感がありますけど事前の連絡は大事ですので。しかし、どう言ったものでしょうか?


『ごめん、来ちゃった』

 うん、これはちょっとキモイ。キャラが違う。


『少しでも早く会いたくて』

 これもキモイ。何と言うか、ノリがオカシイ。


 いえ、そもそも実際には何も考えて無かっただけなんだから、そこは素直に話すべきですね。そこまで考えてからスマホを取り出し赤松さんにコール。

 ワンコール・・・ツーコール・・・おかしいですね?いつもはすぐに出てくれるのに?


「あれ?ナギだ。どうしたの?」


 ビックリしてスマホを落としそうになりました。いつの間にやら、私のすぐ後ろに赤松さんとクロちゃんが。


「・・・来ちゃいました」


 咄嗟に口から出たのは、さっき自分でキモイと思ったセリフほぼそのままでした。




「早く出たなら連絡くれたら迎えに行ったのに。あれかな?サプライズ?」


 部屋に着くと赤松さんは気を悪くした様子も無く、生鮮品を冷蔵庫に放り込みながら私の意図を確認してくれました・・・そう言えば、初めて来た時も事前連絡無しだったような・・・良し、ぼやかしましょうか。


「ええ、まぁ、そんな感じのサプライズです。ところで、その買い物って」


「うん、依城さんが来たら鍋でもしようと思って。ちょっと暑いけどエアコンつけたら大丈夫かなって」


 なんとも・・・この人は本当に分かってますね。何が分かっているかは、自分でもちょっと言語化出来ないですけど、まぁ、とにかく分かってます。


「ねぇ、マスター、せっかくだし今日しちゃいましょうよ」


「そだね、材料も揃ってるし、そうしよっか」


 そうして、この日は三人で鍋を食べて夜中までおしゃべりして楽しく過ごしました。


 これからの事は・・・また今度。今はただ幸せに過ごしていたかったから。

 


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