2-4:猫と僕の最後の仕上げ 「たまたま」たくさんあるだけって言ってるのに
「一応、注文通りに仕上げて来たっす。でも滅茶苦茶にピーキーになってるんっすけど・・・本当にこれで良いっすか?」
もう本番が近いって事で、先週から研究の方は一旦止め、赤松さんの防御用霊装一式(と言うか服と靴)の調整を行っていた。自分が開発した物の設定変更だけなので、工数自体はさほど掛かってはいない・・・が、その変更意図がいまいち理解出来ていない。
オーダーが「燃費無視で出力の最大化」、これだけ。
俺には実戦の機微も分からないし、赤松さんがどんな現場で使う事を想定しているかも分からない。だから、注文通りに仕上げて赤松さん家に持って来てはみたのだが
「正直、この設定だと二回ぐらい障壁の機能が動いただけで、一人分の魔力なんて軽く使い果たしちゃう代物になってるんっすけど」
ぶっちゃけ使えなくないっすか?そこまで障壁の強度に拘る意味も分からないし、そもそも継続使用が難しいなら防御手段としてはあまり意味も無いし。・・・無理やり用途をひねり出すとすれば、スナイパーの一撃目なら問題無く防げるよ?ぐらい?(ただし起動待機状態でも莫大な魔力を使用します。つまり、ダメっすね)
「大丈夫よ、カシワギ。魔力の方は問題ないの。ヨツヤに貰った魔力結晶が無駄にたくさんあるから、あれを使うわ。それに・・・申し訳ないけど、たぶん一回でも攻撃を受けたら壊れちゃうと思うから。結果として、そこまで消費魔力が大きくなる事は無いと思うわよ」
俺の疑問に対する回答は和室に広げた霊装をクンクン確認していた猫さんからやってきた。相変わらず賢い猫さんだ。本体の赤松さんより賢いってのが、うまく飲み込めないところではあるけれど。
ちなみに、赤松さんは何も言わず、猫さんの様子を腕組みしたまま静かに眺めている。
なんか様子がいつもとちょっと違うような?落ち着きがあるというか、少し知的に見えるというか?気のせいっすかね?
「ヘルメットは無しで良いって事だったんで調整はしてないっすけど、大丈夫っすか?危なくないっすか?」
「あぁ、無しで構わない。高速戦闘中に視界を遮る物は無い方が良い。それに、仮に障壁を張るのが間に合ったとしても頭部に一撃を貰った状態で既に勝ちの目は無い」
いや、口調おかしくないっすか?赤松さんって、もっと砕けてフニャフニャなしゃべり方してたっすよね?
そんな俺の怪訝な表情を見たのだろう。
「あぁ、ごめん。本番に備えて色々な知識を仕入れててさ。その影響でちょっと人格が引っ張られてるんだわ。意識してたら元通りに振舞えるから問題無いよ、大丈夫」
それは大丈夫って言えるんっすかね?問題アリアリじゃないっすか?
「マスターが言ってる事に間違いは無いわ。もちろん長期間続けられるようなものでは無いけど、10日程度なら大丈夫。わたしもある程度なら補助出来るから」
猫さんのフォロー。だが・・・要はかなりの無理をしているという事っすよね。
「どうしても必要な事なんだ、あの日に僕の最大の戦力を実現するためには。・・・だから悪いけど依城さんにも黙ってて」
やっぱ気にするのは、そこっすか。俺が言わないのは当たり前の事としても、依城さんならすぐに気付いてしまうと思うけど・・・・まぁ、仕方ねぇっす。
「了解っす。この事は知らない事にするっす。それはそれとして、服の方の燃料っすけど魔力結晶はどうやって持っていくんっすか?さっき高速戦闘って言ってたっすけど、服に固定するとなると個数が限られるからキツイっすよ?」
「あぁ、それなら問題無いよ。とっておきの方法があるから」
ちょっと待ってて、赤松さんはそう言うと和室にある押入れを開け、中から段ボール箱を引っ張り出した。引っ越しの時のあまりだろうか、ガムテープを何回か貼ったり剥がしたりした跡のある、そこそこ汚れた段ボール箱。
「まずね、魔力結晶の在庫だけど、こんだけあるの」
赤松さんが開いた段ボール箱の中には、ぎっしりと薄青く光る魔力結晶が詰まっていた。これの由来を知らなければ貴重な品の登場にテンションを上げられるところだけど・・・目算では50個はありそうだと言う事から考えると・・・
そんな俺の様子を見て、横に座っていた猫さんから当たり前のようにフォローが入る。
「今回のために何処かの人を虐殺したとかじゃないから安心して頂戴。これは前の騒動の時に回収したのをヨツヤがプレゼントしてくれたのよ。たまたま、たくさんあるだけだから。わざとってわけじゃないから」
自分の目的のために並行世界の改変までしている魔術師が語る「わざとじゃない」。すげぇ胡散臭いっすね。・・・でも、まぁ、魔術師ってのは得てしてそういう物なので・・・特に言うべき事は無いっす。
「持ち運びはね、こうするつもり。クロ、よろしく」
「はいさー」
猫ちゃんがそう言った途端、箱ごと魔力結晶が消えた。
「え?!・・・何をしたんっすか?」
ここに来て、まさかの新要素。
「はい、出して」
赤松さんが、そう言うと箱はまた同じ場所に現れた。消えた時も現れた時も全く知覚出来なかった。魔術が使われた事は分かるが、それしか分からない。
「これね、元々の僕が使ってた魔術でね、空間の圧縮とかが出来るのよ。本来はうまくコントロールして敵にぶつけたりとかも出来るはずなんだけど、僕はそこまでは出来なくてさ。だから、取り合えずは荷物持ちに使ってみたり」
さらりと言うが、それって
「そんな魔術、協会が黙って無いんじゃないっすかね?新魔術開発とかのレベルじゃ済まないっすよ」
「・・・そだね。どうせ事が終わったら協会の人が来るだろうし、この魔術はあげる事にするよ。あの日以降の出番は無いだろうし」
そっか。赤松さんにとっては、あくまで魔術は手段でしか無く、それ自体に興味は無いって事なんっすね。空間に干渉する魔術なんて、俺だったら、たぶん一生掛けても開発する事なんて出来ないし、もし出来たら一生好きな事だけして暮らせるような見返りを・・・見返り・・・赤松さんにとっての見返り・・・
そりゃそうか。世界を歪めてでも欲しいものが、どうにかしたい事が既にあるのだから
「どうしたの?考え込んで」
「いや、なんでもないっす!んじゃ、念のため、刀と小手との連携も見てみるんで一式装備してもらっていいっすか?」
うまく笑えているかどうかは分からないが、俺も今まで通り「普通」に振舞おうと努力する。
もう2週間もすれば、きっと全ては終わってしまうのだろう。だから、少し妙な言い方になってはしまうが、尊敬する命の恩人の行く末を出来る限り近くで見届けたい。この時、俺はそう思っていた。




