2-3:猫と僕の最後の仕上げ 年を取ると涙もろくなるものなんですかね?
最近は毎晩夢を見ます、後味の悪い嫌な夢ばかり。
振り返れば赤松さんと出会った頃から時々見る事があったような気もします。
彼と親しくなり私に残された時間が少なくなるのに合わせ、夢のリアルさは上がり、今では妙な臨場感さえ味わえるようになってしまいました。なんだかもう寝て起きるだけで疲れちゃいます。
ちなみに、最初の方は何処かの建物の中の光景を見る事が多かったんですけど、ここ最近はずっと広い平原みたいなところの夢ばかりです。恐らく『今の私達の状況に近い世界の出来事』が夢に反映されてるんじゃないかな?と思っていたりします。
まぁ、毎回倒れている私に赤松さんが縋りついているところで終わる夢なので、呑気に『近い世界』とか思ってたらダメなのでしょうけど。赤松さんが好きそうな表現で言えばマルチバッドエンドって感じの状況ですし。
と言うわけで、最近の私はそんな夢を見続けている事もあって、自分でも分からないうちに、かなりナイーブになっていたようで。
いや、ホント、赤松さんを困らせる気なんて無かったんですよ。でも、やっちゃいましたね。彼が私の為に頑張ってくれてるのは十分に分かってたはずなのに・・・やっちゃいました。
あの時、そのまま帰してしまったら「もう一緒に過ごせる時間なんて無いんじゃないか」って、そんな気がしちゃったんですよね。
もうね、自己嫌悪の塊ですよ。情けないったらありゃしない。
そして赤松さんが帰ってからも、そんな気分を引きずってるのでランチのお店探しも捗りません。別にね、普段って私の仕事なんて無いんですよ。特に今は課長と藤野さんがいるわけですし。つまり、力任せで解決する案件とその報告書が無い限り、私は暇なのです。午前中の主なお仕事はランチのお店の検索です。
・・・赤松さんも忙しいし、他の人も色々と頑張ってるのに私だけ暇というのも。
「おい、依城、ちょっと良いか」
この事務所で最も忙しい人である課長からのお呼び出しです。なんでしょう?
「はい、いいですけど」
「すまんな。忙しいとこ」
いえ、めっちゃ暇です。
そんな暇の権化の私の様子をスルーして、課長は打ち合わせ用の部屋の前で「ちょいちょい」と手招きしている。
「まぁ、あれだ、そんなに長く話すつもりはないが、とりあえず座ってくれ」
勧められるまま大人しく座り少し考えましたが
「あの・・・流石の私もこのタイミングで無茶な事はしていません。大丈夫です」
とりあえず弁明を先行させておくことにしました。
「くっくっくっ、別にそんな話じゃねぇよ」
課長は笑いながらそう言った・・・なら何の話なんでしょう?最近は本当に何も壊してませんし。
「あれだ、赤松とは仲良くやれてるのか?」
なに???いきなりの「不器用なお父さん」ムーブ??
「・・・ええ、仲良しですよ」
「そうか、それは良かった。あいつは良い奴なんだけどな、そんなに器用な方でも無いと思うんだ、俺はな。最近、アレだろ、お前も疲れてきてるだろ?でもな、あいつも一生懸命だからさ。たぶん、やろうとしてる事が大きすぎて、目の前にいるお前の事を疎かにしてしまっているとは思うんだが・・・」
おぉ、確かに最近の赤松さんは、正直ちょっとそんな感じではありますが・・・課長がそこまで彼の事を分かってくれている事に軽く驚きです。
「いや、ホントな、まだお前には言ったらダメなそうなんだが・・・凄いぞ、あいつがやろうとしている事は。前提として色々と知ってなけりゃ、頭がオカシイとしか思えんレベルの凄さだ。
全部が無事終わったら、ゆっくり教えてもらうと良い。俺も柏木も四谷さんも出せるだけの物は出してるし、魔術師としては垂涎のテーマの詰め合わせと言える物になっているはずだ。それこそ時間さえあれば、お前も」
「あっ」
ふと気付いてしまった。
「どうした?」
「それだけ凄い事をやってしまったら・・・協会の本部って黙っていてくれるんでしょうか?後で赤松さん、捕獲されたりしちゃいません?」
課長は何も言わず顔を天井に向けた。
「あー・・・・・・そうだな・・・なんも考えてなかった。そうだ。その通りだ。失敗した。普通に考えりゃ、捕獲と観察のコース一直線に決まってる。すまんな、依城。俺も少し周りが見えなくなっていたらしい。急いで根回しをしておくようにする」
課長のそんな様子を見ていると
「んふふふ」
思わず笑いが零れてしまう。
「あ?どうした?」
「いや、だって、課長ってなんか私のお父さんみたいですね。パートナーとうまく行っているか心配してくれたり、周りの状況を気にして環境を整えてくれたり」
ひょっとしたら、課長に娘さんがいたら溺愛して甘やかしてばっかりになっていたかも知れませんね。流石に、これは本人には言えませんけど。
「・・・・・・・」
おや?課長が静かになっちゃいましたね。ちょっと変な事を言い過ぎましたか。
「すみません、課長。特に深い意味とかは無かったんですけど、ふと思いついちゃって。
・・・課長?」
いつの間にか俯いていた課長の顔を覗き込む。思いっきり泣いていた。
「うっっうううう・・・大丈夫だ!俺も赤松も柏木も頑張ってるから!なんだってやるから!・・・だからお前は安心していてくれたら・・・うっううう」
ナチュラルに四谷さんの事を忘れてますよね。と言うか、なんか最近課長って涙もろいですよね。年なんでしょうか?見た目は「渋くて冷静沈着」みたいな感じのおじ様なのに涙もろいってのも・・・ちょっとギャップがあって良いかもしれません。
「ほら、課長、みんなが私のために頑張ってくれてるのは分かってますから泣き止んで下さいよ。ドアの隙間から藤野さんが面白い顔して見てますよ。私も元気出しますから。大丈夫ですから」
なかなか泣き止んでくれない課長を宥めるうちにお昼時は過ぎてしまったけど、いつの間にか気分のモヤモヤは少し晴れていました。
でも、皆が私のために頑張ってくれているのに・・・私には何も出来る事は無いのでしょうか?それだけが少し気がかりです。




