2-2:猫と僕の最後の仕上げ 泣いても笑っても目標の時まで、あと少し
「さて、ここよ。ここがわたし達の戦う舞台になるの」
「ここって・・・普通に公園のど真ん中だけど」
クロに言われるがままに到着した場所は、僕達が住んでいる街の中心部にある大きな公園、その広場だった。
綺麗に芝生が敷かれ、それこそ休日なら親子連れがボール遊びとかしてそうな、そんな平和な場所。今は平日の昼間なんで、そんなに人はいないけど、それでも争いの場にするのに適切だとは思えない。
「ここはね、20年ちょっと前に魔術師たちが盛大にやらかした事件の爆心地みたいな場所なのよ。ここを中心として大きな被害が普通の生活をしていた人達にも広がったわけ。そして、市はその被害を忘れないために記念公園を作ったの、それがここの沿革」
「なるほど。過去の経緯はよく分からないけど曰くの地ってわけなんだね」
「そうよ。ここは曰く付きの場所であり、儀式魔術を行使するのに最適な場所でもあるの。大魔術を行使するために弄り回した地脈の集結地点、それがこの公園なの。
マスターがしないといけないのは、■■とナギを切り離した上で■■から魔力を奪って、それを地脈の中に投げ捨てるって事なの。そのためには、ここ以上に適した土地は存在しないわ」
僕の頭の上からクロが真剣な声色で説明を続けている。一応、人目もあるので触ったりは我慢しつつ真面目に耳を傾ける。
「切り離してボコって投げ捨てる、それだけ聞くと普段の仕事と変わらないね」
「そうよ。やる事はシンプル。ただ、その実現手段が難しいだけ。じゃ、説明はこれぐらいにして、そろそろ仕込みを始めましょうか」
「はいさー」
広場の外周をテコテコと歩きながら要所要所で立ち止まり、準備してきた物を埋めていく。
「ちょっと暑いけど頑張ってね、マスター。地味だけど、本番で不測の事態が起こらないように備えは必要なの」
埋めるものは握りこぶしぐらいの大きさでお手製の・・・呪具?みたいな物。材料は四谷さん経由で頂いた例のアレを加工した物。効果は地脈の安定化。今回は結界とか色々新しい事を試してみるから変な事が起こる可能性は極力排除しときたいんだってさ。料理と同じでね、地味な仕込みが結果を大きく左右したりするらしいよ。
とは言え、自分でも何をやってるか、いまいち理解は出来ていない。まぁ、外付け頭脳であるクロが言ってるから間違いは無いだろうと判断している。そこは信用と役割分担の問題なので。
そんなわけで、無心で歩いては埋め、歩いては埋めを繰り返していく。もちろん、人払いの術式を稼働しているので誰かに注目される事も無い。だから、ちょっと変な事をしてもクロ以外には見咎められる事も無い・・・けど事が事なので真面目に作業を進めていく。
一人黙々と単純作業をしていると思考がついつい脇に逸れていく。そうなると、いつも思い出すのは決まって依城さんの事。
昨日、小手の試験が終わった後、ちょっと色々とあった。端的に言えば依城さんがゴネた。
「もうちょっと残ってくれても良いじゃないですか?」
「いや、ちょっと仕込まないといけない事があって」
「それは分かりますけど・・・詰めてやればすぐに終わりますよね?一日や二日ぐらいならゆっくりしていっても問題は無いんじゃないですか?」
珍しく依城さんから反論し難い形での問い掛けが来てしまった。・・・確かにそれもその通りであるとは思うのだけど
「確かにマスターでも作業自体はそれほど時間はかからないと思うわ。ただ、動作や手順の確認も含めると、どうしても日数に余裕が欲しいのよ。間に合いませんでした、では済まないんだから。分かってちょうだい」
クロがピシャリと依城さんの要望を全面的に却下した。
どうしよう。依城さんの気持ちも分かるし、クロが言っている事の正しさも分かる。正しさではクロに軍配が上がるけど、そもそも依城さんのためにやっている事なのに依城さんを蔑ろにするのも違うような気もするし。
ちらりと依城さんの様子をうかがう。
!!!
テーブルの上に座っているクロを凄い目で睨んでらっしゃる!ヤバい!これは何だか分からないけど、凄くヤバい気がする!!
「ごめんなさい!猫だからちょっと気が利かないとこもあって!申し訳ない!!」
気が付けば全力で頭を下げていた。・・・なんか前にも、こうやって一生懸命謝った記憶があるような無いような。
「赤松さんが謝らないで下さいよ。あなたが頭を下げたら私が馬鹿みたいじゃないですか。私だって思い付きの我儘でこんな事を言ってるんじゃないんです。・・・後どれだけ時間があるか分からないんですよ、私達には」
テーブルの上のクロが「ふぅ」と息を吐きだした。人間で言うところのため息かな。
「だいたい後一か月よ。そこで勝負をかけるわ」
おぉぃ!!言っちゃっていいの?!
「大丈夫よ、マスター。もうこの程度では事態は動かないわ。詳細を告げるのは当日にせざるを得ないけど、これからは出来る限りの情報をナギにも渡すようにしましょう。ナギが普通の顔をしてるから、つい甘えてたわ。怖くないわけないものね。ごめんなさい」
そう言うとクロはペコリと頭を下げた。なんか「頭を撫でて」みたいなポーズに見えて、こんな時なのに可愛らしさが漂っている。
「・・・良いんです。すみません、我儘を言いました」
「いや、それぐらい全然問題無いと思うけど」
「そうね。用意が終わったら、またマスターと遊びに来るわよ。トラブルが無ければ2週間ちょっとで終わると思うし」
「でも、クロちゃんは何かあると思ってるから急いでるんでしょう?」
「まぁ、それはそうだけどね」
依城さんは「仕方ないですね」と言いながら静かに笑っていた。クロも苦笑しているかのような雰囲気。
僕?もちろん、流れについていけないから傍で固まってるだけだよ。ちなみに、片付けを手伝ってくれていた柏木さんも一言も言葉を発さず置物になってるよ。
ダメだよね、男性陣。なんというか、こう・・・弱いよね。
そして、その場はなんとなく問題解決したような雰囲気になって無事解散となった。
依城さんは東京で少しだけ残った仕事をし、柏木さんはギリギリまで検証を続け、支部長と四谷さんも・・・たぶん彼らなりの用意をしてくれているのだろう。僕とクロは決戦予定の場でこうして用意を進めているわけだけど、当然ながら、と言うのもなんだけど、場の準備程度なら依城さんが一緒にいても問題無く進める事が出来る。
なら、何故わざわざ依城さんを遠ざけたのか?
それは、どうしても本番直前にやるべき事が他にもあるからだ。不測の事態を避けるためにギリギリまで後倒しにしてきた僕自身への知識の移植作業。本格的な戦闘に備えるため、クロ側に留めていた『魔術の運用を中心とする様々な知識』を本体側に持ってくる必要がある。
もちろん、これは他の僕の周辺記憶ごと取り込む事になるので人格面への影響も無いとは言えない。いや、確実にある。
でも、これについては「短期間なら活動に影響は無いよね?」っていう曖昧な判断の下で実行に移さざるを得ない。こればかりはね、代替手段が見つかってないから仕方が無いんだ。
たぶん、バレたら依城さんは止めると思う。だから・・・見られていないところで、ひっそりとやる必要がある。どうせ後でバレるだろうけど、全てが終わった後に怒ってもらえるなら・・・それが一番良い。
そして、数時間かかって地中に呪具的な物を埋め込む作業は終わった。後はこのまま放置で効果が出てくるのを待つだけというお手軽仕様。バッテリー駆動みたいなものだから、長くても二か月ももたないそうだけど。
「んじゃ、さっさと帰って今日の分の移行作業を始めようか?」
「そうね。頑張ってね、マスター。ところで、帰りにスーパーに寄ってもらっても良いかしら?ほぼカニを買っておいて欲しいのよ、最近あんまり食べれてないし」
「あー、そっか。なんだかんだで一か月もあるもんね。生活も考えないといかんか」
「ちゃんと健康状態も保っておいてよ?万全の状態をキープしとかないと」
「了解、了解。ちゃんと頑張るから大丈夫」
そして僕はクロを頭にのせながら買い物に向かう。
目標が迫ってくるとゴチャゴチャとした思いも消え迷いが無くなってきた・・・ような気がする。自分に出来る事を出来る限りやるだけ。ただ、それだけの話。そう思えるようになってきた。
泣いても笑っても目標の時まで
あと少し。




