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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部4章:猫と僕と知らない世界

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2-1:猫と僕の最後の仕上げ 性能評価は大事だけど何回もやる意味は無いかも

「正直、自信がない。出来る限りの事はしたけど、とても要望に応えられたとは思えない。もし目の前でガッカリされると・・・とても辛い。だから中身は帰ってから見て欲しい」


 田村さんからの要望に従って「左手用の防具」は東京に帰ってから確認する事になった。

 もちろん帰りの新幹線で開けても良かったんだよ?でも、一応約束しちゃったし、依城さんの友達の期待をこんなところで裏切るのも違うかなって。


 ちなみに、その防具とやらは、木箱とかじゃなくてトランクケースに入っている。旅行の用意はボストンバッグだけで済んだのに、何故こんな大荷物に・・・


 と言うわけで、早速の開封の儀でございます。

 場所は夕方の極東支部の事務所。仕事を頑張る支部長を背景に楽し気に遊ぶ二人と一匹。それが僕達。


「ねぇ、赤松さん、田村さんに頼んだのって防具ですよね?左手で刃物とかを受け止められるようにって。なのに、なんでトランクケースに入ってるんですかね?大きいんですかね?盾とかですかね?」


 依城さんはトランクケースをあらゆる角度から舐めまわすように観察している。クロもクンクンと匂ったりパシパシ叩いたりして興味津々。


「なんでか分からないけど、魔術でも中が覗けないように防壁か何かを張ってあるみたいね。絶対に途中で中を見せてやるもんかっていう謎の強い意思を感じるわ。んじゃ、マスター、開けて頂戴な」


「あいさー」


 田村さんから預かっていた鍵を使い開封する。


 中から出てきたのは・・・大量の梱包材だった。戦闘で使う類の物なのに、そんな芸術品みたいに大事にする必要は・・・いや作り手としては「引き渡すまでは綺麗なままで」っていう心理なのかな?よく分からないけど。

 シート状の梱包材をどんどんと剥がしていく。すると・・・次は紙でグルグル巻きに・・・しつこいな。


「田村さんらしいですねぇ。ホント几帳面なんだから」


 依城さんはコロコロと笑っている。


 田村さんがどういう人なのか僕にはよく分からないけど、この過剰梱包は几帳面さから来てるの?自信が無い事の方から来てるんじゃないの?


 そして、最後の紙を剥ぎ終わり、やっと目的の物が出てきた。


 それは小手だった。小さな金属プレートの組み合わせで腕を守る小手。長さは肘の手前まで。戦闘用の霊装の上から装着する事を前提にしているのだろう、複数のベルトで固定する独特な形になっている。

 とりあえず服の上から付けてみる。・・・なぜだろう。不思議と「やけに馴染む」そんな気が


「この小手は折れた赤松さんの刀を砕いて素材に使っています。それ自体では何の力もありませんが、作り直した短刀と一緒に運用すれば、短刀本体には劣りますが、込められた力の一部を流用する事が出来るはずです。ご注文の「斬られる」という概念自体を防ぐ程の効果はありませんが、それなりに使える物になっていると思います・・・って説明書きが入ってましたよ」


 なるほど。形は変わっても蜘蛛の刀の一部ってわけか・・・ん?それってかなり凄いのでは?何故そんなに自信が無い感じの言い方?


「満足してもらえる自信も無いので代金については、そちらに任せます。もし納得して貰えたら私の口座に幾らかでも振り込んで頂けると助かります・・・ですって」


「いやいやいや!なんでそんなに自信が無いのさ?!特注品でしょ?!普通の防具としても十分良さそうなのに僕の武装に合わせて魔術的な機能まで織り込んであるんでしょ?!十分じゃない?!振り込むよ!お金ぐらい目一杯振り込むよ!!」


「田村さん・・・自分への評価が低すぎる気が。刀以外は本当に自信がないんですね」


 二人そろって、なんと言うか、正直ちょっとゲンナリだ。そりゃ、ここまで自信が無いなら旅行中に見せようとしなかったのは分かるけど。


「なぁ、お二人さんよ、とりあえずサッサと性能試験をして感想を伝えてやれよ。そしたら向こうも人心地つけるだろうが」


 さすが支部長。そりゃそうだ。


「それとな、俺さ、一応仕事中だから。騒ぐなら場所を移してくれると助かるんだが」


「「すみませんでした!!」」


 二人して平謝り。

 ちなみに、クロはさっきから無言で小手を調べている。一番賢いね、猫だけど。



 小手の性能試験は少し前まで支部長達が色々と研究していた例のビルで行う事にした。刃物を振り回す必要があるわけでね。流石に目撃される心配があるところでは出来ないよね?通報されたりSNSで晒されたりしたら嫌だし。


 そっと鍵を開けて部屋に入る。ワンフロア押さえてあるので結構広い。なんで「そっと」開けたかって?それはね・・・


「寝てますね」


「なんかボロボロに見えるっぽいけど大丈夫なのアレ?」


 女性陣からの見たままの素朴な感想。と言うか、ちょっと引いてる様子。その視線の先には随分とくたびれた様子の柏木さん。ボロ雑巾みたいな雰囲気を醸し出しながら床で倒れるようにして眠っている。

 ここって柏木さんが臨時の研究室に使ってるのよね、あれからずっと。大枠が出来てからも改良やら検証やらで大変みたいで・・・僕達の為に苦労してくれてるんだから優しさを・・・そんなわけで、ぜめて僕が優しく起こす事にする。


「柏木さん、すみません、起きてください」


 ヨガマットにしか見えないものの上で寝ている柏木さんを揺り起こす。優しさが足りているかは分からないけど、何も考えずに起こすよりかは、きっとマシ。


「・・・あ?」


「装備の試験をしたいのでフロアの端っこを使わせてもらっても良いですかね?寝てたとこ悪いけど、すぐに済むんで」


「・・・大丈夫っす。いつでも行けるっす。完璧じゃないけど、やれるだけの事はやるっすよ」


 うん、噛み合ってないね。


「ねぇ、カシワギ、それは、まだ時間があるから大丈夫よ。今日は他の用事で来ただけだから」


 クロが僕の頭から降り、床で横たわっている柏木さんに説明する。


「・・・・・・猫さん」


 ぼんやりとした様子。大丈夫かな?無理させすぎた??ブラックですか???


「すみません。寝ぼけてたっす。あー・・・あれっすね、ちょうど起きたんで好きに使ってくれていいっすよ」


「ちゃんと寝ないと研究も捗らないわよ?」


 珍しくクロが他人の心配をしている。尻尾がゆらゆらしてるから迷いもあるのだろうけど(もっと頑張れって言いたい気持ちもあるのだろう)


「分かってるっすけど、自分の不甲斐なさに耐えられないと言うか、何と言うか。ちょっとそういう気持ちもあって」


 既に埒外の実績を出していると思うのだけど、本人は足りないって考えてるわけか。・・・僕から言える事なんて大して無いけど、それでも


「ありがとう。この恩は絶対に返すから」


 せめてお礼だけは言わせて欲しい。


「いや、そんな事を言われる程の事・・・俺は出来てないっすよ。ただ俺は」


「赤松さーん、用意出来ましたよー」


 フロアの端っこを片づけて依城さんが性能試験の用意を完了させていた。有難いけど、ちょっとぐらいは空気を読もうね?柏木さんは苦笑しながら


「俺も気分転換に見させてもらうっすよ」


 そう言って見物客になる事を決めた。


 試験の内容は簡単。持参した刃物(魔術で強化された西洋刀)で依城さんが切りかかってくるので、左手に装着した小手で受ける。それだけ。

 これで破損するようなら実戦に使えるわけでもないので、まぁ、ちょっと荒っぽいけど十分かなって。


「じゃ、いきますよ」


 城さんが腰を軽く落とし、踏み込む姿勢を作る。


 軽快な床を蹴る音とともに想定より鋭い踏み込みで刃が袈裟掛けに振り下ろされた。


 僕は小手の甲から二の腕の半ば辺りまでを使い、滑らすようにして刀の威力を逸らす。


 甲高い金属の擦れる音を響かせながら刃は後方に流れて行く。


 そして、力の方向を捻じ曲げられた依城さんの上体が泳ぐ。もちろん、刃を持ったまま転ぶと危ないので依城さんを優しく抱きとめて、はい、試験終了。


 いいじゃん、小手。しっかり刃物を防御出来るし、これで十分よ。田村さんの事だから問題無いとは思ってたけど。で、それはそれとして


「思ったより速くてビックリしたよ。依城さんって接近戦も出来るんだね」


「私としては、もうちょっと焦ってもらえるかと思ってたんですけどね。藤野さんに稽古つけてもらってたんです」


 依城さんは少し残念顔。


「マスターは近接戦闘特化型なんだし、遠距離型の魔術師の体術が通用しなくてもガッカリする必要は無いと思うわよ?」


 横から見ていたクロが燃料を投下し、依城さんのやる気が燃え上がる。


「・・・もう一回やりましょう。やらせて下さい!私の真の実力を見て下さい!」


 そこから強化魔術まで使った依城さんとのスパーリングみたいな物が始まった。もちろん一回で終わらず何度も何度も繰り返す事になった。

 ただの性能試験のはずなのに何故こんな事に・・・とは言え、全力で向かってくる依城さんというレアな光景を見れたので良い経験だった。基本的に僕が見る依城さんって、いつも余裕綽々で遠距離砲撃ってパターンばっかりだったから。


 もちろん、奮闘虚しく依城さんと言えど完封負けだったのだけど、そもそもやりたかった事は小手の性能試験だったので、勝敗は別にどうでも良い。

 小手は依城さんの全力の攻撃(最終的には刃の方が完全にダメになった)も問題無く防ぎ続け、晴れて実戦投入する装備として採用になった。ちなみに、新装備獲得にテンションが上がったまま代金の振込みをした事が、のちの『田村さん大慌て事件』を引き起こす事になったのだけど、その話はまた今度。


 こうして、この日、全ての材料が出揃った。


 今までに実績がある手法、新しい発想と新しい手法、初めて出会った人が用意してくれた物。色々な要素が混じり合って、一概に評価を下しにくい状況になってはいるけど、思い付く限りの事は出来たはず。

 ここから後は、もう本番に向け「場」を整える作業だけ。


 残りの時間はおよそ一か月。

 あと少しで全てが終わる。


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