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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部4章:猫と僕と知らない世界

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1-10:猫とはじまりの話 温泉旅館と初めての友達

「最初のマスターの話はこんなところね。類稀な開発能力を活かして並行世界への干渉を実現した狂気の魔術師がマスターの原型ってわけ。

 でも、干渉を始めてからも色々とあったみたいでね?わたしも詳しくは知らないのだけど、最初のマスターの知識を使ってもどうにもならなかったり、あちこちの世界のマスターが思い付く限り好き勝手やって暴走したり、制御役のわたしが追加されたり、外部から働きかけてくれてる人達がいたりで、随分と意味不明な状況だけど・・・その辺りは、わたしも説明のしようが無いわね。

 とは言え、なるようになった結果が今なのだから受け入れて頂戴ね?それで何か質問はあるかしら?」


 話を終えたクロは小さなテーブルの上で実に満足そうなご様子。やりきった顔をして、お目々も真ん丸。とても可愛いらしい。で、それはそれとして、質問と言うか気になる事が一つある。


「話を聞いている限りだと元々これをやりだした何処かの僕って典型的な魔術師?と言うか、研究者?と言うか学者?と言うか、そんな感じの人って事だけど・・・それって本当に僕なの?」


 クロには悪いけど、ぶっちゃけ僕って脳筋よ?魔術の開発とか出来るわけないし、普段使ってる魔術も理屈とか理解してるわけじゃないからね。感覚と勢いに任せた魔術行使。それが僕の特徴です。もちろん趣味は筋トレで、主食はプロテイン。


「わたしも断片的な知識しか無いのだけど、何処かの段階から魔術の開発より運用の方が大事って路線変更したみたいよ?いくら強力な魔術を作ったところで当てる事が出来ないなら意味が無い、みたいな」


「あー・・・なるほど。強力な魔術ってアレの事よね・・・確かにアレは普通の魔術師なら当てられないわ。と言うか、なんで魔術師じゃ当てられないような術式を組んだのさ?」


 意味なくね?使えないなら意味なくね?案外、誰かに託す気だったのかな?


「そこは正直わたしにも分からないわね。でもマスターなら、そのうち思い至るんじゃない?」


 クロはそう言ってテーブルからラタンで作られた椅子へと移動した。


「ちょっと長く話過ぎたから疲れたわね。にしても、こんなに長く話をしたのに、まだ戻ってこないのね。ナギと・・・誰だっけ?・・・まぁ、いいわ、ナギはいつまでお風呂に入ってるのかしら?」


 クロは名前を思い出せなかったけど、僕達は刀匠の田村さんと柏木さんお勧めの温泉旅館に泊まっている。前に刀を取りに来た時は急な話で予約が取れなかったのでリベンジというわけ。あと、山奥の田村さん家まで出向くのが面倒だったので温泉宿を言い訳にして呼び出したって事情も。まぁ、事情と言うか本音だけど。何時間もかけて、わざわざ山奥まで行くの嫌だもの。


 ちなみに、引き渡し予定の物だけど、なんでか分からないけど勿体ぶられて、明日の夕方、お別れの直前まで秘密、という事にされている。よく分からん。よく分からんけど無理を言って作ってもらった手前、そんなところで文句を言えるはずもなく・・・


 と言うわけで、今日はお昼過ぎに合流して少し買い物して、ゆったり旅館で晩御飯を食べて、ゆっくりお風呂に入ってたってわけ。もうね、完全に普通の旅行。彼女と、彼女の友達と、オマケ(脳筋+猫もどき)の楽しい休暇。春の、いや厳密にはもう初夏かな?良い気候の下での観光旅行。買い物に引っ張り回されるのは少し疲れたりもするけど、依城さんと田村さんが楽しそうにしているので、僕としては大満足。


 そうそう、地味に驚きなのが、ちょっと失礼ではあるのだけど、依城さんと田村さんが何故か普通に仲良しという事。ずっと友達が出来なくてしょんぼりしてた依城さんに友達ですよ?おじさん、ちょっとビックリなのです。ちなみに、クロに確認したところ、


「他のところでは無かったパターンねぇ」


 との事なので、田村さんは初の快挙を成し遂げてしまったようだ。もちろん、本人にも田村さんにも、そんなの言えるわけないので、これが快挙だと気付けるのは僕とクロだけなのだけど。

 ・・・・・・

 ・・・

 生きてりゃ気の合う人が見つかる事もあるもんだ。よきかな、よきかな。


 クロとの話も途切れたし椅子にもたれて天井を見上げる。旅館によくある窓際の謎スペース。風呂上がりにまったり座ってると快適だけど・・・なんのためにあるのだろうね?テラスみたいなもの?日本文化への造詣が深くないから分かんない。ググったら分かるだろうけど、今はちょっと億劫。そんなわけでクロと二人で謎スペースでぼんやりと時間を過ごす。クロの長話を聞いて・・・僕も思うところが無いわけでも無いから。


 しばらく一人と一匹でぼんやりしていると依城さん達が戻って来た。


「ただいまー。お待たせしましたー」


「おかえりー」


 謎スペースで手をひらひら振ってお出迎え。


「・・・・・ただいま」


 田村さんも依城さんの後ろからボソリと自己主張。


「おかえりなさい。随分と長かったけど、お土産コーナーとかに寄ってたの?」


「いえいえ、お土産はまた明日です。ちょっと予想以上にお風呂で話が盛り上がっちゃいましてね。あれです、ガールズトークってやつです!藤野さんは全然そんなのしてくれないから、話を聞いてくれる人がいるのが嬉しくて楽しくて!!」


 おぅ、田村さんには大変なご迷惑を。そう思って目線を向けると


「・・・・いい。私も楽しかったから・・・・ずっと惚気話だったけど」


 表情が変えないまま淡々と。独特な人だな、この人も。


 そして、そんな話を聞きながらお茶の用意をする僕。長風呂の後は水分補給を欠かさないようにしましょう。寝てる間も汗をかくものだしね。

 お茶の用意をしている間も「惚気とか言われちゃうと、なんだか恥ずかしいじゃないですかぁ、もぅ」とか言いながら依城さんと田村さんがじゃれていた。僕にするみたいに、バシバシ叩いたらダメですよとか思ってたけど、田村さんは叩かれないみたい。・・・まぁ、僕は丈夫だからね。


「ねぇ、ところでクロちゃんと赤松さんは何してたんですか?寝てました?」


「いんや、珍しくクロに色々と話を聞いてたんよ。普段はクロも忙しいからさ」


 僕は何時でもわりと余裕あるけどね、クロは事務作業とかもしてるから。


「そうそう、たまには飼い主とのコミュニケーションも大事にしないと」


 おぅ、ついに普通に飼い主って言いよったな?!自称使い魔だよねぇ?!


「とは言え話の内容は・・・ナギがさっきまで話してたのと同じようなものだと思うわよ。いかにマスターがナギ一筋なのかってのを順序立てて確認していくみたいな」


 あれ?そんな話だったっけ??もっと深刻で重い感じの話だったような?

 クロの中に保存されている「並行世界に知識と経験を共有する術」を編み出した「僕」の話。僕が如何にして、そんな無茶無謀に挑むことになったかの一大感動巨編?みたいな?・・・感動って言うより、たぶん狂気の方が近いような気はするけど。

 ・・・・・・

 ・・・

 いや、振り返ってみるとクロの言う通りだわ。あれって僕と依城さんの話だわ。にしても、僕の行動原理って客観的に見ると


「うん、そうだね。『依城さんと僕の人生について』みたいなテーマでクロに色々と教えて貰ってたんだ」


 要約するとマジでそれだけ。

 分かりやす過ぎない?僕の生き方って。シンプルの極み、みたいな。


「・・・凄い。似たもの同士なんですね」


 田村さんが静かに感心している。そして依城さんは「んふふふ」と何故か得意げ。

 ふむ。わけがわからん。まぁ、いいか。なんか楽しいし。


「それはそれとして、お茶でございます。寝る前だからお茶請けは無いけど」


 寝る前のまったりタイム。お茶を飲みながら依城さんと田村さんは明日の予定について和気あいあいと楽しそうに相談している。来てよかった。出来上がった物を受け取るだけとか、そんな味気ないものにしなくて本当に良かった。


「楽しそうね、マスター」


 そう言うクロも何処となく楽しそうだ。


「うん、とても」


「・・・また頑張る理由が増えたんじゃない?」


「そだね。一緒に頑張ろうね」


 目標の時まで後少し。


 でも、その時までは、時間が無いのは分かっているけど、せめて少しでも長く楽しい時間が続きますようにと、僕はそう願った。


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