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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部4章:猫と僕と知らない世界

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1-8:猫とはじまりの話 妄念の行方

 僕は何かに取りつかれたように動き続けた。

 ただひたすらに休むことも無く、振り返る事も無く、ずっとずっと。

 きっと僕はあの日に壊れたままなのだろう。全てを失ったあの日に。

 そして、今また取り返しの付かないところに踏み出そうとしている。もう後戻りは出来ない。


「今更の話か・・・戻るところなんて、とっくの昔に無くしてるし」


 だから僕は迷うことなく次の一歩を踏み出した。

 救う事が出来なかった僕からの、まだ救う事が出来るかも知れない僕達への贈り物。

 何処かで依城さんが死なないですむ可能性が見つかる事を願って。


 それが僕に残された最後の願いなのだから。



 あの日、全てを無くした日、僕は気が付いたら病院に運ばれていた。目を覚ますと、そこは度々お世話になった病院の個室。以前にも何回か入院する事になって・・・その度に依城さんに怒られて、それも今となっては・・・


 たぶん左手を切断した際の出血が原因で意識を無くしたのだと思う。救急への連絡は・・・轟音に気付いたご近所さんからってとこかな。まぁ、とりあえず気が付いたからには連絡をしないといけない。特に依城さんを自分の娘のように気にかけていた支部長には・・・早く連絡してあげないといけない。


 考えるだけで手に震えが来た。


 右手で頭を抱えながら少しだけ休憩する事にした、今はまだすぐに動けそうにないから。

 でも何気なく周りを見渡した際に気が付いてしまった。ベッドの脇に置いてある机の上、そこにスマホが一台置いてある。協会から支給される見慣れた機種。つまり「目が覚めたら、これで連絡をくれ」そういう事なのだろう。

 いつまでもこうしていても仕方が無い。大丈夫、分かっている。やらないといけない事ぐらいは・・・出来るはずだ。


 スマホのアドレス帳には支部長の連絡先だけが登録されていた。

 少し呼吸が浅くなっている事を自覚しながら支部長に電話をかける。何コールか鳴らしたが繋がらない。情けなくも安堵を覚えながら僕は一旦諦める。


 そして電話を切ってしばらくするとスマホに着信があった。届いたのは支部長からのショートメール。


『お前達が飼っていた猫なら俺の家で預かっているから心配しなくて良い。あと依城の事は把握しているから今は無理に言う必要も無い。ゆっくり休んでくれ』


 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・


 お言葉に甘えて少し休ませて貰う事にする。正直なところ、喪失感が酷くて思考が回らない。

 だから、休んでくれという言葉には逆らい難い魅力があった。

 これから僕はどうすれば良いのだろう?彼女の為に出来る事がある限り『絶対に諦めない』そう思っていたのに。


 もう依城さんはいないのに。これから何をすれば良いのだろうか。

 そんな事を思いながら、その日はまた眠りについた。



 次の日から僕は依城さんの過去について、より正確に言えば■■についての調査を開始した。体は十分に動かないし、左手が無くなった事にも慣れないけど、さして大きな問題は無い。


 まずは支部長に許可を貰い協会に残っている資料を漁った。だが新たに分かった事は、依城さんの故郷の大まかな所在地ぐらいのもので、なんら■■への理解が深まるものでは無かった。だから、次の情報を求め、僕は依城さんの故郷を訪れる事にした。

 依城さんは故郷の事を「全て壊してきた」と表現していた。なら、彼女がここに来る以前に、協会が調査に出向いている場所、あるいは大きな事件、そんな情報が彼女の故郷に関係している可能性が高い、僕はそう考えた。


 案の定というか何というか『村落の大規模破壊の調査』に出向いた記録が一件。この調査には支部長も参加しているし、今回の資料漁りで見つけた大まかな場所とも一致する。普通に考えて、ここが目的地である事に間違いは無いだろう。依城さんの事だから滅茶苦茶やらかしてるとは思ってたけど・・・何故だろう、大変な事件のはずなのに何処か面白くて少し笑みが漏れた。



 現地に到着したのは翌日の昼過ぎ。電車とレンタカーと強化魔術を活用した徒歩の組み合わせでも到着までは結構ハードな道のりだった。依城さんが「魔術師に必要なのはまずフィジカル」みたいな事を言ってトレーニングばっかりさせてた理由が少し分かった。秘境みたいなところで育ったからだったんだね。

 そして、到着したのは10年程前に破壊されてしまった場所。残っているのは打ち捨てられた残骸ばかり。しかも、大半の建物が壁の一部しか残っていないという意味不明なまでの破壊っぷり。若い時分の犯行だったから加減が分からなかったのかなと。・・・最近もずっと「基本的にはやり過ぎ」って路線だった気もするけど。


 それはそれとして、なんで僕がそんな廃墟にわざわざ足を運んでいるのか。もちろん、心が壊れたから当ても無く無駄足を踏んでみた、と言うわけでは無い。


 依城さんも支部長も把握していない『僕の特性』を活用すれば、今まで見つける事が出来なかった『何か』を発見出来る可能性が高い、そう考えたからだ。


 実は僕が一番得意な魔術は障壁でも無ければ空間を弄る変則的な魔術でも無い。

 僕が最も得意なのは『探査』だ。より正確に言えば『魔力の認識と分析』、それこそが僕の魔術師としての性能の根源だと自分では思っている。


 どんな魔術でも、その構成を認識し分析する事が出来る。もちろん、自分の知識が足りなければ理解にまでは到達出来ないけど、それでも大概の魔術はどうにかなったし、儀式みたいな複数人で取り掛かるような物でさえ「全く分からない」なんて事は今まで無かった。


 このチート染みた特性のおかげで「依城さんに付いて行く事が出来た」と、僕はそう認識している。これが生まれつきの才能なのか、それとも人体実験の結果として手に入った物なのかは知らないけれど、この能力には感謝している。


 そして、今も・・・


 僕は廃墟に残る過去の魔力の痕跡を辿って歩みを進めていく。

 歩きながら目に入るのは、調査する意味なんて欠片も無い感じの廃墟っぷりばかり。依城さんによる大破壊の結果か、それとも協会による事後調査の際に何かの隠滅を図ったのか。まぁ、別にそんなのはどうだっていい。僕が知りたいのは■■の事だけなのだから。


 痕跡を追っていくと到着したのは村の外れの空き地だった。よく見ると大きな石材の欠片のような物が残っている。・・・昔から空き地だったのでは無くて、本来なら石舞台的な物があったって感じかな?恐らくは、ここが儀式魔術の舞台だったのだろう。そして、僕が確認しに来た■■を呼び出した場所のはず。

 守り神的な扱いをしていた事から考えて「儀式場ぐらいはあるだろう」と踏んでいた。・・・もう全ては過去の事ではあるのだろうけど。


 僕は石舞台に残っている痕跡から過去にここで構成されたであろう魔術の構成を逆算していく。だが、しょせんは昔の魔術という事なのだろうか、大して複雑な事をしているようには思えない。

 神霊の召喚に必要な魔力は大地の流れから少しずつちょろまかして、ここの石舞台の地下に貯める事でまかなっていたようだ。召喚自体は・・・特にこの舞台には何のギミックも仕掛けられていないように思える。


 そうなると・・・術者が自分の力量だけで呼び出した?神の魂とでも呼べる物を?人の器で?

 そんな事は絶対に不可能だ。それこそコップ一つで風呂桶の水全てを掬いあげるような無理難題。物理的に器に入らない物を、こちらに持って来れるはずも無い。


 では一体どうやって呼び出したのか?

 一体ここで呼び出された物は何なのか?

 呼び出されたのは本当に『神』と言える物だったのか?

 そもそも大地から魔力を吸い上げた程度で『神』を降ろす事が可能なのか?


 残された現場を見る限りでは「一族の守り神」という表現の信憑性が揺らぐ。だが、僕の目の前に現れた■■は確かに認知の及ぶ物では・・・


 その時、僕はふと思い至った。自然も神も恐れくなった現代人としては当たり前の思考。

 手に負えない物なら、まず自分達で扱えるように加工してしまえば良い、たとえそれがどんなに貴重で大切なものであったとしても。自分達の思うように扱えない神様より、扱える「何か」の方がずっと有用なのだから。


 僕はここに来てやっと、そんな当たり前の事に気が付けた。


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