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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部4章:猫と僕と知らない世界

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1-5:猫とはじまりの話 最初の「幸せな日々の終わり方」

 この2年の間に何回も繰り返した布陣。僕達の強味を活かした負け知らずの戦法で今回も蹂躙を開始する。


 まず敵集団に依城さんが呼び出した■■を突っ込ませる。正直、大概の場合はこれでだけでケリが付いてしまう。それでも粘られる場合、例えば単純に数が多かったり、対象まで距離があったりの場合、そんな時は我がチームのメイン火力に登場して頂く事になる。つまりは依城さんが大砲をぶっぱなす。大体は黒くて細長い円柱状の何物かが高速かつ連続で無慈悲に撃ち込まれる。今までこれに耐えられた者は存在しない。遠距離から楽々勝利の必勝パターン。


「ならお前は何をしてるんだ?」って言われそうな僕だけど、端的に言えばサポート全般をやっている。いやね、依城さんと彼女が呼び出す■■は凄く強いよ。凄く強いんだけど、強さのベクトルがね、いわゆる攻撃力に全振りしてるタイプなのよ。「破壊の権化、最強の力、でも搦め手とか罠は勘弁な」って感じ。


 と言うわけで、伏兵とか罠とか遠くからの狙撃は僕が魔術の障壁で防いでます。これね、地味に凄く大事。強いけど依城さんって危なっかしいから。結局、魔術も色々と勉強したけど現場で一番使ってるのは障壁。初めて使った魔術も障壁。ひょっとしたら僕の前世は壁だったのかも知れないね?

 そんなわけの分からない事を考えつつ、僕のもう一つの大事なお仕事である人間レーダーもちゃんと頑張っている。


「あそこの右の壁のとこ、誰か隠れてるから撃って」


「はいさー」


 僕の指示で依城さんが可愛らしい応答の声と共に、過剰な威力の黒い何物かを発射。

 轟音とともに壁が抉れる。


 黒い何物かは、まるで発泡スチロールか何かのようにコンクリを刺し穿ち砕いている。もちろん、その陰に隠れていた誰かさんは・・・グロい感じの光景に生まれ変っていた。


「んふふ」


 褒めて欲しそうな顔でこちらをチラチラ見つめる依城さん・・・可愛らしいけど目の前のスプラッタな惨状の事を考えると普通に結構怖い。もちろん、そんな内心をおくびにも出さずに「やったね!」みたいな感じで親指立てといたよ。当たりまえじゃん。僕が依城さんをガッカリさせたりするわけないじゃん!


 にしても、ホント容赦が無いのよね、この人・・・基本方針は一撃必殺って感じ。根本的に手加減とか、そういった概念を一切持っていないように思える。


 実際、協会内部でも依城さんは畏怖というか、ぶっちゃけ狂犬的な扱いをされていたりする。そして、最近では僕は狂犬の首輪扱い・・・概ねその通りだという自覚があるので別に腹も立たない。そもそも女性を狂犬扱いするのは流石にどうかと思うけど。


 ちなみに、僕達が駆り出される仕事も「狂犬」を強く意識したものばかりとなっている。何かをぶっ壊すとか、誰かをぶっ飛ばすとか、そんなのばかり。魔術師っぽい知的な感じのお仕事は一切無い。本当に掛け値なしに一切無い。迷いなくやっちまう事だけがお仕事です。


 案外、この仕事の配分は依城さんに甘い支部長が『実行部隊が思い悩んだりする事が無いように』配慮してくれた結果なのかも知れない。でも、その結果が狂犬って呼ばれる事に繋がってるのだから残念極まりない。


 もちろん、今回の仕事の目的も何処の誰だかもよく分からない組織を追い込んで潰す事。現場はトンネルみたいな変な場所。山奥で人気の無いところにポッカリと入口を開けている謎の建築物。魔術師の工房っぽい雰囲気たっぷり。そして、僕達が来るまでに協会にだいぶやられたようで、既に撤退戦?こっちからすると殲滅戦?みたいな雰囲気が最初から漂っている。その証拠に・・・


「うわ、またアレですよ。ホント最近多くてやんなっちゃいますよね」


 依城さんがそうボヤキながら、いつも通りに■■を奥の方からゾロゾロと出てくる敵にけしかける。いつもの真っ白で大きな人間と、同じく真っ白な大きな犬の集団に。


 もう何回目だろうか、この白い人と犬を相手取るのは。

 何処かの誰かがお手軽な使い捨て兵隊作成キットでも撒いているみたいで、かなり頻繁にお目にかかっている。・・・竜牙兵と比べても作成は簡単。だって原材料は何処にでも転がってる人間なんだから。ホントやんなっちゃうよね、こんなところだけ魔術師のイメージ通りでさ。人の命を屁とも思わないところだけイメージ通りなんてさ。


 そして、その元人間達を■■と依城さんが蹴散らしていく。あの白いのも結構強いはずなのだけど、相手が悪いと言わざるを得ない。前衛の■■が犬を蹴り飛ばし、白い人を太刀で切り砕いていく。バキバキと破片を撒き散らし、白い人も犬も、その数を凄まじいペースで減らしていく。


 依城さんは後方の集団に黒い杭のような物をザクザクと降らせ続けていた。アウトレンジからの砲撃を喰らい、何も出来ないまま敵の後方集団は一方的に数を減らされていく。近づかないと依城さんを止める事は出来ないけど、■■を突破する事自体が困難だから、どうにもならないって感じ。


 とは言え、向こうもそれは分かっているのだろう。集団で突撃を実行し、わずかでも自分達の牙を突き立てられる可能性に賭けようとしている。多くの白い人が近づく事も出来ずに砕かれる一方、速度に分がある犬のような物の一部が、文字通りに仲間の屍を踏み越え、こちらに接近する事に成功した。


 でも、それさえもいつもの事でしてね。誰だって思いつくよね、そんな戦法。運よく依城さんの砲火を潜り抜け、■■の攻撃から逃れる事に成功しても、最後は僕に処分されるだけなんですよと。


 僕は近づいて来た白い犬擬きを自己流の魔術でポチポチと迎撃していく。

 僕には放射系の魔術に対する適正は無かった。具体的に言うとビームとかは撃てない感じだった。だから、その代わりと言っては何だけど、他の人よりも多い魔力容量を活かした『空間を弄って効果を出す特殊な魔術』を多用している。局所的に空間を圧縮し、そして開放する。その際の空間の反発力を対象にぶつけるという、結構複雑な工程を経る攻撃魔術。それが僕の得意技。依城さん曰く「めっちゃ地味ですね」って魔術。


 確かに見た目はすごく地味だけど、それが僕の攻撃の主力。威力自体はなかなかのもので、人より相当に硬いはずの白い犬擬きも一撃で屠っている。と言うか、一発でバラバラ。この魔術は空間そのものを武器にしているため、平面でしかない魔術障壁や、硬度に全振りの物理的な防御手段なら、その全てを無視して効果を発揮する事が出来る。


 正直かなり有用な魔術だと思うのだけど・・・有用だと思うのだけど・・・目の前で馬鹿みたいに大火力を発揮する人がいるから、あまり有用性を主張する気にはなれない。凄いはずなんだけど、どうしようもない地力の差ってあるよね、正直。


 まぁ、そんな感じで今日の殲滅戦も危なげなく順調に進んでいった。最早、日常の一コマ。でも、ちょっと今回は今まで比べても相手の戦力が多いような気がする。どうにも、まだまだ終わりの気配が無い。どうしよっかな?このまま進むべきか、それとも安全を考えて一度退いて持久戦を仕掛けるべきか。

 丁度そんな事を考えている時だった。


「じれったいですねー。まだ沢山残ってるっぽいから、大きいの行っちゃいましょー」


「え?!ちょっと待って、下手したら生き埋め!!」


 止める間もなく依城さんが大きいのをぶっぱなした。


 後方集団の更に後ろ、こちらからだと通路が曲がっていて様子を伺えない所から白い閃光が爆発的に広がったのが見えた。


 後ろの方に馬鹿みたいに強力な魔術を撃ち込んだようだ。


 僕は全速で前方にいる■■を中心に通路ほぼ一杯の大きさの魔力障壁を展開した。もちろん崩落に備えて頭上にも障壁を同時展開。


 閃光が僕の展開した障壁に接触した。


 もう最初の感触で分かるね。頑張ったらギリギリ耐えられそうな、そんな威力。

 流石だね、依城さん、僕の事をよく分かってらっしゃる。でも天井が崩れたら負荷激増するんだから、そこも考えて欲しかった。


 そんな事を考えている僕を轟音が包み込み、依城さんの魔術が生み出した熱波と衝撃が障壁に絶え間なく叩きつけられ始めた。


「ぐっっっ!」


 歯を食いしばりながら依城さんの魔術の威力に耐える。障壁がジリジリと押し込まれる。

 だが、ここで抜かれると無意味に大打撃を受けてしまう。


「・・・ぁぁぁああ!!」


 渾身の力を振り絞り限界を超えて障壁に魔力を回す。薄いオレンジの光を放つ障壁の光量が、ほんの少しだけ増える。押し込まれながらも、熱や衝撃が障壁を抜ける事だけはギリギリで防ぎ続ける。


 そして、しばらくして・・・恐らく実際には数秒しか無かったのだろうけど、やっと閃光が止まった。それに合わせ僕は障壁を解除する。


 天井は・・・なんとか持ってくれたらしい。良かった。下手したら死んでたよ。と言うか、なんで敵には苦戦してないのに味方にやられそうになってんのよ。意味が分からん。


「さすが私の赤松さん。よく耐えましたね」


 依城さんは「んふふ」と笑いながら、地面にへたり込んでいる僕の頭を撫でまわす。


 師匠ポジションから「この修業をよく耐え抜いた」みたいなノリで語ってるけど、崩落してたら死んでたよ?修業にしては無茶無謀過ぎないかな?

 いや、イザとなったら、依城さんの事だし、なんとでもなったのかな?ちょっと色々聞いてみたいところだけど息が上がってて何もしゃべれない。


「じゃ、奥に行ってみましょうか!」


 依城さんがまだヘロヘロの僕を無理やり引っ張ってズンズン進んでいく。

 ちなみに、拠点の奥側は酷いものだった。全てが焼けている。白い人形も犬のような物も全てが焼け焦げた残骸になっている。よく見ると壁のコンクリさえ蕩けてるし。

 改めて被害状況を見ると、僕達の方には熱があまり流れて来ないように制御されてたのかな?敵さんの方の焼け方が尋常ではないような気がするし。


 僕と依城さんは誰も居なくなった廃墟をフラフラと進んでいく。

 一本道の奥は広場のようになっていた。

 そこには無数の石棺のような物が並んでいる。

 そして、その中央には一際大きな・・・なんだろう?無数のケーブルに包まれた繭のような物があった。


 本当なら調査に移る場面なのだろうけど、残念ながら、これだけ念入りにしっかり焼かれたら動作もクソも無いと思うから、もはや別にどうでも良い感じ。ぶっちゃけ調べようがない。ついでに言えば、繭の足元に焼け焦げた何かの塊が転がってるけど、アレが今回の首謀者なんでしょうね。もう何もかも焼けて終わっちゃった。


 ・・・首謀者がいて、ここが工房の機能の中心って事は、さっき攻めてたトンネルみたいな場所は、搬入路かなんかだったのかな?工房にしては部屋も無いし一本道だし意味分からないなとは思ってたけど。まぁ、考察とか調査は他の人達に任せましょうか。僕達の仕事はここまで。結局は、いつも通りの「壊すだけ」で終了でございます。


「もう戦力も残ってないみたいだし帰ろうよ、依城さん」


「そうですねぇ、今回も歯応え無かったですね・・・いえ、もちろん、その方がいいんですけど」


 僕は凄く歯応えあったよ、ゴリゴリに。依城さんのデカい魔術を防ぐ時とか。


「さぁ、帰りましょう、帰りましょー。帰って美味しい御飯を頂きましょー」


 依城さんが場所にそぐわぬ明るいトーンで語りながら踵を返す。

 あれ?でも・・・


「■■がまだ出たままだよ?」


「へ?」


 不思議そうな依城さん。じっと佇んだままの■■を見つめる。


「いえ?そんなはずは?・・・そう言えば、さっきから何だか魔力の流れが」


 呟く依城さん。そして、何の前触れも無く、彼女は唐突に意識を失い倒れ込んだ。

 僕は慌てて駆け寄り依城さんを支える。


「どうしたんですか?!意識をしっかり持ってください!依城さん!!!」


 誰かの攻撃?それとも何かの魔術の制御に失敗した?でも、そんないきなり。

 朦朧とする依城さんを抱きかかえながら■■に目をやる。

 ■■はいつも通りに送還され、風景に溶け込むようにして姿を消していくところだった。


 何故だろうか。

 意思を持たないはずの■■からの視線を感じたような気がした。

 消えていく前に、こちらを・・・いや依城さんの事をじっと見ていたような。そんな気が。

 


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