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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部4章:猫と僕と知らない世界

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1-2:猫とはじまりの話 お気持ちは分かります。ええ、分かりましたとも!

 生まれて初めて監督役も見張りも伴わずに地上に出た。

 少し肌寒い、でも、そこは太陽の光が一面に降り注いでいて・・・とても暖かいと、僕はそう思った。


「ここまで壊す気はなかったなんですけど、ちょっと抵抗が激しくて勢い余ってというか何と言うか」


 横で縮こまって言い訳を頑張っているのは、僕の命の恩人の依城さん。彼女の言葉によると、この光景は彼女が生み出したものらしい。


 うん。地上に出たとは言ったけど、本当はここって地下なんだよね。

 僕が居た施設は地下の奥まったところにあった。にも関わらず、そこから真っすぐ歩いてきただけの場所にサンサンと太陽の光が降り注いでいるわけで。一か所しかない出口の上には、そこそこ大きな建物があったはずなんだけど。


「建物の中で待ち伏せされると面倒なんで、いえ、そうじゃないです、危ないので、咄嗟に砲撃しましたら、思いのほか障壁が薄くて全部ぶち抜いてしまったというか何と言うか」


 そんな言葉を聞きながら、元は建物があったはずの場所を仰ぎ見てみる。


 うん。確かに彼女が言ったように砲撃という印象がピッタリだ。だって壁の下側が辛うじて残っているだけで他には何も残って無いもの。まさに残骸って感じ。それにしても、瓦礫は大量に積もってるけど、それでも建物一軒分にしては少ない。これは・・・建物の中で何かを爆発させて外側に瓦礫を吹っ飛ばしたって事?それなら地下施設も埋まらないし問題無いか・・・無いのかな?うん、無い事にしよう。


「・・・・大丈夫です。・・・・・・そんなに・・・問題は無いです」


 なんだか緊張してうまく話せないけど、彼女に変な罪悪感を持ってもらいたくない一心で、なんとかそれだけは告げた。だって命の恩人だし、それに何より彼女は僕に初めて魔術を見せてくれたから。だから僕が彼女を責めるような要素なんて何一つ無い。


「そう、それなら良かった!流石にちょっとやり過ぎたかなって思ってまして!」


 凄く良い笑顔で応えてくれた。けど、あれだね、気を遣うまでもなく特に反省もして無いし、負い目も感じてないね。いや、もちろん、それで良いのだけど。


「じゃ、上に戻りましょうか。御飯も用意してあるので、ちょっと一緒に休憩しましょう」


 そう言って彼女は僕に手を差し出した。

 掴めばいいのかな?・・・なんだろう少し緊張して鼓動が速くなる感じ。よく考えるまでも無く女性に触れるのなんて初めてなわけで。


「んじゃ、行きますよー」


 ぐいっと引き寄せられ脚を払われ、所謂お姫様抱っこスタイルの状態で抱えられた?!え??なんで????


「はい、舌を噛まないようにして下さいね!」


 そして彼女は僕を抱えたまま跳躍した。いや、そんな言葉じゃ今の状態を正確に表せていない。これは飛翔だ。


 そう、僕達は飛んでいた。凄いね。飛んでる。当たり前のように宙を飛んでいる。


 確かに階段ごと崩れてるから地上に行くのは大変だなって思ってたけど、そっか魔術で飛べばよかったんだ。凄いね、魔術。そんな事も出来たんだ。

 そして、一瞬の飛行の後、何事も無かったかのように地面に降ろされる僕。外では皆こんなの普通に出来るのかな?


 それにしてもホント凄い。訳が分からな過ぎて、さっきから何が驚くべきポイントなのかすら分からない。もう全部に驚いちゃう。


「じゃ、御飯貰ってくるんで、そこに座って待ってて下さいねー」


 それだけ告げると依城さんは何処かに走り去ってしまった。とりあえず言われた通り、天幕の下に置いてあった椅子に腰かけておく。・・・事情はまだサッパリ分からないけど、僕って「捕虜」か「奪取された貴重品」的なポジションじゃないの?放置でいいの??


 そんな事を考えながら周囲の様子を伺っていると、今日ここで何があったかを概ね察する事が出来た。

 周りには何処の組織の人かは分からないけど、同じツナギのような服を着た人達がたくさん。彼らは今もどんどんと人員を地下に送り込んでいる。


 そして、僕のいた施設とその上にあった「村」は徹底的に叩かれていた。まるで戦車やヘリコプターから砲撃を受けたかのように。もちろん、僕がいた地下施設も酷い物だった。あちこちベコベコの穴だらけ。あっちこっちに倒れている人もいたし。僕自身あまり人間扱いされてなかった感じもあるので、その光景を見ても、特に同情心は湧かなかったけど。


 まぁ、それは別に良いや。そんなに拘るところでも無いし。嬉々として人体実験に勤しんでる人間の末路なんだし、来るべき時が来たってだけのお話かなって。


 んじゃ、何が注目ポイントかと言えば地下室で見た依城さんの魔術痕、鋭い何かで刺し貫いたような痕、それが村の地上部分のあちこちにも見られる事。つまり、人体実験とかしちゃうような悪い組織を彼女一人が破壊し尽くしたであろうという事。そう考えると震えが来そう。いや、さっきからとっくに震えている。もちろん、恐怖に震えているんじゃない。歓喜にだ。


 ずっと憧れていた。狭くて白い部屋の中でずっと憧れていた。魔術という力に憧れ、それを夢見る事が僕の全てだった、僕には今までそれしか無かった。でも、それは遠い夢でしか無くて、僕にはきっと一生縁のない物だと思っていて。

 それが、その遠い夢が、夢でしか無かった物が、いま僕の目の前にある。手を伸ばせばすぐに触れられる距離に。


「はい、カレーですよー。缶詰ですけど意外とイケますよ?」


 その夢がカレーを持ってやって来た。・・・考えていた事とのギャップが激しくて何を言ったら良いか分からない。でも、昼飯抜きだったので確かに腹は減っている。


「・・・・・ありがとう・・・ございます。お腹が減っていた・・・・ので・・・嬉しいです」


 うまく話そうとは思うものの、なんだか緊張してうまく話せない。きっと引きこもり期間が長すぎた。もっと色々と話をしたいのだけど、彼女が目の前にいると何故か言葉が出て来ない。


「それは良かった。じゃ、一緒に食べましょうか」


 彼女はそう言うとズリズリと椅子を引きずってきて僕と向かい合うようにして座った。


「いただきます」


 なるほど、食前の挨拶。勉強していた時に聞いた事はある。


「・・・いただきます」


 カレーは今までも何回か食べた事はあった。僕が知る限り最も美味しい料理。でも、今日のカレーは今までに食べた事が無いぐらいに美味しく感じた。なんでだろう?解放感??それとも本当に凄く美味しいカレーだった??


 そんな事を思いながらも黙々と食べ進めた。残念だけど量はあまり無く、さして時間もかからず二人とも食べ終わる。


「・・・・ありがとう・・・ございます。・・・とても・・・・・・美味しかったです」


「うんうん。御飯が美味しく食べられるなら、もう大丈夫ですね。いきなり大騒ぎに巻き込まれて塞ぎ込んでるみたいだったから心配してたんですよ」


 大騒ぎって・・・怪しい組織を潰したのを「大騒ぎ」で済ますとか凄くね?ちょっとダイナミック過ぎじゃね?外の魔術師って、こんななの?・・・流石にそれは無いでしょ?無いよね??


「これからの事ですけど、ここの人達はみんな処罰されちゃいますので、あなたはもう自由です。とは言え、いきなりそんな事を言われても困ると思いますので、しばらくはウチの関連団体の方で面倒を見て貰える事になると思います。

 たぶん仕事の斡旋もしてもらえるので先の心配も無いと思いますよ。辛い事もあったと思いますけど、これからは心機一転して新しい人生を生きて行きましょうね」


 いや別に辛い事は特に無かったけど。そうか、僕はまた何処か別の場所で暮らすのか・・・


 でも・・・

 せっかく出会えたのに・・・・


 それは、ちょっと嫌だな。


「あの・・・待って下さい。うまく言えないですけど・・・」


「ゆっくりでいいですよ」


 依城さんは笑顔でそう言ってくれた。ありがたい。


「・・・えと、僕は魔術回路の強化を受けてて・・・・だから、えと、その・・・鍛えたら、きっとあなたの役に立てる・・・と思うから」


 うまく言葉が出て来ないのがもどかしい。なんで今まで話す特訓をして来なかったんだ。時間は腐るほどあったのに。あぁ、くそ、結局、何を言ったらいいんだ。どうすれば、この気持ちを伝える事が


「だから・・・・あなたと、一緒に・・・連れて行って貰えませんか?」


 物言いが情けない気もするけど・・・うん、きっとこうだ。いや、そうか?なんか違うような気もするけど、でもこれしか言葉が出て来なかったし。

 依城さんは、そんな僕の言葉に少し驚いたような表情をしていた。でも、次の瞬間には実に嬉しそうな笑顔に変わって


「んふふ、なるほど、なるほど!!お気持ちは分かります。ええ、分かりましたとも!ちょっと上司にごり押しして来るんで待ってて下さいね!!」


 依城さんは、またダッシュで何処かに消えた。

 何が分かったんだろう?まぁ、なんか知らないけど伝わったならいいか・・・



 この時の僕の気持ちを分かっていたのは、僕じゃなく、きっと依城さんの方だったんじゃないかな。今から振り返ると、そんな気がした。

 


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