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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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4-1:猫と整い始める舞台 一体、この可愛らしい要素は何処由来なのか?

 僕はリビングのソファーに座り、独り考えこんでいた。刀を引き渡してから既に一か月が経ち、年の瀬も見えてきた。でも研究班の進捗は・・・芳しくない。疲れきった様子の支部長から定期的に連絡はあるけれど進展はあまり無い。ちなみに彼らは今「一か月缶詰コース」の真っ最中。缶詰なのか監禁なのかはよく分からないけれど、急いでくれるに越したことは無いので僕としては有難い話。ただ支部長の疲れ切った様子と「大丈夫。任せておいてくれ」的な空手形の連発から考えると、正直なところ、楽観する事は難しいのだろう。


 と言うかね、そりゃ当然の話。普通に考えて、急に新しい術式とか出来るもんじゃないし。魔術ってのは専門の家系の人達がそれこそ何代にも渡って家業として研究していくものなわけで。それなのに全くの新機軸、しかも魔術師の奥義的な扱いの術式の模造品を作ろうとか、端的に言えば頭のオカシイ人の発想としか思えないわけで。たまたま必要な要素を持った魔術師が3人揃っているからと言っても・・・

 よく考えたら「たまたま」開発に必要な魔術師が3人も手元に揃うなんて有り得るのか?排他的で有名な業界な魔術師の世界で?「たまたま」3人も??


 ・・・・・・

 ・・・


 いや、まぁ、それはいいや。誰かの作為があろうとも僕にとってはプラスでしか無いのだから。問題は新魔術の開発が間に合わない可能性がある事。


 代替案は・・・実は無い事は無い。本来なら実行出来なかった案ではあるけれど、ここまで条件が揃っているなら出来ない事は無い、と思う。ただ問題は後がどうなるか全く分からないという事。そもそも問題があるからお蔵入りさせてたわけで。まぁ、ここまで来ると最初から可能性を否定してしまうのも勿体ないし、そもそも他に案も無いし。そんなわけで、ちょっと、我が外付け頭脳のクロさんに相談したいのだけど・・・・したいのだけど、はたして床暖の上で仰向けに伸びて寝ている生き物に相談しても良いものだろうか?尻尾の先がチロチロと揺れているので眠りは浅いのだろう。口もちょっとモニョモニョ動かしてるし。


 猫型だけど、いやもう普通に猫として可愛いけど、なんでここまで猫を再現してるのだろう?僕の一部を切り出した存在のはずなのに、何故そこまで猫なのか?


 とりあえず近寄って様子をうかがう。

 気持ち良さそうに寝ている。床暖で温まって鼻がピンクになっている。毛並みが真っ黒なせいで分かりにくいけど、耳も赤くなっているようだ。暑くないのかな?一応、床暖の設定温度を確認しておく。・・・よし、大丈夫。ちょっと温めなぐらい。


 再びクロのところに戻る。ちなみに寝ているのは、クロが通販で買ったやけに立派なダイニングテーブルの下。テーブルの猫脚に自分の脚を引っ付けて寝ている。いま思えば「猫脚」っていう響きが気に入って、このテーブルを買ったんじゃないかな?


 テーブルの下に頭を突っ込んでクロを眺める。実に愛らしいフォルム。どう見ても本物の「猫」としか思えない。なんと素晴らしい造形か・・・あれかな、僕の記憶には無いけどモデルがいたりするのかな?それだったら、見た目は猫そのものになるけど。でも、この寝てる時の仕草まで猫そのものってのは謎い。一体、この可愛らしい要素は何処由来なのか?


 しかし、こうしてずっとクロを眺めていると、つい柔らかそうなお腹に顔をうずめたり、あるいは艶やかな背中の毛並みを撫で回したりしたくなってしまう。なってしまうけど・・・寝てるしなぁ。起こしてまで、そんなのするのも飼い主のエゴだしなぁ。でも、もう少し近くで見るぐらいなら別にいいよね?気持ちよく寝てる邪魔をするわけじゃないし。


 クロの顔の間際、数センチしか離れていないところまで近づく。スピスピという小さな寝息が聞こえる。

 素晴らしい!猫の愛らしさとは斯くも素晴らしいものか!


 少しぐらいなら・・・少しなら触っても・・・そろそろと手を伸ばす。

 その時、パチリとクロが目を開けた。


「お腹が減ったわね」


 そう言うとぐぃーっと伸びをしながらテーブルの下から出て行ってしまった。残念。触り損ねた。

 ・・・御飯か。ほんとだ。時計を見ると、もう夜の八時。気が付かないうちに随分と一人で考え込んでいたようだ。あるいは、クロを眺めるのに時間を使い過ぎたのかも知れないけど。


 そんな事を考えながら台所に行って、晩御飯の用意を始める。用意といっても依城さんがいないから実に簡素なもの。サラダチキンを冷蔵庫から出して封をハサミで開ける。水道水をシェイカーに注ぎプロテインを入れてシャカシャカ混ぜる。そして封をあけた「ほぼカニ」を皿に並べる。付属のタレは残念ながら使わない・・・勿体ないので、なんとなしに冷蔵庫に。

 はい、晩御飯の用意完了。男と猫だけなら御飯って言ってもこんなもんっすよ?


「クロ、出来たよー」


 呼びかけに応えて、和室で毛繕いをしていたクロがトトっと走ってやって来て、そのままテーブルに飛び乗った。我が家のルールでは猫はテーブルの上に乗ってもいいのです。うちのクロは賢いし綺麗だから。


「「いただきます」」


 サラダチキンをガツガツと食べプロテインを一息に飲む。御飯終了。今日は別にトレーニングするわけでもないし、これだけで十分。用意も片付けも面倒だし。一方でクロはまだカニカマをもにょもにょと食べている。僕が言うのもなんだけどクロの食事って大体は「ほぼカニ」なんだけど、飽きないのかな?猫はわりと同じものばっかり食べたがるって聞くし問題無いのかな?色々な物を食べさせてあげたい気もするのだけど、これも飼い主のエゴなのかな?悩ましい。


「あっ、そうだ、マスター。さっき終わったわよ」


「なんの話?今って何かやってたっけ?」


「あれね、今と言うか『ずっと』やってた事ね。わたしというかマスターが」


 なんのこっちゃ?いまいち内容が分からないけどクロはカニカマを食べる方に意識が偏っているようで、あまりちゃんと話をしてくれない。あれか、食べ終わるのを待てばいいのか。


 暇なのでコップに再度水を入れて・・・お茶菓子・・・キットカットが余ってたからコレでいいか。クロが食べ終わるのを待つ間にティータイム?を楽しむ事にする。


 ハグハグとカニカマを食べる姿の可愛い事よ。普通の猫に人間用のカニカマを食べさせたりは出来ないから、これはクロだけが作り出せる素敵な光景よね。いやはや可愛いわ。


「ごちそうさま」


 おっ、食べ終わったかいな。んじゃ、さっそく話を・・・


「さっきの話ね、マスターの魔法よ」


「へ?」


「わたしを構築する術式よりずっと前から作り続けてたマスターの『魔法』みたいなの。それがついさっき完成したのよ」


「へぇ、そうなんだ」


 ごめん。自覚無いから何の事か分からないや。あれの話よね、依城さんの魂を分割するっていう凄い術式。


「マスターの体が出来上がってから構築は開始されてたはずだけど、たぶん少なくとも10年はかかってるわね。あれね、10年以上詠唱にかかる術式って、よく考えるとエグイわね。しかも、それだけ時間かけてるのに原理も構成も意味不明だから1回しか使えないし。・・・ストロングスタイルってやつね?」


「ストロングの意味は分からないけど、目的から考えると2回目を使う事は無いはずだから、そこは別にストロングじゃないと思うよ」


「なるほど。それもそうね!でもヨツヤには1回しか見れないって事は先に伝えておいてあげないと!!」


 いまいち詳細は理解出来ないけど、まぁ、準備が順調なのは何より。


「あぁ、そうだ。ちょっとクロに相談したい事が」


「なになに。マスターの外付け良心であるクロちゃんに何の相談なの?」


「良心は僕の中にもちゃんとあるよ!無いのは頭脳とか知識の方だって!」


「知識はともかく頭脳は持っておいてよ。まぁ、いいわ、どうしたの?」


「うん、支部長たちが失敗した時の備えなんだけどね・・・・」



 こうして今日も来たるべき日に備え準備を整えていく。何処まで何が出来るかは分からないけど、今はやれる事をやれるだけ。


 何があろうとも、後悔だけはしないように。


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