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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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3-8:猫と修行パート アイツは支部長に個別指導してるとこだから

「ヨツヤ!久しぶりね!」


 赤松さんの頭の上から猫さんがフレンドリーに挨拶してくれた。飼い主の方は「ヨッ」って感じに軽く右手を上げただけ。


「久しぶりね、猫さん。元気にしてた?」


「わたしもマスターも元気よ!最近は危ない事もあんまりしてないしね!ヨツヤも・・・ヨツヤはなんかボロボロね?どうしたの?前はあんなに綺麗にしてたのに」


「あなたのマスターが持ってきた無理難題のせいじゃないの・・・まぁ、直接の原因は、うちの不肖の弟子の思考回路が謎過ぎる事なのだけど」


 私も支部長さんも、まだ最初のステップで躓いてるってのが実際のところ。それこそ今まで見た事も聞いた事も無い言語の理解から始めているようなものだから時間がかかって仕方が無い。なんだって、こんな回りくどい方法を


「なぁ、世間話もいいけど、こいつらはどうするの?」


 赤松さんが猫さんとの会話をぶった切って、よく分からない事を言いだした。こいつら?


「えぇ、またなの。なんなのよ、もう」


 猫さんも何の話か分かってるようだ。


「ねぇ、私にも教えてくれる?あなた達と違って私は研究者肌なんだから周りの状況とかは教えてくれないと分からないのよ」


「なんかね、ゾンビっぽいのがよくいるのよ、最近。んで、今も周りにたくさんいるわよ、ぐるっと」


「はぁ?!ゾンビィ??」


 猫さんが説明してくれたけどゾンビって何よ?キョロキョロと周りを見渡してみる。特に何もいない・・・ようにしか思えない。

 今の時間は夜の十時過ぎ。場所は海側にある工場の駐車場。営業時間外で無人。セキュリティは切ってあるとは言え、こんなところに何かが隠れてる余地とか無いでしょ?そりゃ車は停めてあるけど見晴らしもそこそこ良いわけで。


「なによ、何もいないじゃない?」


「クロ」


「仕方ないわねぇ。見せてあげるから手を触って」


 そう言いながら猫さんが赤松さんの頭の上から手をぐぅーっと伸ばしてくる。なによ、ちょっと可愛いじゃないの。


 そして猫さんの手を触った瞬間、周囲の情報が頭の中に流れ込んで来た。まるで空から確認して作ったような立体的な周辺地図のイメージ。そして、その地図にプロットされている人のような魔力を放つ物の姿。それは人の形をしているけど人じゃない。いえ、正しくは、もう人じゃない。


「これ、吸血鬼じゃないの。なんで、こんなところに」


「ふーん、あのゾンビって吸血鬼なの。なんかイメージと違うね」


 赤松さんは何の興味も無いようだ。


「細かく言えば、あれは吸血種の・・・そうね、シンプルに言えば手下みたいなものよ。どこで恨みを買ったのか知らないけど、厄介なものに目を付けられたものね」


 さて、どうする。猫ちゃんの探知では少なくとも20人はいるのは確定。それこそ、彼女が、依城さんがいてくれたら楽勝だろうけど、とても私達二人では。

 ・・・いえ、そうね、赤松さんだけなら切り抜けられるだろうけど、私は逃げられない。なんとか赤松さんに時間を稼いでもらって、その間に救援を、彼女を呼ぶしか。


「特に厄介とも思わないけどね、あれぐらい。今までも問題は無かったし。それに今日は武器まであるし」


 引き渡し予定だった蜘蛛の刀をプラプラと見せびらかす赤松さん。刀というには随分と短くなってしまったようだけど。


「いや、でもいくらなんでも、あの数は。それに足手まといの私もいるわけなんだし」


「大丈夫よ、実はマスターって馬鹿みたいに強いから」


 猫さんはそう言うと掻き消えるようにして姿を消した。そして、赤松さんは静かに走り出す。音も無く、滑るように、飛ぶように。


 まず彼は前方30メートル程度の位置でこちらの様子を伺っていた死者の群れに突撃した。突撃というか、あれ?走って、すれ違った?どういう事?一体何を?


 その時、後ろから何かを蹴り飛ばすような音が


「うそぉ?!!!」


 振り返った私が見たのは、こちらに向けて意味不明な速度で突貫してくる人だったモノの群れ。生気を無くした死者の群れが、車やら何やらの障害物を飛び越え一直線に最短距離を詰めてくる。って、さっきまで、こんなにいなかったじゃないの?!


 とにかく障壁・・・はもう間に合わないから、せめて目くらましを!!もう赤松さんが考え無しに突貫するから!!


 赤松さんが私の横を滑るようにして駆け抜けていった。


 理解出来ない動きすぎて気持ち悪い。そして、先ほどと同じように群れの間を走り抜ける。

 さっきは遠くだったから分からなかったけど、今回は「何をしているか」を理解出来た。赤松さんが通り過ぎた後に残るのは丁寧に頭と胴体を各々二分割された亡骸ばかり。パラパラと駒落ちしたアニメか何かを見ているかのように、いつの間にか死者の群れが次々に解体されていく。


 それは、今までに見た事の無い速度で実行される処刑の儀式。


 そして、その残骸も何かに焼き尽くされるかのように細かい灰になり消えて行く。


「一人は動けないようにして残しといて!」


 聞こえてるかどうか分からないけど、一応そう呼びかけておく。さっきの口ぶりからして襲撃は既に何回かあったみたいだし、手は打っておかないと。吸血種に目を付けられ続けるとか、たまったもんじゃないですもの。


 って呼びかけたのは良いけど、今って彼はどこにいるの??少し考え事をしていた間に普通に見失っちゃった。一体どんなスピードで動いてるのよ。人間辞めるにしても限度ってものがあるんじゃない?


「ほい、お待たせ。どうするのこれ?」


 そんな事を思ってキョロついていると、いつの間にか赤松さんが私の後ろに立っていた。左手に色々と切り落とされて随分と小さくなった亡者をぶら下げて・・・そんな有り様なのに彼はいつも通りの平然とした顔をしている。そのアンバランスさがちょっと怖い。


 と言うか、この人って依城さんに聞いてたより随分とヤバいんじゃ?彼女の話だと脳筋の好青年って感じにしか思えなかったのだけど。


「おーい、どうしたの?」


 いつの間にか復帰していた猫さんが不思議そうに私に語り掛けてくる。そうだった。急いで処理しないと。


「魔力のパスを遡って親の場所を突き止めてみるわ」


 亡者の頭に手を翳し親の吸血種の痕跡を探す・・・微弱で分かりにくいけど確かにまだ繋がりはある。どんな慎重な術者でも、こんな常識外れの速度で全て壊滅させられるなんて想定しているはずは無い。今なら、きっと術者まで辿り着けるはず。この機会に後顧の憂いはしっかりと断っておかないと。そう意気込んで取り掛かってはみたものの。


「あれ?」


 赤松さんの手の中にあった亡者は急速にグズグズとその姿を崩していった。あれかしら、調べが入ろうとすると崩壊するようになってたって事かしら?


「え?なに?わざわざグロい方法で止めを刺すためにマスターに確保をお願いしたの?」


「いやいやいや!どんな非道なのよ!逆探知しようとしたけど、なんか自壊する仕組みが仕込まれてたみたいで」


「「・・・・・・・」」


 何故か二人とも無言。あれ?信用されてないの?!


「まぁ、どっちみち、うまく行かなかったし別にいいですけど。それにしても赤松さん、聞いてたよりずっと強いみたいじゃない。どうして秘密にしてたの?」


「いや?僕はそんなに強くないよ?」


 自覚無しかよ。


「・・・いくら強くても、最低限、吸血種に監視されている事情ぐらいは把握してないと危ないわよ。心当たりとかないの?」


「「?????」」


 うん、ダメだ。二人とも不思議そうな顔してる。

 なんか赤松さんって目的を果たす前に人知れずポックリ逝っちゃいそう・・・・いえ、無意味に強そうだから大丈夫かしら?


「じゃあ、ちょっとトラブルもあったけど、これ渡しとくからよろしく」


 そして、赤松さんは私に小太刀を渡すと颯爽と帰って行った。ただ荷物を引き取るだけのつもりだったのに・・・どっと疲れたわね、本当に。


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