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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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3-7:猫と修行パート 仲良く出来ればいいなと

 単なる付き添いの依城です。もはや普通に旅行に来ただけの気分です!美味しいもの食べて、楽しくお話して、ちょっと荷物受け取って帰ると。こういうのいいですよね!!

 と思ってたんですけど


「・・・・入って」


 姿を見せた刀匠の方は女性でした。年の頃は・・・私よりかは上、赤松さんと同じぐらい?まぁ、それはいいですよ。このご時世、刀を打つ女性もいるでしょう。でも先導して歩いてるのにチラチラ赤松さんの方を振り返っているのが・・・ちょっと気に食わないですね。一言で言えば、それはマナー違反でしょう。普通は分かりますよね?こんな山奥まで一緒に来てる男女なんだから。

 ・・・・・・

 ・・・

 いやいや、少し頭を冷やさないとダメですね。訳の分からない独占欲に振り回されるのはよろしくありません。単純に自分が打った刀の持ち主になる人だから気になるだけなのかも知れませんし。

 落ち着こう。大丈夫。私は大丈夫。クールになれ。クールだ。


「・・・取ってくるから待ってて」


 そんな事を考えていると、いつの間にか工房のようなところの前まで来ていました。庭の真ん中にポツリと、まるで昔からずっとそこにあるかのように・・・いえ恐らくは本当に昔からそのままの姿を残しているのでしょうね。そこから伝わってくる雰囲気は魔術師の工房と同じ、世の中から切り離された場所の空気感そのもの。魔術師も、魔術のための道具を作る職人も、実際のところはたいして差なんて無いって事なのでしょうか。


 そして田村さんが短い刀を持って戻って来ました。鞘は白木造りでコンパクトにまとめて・・・・って随分短くなっちゃいましたね。刀というか小刀のちょっと大きい奴、みたいな感じです。


「・・・・刀身にかなりの損傷があったから、無理やり修復しても小太刀に作り替えるのが精一杯だった。でも強度に関しては元々の刀に込められてた術式に加えて、私も手を入れているから問題は無いはず」


 無表情にそう言いながら刀、小太刀を赤松さんに手渡した。


「抜いてみても?」


「・・・どうぞ」


 赤松さんが小太刀を鞘から抜き放ち、その刃を皆に見えるようにかざす。刃は決して化粧研ぎを重ねた日本刀のような輝きがあるわけでは無い・・・が、それでも


「綺麗ですね」


 当たり前のようにそう称えたくなる出来栄えだった。

 田村さんが一人静かに得意げな顔をしている。赤松さんは刃の綺麗さには関心が無いのか少し握りを確かめて構えるような動作をした。


「うん、こりゃいいや。うまく片手で扱える重心になってますね。ありがとうございます」


「・・・・良かったですか?」


「元々、右手だけで振るいたかったから丁度いいですよ。元の刀を自分で折っといてなんですけど、今の方が良いかなって」


 ハハハと赤松さんは笑う。心なしか何か誤魔化してそうな雰囲気がありますね。


「あの・・・試し切りを・・・見せて欲しい」


 田村さんからのリクエスト。見せて欲しい?して欲しいじゃなくて?


「概念霊装に近いレベルの刀を打った事は初めてで・・・もし不備があったら大変だから」


 いや、あなたが見たいだけなのでは?でも気持ちは少し分かるかも。


「ねぇ、赤松さん、お言葉に甘えて少し試させてもらいましょうよ?」


 私がいきなり口を挟んだからだろうか田村さんは少し驚いたようなお顔。


「・・・あなたは刀には興味が無いのかと。ありがとう」


 いいんですよ、と軽い笑顔で伝える。正直、私は刀の事は分かりませんし、そこまで関心も無いですけど。


「じゃあ、何を切りましょうかな?」


 赤松さんも乗り気な様子・・・って相変わらず刃物を持たせると言動が若干怖いですね。田村さんが何も言わずスタスタと工房の奥に入っていく。と思ったら、すぐに戻って来た。

 手には長い木の棒・・・と言うか、普通に1メートル弱の角材。


「試し切り用の畳表の用意は後でするから、まずはこれを切って欲しい」


 いや・・・意味ないでしょ、そんなのじゃ。なんでも良いから自分の打った刀が振るわれるところが見たいって事?


「はい」


 ポンと角材を赤松さんに投げ渡す田村さん。庭の邪魔にならないとこに行って切ったらいいのかな?

 そこで赤松さんが予想外の動き。受け取ると思った角材を避けて斜め前に前進。なんで?「角材なんか切る価値無いぜ!」みたいな??


 誰も受け取らないまま虚しく地面に落ちる角材。そして、地面に落ちるなりバラバラといくつもの破片になった元角材。


 ん?!切ったの???いつ?どうやって???


「あー、軽くて取り回しが良くて凄くいいですねー。ねぇ、後で強化魔術をのせてみても?」


 やった本人からの解説無し。


「・・・凄い。何も見えませんでした。・・・・・・えい」


 田村さんが破片を拾って投げる。もちろん、それも当たり前のように空中でバラけて落下する。


 注視していても切っているところが見えない。いえ、鞘から抜いているところさえ見えない。流石にここまで来ると、ちょっと気持ち悪い光景ですね。


「えと、そろそろ強化魔術を」


「いい・・・・やってみて」


 鞘も含めて小太刀全体に薄青い光のラインが通る。

 様子を見ていて思ったのですが、得物全体に魔力をガンガン流すから今までうまく行ってなかったのでは?私が言うのもなんですけど加減しましょうよ。


「ふむ、なんの問題も無いね。ありがとう。これなら凄く使えそう」


 強化魔術を解除し満足そうな赤松さん。試し切りは何やってるのか分からなかったですけど、満足出来たようで良かったです。


「・・・・畳表も用意してくるから少し待ってて」


 田村さんはそう言って小走りで工房の奥に消えて行った。・・・なんと言うか独特な人ですね。まぁ、魔術師なんて私も含めて変なのばっかりですけど。


「そうだ。・・・小太刀以外に必要なものありますか?」


 去ったと思ったら戻ってきた。追加注文の確認って。気難しい人って聞いてましたけど、気に入られたのかな?


「そうですね。得物はこの小太刀で十分なんで・・・左手用の防具が、切断に耐えられるような概念霊装的な物があれば」


「・・・・すぐには無理。でも・・・ちょっと考えてみますから」


 そして、また小走りで工房の奥に戻っていく。引き続きで何か作ってくれるんですかね?でも取りに来るのが正直面倒です。だいぶ遠いし、山の中ですし。・・・あれ、そう言えば


「赤松さんって防御にも興味あったんですね?攻撃は最大の防御みたいな畑から来た人なのかと。今までそういう素振りを見せた事も無かったですよね?」


 あら?わりと珍しい赤松さんのちょっと困ったような顔。実はそこに何か隠された事情が?


「単純にマスターは防ぐ方法とか持ってないだけよ。正直、そこまで手が回って無くて」


 傍で静かに試し切りを眺めていたクロちゃんからの回答。


「・・・面目ないっす」


 時々混じる柏木さん的表現。きっと、これは丁寧語のつもり。


 そして駄弁っているうちに田村さんが試し切りの的?の畳の巻いたやつを持って戻って来た。


 そこからは赤松さんが見えない速度で切ったり、あえてゆっくり見えるような速度で切ったり、強化魔術をかけて切ったりと田村さん大喜びの展開が続いた。どれぐらい喜んでいたかと言うと、ずっと無表情だった田村さんがだらしなく「にやついた顔」を晒すぐらいには喜んでいました。ぶっちゃけ若い女性がする表情では無かったですが、私としては「やっぱり変な人だった」という事が分かり、なんとなく親近感を覚えたり。そして、気が済むまで試し切りした後は、田村さんが用意してくれていたお昼を皆で頂いて、さようならの時間と相成った。


 ちなみに手土産として持ってきたおやつも食後に頂いてしまいました・・・なんか前にも同じような事をした記憶がありますね。


 それにしても、楽しくなかったとは言わないですけど帰路の時間と、そして、また出来上がった装備を取りに来る手間を考えると・・・少し憂鬱です。お見送りをしてくれている田村さんと話をしつつも、私はそんな事を考えていました。

 でも・・・


「じゃあ、また出来上がったら連絡します。・・・・奥さんもまた一緒に来て」


 最後に田村さんはそんな事を少しはにかみながら言ってくれて。

 ・・・・・・

 ・・・

 次は田村さんに会いに来るって考えると長時間の移動も苦じゃないかも知れません。

 せっかく縁があった人なのですから仲良く出来ればいいなと。私はそんな事を思いました。

 


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