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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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3-6:猫と修行パート 最近全然仕事してない気がするけど・・・

『支部長も師匠も余裕無くて俺も手を離せそうにないんで、申し訳ないんっすけど、仕上がった刀を取りに行って貰っていいっすか?仕上げた物は直接取りに来るのが礼儀だろうって先方怒ってまして』


 依城さんが九州から帰ってきた翌朝、柏木さんから電話があった。と言うか、支部長たちと何やってんの?


『前提となる準備を進めるのに、うちの魔術を覚えてもらう必要があるんっすけど、どうにも、ちょっと難関みたいで。師匠は要所要所で休んでるからマシっすけど、支部長はもう二徹目っすよ。俺も離して貰えなくて、ろくに休みもとれてないっす。マジ昔の人は無理をするのを良い事だと思い過ぎっすよ』


 声からも疲れているような感じだとは思ったけど


『というわけで、刀をよろしくっす!細かい場所とかはメールで送っとくんで依城さんと旅行がてら楽しんでくるといいっすよ!じゃあ、支部長が呼んでるんで行ってくるっす!!』


 柏木さんは一方的にそう言い残すと電話を切った。疲れてるけど元気そうで楽しそうな声だった。意味分からん。言い出しっぺは僕だけど、みんな何やってるんでしょうな?本当に大丈夫なの、これ?


「支部長さんが頑張ってるなら大丈夫じゃない?・・・たぶんだけど」


 クロも流石になんとも言えない様子。ちなみに、珍しく真顔での発言だった。


「どうしたんです?二人して微妙な顔して」


「微妙な顔ってどんな顔よ?マスターはアレとしても、わたしはいつも通りよ」


 依城さんが朝風呂から帰還。まだ湿ってるだろうにクロをそのまま抱き上げる。濡れてても抜け毛とかが付くわけじゃないから問題無いんだけどね。


「いや柏木さんから電話があってね。手が空かないから刀を取りに行って来てって」


「確か今って課長と四谷さんも集まって、新しい術式の開発か何かやってるんですよね?開発が佳境に入ったとかですか?」


「いや、まだ入り口も入口って感じみたいだけど」


 その時スマホに着信。柏木さんからの詳細連絡だろう。すぐさま内容を確認すると住所と行き方とお勧めの旅館の情報までセットになったメールが・・・って忙しかったのでは?変なところでマメだね、彼も。


「次の旅行先は岩手県だってさ」


「「??」」


「蜘蛛の刀は岩手県の刀匠が直してくれてるらしいよ。もう出来てるらしいから、いつでも行けるみたい」


「なるほど!また旅行ですね!でも、なんでわざわざ私達が行く必要があるのでしょう?」


 依城さんのごもっともな疑問。


「わたしが思うに、作り手のこだわりとして、使い手が振るうところを見てからじゃないと渡したくない、みたいな?」


 クロの想定だけど、きっと、その辺りが理由かな?刀匠っていうカテゴリの人と会ったことないからあくまで想定だけど。ちなみに、イメージは頑固おやじの職人って感じ。


「理由はともかく一回行ってみるのもいいよね、僕の刀だし。依城さんも急ぎの仕事が無いなら一緒に行こうよ?」


「ええ、そりゃ、もちろん!つい先日まで九州で大仕事してたわけですし、たまには休暇も必要ですからね!」


 昨日から我が家に滞在してるけど、これは休みじゃないのかな?



 そんなわけで、早速その日のお昼前に新幹線で現地へ向けて出発。とは言え、最寄り駅に着くのが夕方。刀鍛冶の人のところに行けるのは翌日という事になるので、なんというか日本も広いですねって感じ。

 お昼は新幹線の中で駅弁を食べて、だらだら駄弁ってるうちに到着。残念ながら柏木さんお勧めの旅館は予約を取れなかったので駅近のビジネスホテルにチェックインを済ませ、とりあえず今日は美味しい晩御飯を求めて街に繰り出す。

 クロを頭の上にのせ依城さんと一緒にいざ夜の街へ。

 ・・・・・・

 ・・・

 って良いの?!一応、仕事で来てるはずなのに、こんなので本当に良いの?!二人分の新幹線代とか宿泊費とか普通に自腹で出すよ?だって、これ、完全に旅行じゃん?!これ、ただの旅行じゃん?!


「どうしたんです?挙動が不審ですけど」


「遊び惚けてるだけなのに給料貰ってもいいのか不安になってきた」


「マスターは変なとこで気が小さいわねぇ。ナギと一緒にいるんだから支部長はオッケーしか言わないわよ」


「・・・・それはそうだけど心情的に・・・なんだろう??罪悪感??勤労意欲??」


「よく分からないわね」


 クロからの共感は得られない模様。猫だからね。

 依城さんも・・・・ダメっぽい。なんだか不思議そうな顔。より具体的に言えば、半笑いで可愛らしく小首をかしげていらっしゃる!支部長!甘やかしすぎ!!労働と報酬に対する意識が低い!!

 ・・・・いや・・・別にいいのかな?誰が困るわけでも無いし。でも僕達の給料が関連団体とかから巻き上げたお金から出てるとしたら

 ・・・・・・

 ・・・

 もう考えるのはやめよう。気にしてもあんまり意味ないし。路線修正。


「それは置いといて御飯何にしよう?」


「やっぱアレじゃないです?焼き肉と冷麺。あんまり時間が無くて詳しくは調べられてないですけど鉄板ですよ、きっと」


「なるほど」


「そうね。わたしもお肉だと嬉しいわね」


「んふふふ、そう思ってお店は何件か見繕ってありますから!にしても、3人で外食するとお肉の率が異様に高い気がしますね?」


「そこは、ほら、肉食獣もいるし?」


「あら?わたしは何でも食べるわよ?」


 そんなやりとりをしつつも、結局は焼き肉を食べに行った。美味しいけど、僕の味覚だと何処の牛でも「美味しい」としか分からないのが残念。みんなは分かるものなのかな?


 そんなわけで、普通に楽しい時間を過ごして、翌日の早朝、と言うか朝の5時!ホテルの前からタクシーで出発!!刀匠の人がね「10時までに来い」ってメールくれましてね・・・山奥に住んでるくせに指定の時間が早いのよ。しかも、こっちからのメールには応えやがらないし。


 タクシーで山奥へ。延々と続く同じような道をグイグイ進む。4時間もあれば到着するけど・・・・暇すぎる。クロは寝てるし、依城さんも、いつの間にか寝てる。僕はなんとなく眠れないのでボンヤリと刀の事を考える。とりあえず魔力を流しても壊れない武器を持てる事は僕にとって有難い。不測の事態があった時に対応が取りやすいし、刃物としての概念度が高ければ高いほど「あの魔術」の発動も容易くなるし精度も上がる。


 それに柏木さんも「蜘蛛の力」の方に用があるみたいだし・・・まぁ、これは刀匠の人には関係ないから、今日はどうでもいいか。にしても


「僕の刀か」


 誇らしいような、むず痒いような妙な感覚がある。


「おっ、お客さん、刀を作ったんですか?観光の人かと思ってましたよ」


 独り言をタクシーの運転手さんに拾われた。あら、うっかり。


「ええ、ちょっと齧ってましてね」


 嘘じゃない。齧ってるのは剣術じゃなくて魔術の方だけど。


「最近ね、若い女性の間で刀鍛冶が人気らしくてね。こんな山奥にもちょいちょい見に来てくれる人がいるんですよ。だから、てっきり、そっちで寝てるお嬢さんの付き添いなのかと」


「へぇ、そんな事もあるんですねぇ」


 と知らない感じで返事をするが、アレだ。アレの影響だね。オタクの行動力マジすげぇ。こんな山奥まで普通は来ないでしょ?


 そして関心を示しつつも、会話が途切れた事をこれ幸いにと黙り込む。多くを語るとボロが出るだけだからね。コミュ力に自信も無いし、細かい話は誰にも言えないもの。

 続けて目も瞑る。もう話しかけないでのサイン。依城さんも寝てるし僕だけじゃ雑談だけで何時間も間を持たせるなんて不可能なんよ。それから2時間ほどして、空気を読んでくれた運転手さんの協力もあり、無事に刀匠のお宅に到着した。


 見た目は古いけど立派な日本家屋。なんとなく工房的なイメージを持ってたけど、なんだか普通に立派なお屋敷。僕とクロがなんとなくお屋敷を見ていると、


「ありがとうございましたー」


 結構な金額を依城さんが運転手さんに払ってタクシーを見送っていた。ありがとう・・・でも、あれだね。傍から見たら、これ交通費さえ女性に払ってもらってる趣味に生きるダメ男に見えるような?


 大丈夫だよ?経費だし?僕も働いてますし?ヒモじゃないよ?たぶん。


「さぁ、それじゃ、早速お邪魔させてもらいましょうか」


 依城さんが意気揚々と呼び鈴を押す。

 ・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・・

 反応が無い。誰も出て来ない。確かにちょっと早く来ちゃったけど。なんとなく依城さんと顔を見合わせる。あら、どうしましょう、みたいな感じ。

 その時、ほとんど気配も物音も感じさせず、ほんの少し扉が開いた。


「・・・いらっしゃい」


 扉の隙間から、こちらを覗き込む怪しい人が一人。声は女性のもの。このお屋敷の人かな?


「すみません。本日お約束をさせて頂いている赤松と連れのものなのですが」


 依城さんが外向きの上品なスタイルで自己紹介を行ってくれた・・・ぼんやりしてたらいかんな、僕の事なのに。


「・・・・入って」


 ドアが開かれ、中に招かれた。そこに広がっていたのは、苔むしているけど立派としか形容出来ない日本式のお庭だった。そして、隙間から覗いていたのは、煤で汚れたツナギを着た、依城さんと同じぐらいの年頃の女性だった。髪は短くまとめられており、鍛えているのか肩幅は普通の女性より随分としっかりしている。つまりは


「私がここの刀匠。・・・・田村です、よろしく。あなたの刀、もう出来てるから」


 この聞き取り難くボソボソとしゃべる女性が僕の刀を打ち直してくれた人らしい。

 別に問題は無いのだけど、刀匠という言葉から受けるイメージとは随分かけ離れた雰囲気の人だな、なんて事を思ったりした。

 


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