3-5:猫と修行パート 修業開始っすよ!!さぁ、さっさと理解するっす!
「構成が甘すぎるな」
支部長がぼそりとダメだしをする。
「申し訳ないっす」
今まで理論と道具作りばかりで実践をサボっていたツケを払ってるって事だろうか・・・なんというか越すべきハードルの高さを実感中。と言うか、何か既にどうにもならない感じっすよ、これ。
東京で支部長が用意してくれた場所は郊外の雑居ビルだった。ちなみに、ワンフロア丸々である。今はそこにあれやこれやと機材を運び込んで検証を行っている。そう検証。まだまだ具体的な作業の準備にまで辿り着けてはいない。
方針としては蜘蛛の刀に込められているはずの『特殊な結界』的な物を魔術的に再現する事が目標になる。本当は『自力で世界の一部を塗り替える術式』が使えたら解決なのだけど、そんな魔術の奥義みたいなのがサラっと出来るはずもなく、目指すべきは次善の策といったところ。
ちなみに、やるべき事は大きく二つ。まずは、蜘蛛の刀から術式の要素を抜き出す。これは俺の得意とするところなので、恐らく問題は無い。そして二つ目が、その抜き出した術式を元に特殊な結界を構築する事。これが難しい。
刀から抜き出した術式の要素を変形して結界に組み込むという流れのため、結界の構築まで俺がやる必要があるのだけど・・・あるのだけど
「・・・やはり難しいか」
支部長が残念そうにポツリと溢す
いや仕方ないっすよ?!そんなの「いきなり結界を作ってみろ」とか言われても出来るわけないじゃないっすか?!専門の教育を受けた事も無いし、結界の専門家でも無いのに!!そんな無茶言うなら支部長が刀から術式引っこ抜いて結界作ってくれたらいいじゃないっすか?!
まぁ、そんな事はとても言えないっすけどね・・・上司だし・・・他に方法が無い故の無茶ぶりだってのも分かるし。
「やっぱり別アプローチが必要みたいね」
四谷さん、もとい師匠が物憂げにそう言った。ちなみに今日の師匠は何故か水商売風の派手なスーツ姿だったりする。わりと意味が分からないが、きっと師匠なりのこだわりがあるのだろう。案外、支部長に初めて会うから師匠なりに正装したつもりなのかも知れないっすけど・・・聞いたら怒られるだろうから聞かないっす。
「ねぇ、柏木君、蜘蛛の固有魔術の要素を抜き出すのと、それを弄って結界を作るのを別行程に出来ないの?結界を作る工程は外だしにして、そこは支部長さんにやって貰えれば、あなたの負荷も減るんじゃない?」
「・・・ちょっと待ってくださいっす。考えてみるっす」
「今から柏木に結界術を仕込むよりかは、別の可能性を探した方が確実かもなぁ」
そんなガッカリされたように言われても無理なものは無理っすよ。
師匠ももうちょっと具体的にアドバイスして欲しいっすね。俺から色々と巻き上げてるわけなんっすから。それこそ取って置きの・・・
「そうか!師匠、展開前の術式を魔力結晶に転写というか保存というか、そういう事って出来ないんっすかね?」
頭の中にしか無いものを現実に作り出すような魔術よりかは簡単っすよね?魔力結晶に保存出来たら、そのまま結晶の魔力を使って術式を展開するだけでいけるような?
「・・・・・出来る・・・かも知れないわ。柏木君のお家の技術を使って『事前に用意した術式』を魔力結晶に写せれば。やった事は無いけど、検討する価値はあるでしょうね」
「分かった。まず、その方向性でやってみよう。柏木、悪いが俺には何を用意したら良いか分からん。悪いが指導を頼むぞ」
「えっ?あ、了解っす!!」
と言うか、二人とも即断即決っすね!一つ提案しただけで次の動きがドンドコ決まっていく。これが優秀な人のスピード感!
「あぁ、でもその前にこの方向性が実現出来るか試してみましょうよ。幸い機材は支部長さんが色々と揃えてくれているのだし」
師匠はそう言いながら、自分のハンドバッグから小ぶりの魔力結晶を取り出したって・・・なんでそんな物を持ち歩いてるのさ。
あぁ、そうか。過去の悪事がバレて支部長から逃亡する時用の魔力タンク的な感じっすかね。でも、それを支部長に見せちゃったら
「おい、なんでお前がそれを持っている・・・そうか・・・おまえが、いや四谷さんが依城の言っていた協力者か・・・そうなるとあの件の原因になった薬を作ったのも」
ほらね。意味不明に頭の回転が速い支部長相手にそんな迂闊な事をしたらダメに決まってるじゃないっすか。さぁ、どうするっすかねぇ?なんだかんだで師匠がいなくなると・・・いなくなると・・・・・魔力結晶だけあったら困らないかも知れないっすね。さよなら師匠。
「いや、今はいいか・・・済んだ話をグダグダ言っても何の意味も無いしな。で、あれか、その結晶に術式を転写してみるって事か。おい、柏木どうすればいい?」
え?いいの?流しちゃうんっすか??わりと師匠って滅茶苦茶やってますよ??あれっすか?過去の悪事より依城さんって事ですか?支部長とは言え魔術師やってる人間に倫理を期待するのが変って事っすかね?
で、それはそれとして説明っすか・・・
「えっとっすね、簡単に流れだけ言うと、一旦起動待機状態にしておいた魔術を仮想の演算領域にコピーして、それを一回反転させてから依り代にした物に焼き付ければ実現出来るんじゃないかとは思うんっすけど」
「ふむ。さっぱり分からんな」
「柏木君、あなた説明下手ねぇ。それだとあなたしか分かんないわよ」
「えぇ、下手っすかぁ?!赤松さんは何を説明してもすぐ分かってくれてたっすよ?!」
「それは、あれだ。あいつは説明の内容じゃなくて『自分が何をしたら良いか』ってとこにしか興味が無いからだな。と言うか、それ以外は聞いてすらいないようなとこあるからな。それにしても、何だ『仮想の演算領域』って?いきなり未知の用語を混ぜてくるな」
「いや?そんな事ないでしょう?普通の演算領域だけだったら複雑な魔術の展開なんて出来ないじゃないっすか?」
「・・・出来るぞ」
「私も出来るわよ」
「・・・・・・・・・・・・・なるほど。うちの家系が道具を使った魔術の構築に力を入れていた理由、いま分かったっす」
そっか、俺の家系って魔術師に向いてなかったんすね、性能的な意味で。だから、それを補うために道具作りを。なんと言うか、衝撃の事実にちょっとガックリ来たっすね・・・他の魔術師と没交渉だったから今まで気付かなかったわけっすか。
「ほら、柏木君、へこんでないで、その仮想領域?の作り方って奴をサクサク教えなさいよ。役に立つ機会が来たんだから別にいいじゃないの」
「そうだぞ。魔術なんて発動さえ出来りゃ何でもいいんだからな。それこそ依城を見てみろ、滅茶苦茶だろ?」
いやあんた達、慰めるの下手過ぎでしょ。でも、確かに一人で燻るよりかは新しい可能性のために使える方がやりがいはあるっすね。
「・・・分かったっすよ!うちの魔術は無意味に難しいから覚悟するっすよ!!」
そして柏木流魔術の伝授を二人に開始する事になった。師匠と支部長に俺が教えてる状況って、よくよく考えると真面目に意味不明っすけどね。
ちなみに内容が独自過ぎるのか、俺が教えるのが下手なのかは分からないっすけど、速攻で行き詰ったっす。二人ともグロッキーっす。どうしたもんっすかね?




