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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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3-4:猫と修行パート つまりは、私と同じか・・・

「あー、あれですか」


 双眼鏡越しに目標を発見。なんか焼け焦げた家の残骸の方を向いて立ち竦む『黒い大きな人影』が見えます。独りぼっちの大きな影法師って感じですか。なんかもう一目で物悲しいストーリーが浮かんで来ます。やんなっちゃいますね、もう。


 と言うわけで今日も朝からお仕事に励んでいる出張中の依城です。こんな陰鬱な感じの仕事はサクサク終わらせるに限りますので早朝から頑張ってます。まぁ、寝袋しか無いとこでゆっくり寝てても意味ないですしね。朝御飯も赤松さんがよく食べてるようなチョコバーと水だけでしたし。


 最近は、こうやって呼び出される仕事がちょこちょこ入るようになってきたんですけど・・・なんかいつもね、私の扱いがね・・・・余裕が無い現場にこそ呼ばれるという事なんでしょうけど・・・

 いえ、そんな事は別に問題じゃありません。ちょっと我慢したらいいだけの話なんですから。問題なのはあの大きくて黒い凶暴らしい奴をどう処分するかです。


 とりあえず、まずは望遠鏡で観察中。もちろん結界は張った上で、万が一にもバレないように距離を開けての観察です。なんと!およそ2kmほど離れたところからの観察になります。ちなみに魔術とか関係無しに純粋に望遠鏡の性能で見ています。流石にくっきりとはいきませんが、考え事をしながら眺めるには十分なぐらいの綺麗さです。ただ重いんですよね、この双眼鏡。凄くしっかりとした作りで、いかにも業務用って感じ。もちろん、私も鍛えてますので、これぐらいはどうって事ないですけど、あまり長時間続けたくはないですね。


 そして、私の少し後ろには昨日運転手をしてくれた人が立っています。私を見張ってるのか、仕事ぶりを観察してるのか、あるいは背後から私を撃とうとしているのか・・・流石に撃たれる事は無いと思いますけど、何してるんでしょうね?報告要員ですかね?


 そんな事を考えながらも私は黒い人影の観察を続けていた。

 大きさは3メートルぐらいかな?全体的に細くて長い。事前に聞いていた鬼のイメージとはちょっと違う。鬼っぽいマッシブさが無くて、なんというか、あれだ、どっちか言えば餓鬼の方のイメージっぽい感じ。ひょろっとして細長い。


 なんでかな?術式が不完全だったのかな?それとも私のイメージがちょっと一方的だったのかな?

 見ている限りだと存在はしっかり安定してる。けど、動きも無いし、魔力の大きさも・・・正直それほどではない。前の白い犬よりかはマシだけど、薬の密売人ボスよりかは数段落ちるぐらい。はっきり言えば、犠牲を払ってまで呼び出したにしては「あんまりたいした事無いな」って感じ。おじいちゃんには悪いけどね。・・・と言うか、あれですね。まずは偵察のつもりでしたけど頑張ったら・・・いえいえ、初心を忘れず先ずは偵察を完遂しましょう。無茶はしないって約束しましたから。


 とりあえず、距離があるので簡単な式神っぽいのを作ります。魔術で対象を観測する時に使う中継ポイント用です。

 なんとなく鳥っぽい白い何物かを作りたいのですけど・・・形を整えるのが思っていたより難しい・・・まぁ、ほら相手は鬼ですし!形で怪しんだりはしないし!要は魔力の漏れを少なくしてればいいわけですし!そこは自信がありますし!!


 ほれ、飛んでけー!!


 白い何物かが結界を抜けて黒い鬼の方にスーッと飛んでいく。羽ばたいたりしないので普通にキモい。


 黒いのは全然動きません。念のため、黒いの後ろ側、500mぐらいですかね、少し離れたところの木の枝に式神をぶら下げます・・・ぶら下げるという変な動作をさせたのは「脚を作れなかったので枝に留めるなんて複雑な事は出来なかった」ってだけの事です。それは置いといて、さて、近くでじっくりと観察開始。


 黒い体は魔力が固まって「それっぽく見えている」だけではなく、ちゃんと実体を持っているようです。光で透けたりしていないし、輪郭もぼやけずにしっかりしています。つまり、中の人がどうなったかは、ちょっと見た目だけでは分かりません。


 次は魔力の質の確認です。式神経由でこっそり探査魔術を使います・・・黒いのが一瞬身じろぎしたような?そうでもないような?気のせいですかね??まぁ、気を取り直して分析分析・・・ふむ、残念ですけどよく分かりません。分からないと言うより、鬼の暗い魔力がべったりで何も見通せないって感じでしょうか。・・・事件が起きてから5日目らしいですし、『鬼』とやらを降ろした孫娘さんの存在は鬼の意思的な物に飲まれてしまったのでしょう。


 ・・・・・・・あれ、ホントにそうかな?


 おじいさんは降ろした『鬼』を自分達の力の象徴にするつもりだった。そうなると鬼さんには常駐してもらう必要が、少なくても鬼の力だけは、いつも傍にいてもらう必要が出てくるわけで。


 そう考えると、やりようとしては一つしかありません。


 力を制御する事も出来ず、とは言え、その力を手放したくはない。それならば『力』を自分達で扱える形に変えてしまえばいい。意図的に『鬼』と『降ろされた孫娘さん』の存在的な物を、あるいは魂と呼ばれるような物を混ぜちゃったわけですね。つまりは・・


「私と同じか」


 そうなると、朱天の力はここでは見せない方がいいような気がします。あれです、成功事例を見せつけられて「やる気が復活した!」みたいになっても困るわけでして。むしろ、積極的に心を折っていきたい所存。「お前たちが犠牲を払ってまで手を伸ばした力なんて、たいした事はないんだぞ」そんなメッセージを強く伝えて今回の仕事の幕引きとしたいところ。

 ・・・・・・

 ・・・

 んじゃ、まぁ、最近定番の遠距離砲撃で行ってみますかね。普段の私なら黒い杭でも作るとこなんですけど、相手は鬼ですし、抗魔力的な術式なら効くでしょう、たぶん。

 いつぞやのレイスに使った実績のある・・・それしか実戦で使った事の無い術式を展開する。霊体に効率よくダメージを与える光の柱的な物を構成する魔術ですね。でも流石に2kmなんて遠距離では届かないので、まずは砲弾をイメージして細長い形に整形・圧縮し魔力をどんどんと込めていく。威力が高すぎて悪い事なんてきっと無いですから。魔術は強ければ強いほど良いものですから。それに万が一、中途半端に生き残っても可哀想なだけですし。一撃必殺。それが先輩として出来る唯一の慈悲でしょう。


 そんな事を考えながらもドンドンと魔力を圧縮していくと、理由は分からないけど砲弾がメッチャ光り出しました・・・あれ?やり過ぎた??


 後ろからドサリと音がする。振り返らなくても分かる。運転手さんが腰を抜かした音でしょう。また怖がられるのは・・・ちょっと残念ですね。


 そして撒き散らかされる魔力に気づいたのか、いつの間にか黒い鬼が、こちらへと視線を向けている。

 そら気になりますよね。なんかもう光り過ぎて大型のスポットライトを浴びせてるみたいになってますもの。


 何故こんなのになったのでしょうね?制御が甘い?それとも注いだ魔力が多すぎた??まぁ、いいですか。手元で爆発してもたまらないし撃っちゃいましょう!


 当然、手動では上手に当たらないので、まず式神を鬼にぶつけます!

 あえなく散る式神!また会う日まで!次はちゃんとした形にするから!

 そして鬼の周囲に漂う式神を構成していた私の魔力!!


 それを目印にして砲弾というか魔力の塊みたいになった術式を発射!普通に自前の魔力で弾き出しただけですけど、簡易の誘導弾みたいなものですね。


 莫大な魔力で押し出された砲弾は意味の分からないスピードでもって鬼に激突しました。

 魔力の塊なので音はしません。でも、その代わりにとても大きな光の柱が現れました。着弾地点を中心として、上下方向に余剰魔力が大きくのびのびと解放された結果です。

 ここからでも、つまり2km先からでもはっきりと見えます。空へと伸びる白い光の柱、ちょっと綺麗です。


 ・・・もうちょっと遅めの時間、お昼過ぎぐらいに撃った方が目立たなくて良かったかも知れません。どう見てもやり過ぎの目立ち過ぎです。正直、魔術というより何らかの戦略兵器が使われたっぽい感じの光景。・・・魔力を込めすぎると、こんな風になるんですね。勉強になりました。

 まぁ、やってしまった物は仕方ないですよね?


 ちなみに、着弾観測の方ですが、鬼どころか焼け焦げたお家も思いっきり光に飲まれてます・・・遺留品は絶望的でしょう。


「一体、何が・・・・・」


 運転手さんはまだ腰を抜かしたままです。大変な事ですものね。


 暇なのでぼんやりと現場を眺めていると光がスッと薄れ消えていきました。とりあえず双眼鏡で見てみますか。うん、家は崩れてますし鬼の姿は何処にも無いですね。魂さえもあっちに持っていかれてたら死んだって何も残らないですから。私も気を付けないと。


 あぁ、そうでした。


「すみません。おじいさんに報告したいので電話を貸して頂けますか?」


 私の電話、まだ返して貰えてないですから。

 運転手さんは、電話を繋いでから私に手渡してくれました。サービスが素晴らしいです。


『・・・終わったのか』


「ええ、特に滞りなく。でも、少し火力が強かったみたいで、現場には何も残ってないと思います。あとお孫さんですが」


『いい・・・それ以上はいい・・・分かっている』


「そうですか。では、ご自身がどうされるべきかも分かってますよね?」


『・・・分かっている。もちろん、分かっている』


「了解しました。後はお任せします。もし、まだ何かあるようでしたら支部長の磐田までご連絡をお願いします。では」


 一方的にそれだけ言うと私は電話を切って運転手さんに返しました。

 ・・・・・・

 ・・・

 さぁ、お土産を買って帰りましょうか。陰気な仕事を引きずってても仕方が無いですからね。

 


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