3-3:猫と修行パート お風呂が無いのが一番つらいですね
お土産って何処で買えばいいのでしょう?
そんな事を悩んでいる依城です。九州って色々美味しい物があるじゃないですか。だから特に下調べもしないで適当に来たんですよ。何処に行っても何かあるだろうって。そしたら新幹線の熊本駅を降りてからずっと車での移動なんです。と言うか、ずっと山の中なんです。・・・ホント山道が続きすぎなんですよね。昼前に駅を出て、もう夕方なのに、まだ到着してないですから。
となると、もう絶対に到着地点は秘境じゃないですか?最早『お土産を売っているところなんてあるわけないですよね』っていう予感しかしません。
しかも「機密保持のためにお願いします」とか言われてスマホも取り上げられたし、かと言って話し相手がいるわけでもないし、何かする事があるわけでもないし。つまり、凄く暇です。
セダンの後部座席でぼんやりとして時間を潰すだけの退屈なお仕事。
何気なく左手を持ち上げ薬指につけた指輪を眺める。
シンプルな指輪。
赤松さんと一緒に買って、私が魔術を込めた『私達のペアリング』。
見ているとなんとなく気分が落ち着く。いえ、むしろ、これは何だか眠たく・・・
「ご結婚されてるんですか?」
おぉ、びっくりした!運転手の男性が話しかけてくれた。もう4時間ぐらい運転してくれてて初めての発言。やぁ、びっくりさ。
「いえ、まだ結婚ってわけじゃないんですけど、えと、この業界によくある話で彼が訳ありなので、そのうち事情が解決すればって感じでして」
こんな答えでいいのかな?久しぶりの他所の人との会話なので無意味に緊張感があるぞ?!
「あぁ、そうでしたか。では少し早めですが、おめでとうございます」
運転手さんは少し笑いながらそう言ってくれた。
「あ、ありがとうございます!」
うわ、これ、なんか嬉しい。不思議と認められた感がある。なんだか自然と笑みが浮かんでくる。
「話に聞いていたよりも、随分と普通の方なんですね。もっと怖い方なのかと思ってました」
「あー、そうですか・・・・」
怖くないよ。普通のOL(偽)だよ?・・・どんな話を聞いてたのか少し気になるかも?質問してみるかな、今後のためにも。
「素朴な疑問なんですけど、私ってどんな風に語られてるんですか?自分では怖い感じの人じゃ無いつもりなんですけど、皆さん一歩引いてる感じがあって」
さぁ、どうだ。どう来る?!
「いやぁ、ちょっと言い難いんですけど、呼ぶと問答無用で殲滅戦になるとか、相手の意思確認もせずに先手で皆殺しにするとか、そんなのばっかり聞きますね。少しお話をするだけでも、そんな人じゃないってのは分かるのに。噂話ってのは怖いものですね」
ハハハと彼は笑う。私もフフフと笑う。
殲滅戦、先手で皆殺し・・・少し前にやってしまったような気がしますね。いえ、バッチリ記憶にあります。そうですね、確かにやりました。やっぱ不味いですかね、ああいうのは。
帰ったら赤松さんに相談しましょう。そう言えば赤松さんもスタンロッドとか使ってましたね。私もそういう方面の努力をすべきだったのでしょうか?でも、あんまり余裕をかましてリスクを上げてしまうのも本末転倒感がありますし。
「お気を悪くされたら申し訳ない。でも噂は噂ですし、そんなに気にしなくてもいいと思いますよ。それこそ今回を機に私が『そんな事は無かった』って話をしておきますし。きっと悪い噂なんて、すぐに無くなりますよ」
「ハハハハ、アリガトウゴザイマス」
ヤバいですね。事実の流布が私の評判を落としているという事が判明してしまった今となっては、その心遣いが非常に心苦しい。・・・・よし!話題を変えましょう!
「ところで!お土産を買って帰りたいんですけど、着いた先で買えそうなとこありますか?」
「・・・いや申し訳ないですが、買う機会は無いのではないかと。自分も詳細は聞かされていないのですが、今日は中継地点で説明を受けて宿泊、明日早朝から作戦開始の予定らしいので。
また帰りも駅まで送らせてもらうので駅で買うといいと思いますよ。色々売ってるでしょうし。旦那さんって好物とかあるんですか?」
あらやだ旦那さんですって。なんか気分が良いですわー。
「特に際立った好物とかは無いみたいですけど、強いて言えば鶏肉でしょうか?」
果たしてサラダチキンが好物かどうかは意見が分かれるところかも知れないですけど。でも毎日食べてますし。
「鶏ですかぁ・・・鳥刺しは持って帰るには難しいですしねぇ。ちょっと考えておきます」
「あっ、でも何でも美味しい美味しいって食べてくれるんで普通に地元の名産品で大丈夫だと思いますよ」
「はっはは、それは良い人ですね。ところでですが、そろそろ今日の宿ですので用意をお願いしますね。あまり綺麗なところではないでしょうが」
あら、やっと到着ですか。でも、運転手さんとお話が出来て良かったです。無暗に暴れたらいけないって方針にも気付けましたしね。
そして到着したのは・・・どう見ても民家ですね、これ。前に赤松さんと行った『結局泊る事が無かった民宿』より更にもう一歩民家に近づいた感じです。
「どうぞ、こちらに」
玄関まで案内の人が来てくれた。今度は女性。あれかな、気を使って貰えたのかな?運転手さんは屋外に放置プレイ、案内の人と二人で家の中へ。そして、また沈黙が始まる・・・・辛い。
奥の部屋、普通にテーブルが置いてあるダイニングルームですけど、そこに案内されたところ、一人のおじいさんがいました。
年のころは80歳ぐらいでしょうか。髪は真っ白で地味な着物で、なんだか非常に難しそうな表情をしています。今から話す事が嫌で嫌で仕方が無いって顔でしょうかね。悪名高い私をご指名で、しかも「一人で来い」って言ってる時点で気持ち良い仕事なわけが無いってのは分かってましたよ。それでも出迎えぐらい、もう少しマシな表情でして欲しい気もしますけどね。
「すまないが、早速説明させてくれ」
おじいさんがボソボソと話を始めました。まさに意気消沈って感じの調子です。
話はおじいさんの住まいである魔術師の隠れ里の説明から始まりました。面倒なので詳細はスパッと省略しますが、要は協会に所属していない魔術師を育成して色々なところに送り込み生計を立てていたそうです。私の立場からすると「舐めとんのか、おのれは」という感じです。魔術系の取引は、ちゃんと協会の許可を得てからにしましょう。で、そんな人が私にコンタクトを取ってきた理由ですが
「うまく行っていたはずなんだ」
おじいさんが更にがっかりした様子で語りを続けます。正直、ちょっと鬱陶しいですね。もう少しサクサク会話を進めて欲しいものです。
これまた無駄に長かったので要約すると「今風の魔術師に軽視されてるから古くから伝わる『鬼』とやらを具象化し、それをコントロールする事で自分達の立ち位置の復権を図ろうじゃないか!」っていう計画を立てたそうです。ちなみに、この内容に行きつくまでに一時間程度必要でした。長すぎません?
「うまく行っていたはずなんだ」
「それ、さっきも言ってましたよ。結局、何を失敗したんですか?」
「・・・口寄せの才が見込まれていた孫娘の一人に鬼を・・・鬼を・・・降ろした」
おじいさんはまるで懺悔をするように重い口調でそう続けました。目線は床に向け、こちらを見ようともしません。ウザい事この上なしでございます。
と言うか、自分でやると決めたのでしょうに。いざ失敗したら罪の意識に駆られるとか。悪いけどちょっとメンタル弱すぎる感じがしますね。ホント情けない。
「そして失敗したと」
「そうだ。そして鬼は村に居た者のほとんどを惨殺し、今も・・・人間だった時に住んでいた家で・・・ずっと・・・」
残念ですけど、よくある話です。ちゃんとセーフティを用意してないから、こんな事になる。それこそ協会に加盟してたら相談ぐらいには乗ってあげたんですけどね。
「状況は分かりました。明日の朝から動きましょう。まず対応は私が。もし手に負えないと判断する事があれば人を呼びますが・・・いいですね?」
「あぁ、それでいい」
下を向いたまま、おじいさんはボソボソとした声で了承の意を示してくれました。
「・・・・・すまない。孫娘を・・・頼む」
「ええ、分かってますよ」
それでその日の打ち合わせは終わりました。よくある話だけど、後味が悪そうで陰気な仕事。ちなみに、御飯はインスタントのカレーだけでした。お風呂は使えないそうなので体を拭くシートの出番。そして寝床はまさかの寝袋・・・・・豪華ホテルが懐かしいです。




