2-6:猫と彼の思い わたしはマスターが幸せになるための魔術なのだから
んー、そろそろ朝になったのかしら?この状態だと外の様子がほとんど分からないから不便なのよねぇ。
昨夜はなかなか進展の無いマスターとナギのために自発的にオフって姿を消してあげたのだけど・・・うまくいったのかしら?気になるし、ちょっと外に出てみましょうか。まだ早かったらコッソリ引っ込んだらいいし!
「おはよー、起きてますかー?」
こっそり自身を再召喚しマスターに呼びかける。召喚場所はデフォルトであるマスターの頭頂部付近。まだ寝てたから良い感じにベッドに着地。
ふむふむ。なんか二人で引っ付いて寝てるわね。いいんじゃない?
「ん・・・・おはよう、クロ」
マスターがモソリと起きてきた。朝だからというよりわたしが自分の召喚に魔力を引っ張ったから目が覚めたのでしょうね。
「おはよう、マスター、ゆうべはおたのしみでしたね?」
定番のセリフ。誰もが一度は言ってみたい定番のセリフ。まさか本当に使える日が来るとは。
「お楽しみ???久しぶりに良く寝れた気はするよ?夢は相変わらずだけど、なんかそれでも前よりかは気持ちが穏やかと言うかなんというか」
ふむふむ。会話が噛み合わないわね。よし。ナギも起こそう。
猫チョップ!
「あ??」
マスターの上半身に寄り掛かるようにして寝こけていたナギが変な声を出しながら目を覚ました。
「「おはよう」」
「・・・・え?」
顔だけをあげた体勢でポカンとした表情。寝ぼけてるわね。マスターを見て、わたしを見て
「ええ?!」
やっと自分がどこで寝てたか、気付いたわね。
バスローブの袖で顔をゴシゴシと・・・涎が垂れてたらまずいとか、そんな感じかしらね?でも、まずはマスターの上から降りた方がいいような気がするわね。まぁ、いいわ。ではもう一度。
「ゆうべはおたのしみでしたね?」
「えぇ?!そんな!別に?!私は?!」
謎の言葉を発し、ベッドの上から、と言うかマスターの上から素早く飛び降り衣服の乱れを一瞬で直す。本気を出したらナギもなかなか速いわね。マスターも楽しそうに笑いながら体を起こしベッドに腰かけた。
ん?・・・ひょっとしたら
「ひょっとしたらおたのしみは無かったの?」
・・・・・・
・・・
「あぁ、そういう」
マスターがやっと分かった様子。遅くない?
「・・・いえ、別にいいのだけど」
いいのだけど・・・・いいのだけど、あなた達、進展するの遅くない?
「いやぁ、昨日はちょっと僕が凹んでたのを励ましてもらってて。そっち方面に意識が向かなかったというか、何というか」
笑うマスター。それを横から、わりと本気でバシバシと殴るナギ。照れ隠しにしても力が強い。ほら、起きたばっかりなのにマスターがベッドに沈んでいくじゃないの。
とは言え、二人の様子を見ていると・・・わたしが気を回したのは無駄っぽかったけど、前よりもっと距離が縮まっている、ような気もするわね。ナギは前とあんまり変わらないけど、マスターが今までより自然に笑っているような?正直、最近のマスターはちょっと影があるというか、『心ここにあらず』って感じのところがあったし。記憶の制限が緩くなっちゃったから心配してたけど、結果としてナギに任せて成功だったみたい。うまく落ち着いたようで良かったわ。
「さてマスター。ダラダラ寝てないで目が覚めたら朝ごはんを食べに行きましょうよ!どうせ美味しいんだから、しっかり食べないと!!」
・・・あら?返事が無いわね。よく見るとナギが赤い顔をしたまま、いつの間にかマスターにマウントを取ってるわね。なんかフーフー言ってるし。
視界の端っこの方でじゃれ合ってる姿が見えるとは思ってたけど、何やってるのかしらね?まぁ、仲良く楽しくやっているなら別になんでもいいけどね、わたしは。
そして、それから結構な時間が経って朝ごはんを皆で食べに行った。凄く豪華な部屋だし誰か持って来てくれるかと思ってたけど、何時ぞやと同じパターンの食堂でビュッフェスタイルだって。ただそのクオリティが段違い。なんかもうキラキラしてるもの!・・・でもカニカマは無いのよねぇ。なんだかちょっとイライラしてきたかも。我慢するけど。
「美味しい!!」
マスターはまたパンを食べて感動してるし。なんだか最近パンを食べるたびにアレやってない?そんなに好きだっけ?ちなみに、それを見ているナギはニコニコと良い笑顔。ナギが周囲の目とかあまり気にしないタイプで良かったわね、マスター。
ちなみに、わたしはわたしでカニカマの代わりにハムとウィンナーをひたすらモグモグしている。やっぱり高級ホテルのだけあって、やけに美味しいわね。昨日のステーキ屋さんみたいに目の前に職人さんがいるわけじゃないから、人目を避ける魔術に気合いを入れる必要も無いし、正直こっちの方がわたしは好きかも?
「ねぇ、赤松さん、後でちょっとお願いが」
「うん。任せといて」
流石マスター、食い気味かつ思考無き同意。なんというか雑ね。
「内容ぐらい確認しましょうよ」
ほら、ナギもムッとしてるじゃん?
「いや、僕が依城さんの頼みを断るわけないじゃない?」
パンを食べながら当たり前のように答えた。時々マスターの精神構造に疑問を覚えるわね、わたしでも。
「そうですかぁ、なら仕方ないですね」
ナギは照れた様子でふにゃふにゃしている。いやまぁ、それで良いのなら別にわたしが言う事は何も無いのだけど・・・本当にそれで良いの?
「えとですね、今日はペアリングを買いに行きたいなって」
「あぁ、なるほど。指輪ってなんかナンパ避けに便利とかいうものね?」
マスター、たぶん、それは違うわよ。というか何故そんな発想が速攻で出て来るのよ?
「いえ、そういう実利というより、単に・・・その・・・憧れがあって・・・それに、ほら、アレですよ!ナンパされるなら私じゃなく赤松さんだと思いますよ?」
「いや、そんな事ないよ。別に僕は可愛くも何ともない脳筋なんだから」
「いえいえ、強いし、常識はあるし、協会に言われた仕事はちゃんとするしで、凄く有望視されてると思いますよ。行くとこに行ったら、きっとモテモテです。だから、ほら、しっかり目印を付けておくのも悪くないかなって・・・思いまして」
少し恥ずかしそうにナギは言ったけど、たぶん、そんな事は無いんじゃないかしらね?わたし、マスターがナギ以外の女の人と話をしてるのなんて、ほとんど見た事が無いもの。
「へぇ、そうなんだ」
ほら、マスターの返事に心が籠ってない。自意識低めでよろしいじゃないの。
「あれだよ。、心配しなくても依城さん以外には付いて行かないから大丈夫だよ。それはそれとして、せっかくだし丈夫な指輪が欲しいよね。ほら、僕達二人ともよく暴れるしさ」
「ええ!その通りですね!丈夫なの買いに行きましょう!!」
なんか変な盛り上がり方ね。
・・・でも二人が楽しそうなら、わたしはそれでいいわ。二人が仲良く楽しく生きられるなら、それで。
そんな二人を見ながらも、わたしはマスターが使う術式の最適化を少しずつ行っている。ゆっくりゆっくり時間をかけて少しずつ。
可能であれば、このマスターが壁を打ち破ってくれる事を願って、それが無理なら一つでも新しい可能性が見つかる事を祈って。
マスターがどう思ってるかは知らないけど、わたしはマスターが幸せになるための魔術なのだから。




