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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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2-3:猫と彼の思い 僕が思い出してしまった事は

 ホテルの中も一通り見物しましたし、次は買い物に行きましょう!お昼御飯前のウォーミングアップってやつです!


「さぁ、赤松さん!そろそろ行きましょう!服を買いましょう!若者向けのかっこいいやつを!」


「うん、行こうか。色々お店あるみたいだしね。でも、かっこいいやつ?依城さんは可愛い系の方が似合うと思うよ??」


「また、いきなり!もう!!」


 赤松さんの肩をバシバシ叩いておく。いきなり言われると私も恥ずかしいんですよ!!


「買いに行くのは赤松さんの服ですよ!せっかく鍛えてるんだから服も合わせた方がいいんですって!」


「えー・・・僕の服なんてどれ着ても変わらないって」


 本当に珍しく赤松さんが乗り気ではない。男の人って、こんな感じなんですかね?まぁ、普段はTシャツばっかりですもんね。


「量販店で売ってるジャケットってダボっとした形してるじゃないですか?赤松さんって凄く鍛えて肩幅が大きいから生地が余っちゃってるんですよ。だから、こうシュッとした形の上着に変えるだけで、だいぶ雰囲気変わると思いますよ?」


「へぇ、そうなんだ」


 おぉ、見事に関心が無い。


「わたしも、そういうのはよく分からないわねぇ」


 霊体化したままウロウロしていたクロちゃんも関心無さそう。猫ですし、それは仕方ない。


「大丈夫!私に任せておいてくれたら問題無いですから!」


 そして私は赤松さんの手を引いてお買い物に向かう。

 平日とはいえ流石観光地、周りはカップルだらけ。でも今の私達なら周囲との違和感は無いはず。そう、私達も周りの楽しそうな人達と同じ場所に立っている!いえ、立てている!そう!こういうのがしたかったの!こういうの!!


 まぁ、それはそれとしまして、服屋さんに行った時の赤松さんは、なんと言うか借りてきた猫?みたいな感じで着せ替えが実に捗りました。まさに言われるがまま状態。大人しくて扱いやすくて実によろしかったです。一方で本物?の猫さんの方はあっちにフラフラ、こっちにフラフラ散歩してました。他の人には姿が見えないとはいえ、ちょっと心配になりますね。誘拐とか迷子とか。


 と言うか、クロちゃんって地味に高度な事をしてますよね。私達には見えて、他の人達には見えない。つまり、選択的に見えるようにしている?どうやってるんでしょう?かなり不思議です。

 で、それはまた今度教えて貰うとして、ジャケットとパンツを買いました。ご本人の感想は「よく分からん」との事です。私は結構いい感じだと思うんですけど、なんだかうまく伝わらないみたい。私の事はよく褒めてくれるのに、自分が褒められてもピンとこないようで。男の人ってそんなものですかね?

 とりあえず私は満足出来たので良しとしましょう。ファッションに夢中の赤松さんってのもイメージと違い過ぎてキモイですしね。そこは私がフォローしたらいいわけですよ。


 そう!彼女である私がフォローしたらいいわけですよ!!

 ・・・・・・

 ・・・

 良いわー、とても良いわー。こういうのとても良いわー。


 そして買い物が終わったらお昼ご飯です。初日はお手軽に近くで済ませちゃいます。でもクオリティは振り切ります。ええ、そこは全力ですとも。


 そんなわけでランチは海が見えるところで、当然個室もあって、伊勢海老で有名なお店にしました!今朝のうちにこっそり予約しておいたのです!普通の平日のランチに来る店じゃない気もしますけど全力ですので。ええ全力ですので。


 通された個室は流石に素晴らしいクオリティ。それこそホテルの中のレストランと同じぐらい・・・でしょうかね?ネットの写真の印象だけで語ってますけど。


「え?お昼ご飯なのに??え?マジで??」


 赤松さんが謎のとまどいを見せています。時々面白いですよね。お金はそこそこ持ってるはずですし、高級なお店にも行こうと思えば行けないはずも無いのですけど。まぁ、プロテインとキットカットの人ですしね。


「はぁ、大きなエビなのねぇ」


 キョロキョロしている赤松さんとは対照的に、クロちゃんはメニューに載っている写真を見て静かに物思いに耽っています。


「ねぇ、クロ、このランチコースさ、僕のお昼代の20日分ぐらいするんだよ」


「マジで?!馬鹿じゃないの?!そんだけのお金があったら・・・・・お金があったら・・・・あっても別に使い道は無いわね。エビ、楽しみね」


 ホントこの二人って普段どうやって生きてるんでしょうか。

 ちなみに些細な事ではありますがコースに含まれていた食前酒は事前に赤松さんがジュースに変更してしまいました、私の分も一緒に。理由に心当たりがあり過ぎて申し訳ない気分でいっぱいです。でも一杯ぐらいなら大丈夫なような気も?ちょっとぐらいお酒飲みたいなーと思って、赤松さんの方をちらりと見ると、二人は窓から海を見るのに一生懸命でした。・・・寂しいので私も海を見るのに混ざります。

 おぉ、船ですね!なんか豪華客船的なのが見えます!うわ、カッコいい!!初めて見ました!!!


 そして、そうこうしているうちに満を持して運ばれてくる数々の料理。


「凄いっすね!」


 なぜか柏木さん風の口調になる赤松さん。


「なるほどねぇ。少しずつ色々な味が楽しめるようになってるってわけね。まずは、お刺身が食べたいわ」


 食通ムーブをしつつも速攻でおねだりに入るあたりに隙が無いクロちゃん。やりますね。

 それはそれとして


「「いただきます」」


「ねぇ、お刺身を」


 可愛らしいお手々で赤松さんをちょいちょいとするクロちゃん。普通の猫になってますよ。これはこれで可愛くて良いと思いますけど。


 そんな風にして楽しいランチが始まりました。思っていたよりずっと美味しくて楽しくて、このお店を選んで正解でした。カニカマ好きのクロちゃんは想定通りに伊勢海老も気に入り、赤松さんはいつも通りに「美味しい美味しい」と言いながら食事を楽しんでくれました。もっとも赤松さんについては今のところ何でも「美味しい」って言うイメージしか無いのですけど。むしろ「美味しい」以外の感想を言ってる事を聞いた事が無いのですけど?


 ・・・なんでも美味しく頂けるのは良い事です。一旦、その事は置いておきましょう。


 はい、そんなわけで、海は綺麗し船はカッコいいし御飯も美味しいし、とても贅沢な時間でした。そして、ゆっくり食事を楽しんで、デザートも楽しんで、お茶を頂いて一段落したので、次に行きましょう!!まだ旅行は始まったばかりなのですから!


 次は近場の観光地を巡りです、というか初日はショッピング中心です。時間のかかるところは明日にする事にしました。初日から予定を詰めすぎると疲れちゃいますから。私の服に、雑貨に、靴に、駄菓子にと、色々なお店を3人で回りました。とっても楽しかったんですけど、最初は元気だったはずの赤松さんとクロちゃんが、いつの間にかグロッキー。おかしいですね?そんなに疲れる事なんてしてませんよ?


 そんなわけで、お二人のために少し休憩タイム。行きたいのはあと一か所だけなんですけど、私も少し歩き疲れましたし、ちょうど良いタイミングだと思いまして。

 休憩と言えば、とりあえず喫茶店。大きなカツサンドが有名なお店ですが、晩御飯が近いので今日は二人ともコーヒーだけ。


「ナギは元気ねぇ。マスターでさえお疲れモードなのに」


「そうですか?そもそもそんなに疲れるような事はしてないですよ?慣れない人混みに酔ったとか、そういうのじゃないです?」


「そうかもねー」


 そう応える赤松さんの表情は薄い。アイスコーヒーをストローでズルズルと飲みながら気のない返事。だいぶお疲れな感じ?あれかな?普段引きこもり的な生活をしている彼には、観光地はちょっとキツかったかな?


「次の場所は人もそんなにいないでしょうから、きっと楽ですよ」


「えと・・・確かすぐ近くにある神社だよね」


「ええ、私もあまり知らないんですけど、実家が昔この辺りに縁があったらしくて。せっかくですので」


 なんか大きくて立派らしいですが、普通に観光目的の冷やかしでございますよ。たまには日本建築も見たいですよね?みたいな。


「神社かぁ、そういや生まれてこの方、一回も行った事ないや。前を通ったりはした事あるけど」


「へ?そうなんですか・・・いえ、よく考えると私も似たようなものですね。仕事柄、初詣とか行きにくいですしね、何となく」


 初詣に行って神道系の同業者と会ったりしたら気まずい感じじゃないですか?ミーハーな感じというか、何というか。

 でも、今回は純然たる観光ですし、平日ですし、人もそんなにいないでしょうし、それに第一私にとってはアウェイな土地ですから、そんな心配は必要ないかなって(赤松さんは、そんなに知り合いいないし大丈夫でしょう、たぶん)


「ねぇねぇ、神域に行くなら、わたしはしばらくオフってるわね」


「そだね。またホテルに着いた時にでも起こすよ」


 なんです、それ??とか思ってるとクロちゃんの姿がスパっと消えた?!


「え?何で?」


「あぁ、神域とかに近づくと何か混線するから危ないんだって。だから、しばらくクロにはスリープ状態になってもらっておかないと」


「・・・スリープって、そんなの出来たんですか」


 なら前のホテルの時もそれやってくれたら良かったんじゃあ。

 ・・・・・・

 ・・・

 いえ、猫に配慮を求めるのがおかしいのでしょうけど。


「よし!ちょっと休んだから元気になったし、そろそろ行こうか依城さん!」


 そして本日最後の観光スポット。地元の大きな神社に向けて出発進行。ここから歩いて数分なんですけどね。ぶっちゃけホテルの近くにあったから行先としてチョイスしただけなんですよね。駅まで戻って、ちょっと歩いて横断歩道一つ渡ったら到着です。凄く近くてお得な気分。知識が無いのでちゃんとした名前は分からないのですが、入り口の門みたいなところからして凄く立派です。こんなに大きな木造建築は初めて見たかも知れません。もうこの時点でなんとなく圧倒されちゃいそう。


 そして門の奥に見えるのは綺麗な石畳がずっと真っすぐ続いていく風景と、その道を彩るたくさんの木々。ふらふらと歩くだけでなんか凄く雰囲気があります。


「おぉ、これは凄いね。なんかこう思ってたより凄く・・・シュラインって感じが」


 赤松さんも私と同じで表現する語彙が無いみたいですね。


「ええ!なんかこう・・・こう・・・いいですね!」


 考えてみたけど、やっぱり良い言葉が出て来ません。もう少し賢い人が一緒に居たら違うかったのでしょうけど、私達二人ではこれが限界です。


 それはそれとして神社で大きい声を出していると周りの目がちょっと厳しいので静かに楽しむ事にします。なんだか静謐な雰囲気ありますからね。クロちゃん曰く「神域」でしたっけ?


 そして静かにトコトコ歩いていくとすぐに大きな広場のような場所に突き当たりました。その奥には立派な本殿が見えますが、全然信心深くも無い私達が参拝するのも違う感じがしたので、遠目で眺めて写真を撮るだけに留めます。


 よくよく考えると、これはマナー的にありなのでしょうか?宗教はちょっと難しいのでよく分かりません。そんなわけで見る物も一通り見たのでホテルに帰還しましょうか。綺麗ですけど、お腹も減ってきましたしね。


「思いのほか綺麗だし、雰囲気あるよねぇ、歴史ある神社って。おぉ、狛犬だ。写真撮っとこう」


 赤松さんもご満悦の様子。なんというか普段見られないものを見ると楽しいですよね。


「そういや、すっかり忘れてたけど、この神社って、どんな神様を祭ってるんだっけ?」


「えと、詳しくは忘れましたけど、昔の武将とか?だったような。確か入口の方にお墓的な物があるとか」


 不信心なので曖昧です。


「あっ!あった、あった、これですよ!」


 入口に解説ボード的な物がありました。なるほど、宗教施設と言えど観光地。サービスがよろしい。

 書いてある内容を要約しつつ読み上げていく。・・・ちょっと難しいですね。とは言え詳細は分からないものの雰囲気は分かりました、雰囲気は。こんなのは、その程度で十分です。浅く知識をなぞっただけで知ったような顔をしておきましょう。


「なるほどー、そういう神社でしたかー。これでスッキリですね。ね、赤松さん?」


 ・・・・・・

 ・・・


 ん?返事が無いですね。そう言えば、さっきからリアクションも無いですけど。


「・・・・・・思い出した」


 少し後ろにいた赤松さんの顔を覗き込むと、彼はポツリとそう呟いた。


 その表情は何故か悲しそうで泣き出しそうなものだった。

 


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