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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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2-2:猫と彼の思い 仕切り直しですよ、仕切り直し!!

 夢を見ていた。毎晩見る同じ夢。色々と細部は異なるけど、結局は・・・同じ夢。

 最初は睡眠学習的な物かと勘違いしていた『他のところの僕』からやってくる記憶の欠片。

 既に学習段階は終わって、今や流れ込んで来るのはクロで堰き止める事に失敗した欠片だけ。

 僕の行動原理であり、心の傷であり、全ての根源になっている記憶の欠片達。


 いつも通り夜中にふと目が覚めた。


 毎晩飽きもせず嫌な夢を見るせいで中途覚醒が癖になっている。仕事が忙しいわけでも、早く起きる必要があるわけでもないので別に問題は無い。また眠ればいいだけの話だから。


 でも、今晩はいつもみたいに、すぐに寝つける感じでは無さそうだ。僕のすぐ傍にはクロだけじゃなく、全力で眠りこけている依城さんもいるのだから。


 今晩は和室に布団を二つ並べて皆で仲良く寝てみたりしている。というのも、支部長からの高級ホテル宿泊権プレゼントにテンションを上げきった依城さんが

「明日からの予定を立てましょう!!効率よく遅れを取り戻さないとダメですからね!!!」

 と熱心に前準備を進めた結果、寝る直前まで3人で「あーでもない、こーでもない」と話を続ける事になったからだ。それこそ限界を超えて眠くなるまで、布団に入って寝落ちするまで、楽しく予定を語り続けたのだ。


 旅行の計画を語る依城さんはとても楽しそうに笑っていた。眠っている表情さえ楽しそうな、満足したもののような、そんな風に見える。

 きっと旅行そのものより、皆でこんな風に過ごす時間こそが楽しいのだろう。旅行は準備が一番楽しい、まして、それが好きな人と一緒ならってとこかな。


 ・・・・・・まぁ、あれだ・・・・寝るか。


 一人で夜中に小っ恥ずかしい事を考えていても仕方ないし。いかんね、頭がはっきりしてないと妙な事を考えちゃうからいかん。あー恥ずかし。

 大口を開けて健やかに眠る依城さんの頭を少し撫でてから僕も眠る体勢へ。

 今度は夢なんて見ませんように。

 

「赤松さん!朝ですよ!おはようございます!!」


 メッチャ健康的な目覚め、目覚まし時計はまだ鳴ってないけど。・・・遠足を待ちきれない子供か。


「おはよ。んじゃ、朝ごはんにしようか」


「そうですね!今日はちょっと巻きでいきましょうね!」


 寝起きなのにテンション高いなー。僕とクロは低めで生きてるから、足して割ると丁度いいかも?ちなみにクロは寝たまま。昨日の夜は依城さんに引っ張られてテンション上げてたから疲れてるんよね。


 とりあえずクロの事は置いておいて、依城さんのリクエストに応えるべく巻きで朝の用事を済ませていく。依城さんが洗面所を使っている間に布団をたたみ、カーテンを開け、プロテイン×2を用意し、パンをオーブンへ。クロは・・・まぁ、いいや端っこで寝かしとこう。ススっと畳の上を滑らせて部屋の隅っこに寄せておく。なんかモゾモゾしてるけど、これで良し!


 そして、自分の着替えを・・・・あれか偽研究員モードのを流用しよう。一週間は滞在するつもりだったから、まだまだストックあるし。そういやジャージを蜘蛛にダメにされたから買わないと。

 そして、依城さんと入れ替わりで洗面所へ。パパっと身支度を済ませたら、焼きあがったパンを回収しダイニングテーブルに並べる。


「出来たよー」


 クロを撫でていた依城さんを召喚。寝てる猫は可愛いから仕方ないね。僕もクロを撫でてたら時間を無限に吸われる感じあるもの。


「「いただきます」」


 朝食はプロテイン・水・クロワッサン・アンパンのシンプルメニュー。パンは昨日近所のホテルで買った高級なやつ。前回の朝食の反省を活かしたわけです。バッチリでしょ?ひょっとしたら果物とかもあったら更に良かったのかも知れないけど、それはまた今度。じわじわと改善を図っていきましょう。

 とりあえずクロワッサンから頂く。なんだかやけにサクサク?手でちぎれないからかぶりつく。


「うまっ?!」


 口に入れた瞬間に広がるバターの風味とまるで何時ぞやのパイのような軽い食感!!

 なんじゃこれ!!一気に目が覚めたわ?!ナニコレ?!これパン?!!


「あ、ホントだ。美味しいですねー」


 あれ?依城さんのリアクション軽くね?


「・・・個人的には凄くビックリするぐらい美味しかったんだけど、ホテルとかのパンってこんなものなの?」


 前に東京で泊った時に出てきたのは、大した事は無かったような気がするけど。


「こだわってるお店のは、こんな感じですねー。こういう美味しいの食べると幸せな感じなので、ちょこちょこ買いに行くんですよ」


 そういや美味しいケーキ屋さんを紹介してくれたりしたものね。

 はー、それにしても世の中は知らない事ばっかりだ。パンって、こんなに美味しいのもあるんだね。プロテインとカニカマばっかり買ってるから知らなかったよ・・・・栄養は摂れるんだよ、栄養は。


 ちなみに、引き続き期待を込めて食べたアンパンはわりと普通。というか、甘さ控えめ?僕の味覚が繊細な味?とやらを理解出来ないだけ?僕はもっと甘い方が美味しいと思うよ。甘いのは美味しいって事だから。


 そして、朝食の片付けが終わると早速出発!依城さんも偽調査員スタイル!あまり偽OLスタイルとの違いは分からないけど、口に出すと怒られる予感がするので何も言わない!戸締り良し!荷物良し!まだ寝てるクロを抱えて用意完了!


 さて行きますか!

 と言っても目的地は実は電車で30分もかからないところだったりする。ぶっちゃけ、そんなに気合もいらないよね。いつも通り普通に出発しよう。朝からテンション上げると後でしんどいし。


「そう言えば、こんな近くなのに今まで行ったこと無かったんです?」


「いや、まぁ、近くても縁の無いところ?みたいな?だって、ほら観光地だよ?家族連れとかカップルばっかりのところに独りで行くのも楽しくないじゃない?」


「へぇ、そうなんですか?私はわりと独りでサクサク行っちゃいますね。慣れると楽しいものですよ?」


 独りに慣れるのも、どんなものかと。


「そっかぁ、またオススメの所があったら一緒に行こうよ。独りで行くよりか、きっと楽しいよ?」


「そうですね!それこそ明々後日は関東に行くのもいいかも!!向こうにも観光地はいっぱいありますからね!!」


 おぉ、凄いな。なんか凄い元気ね。さっき起きたばっかりぞ?これがアレか、いわゆる女子的パワーか。繁華街とかで発揮されてるやつ。よく男性が振り回されると噂のやつ。


 そして他愛のない話をしながら、頭に他人からは見えない猫的な生き物をのせながら、僕達は電車で目的地へ。近所だけど、まだ行った事のない目的地へ。


 さぁ、早速観光・・・と行きたいところだけど、まずは荷物を預けます。大きいカバン持ってると動き難いからね。ちなみに、ホテルってチェックイン前でも荷物を預かってくれるんだってさ、便利だよね。


「なんか駅の建屋から出たら右手すぐって書いてあるけど」


 電車を降り改札に向かいながらスマホで地図を確認する。昨日も色々調べてはいるけど、実際に来るのは初めてだし。

 そんな僕を置いて、依城さんが小走りで改札を抜け先行する。


「はしゃいでるわねー」


 おぉ、猫君が起きた。君は君で落ち着き過ぎな気がしますよ?

 そしてダッシュで依城さんが戻って来た。平日の昼間で良かったね。人が少ないから怒られないし。


「大丈夫でした。確かに出てすぐです。一発で分かります。凄く良さそうなとこですよ!さぁ、行きましょう!はやくはやく!!」


 僕の手を引いて依城さんが走り出す。近所に住んでるのに、まるでお上りさん。というか、この光景って傍から見ると・・・

 あぁ、駅員さんが生暖かい笑顔を?!違うんです。誤解?なんです?!ちょっと連れのテンションがおかしくなってるだけなんですよ?!


 そんな僕達が駅の建物から出ると、目的地はすぐそこだった。


「確かに、こりゃ一発で分かるわ」


 大きくて真っ白な建物がそこにはあった。ホームページにあった写真そのまま。


「支部長さん、良いホテルとってくれたのねぇ」


「んふふふ、うちの課長は気が利きますからね!」


 なぜか得意げな依城さん。でも、このホテルって支部長が用意してくれたのかな?なんか他の人が都合してくれた的な事を言っていたような?


「さぁ、行きますよ!」


 また僕の手をぐいぐいと引いて依城さんが進んでいく。まぁ、こんな楽し気な様子を見てると水を差すのも野暮ってものか。


 ホテルのカウンターに行き荷物を預ける。なんかもう入口からして凄い。解放感がありながらも、どっち向いても高級って感じ。なんだろう激しく場違いな感じがする。ヤバいな。ラフな格好で来すぎたんじゃないかな?ちょっと不安になってきたかも。

 いや。態度に出すな頑張れ。依城さんの前だぞ。頑張れ自分!!堂々とするんだ。キョドるな!


「はぁ、なんか気疲れしそうな場所ねぇ」


 下に降りて勝手にウロチョロしながらクロは少し不満そう。そんな様子を見ているとなんだか肩の力が抜けた。

 そうだね。高級でも安くても、そんなに関係無いと言えば関係無いものね。なるようにしかならないし。


「ねぇねぇ、見てください!プールもありますよ!!」


 依城さんはいまだにハイテンション継続中。いやはや楽しそうで何より。今は休暇中だし楽しくすごせばいいや。これからの事は・・・またこれから考えよう。


 この時の僕はそう思っていた。それしか考えていなかった。

 いや、まだ何も考えてはいなかった。

 


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