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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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2-1:猫と彼の思い まさか私にそんな家庭的な願望があったとは

「今日はごま豆乳鍋にしましょうか」


「なんなのそれ?どういうの?」


 クロちゃんの問いかけ。そりゃ質問はごもっとも。猫さんが知ってるわけないですものね。


「ポン酢も買っていい?」


 そして赤松さんは鍋の出汁が何であれポン酢で食べるつもりらしい。いまいち提案した甲斐が無いなぁ。


「魚の出汁と豆乳を合わせたものがベースになってる鍋用のスープですよ。ゴマはそんなに分からないから癖が無くてクロちゃんでも食べやすいと思います。

 あと鍋の出汁とポン酢を混ぜたのにつけて食べるのも美味しいらしいのでポン酢を買うのも良いと思いますよ」


「「なるほど」」


 納得する飼い主と猫。よろしい。

 なんだか少し前にもこんなやりとりをしたような気がします。あれですね、なんというか、ほっこりします。なんだかんだで良い物です、こういうの。


 と言うわけで、現在三人で楽しいお鍋に向けての買い出し中です。3人ってのは、私と赤松さんとクロちゃんです。柏木さんはお家に帰りましたので、この3人には含まれておりません。


 結局、柏木さんには刀の術式の復旧も帰り道の車の運転もお任せしてしまったので申し訳ない限り。流石に雇い主として心苦しい物を感じずにはおられません。何かお礼とかしたいところです。と言っても、彼は見た目こそチャラい今風の若者ですが、なんだかんだで一人前の魔術師なので「下手に干渉しないで放置プレイ」が本人にとって一番楽かも知れないのが悩ましい所です。

 いえ、正直、これも推測ですけど。あまり彼の事を知っているわけでも無いので。


 そんな話を買い物をしながら赤松さんに語ったところ


「あぁ、それなら四谷さんを紹介しておいたから大丈夫じゃない?なんか研究が凄く捗るみたいな事を言ってたよ」


「へ?そうなんですか」


 意外と配慮が行き届いている。というか、赤松さんと四谷さんってやっぱり面識があったんですね。正直・・・ちょっと気になる・・・かも。


「四谷さんとはお友達なんですか?」


「取引相手って感じかなぁ。あんまり仲良く出来そうな感じではないかも」


 はい、もうこれだけで情報としては十分です!凄く気分が良いですね!!


「じゃ、今日はお肉をたくさん買いましょう!二人ともお疲れですし、たくさん食べるといいですよ!!」


 そんなわけで、赤松さん家近くのイオンでの買い物は一回の鍋の具材としては使いきれない量の牛・豚・鶏を中心に購入して終了しました。余れば冷凍すればいいですし・・・柏木さんに声を掛けてもいいですし・・・無駄にはなりません。無駄にはなりませんから。・・・ちょっと調子に乗って考え無しの買い物をしたわけじゃありません。大丈夫です。


 そして調理担当は前回と同じく赤松さん。いえ!流石に今回は手伝いますよ!お客様扱いのままってのは、ちょっとなんか嫌ですから!!


「お肉は・・・とりあえず全部合わせて1キロ分だけ用意しとこうか。あとは足らなかったら順次追加していく形で。じゃあ、どうしよう?依城さんが洗って、僕が切っていこうか?それなら効率的に進むよ?」


 やっぱり切りたいんですね、赤松さん。よく見ると包丁がなんか凄い奴になってますし。前の時はステンレスの一体型のだったのに、いま持っている奴はなんか刃文まで見て取れる本格派。というか小さい日本刀では??普段、料理なんてしないのに、なんでそんな良い物を?もちろん、趣味は人それぞれだとは思いますが


「・・・了解です。サクサクいきましょう」


「そうねぇ、お腹もすいたし早めにお願いね」


 クロちゃんがキッチンカウンターの上からそう言った・・・って使い魔ってお腹減ったりするんですか?

 そんな思いを込めてクロちゃんをジッと見つめていると


「気分よ、気分。実際にお腹が減ったりするわけないじゃないの。本質的にはわたしって魔術なんだから」


「え?!そうなの?!」


 なぜ施術者が驚いているのか。


「今まで普通に御飯の用意を急かしたりしてたじゃん?!」


「それは単純にそうでもしないとマスターが食事を摂ろうとしないからよ。プロテインとサプリメントだけじゃ、あんまり良くないわよ」


 おぉ、なんと生活能力の無い。私も大した事はありませんが、流石にそこまででは。ましてや猫に気を使われるとか。


「ごめんなさい。・・・・・・そんな目で見ないで。まじ凹む」


 あれ?そんな目(どんな目?)をしてました?大丈夫ですよ。いつも通りの慈愛に満ちた依城さんですよー、怖くないですよー。


「いや、ごめん、大丈夫だから。ありがとう。でもさ、どうしても一人で食べるかと思うとやる気が出なくてさ。こうやって依城さんがいるなら頑張ってみようかなとは思うのだけど」


 ・・・・・・

 ・・・


 これはあれでしょうか?プロポーズでしょうか?「毎日お前の飯を作らせてくれ」みたいな。

 いえ恐らく違いますね。前も似たようなパターンで失敗した記憶があります。

 文と文の間に意味を見出してはいけません。文字通りに、文字通りに解釈しましょう。


「さすがに今の状態だと毎日一緒に食べるのは難しいですけど、例えば柏木さんとならどうです?」


 赤松さんを盗られる心配も無いし安心の配役のはず。とりあえず困ったら柏木さん。


「たぶん不摂生が二人になるだけで変化は無いと思うよ。彼も完全栄養食だとか言って、なんかドロドロした感じの飲み物を愛用してたし」


 ダメだ、こいつら。・・・比較するとクロちゃんが一番マシなのでは。

 ふと目を向けるとクロちゃんはキッチンカウンターの上で一人カニカマを楽しんでいらっしゃいました。そうでした。この子も極端な偏食でしたね。と言うか猫ですしね。

 まぁ、二人とも栄養は摂れてるみたいだし別に良いのかも知れません。特に赤松さんって、シュッとした見た目に反して滅茶苦茶重いですからね。凄く体を作り込んでいる感じです。でも・・・


「そのうち、一緒に暮らせるようになったら、毎日一緒にご飯食べましょうよ。一緒に作って、三人で食卓を囲んで。きっと楽しいですよ」


 そんな言葉が特に何も考えずに自然と口から出て来ました。正直、自分でも驚きです。まさか私にそんな家庭的な願望があったとは。


 ・・・・・・

 ・・・


 あれ?返事が無いですね?軽い調子で「そうだねー」ぐらい返って来るものかと。

 赤松さんの顔を覗き込んでみる。なんだか泣きそうな顔。クロちゃんの様子も確認・・・カニカマを食べるの止めてるし表情が消えている。


 なるほど。ここに何かあるんだ。私が口にした事が叶わない理由が。きっと何かあるんだ。


 まぁ、仕方ないですよね。これ自体は今までの赤松さんの様子からバレバレでしたし。それに『ここじゃない何処かの赤松さんの言葉』もありましたし。


 でも、そうですか、無理ですか。きっと私ではどうにも出来ない事なのでしょうね。

 なら、せめて今だけでも楽しく過ごしましょう。それがきっと


「さて、そろそろ鍋に火を入れましょうか!お腹いっぱい食べて、ゆっくり寝て、明日から遊びに行きましょう!やっぱりね、働いたらちゃんと休まないと!心のバランスを保たないと良い仕事は出来ませんからね!」


 私はいつも暴れてるだけだから、あんまり関係無いですけど。


「あぁ、そうだね・・・その通りだ。御飯食べたら、明日から何をするか相談しようか。たまには、ゆっくりするのもいいよね」


 そう、それでいい。そういうので、いいんです。赤松さんは無邪気な脳筋ぐらいで丁度いいんですよ。

 きっと、その時が来るまでは。


 そして鍋を囲む会が開催される。

 今回はカニのようなややこしい食材があるわけでも無いので、特に何も拘らずに一緒くたに煮込むだけ。ここに鍋奉行がいたら少しは違うのかも知れないですけど、残念ながら拘りを持つものは誰もおらず、『根物は先に入れる』ぐらいしか意識する事はありません。ドンドコと無秩序に鍋に具材を投入していくだけのシンプルな調理。それが我が家の流儀。


「前とは違うけど、これもなんか美味しそうね!」


 クロちゃんもご満悦の様子。

 今回は鍋の様子が見られるようにダイニングテーブルの上に専用の台が置いてあり、クロちゃんは、その上から尻尾をぶんぶんと振り回しつつ鍋の中を覗き込んでいます。


 普通の猫ではないと分かってはいても、どうしてもハラハラしてしまいますね。熱いよ?危ないよ??

 赤松さんはそこは心配していないようで、ハハハと笑いながら鍋に追加の具材とお肉を投入しています。お肉が次々に投入されていく・・・って、ちょっと多くないです?買ったのは私ですけど。

 ぐつぐつと煮えていく無秩序に入れられた具材たち。

 前回、なぜかクロちゃんに好評だった里芋も入れてます。もう何鍋か分かんないですね。お肉も牛、鶏、豚とフルラインナップな感じで入ってますし。寄せ鍋?ちゃんこ鍋?・・・美味しければ何でもいいですけど。


「はい、豚肉からお食べー」


 赤松さんがサクサクと私の取り皿にお肉を・・・

 はっ!いけない!いつの間にか、またお客様ポジションに?!

 慌てて椅子から立ち上がり何かをしようとするものの、その時にはもうお肉は配分済み。速い。無駄に行動が速いですよ!


「はい、出汁入れるよー」


 次は小さいお玉で取り皿に出汁を注いでくれます・・・まぁ、もうこれでいいですか。テキパキしてる赤松さんを見てるのも楽しいし、もう別にいいや。


「「「いただきます」」」


 皆で揃って食前の挨拶。いい。実にいい。自分がこういうのに憧れていたのがよく分かる。なんと言うか、もう最高。


「あら、これも美味しいわね。豆乳とか意味分かんないって思ってたけど」


 クロちゃんにも好評のご様子。

 ちなみに、今回はダイニングテーブルの上にクロちゃん用スペース(滑り止めマットの上に食器を置いた万全の体勢)が用意されています。前回の反省を活かして策を打ってきているのが赤松さんらしいですね。


「あ、本当だ。美味しいね」


 赤松さんは宣言通りにポン酢を使用しています。出汁とポン酢のミックスつけ汁です。


「良かったです。私も前にお店で豆乳鍋食べて、それで美味しいなって。お家で出来るのでも、こんなに美味しくなるとは思わなかったですけど」


「へー、最近は鍋料理屋も色々あるんだね。知らなかった。あれかな?忘年会とかそういうので行ったの?」


 ・・・・・・最初から「友達と行ったの?」って聞かないところが、私の事をよく分かってる感じですね。


「・・・最近はひとり鍋のお店も増えてましてね」


「あ・・・なんかごめん」


「いえ、いいんですよ。次は赤松さんと一緒に行けばいいんですから」


 そう、私はもう一人じゃないのだから!!


「そうか、それもそうだね。それこそ早速明日行ってもいいわけだし」


「さすがに二日連続は無くない?」


 なぜかクロちゃんからの突っ込み。


「そうかな。美味しい物は毎日でも問題無いと思うけど。そういやさ、前に鍋を食べた時も仕事の電話があったよね。まさか、あんな」


 その時、携帯の着信音が鳴り響いた。いつでも何処でも良く聞くデフォルトのアレ。


「あぁ、僕だわ。部屋に携帯置いてるから、ちょっと行ってくる」


 まさか、そんな・・・いやいや、たまたまタイミングが悪いだけで


「次は爆発とかしないといいわね」


 クロちゃんが豚肉をモグモグしながら、そう言った・・・・食べてるのに話せるんですね。というか声は何処から出ているのでしょうか?


 赤松さんが戻ってくるまで取り皿に入っている分を食べながら待っています・・・なんか一杯目から山盛りですね。私も女性にしては結構食べる方だとは思いますけど、このペースが続くと辛いかも知れません。・・・やけにたくさん買い込んだのは私ではありますけれども。


 そんな事を考えながらモグモグ食べ続けていると赤松さんが戻ってきました。そして間髪入れずに私達の取り皿に茹で上がった具材を取り分けていきます。


「支部長からの電話だったんだけどさ」


 話をしながらも、どんどん取り皿は山盛りに。ちょっとちょっと、そんなにたくさん一気に食べられませんって?!


「あっちの観光地にある高いホテルの部屋を明日から二日分おさえてあるから二人で行って来いってさ。なんか知り合いに融通してもらったって」


 赤松さんが海の向こうの方を指さしながら淡々と語る。


「へ?」


「思ったより近場だけど旅行だね」


「え??」


「食事もホテルの中で出来るって。たぶん洋食だから鍋はまた今度だね」


「あら、それは楽しみね。わたしってレストランとか行った事ないし」


「いや、ごめんだけどクロが食べる隙は無いんじゃないかな?」


「なんでよ?!」


「え?ホテルですか?」


「・・・ねぇ、ナギ、何が何でも反応が遅くない?」


「いや、だって」


 なんというか、特別感を出すために、どう工夫したものかと思ってたところに高級ホテル?あれじゃないですか、渡りに船ってやつじゃないですか。

 あれですか?課長の仕込みですか?なんですか?いいじゃないですか?

 そう。こういうフォローが欲しかったんですよ!そう、こういうのですよ!!


「御飯食べ終わったら近場の観光地とか調べてみようか?地味に近所過ぎて何も知らないし」


「ええ!そうですね!楽しみですね!」


 いやはや素敵な休暇になりそうで胸が躍りますね!

 


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