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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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1-10:猫と新しい発見 当団体は労働基準法の適用外ですので

 視界が暗い。


 まるで視界のほとんどに靄がかかっているかのよう。払い除けたいけど・・・腕が動かない。

 でも音だけははっきりと聞こえる。

 誰かの・・・

 誰かの呼び声だ。

 誰かが泣きながら私の事を呼んでいる。

 泣かないで。そんな悲しそうな声を出さないで。


 ねぇ、私は大丈夫だから。


 だからね、もう泣かないで、赤松さん。






「うぁ!」


 自分の変な声で目が覚めました。なんだか変な夢を見ていたような?悲しくて?辛くて?疲れる夢だったような?


 というわけで、いつの間にか夜が明けているようです。窓から明るい光が入って来ています。

 いやはや良く寝ました。何故かうつ伏せで寝ていたようで首が痛いですけど。ちなみに同じベッドには赤松さんも眠っています。


 もちろん、というか残念ながらというか、男女のそういう事があったわけでも無く、単純に疲れ果てて二人とも落ちるように眠っていただけです。

 結局、昨日の夕方から、つい数時間前までずっと直しても直しても壊れ続ける刀の術式を二人でどうにか維持してましたから。なんというか慣れない作業で疲労困憊って感じでした。記憶にあるのは「やった!やっと終わった」って言ってベッドに腰かけたところまでですね。


 よく見るとクロちゃんも枕の上で伸びて寝ています。みんなボロボロです。赤松さんもベッドから上半身を投げ出した状態で寝てますし・・・器用ですね。


 あれ、そう言えば、今回の立役者は

 ぐるりと見渡すと・・・柏木さんは独り部屋の隅に置いてある椅子で座って眠っていました、可哀想に。ベッドが占領されちゃったから独り遠慮してあんなところに。


 それはそれとして、何故このような状況になったかと言えば、単純に私と赤松さんでは長時間の術式の維持は出来ないと判断し、柏木さんを呼びつけて出先で作業をしてもらう事にしたからです。


 ・・・わりとブラックな感じですが、協会は会社でないので労働基準法とか、そういうのは適用されないので仕方ありません。ええ、仕方ありません。私達が我儘なわけでは決してありません。こんなものなのです。


 そして『とある地方都市のいかがわしいホテル』(他に場所が無かったんです)にて合流。そのまま作業を徹夜で実行し、今に至っているというわけです。夜を徹した作業のおかげで刀に元々込めてあった術式は無事復旧。やっと壊れ続ける術式の修復作業から解放される事になりました。これが今朝方の話。

 でも、その過程で残念な事に折れた方の刃は不要になってしまいました。術式の本体はあくまで柄の方にあったみたいで、修復の過程で魔術的な繋がりが途切れた部分は今や普通の金属の塊です。・・・何かに使えるかも知れないし、一応置いときますかね?


「にしても、どうやって使うつもりなんでしょうね、これ」


 ずいぶんと短くなってしまった刀を見ながら独り言つ。


「マスターには短い方が使いやすいみたいだし、小刀とかに加工し直すんじゃない?というわけで、おはよ」


 クロちゃんがぐいーんと伸びをしながら朝のご挨拶。前脚を伸ばし、腰を上に突き上げ、尻尾を高く真っすぐに。惚れ惚れするほどの猫らしい優雅な振る舞い。


「クロちゃん、おはよう。短くするのは別にいいんですけど・・・役に立つんですかアレ?

 ずっと昔から岩に刺さったままの刀なんでしょ?」


「刀自体は、まぁ、丈夫な『器』程度の価値しか無いんじゃないかしらね?もちろん、それだけでも『マスターが強化しても形を崩さない』っていう大きな利点があるけど。・・・あの刀の本当の価値は中に入っている蜘蛛の方ね。年月を重ね、物語の中に生き、そして伝承の通りに退治された化け物。ここまで良い素材なんて早々無いわよ?あそこで寝ている人の腕次第になるとは思うけど、素敵な概念霊装が出来るんじゃない?」


 まだ柏木さんの名前覚えてないんだ。あんなに色々頑張ってくれてるのに。


「マスターは決まった武器なんて持った事なんて無かったから『うまく行けば良いな』とは思ってるわよ」


 そう言いながらクロちゃんは、また枕の上でクルリと丸まって寝る準備。

 え?!寝るの?!


「ちょっとクロちゃん、いま起きたばっかりなのに」


「ちょっと疲れてるのよ。昨日からずっと働いてばっかりだし、マスターもまだ寝てるし。んじゃ、おやすみ」


 さすが猫。寝つきが良い。一瞬で寝ちゃいました。私も、もう一回寝ましょうかね?みんな寝てるし。

 よくよく考えたら、私は子蜘蛛しか相手にしてないし、刀の維持作業もお手伝いしかしてないから一番楽させてもらってるんですよね。それなのに、これだけ疲れてるんですから、当事者である赤松さんや、いきなり呼びつけられて作業をさせられた柏木さんは、そりゃもう大層お疲れなはずで。


 ・・・ふむ。


 赤松さんが起きたらこのまま何処かへ遊びに行こうとか考えてましたけど、ちょっと不味いですね。何が何でも身勝手過ぎるムーブである気がします。『なんなんだよ、この女。自分が遊びたいからって調子に乗り過ぎじゃねぇの?ちょっとは、こっちの様子ぐらい見ろよ』とか思われてしまうかも知れません。もし、赤松さんにそんな事を思われてしまったら・・・私はもう生きていけないでしょう。


 ・・・・・・

 ・・・


 いえ、どちらかと言えば、疲れ果てていても怪我をしていても、どんな状況でも魔術で誤魔化すとかして付き合ってくれそうな気がします。うん、そっちの方がヤバいですね。なんというか後でやってくる罪悪感と良心の呵責と『いやいや、そんなのが望みではないのですよ』感がヤバそうです。


 うん、決めました。今日はもう少しだけ寝たら皆で帰りましょう。そして、楽しくお鍋でもして明日から遊びに行きましょう。


 よく考えたら時間はたくさんあるじゃないですか。だって旅行に出発したのは昨日の事なんですから。何と言うか日程に余裕ありまくりです・・・まさか一日足らずで終わるとは思いもしませんでしたもの、本当に。


 さて、そうと決まれば寝る準備です!

 まずは目覚ましを11時頃にセット。あと2時間は寝れますね。そしてベッドから落ちかけている赤松さんを引き上げて


「重っ!!」


 何コレ?!あんまり知らない感じの生き物っぽいですね?!赤松さん、見た目はそこまで大きくないのに半端なく重いです!

 なんとかズリズリとベッドの上に引き上げる。位置も引きずって調整して、真面な睡眠スタイルへ。というか全然起きませんね。


 あぁ、そうだ・・・柏木さんは・・・まぁ、このままでいいですか。

 じゃあ、お休みなさい。

 赤松さんに並ぶ形で自分も体を横たえ、すっと目を瞑る。


 ・・・・・・

 ・・・


 あれですね。思っていたより刺激が強い感じありますね。さっきまで普通に寝てたのに全然眠れる感じがしません。

 でも、たまにはこういのも良いですね。なんだか楽しいですし。

 


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