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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部3章:猫と準備と裏工作

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幕間1:とある苦労人と眼鏡の仕事人

「さて邪魔な人達もいない事だし、これからの話をしましょうか?ね?柏木さんも早い方がいいでしょ?」


 柏木です。何の罪も無い・・・わけでも無いけど、あまり罪のない無力な魔術師である俺はよく分からないがピンチを迎えていた。


 いま俺は極東支部に新たに配属になったという藤野フミカという女性に追い詰められている。

 藤野さんのパッと見の印象は、まさに真面目なOLと言った感じ。申し訳ないが『OL風』でしかない依城さんとは一線を画す完成度。眼鏡だってかけてるし。


 そんな人がアポも無しに関東からわざわざ俺の研究室を訪ねてきた。しかも時間はもう夜の九時前。晩飯も食べ終わって油断しきってるところにサプライズ。そもそも研究室の場所は協会にも報告してないから訪問があった時点で驚きなのだけど。


「・・・邪魔な人達って赤松さんと依城さんの事っすか?」


 協会は怖い人が多いので少し下手に出て様子を探る。


「ええ、そのバカップルの事で間違いないですよ。ところで、私はいつまで入口に突っ立ってたらいいんですか?」


 もう嫌だ。最初から棘しかない。協会にいる女の人は怖いのばっかだ。


「・・・・・・どうぞ、こちらへ」


 仕方ないので部屋の中に招く。ちなみに、魔術師が自分の研究成果があちこちに転がってる場所に他人を入れるとか、ぶっちゃけありえない。でも怖いので入れる。どうせこの藤野さんも逆らったら依城さんみたいに滅茶苦茶するんだよ・・・知ってるんだ、俺。


 勝手に椅子に座ると藤野さんは話し出した。


「さて、流石に今回の件はあの二人でも数日は帰って来ないと思います。ですので、その間に柏木さんと色々お話がしたいなと思いましてね」


 持って回った言い方だ。というか、何を言いたいのかさっぱり分からん。


「いま柏木さんが研究してるのは魔力の物質化、そして手法の参考として先の事件で話題になった『人間を材料に使った魔力結晶』、それを使ってますよね?」


 はい。全部バレてるっすね。というか、なんでバレてるの?赤松さんぐらいしか内容を知らないはずなのに。


「まぁ、褒められた物を使っているわけではないですが、私としては特にそれを咎めるつもりはありません。せっかくあるなら有効活用して欲しいぐらいです」


 あれ?風向きが悪いわけじゃないんだ。てっきり「調子に乗ってたらさ、分かるだろ?」みたいな展開かと。なら何をわざわざ言いに来たの?というか、問題無いなら早く帰って欲しいっすね。


「まず私としても協会としても、あなたが研究している内容にとやかく言うつもりは無いの。むしろ、その先進性から考えて、もっと援助をしても良いと考えているぐらい。

 例えば赤松さん用の魔術霊装一式。あれは大したものでした。実に素晴らしい。あれを量産して頂ければ」


「ダメっす。あれはまだ未完成っす」


 評価してくれるのは嬉しいが、あれはまだダメだ。力不足だ。結局は恩人を守り切れなかった出来損ないだ。赤松さんがあの爆発で生き残れたのは単に運が良かったからにすぎない。


「そこです。あなたは自分の成果を過小評価し過ぎている。あなたはもっと自分の仕事に自信を持つべきなんです。あなたのおかげで赤松さんは前回のトラブルを生き残ったんですよ。あなたは十分に役目を果たしている。そこは誇ってもいいと思います」


「・・・おぉ」


 まさかの全肯定。思わず体に震えが来る。なんというか勢い余って藤野さんに忠誠を誓ってしまいそうだ。


「ですので、協会としてはあなたを評価しますし、援助を惜しむ気もありません。優秀な魔術師は私達協会にとっては何より大事なものですから。そして『私個人』としても、あなたには期待しています」

 そう言うと藤野さんはカバンの中からUSBメモリを取り出した。


「柏木さんが探している例の魔術の使い手、実は協会の本部に所属していた事があるそうなんですよ」


 俺が探している魔術、それは空想を現実に持ち出せる術式。まるで魔法のような高難度の神秘。しかし、その難度にも関わらず、生み出した物は世界の修復力に負け一瞬しか存在を許されない。そんな役立たずの魔術。

 だが、一人だけ、たった一人だけ例外がいた。いや例外がいたという噂があった。その男が魔術で生み出した物は、本物と遜色無く、そして世界に掻き消される事も無く、破壊されない限りは、そのまま存在し続けたと。

 とは言え、それは単なる噂話だったはず。どう考えても、そんな事を実現出来るはずなど無いのだから。そんな都合の良い話なんて、あるはずが無いのだから。


「その人が唯一、たった一冊だけ残した資料の写しがこの中に入っています」


 藤野さんがUSBメモリをフラフラと揺らす。


「実在したのか?」


「協会の秘蔵っ子だったってだけの話みたいですよ。本人は普通にイギリスで魔術制御を学んでいたそうですし」


 もし、もしもその話が本当なら、いま俺の目の前にあるのは


「はい、あげますよ」


 ポイと簡単に渡された。


「・・・何をすればいい」


「そんなに硬くならないで下さいよ。私はただ援助をしただけ。でも強いて言うならば、これからも赤松さんと依城先輩を助けて下さいね。それに必要でしょ?あなたの中の幻想を形にするためには」


「それって、どういう」


 その時、机の上に置きっぱなしにしていたスマホに着信があった。


 一瞬、そちらに眼をやる。


 そして視線を戻した時には、そこにはもう藤野さんの姿は無かった。


「だから、いちいち怖いんだよ」


 そう一人ぼやきながら電話に出る。


『もしもし柏木さん、ちょっと助けて欲しい事が・・・』


 いま話に出たばかりの、もう一人の協会の怖い女性魔術師からだった。


「はいはい、どうしたんっすか?」


 そう言いながらも俺は渡されたUSBメモリを固く握りしめた。

 


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