1-9:猫と新しい発見 旅行もう終わりですか?楽しみにしてたのに
依城です。赤松さんに置いて行かれてご機嫌斜めの依城です。
「建物から出ないで下さいよー。危ないって言ってるでしょー」
島の人が農工具や角材的なものを持って建物から出てこようとするのを押しとどめたりするお仕事をしています。
正直めんどくさいのですけど、頼まれた仕事なので一応一生懸命やってます。よりあい会館とやらの周りには弱いながらも結界を張ってますし、近づく蜘蛛はパシパシと迎撃してますし。かなり万全ですよ?たぶん、それなりに。
ちなみに蜘蛛達の迎撃ですが、村上さん宅で使用したのと同じ小さな槍的なのを魔力で作ってシュートしています。少しだけ硬くなってきたような気もしますが、1匹に付き最低2発は当てるようにしているので特に問題はありません。
この程度なら島の人に任せたところで、たいして人的被害は出なかった気がしますね。もちろん、被害ゼロってわけにはいかないでしょうけど。
まぁ、でも、そんな事より気になるのは彼の事です。赤松さん、大丈夫でしょうか。また斬られたり爆破されたりしていないでしょうか?正直なところ、かなり心配です。気が気でないって感じです。毎回、私から離れたところで大怪我して帰って来てますもの。目の届かないところにいると思うと、それだけで不安が募って来ます。
そんな風に上の空な感じのまま蜘蛛の撃退を淡々と続けます。結界を破る事も出来ないみたいだし、こっちに近づけるような頑丈な個体もいないみたいだし超余裕です。
仕事らしい仕事と言えば、血気盛んな島の人を危険地帯から追い出す事ぐらいのものでしょうか?というか、大きな蜘蛛の姿は見えているでしょうに、なんで自分から突撃しようとするのかが分からないんですよね。ほら、今も
「余所者の嬢ちゃん一人に任せておけるわけがないだろうが!待ってろ、いま俺たちが」
「いやいや止めておきましょうよ。こんな訳の分からない状況で素人が首を突っ込んだってろくな事ありませんって」
「なに言ってんだ?!あんな若い女の子を独りで化け物の矢面に立たせる理由があるってのか?!」
「だから、それは?!!」
今も結界の中では下らない言い合いが発生しています。
確かに私は傍から見ると単なる「若くて可愛い女の子」ですけど、実際はバリバリの武闘派で専門家なわけなんですから放っておいて欲しいんですよね。
そうですね。ぼちぼちと蜘蛛も貯まって来ましたし、一発派手にやらかして「うるさ方」には引っ込んでもらいましょうか。
赤松さんにお姫様抱っこをされていた時と同じように、魔力を周囲へと薄く広げて行く。
そして、それを無数の小さな魔力の槍へと変換させ待機状態へ。
強化魔術を使い感覚を加速。
複数の標的に狙いをつけ、そして途切れることなく順次発射。
確実を期して1匹当たり最低でも2本。視界に入る範囲の全ての蜘蛛にぶつけていく。
目の前から流れ作業のように、どんどんと蜘蛛が消えていく。
まず目前の数匹がアスファルトの欠片を撒き散らしながら抉り飛ばされる。
その後ろに続いていた蜘蛛も何匹かまとめて消し飛んだ。
傍に止めてあった軽自動車にも流れ弾が当たり側面に大きな穴が開く。
ついでに軽自動車の傍にいた個体も合わせてぶち抜いておく。
更に車がベコベコになる・・・まぁ、別にいいでしょう。悪いのは蜘蛛です。
少し離れたところで結界を破れなくて詰まっている蜘蛛については、普通に撃ってもうまく命中するか分からないので、とにかく数で勝負をかける事にした。
散弾を撒き散らすように集中砲火を浴びせ続ける。
周りの地面ごと砕かれアスファルトと蜘蛛の甲殻の欠片が大量に宙を舞った。
良し。
まだ離れたところにいる蜘蛛には命中率の低下を考慮に入れ多めにぶっぱしておいた。
とりあえず、ドッカンドッカンなってるので、数はだいぶ減らせたでしょう、たぶん。
これだけの事を数秒間の間に行った。赤松さんが居たら、きっと喜んでくれたでしょうね。意外と派手なの好きですからね、あの人。
とは言え、さっき村上さんのお宅でやった事と比べたら子供だましのような物ですが・・・とりあえずは、これで十分でしょう。結界の中から「やんややんや」言う声も聞こえなくなったし、目の前の蜘蛛はいなくなったし。
赤松さん、早く帰って来てくれないかな、お腹減ったし。早くみんなで御飯食べて、もう一回お風呂に入って・・・
夕日を見ながら、そんな事をぼんやりと考えていました。
・・・・・・
・・・
来ませんね、蜘蛛。
そんな時
「!!」
電話の着信!!
「赤松さん?!」
『おつかれー元気そうねー、というわけで勝ったよー。今からそっちに向かうねー』
「大丈夫でしたか?!怪我してないですか?!」
『大丈夫、大丈夫。何の問題も無いって。でも、ちょっと相談したい事があるから後でよろしく』
それだけ言うと電話は切れてしまいました。情報が少ない!・・・まぁ、怪我が無いなら別にいいですけど。
さて撤収しましょう!ちょっと動いて汗もかいたし、赤松さんが来る前にどうにか汗拭きシートで身体を
「もう大丈夫なのかい?」
結界を切ったので中の人が早速出て来ました。いま急いでるのに、もう。
「ええ、もう大蜘蛛は全て退治されましたよ。では、私は急いでいるのでこれで」
はい、撤収撤収。汗臭い状態で赤松さんの前に立つわけにはいかんのですよ。分かれ。
「おい!それだけの説明で納得出来るわけがないだろうが!説明しろよ!説明を!!」
はいはい、ウザいウザい。
もういいや。行こう。踵を返して・・・とりあえず、さっきの温泉の更衣室でいいかな、そちらに向け歩き出す。
「待てって言ってるだろうが!!」
テンションの上がったイキリおじさんが私の肩を掴もうと手を伸ばす。
だが、甘い。甘すぎです。
簡単に私に触れる事が出来るのは赤松さんぐらいのものですよ。
イキリおじの袖口を軽く掴む。そのまま上体を下に、つられて体勢を崩したイキリおじを右足で跳ね上げる!
強化魔術のおかげで体重が負けていても綺麗に投げられました。やったね。もちろん途中で袖口を離したりはしませんでしたよ。私も鬼じゃないので。ちゃんとイキリおじは大きな怪我をする事もなく仰向けになって地面で呻いてます。
さて、今度こそ汗を拭きにいかないと。ちょっと場が騒然となってるし、ここにいたらややこしそうですしね。
「あれ?どうしたの?この状況」
はい!赤松さん帰って来ました!!時間切れです!!!
速いですよ!!こんな時だけ速いです!!何処から来たかも分からなかったぐらいに速いです!!クロちゃんの姿が見えないから強化魔術全開ですか?!なんでよ?!
?!というか、よく見たら、あちこちボロボロじゃないですか!!
「ちょっと大丈夫なんですか?!本当に怪我は無いんですか?!」
あたふたと赤松さんをボディチェック。
腕良し、脚良し、胴体良し、頭も・・・良し!触れるところ、見えるところに大きな怪我は無し!良し!!
「いや洞窟の中にすげぇデカい蜘蛛がいてさ。それがちょっと強くて時間かかっちゃって」
「そうか。あの昔話は本当だったのか・・・」
いつの間にか村上さんがすぐ横に来ていた。
ここは私が赤松さんを気遣ったりねぎらったりしたい場面なので少し待って頂きたい。
インターセプトを行う。
「ねぇ、あかま」
「君たちはこの事態を想定して、この島に来てくれたのかい?」
村上さんがグイグイ来る。
つい押し負けてしまった。私が赤松さんの彼女なのに!ここは私の場面のはずなのに!!
「・・・・・・ええそうです。大きなトラブルになる前に解決出来て良かった」
赤松さんがいけしゃあしゃあと語る。クロちゃんが入れ知恵してるのかな?話を始める前にちょっと間があったし。
「そうなると、君がいま手にしているのが」
「ええ、そうです。物語にあった蜘蛛を封じていた刀です。少し無理をさせたので折れてしまいましたが」
あぁ、何か持ってるなとは思ってましたけど。折れちゃいましたか。
それにしても、赤松さんの敬語はちょっとキモイですね。違和感半端ないです。
「実は我々は組織だって動いてまして。この後は別の部隊に調査等を引き継ぐことになります。この刀に大蜘蛛の親玉を封じた都合もあるのですが、私達二人は一旦先行して本土に帰還させて頂こうと考えています。申し訳ないですが、ひとまずの島民の方への事情説明を」
「あぁ、任せておいてくれ。それぐらいなら私がやっておこう。しかし・・・そうか・・・言い伝えは本当だったのか・・・・」
村上さんはそう言いながら折れた日本刀を感慨深そうに眺めている。
・・・・・・
・・・
え?
旅行もう終わりですか??
せっかく来たのに。楽しみにしてたのに。
赤松さんの顔をそっと覗き込む。珍しく真面目と言うか真顔だった。
・・・本当にもう帰っちゃうんですか?
そして、何が何だか分からないまま、何故か島の人達に感謝されつつ、私達は、その日最後の船便で島を立つ事になりました。行きと同じく乗客は二人だけ。横に並んで仲良く座る。
ちなみに赤松さんは何故か折れた刀本体と刃の破片をずっと握りしめている。上から布をかけて隠してるけど、気を付けないとヤバいですよね、警察とか、銃刀法とか。
それにしても、お腹も減ったし、お風呂ももう一回入りたかったし、夜だって一緒にいられると思ってたのに・・・あ、ダメだ、ちょっと泣きそう、我慢しないと。でも、ずっと楽しみにしてたのに。
「ごめんね。こんな事になって」
赤松さんが語り出しました。いま泣きそうなので返事出来ないですけど。
「さっき村上さんにも言ったけど、この刀に大きな蜘蛛を封じ込めていたって話はどうも本当みたいでさ。んでクロにも制御に回って貰ってるんだけど、実は結構しんどくて・・・柏木さんなら刀に埋め込まれていた制御術式を直せるだろうけど、僕達じゃ、ちょっと無理で。端的に言えば、キツイから手伝って。お願い。ホント申し訳ないんだけど」
よく分からないけどですけど・・・刀に手を触れてみると、なんだか嫌な気配が零れ落ちて来そうな雰囲気。そして波打ち際で壊れつつある砂細工のようなボロボロの術式が、嫌な気配を刀の中に押しとどめているのが分かる。
とりあえず崩れそうなところを少し直してみる。一瞬だけ嫌な気配が引っ込む。でも、またすぐに別のところが・・・
え?これを柏木さんと合流するまで繰り返すんですか??賽の河原か何かですか?
「ありがとう。少し楽になったよ。こういうの苦手で。あと、それとさ、支部長さんと柏木さんに連絡入れてくれないかな。出来る限り早めに対策打たないと」
「わ、分かりました」
この人はなんで意味不明な事態ばっかり。
「この件が落ち着いたらさ。今回の代わりに何処かに旅行に行こうよ。それで普通にゆっくりしよう。こんなに頑張ったんだし、たまには良いよね?」
「もちろん!もちろん良いに決まってるじゃないですか!!楽しみですね!旅行!!明日の朝から行きましょうよ!」
我ながら単純なもので赤松さんの言葉のおかげで私の気分は一気に有頂天。
もっとも、これから刀の術式維持に徹夜で付き合わされる事を知っていたら、また違う気分だったのかも知れませんけど。




