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【第4部更新中】「ノースキル」の烙印を押された侯爵令嬢、実は世界の管理者(アドミニストレーター)でした  作者: 柊ユキヤ
精霊使い編

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第81話 理外の炎

「エミリアさん!」


 漆黒の法衣たちがエミリアへ剣を突き刺す瞬間、ジルベルトがエミリアの前に飛び出し、男たちの刺突を間一髪て薙ぎ払った。

 強烈な金属音と、木製の格子窓の破片が弾け飛ぶ鈍い音が客室に響き渡る。


「くっ……!」


 ジルベルトは思わず声をあげた。

 初撃を受け流された男たちは体勢を崩さず、掃き出しの窓を乗り越え、流れるように次の斬撃を放つ。ジルベルトはそれを捌きながら、エミリアの安全を確保するための空間を力技でこじ開けた。


「エミリアさん! 逃げて!」

「殿下!」


 エミリアは素早く後退し、壁際に立てかけてあった護身用の剣を手に取った。相手は複数だ。ジルベルト単独では危険だ。彼女はすぐさま剣を構えた。


「アンナ、ラウルを!」

「はいっ!」


 エミリアは一瞬振り向き、アンナへ叫んだ。今のラウルでは危険だ。真っ先に逃さないと──エミリアの脳内に客室まわりの間取りが浮かぶ。


 アンナがラウルに肩を貸し、即座に部屋の奥の扉から廊下へと退避する。


 シェナが歌うように詠唱しながら、男たちへ向けて両手を突き出した。


(炎の精霊よ──お願い、力をお貸しください!)


 だが、彼女の指先からは小さな火の粉すら生まれない。普段であれば精霊が〝お願い〟に呼応し、力を顕現させるはずだった。


「なぜ……!?」


 シェナが顔を歪めた。


「無駄ですよ。神の理から外れた異端の術など、この聖遺物の前では塵に等しいのです」


 ひしゃげた木枠の向こうから、ソルダムの冷酷な声が響く。


「殿下をお守りしろ!」


 次の瞬間、廊下側から館の衛兵たちが剣を構えて部屋へとなだれ込んできた。刺客と衛兵、そしてジルベルト──狭い客室の中で乱戦となり、激しい金属音が飛び交う。

 だが、皆思うように剣が振れず、衛兵たちは徐々に押されだした。


「エミリアさんはシェナ姫を!」


 ジルベルトの声にエミリアはうなずき、シェナを庇い後退りしながら客室の出口まで退いた。



   ◇ ◇ ◇



「……ッ!」


 廊下へ出た直後、アンナは息を呑んで足を止めた。


 隣の客室の格子窓を破って侵入した別の暗殺者たちが、すでにそこに立ち塞がり、館の出口へと続く方を塞いでいた。

 彼らは声も発さず、ゆっくりとアンナたちへ刃を向ける。


「こっちよ!!」


 その瞬間、部屋から脱出したエミリアがアンナへ叫んだ。

 エミリアはそのまま床を蹴り上げ、刺客に向かって剣を水平に振り抜く。男たちはエミリアの一瞬の動きに反応し、後ずさった。


 アンナはその瞬間を逃さず咄嗟に方向を転換し、反対側の出口──中庭へと続く扉へ向かってラウルを引きずるように駆け出した。



   ◇ ◇ ◇



 一方、客室内では前線が崩壊しつつあった。

 相手は法衣を着ているが、神官などではなく純粋な殺人集団だ。衛兵たちとは練度が段違いだった。

 刺客たちは正面からの力押しを避け、流れるような連携で衛兵たちの死角を突き、次々と急所を切り裂いていく。

 狭い室内では味方の存在そのものが射線や移動を妨げる障害となり、ジルベルトの剣撃すら制限されていた。


「殿下、外へ!」


 衛兵の一人が血を吐きながら叫ぶ。室内で完全に包囲されれば全滅は免れない。


 ジルベルトは舌打ちし、部屋を脱出した。

 廊下を一瞬見渡すと、刺客たちの肩越しにエミリアが応戦しているのが見えた。


「クソッ……!」


 ジルベルトは一気に距離を詰め、刺客の背後から斬りかかる。

 一人が倒れると、残りの男たちが一瞬怯んだ。


「殿下!」

「今のうちだ!」


 エミリアたちは中庭へ駆け込んだ。



   ◇ ◇ ◇



 だが、中庭はすでに囲まれていた。

 エミリアたちと生き残った衛兵は中庭の中央で合流する形となり、四方から完全に包囲された。


「族長たちは?」

「大丈夫です。ハリル様が守られ脱出されました」


 衛兵たちが息を切らしながら小声で確認していた。

 シェナの兄──ハリルが応戦し、無事に避難させたらしかった。


(どうすれば……!)


 エミリアは剣を構えながら、脳内で必死に〝指示〟を念じた。シェナへの管理者権限の委譲も含めたアプローチ──この状況を打破するための方策。


《エラー。ローカルネットワーク応答なし》

《コマンド送信失敗。ネットワークへの再接続を行ってください》


 だが、返ってきたのは脳内に響く無機質な声だけだった。


(どうして……!?)


 ついには、エミリアたちは完全に囲まれた。

 刺客の環からソルダムが一歩前に出る。


「〝仕組み〟が動かなければ、管理者などしょせん〝ノースキル〟なのですよ」


 ソルダムは口元を歪めた。


「さあ、神の御許へ還りなさい、忌まわしき異端よ」


 ソルダムの一切の感情を排した声に呼応し、男たちが距離を詰める。

 エミリアは剣を構え直そうとするが、回避する隙も、防御する術もない。銀色の軌跡が無慈悲に振り下ろされようとした──


 ──その瞬間だった。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 中庭の空気をビリビリと震わせる、獣のような絶叫が響き渡った。

 刺客たちの刃がピタリと止まる。全員の視線が声の主へと釘付けになった。


 それは、アンナに支えられてその場に倒れ込んでいたはずのラウルのものだった。彼は必死の形相で立ち上がっていた。

 彼が右手で押さえ込んでいる左腕の痣が、服を焼き焦がしながら太陽のように赤く発光している。周囲の空気が陽炎のように揺らめき、彼が踏み出した中庭の石畳が赤く灼け、焦げたような匂いを発した。


「なんだ……あれは!?」


 ソルダムが初めて表情を崩した。

 彼は驚愕し目を見張る。


(バカな……『静謐の箱』はすべての〝仕組み〟を無効化させるはず。魔法はもちろん異端の術すら使えないはずだ……!)


 だが、目の前の少年からは灼熱の光線が際限なく噴き出している。


「……エミリアに……触るな……!」


 ラウルは赤く焼け焦げた左腕をソルダムに向かって突き出した。


 ──シュッ……ズガァァァァァンッ!!


 その瞬間、ラウルの掌から白光する超高熱の光線が放たれ、夜の中庭を一直線に貫いた。

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