表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ノースキル」の烙印を押された侯爵令嬢、実は世界の管理者(アドミニストレーター)でした  作者: 柊ユキヤ
覚醒編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/30

<閑話1> 妹の噂

 午後の騎士団詰所は、訓練を終えた騎士たちの安堵のため息に満ちていた。クロードも汗をぬぐいながら、休憩室へと足を向ける。副隊長や部下の若い騎士たちが、既に円卓を囲んで談笑していた。


「お疲れ様です、分隊長殿」

「ああ」


 クロードはそっけなく答えながら、空いている椅子に腰を下ろした。カップの水を口にすると、身体に残った訓練の熱が和らいでいく。


「そういえば分隊長殿」


 副隊長のエドガーが、何気ない調子で口を開いた。


「妹君がデビューされるとか。おめでとうございます」


 クロードの手が、わずかに止まった。


「ああ、そうらしいな」


(もう広まっているのか……貴族ってやつはこれだから)


 できるだけ無関心を装ったつもりだったが、若手のマルクが興味深そうに身を乗り出してきた。


「でも侯爵家で一年遅れって……何か理由がおありで?」


 理由……まさか本当のことは言えない──クロードは内心で舌打ちした。


「父も考えがあってのことだろう」


 曖昧に答えたが、マルクは納得できないという表情だ。


「上位貴族で一年遅れはちょっと珍しいですよね? ご病気でもされてたんですか? それとも何か特別な理由が……?」


 エドガーも首をかしげている。クロードは話題が変わらないことへの苛立ちを隠しながら答えた。


「さあな。俺に聞かれても困る」


(特別な理由……まあ、『ノースキル』だったからな。……今は分からんが。まったく面倒なことだ)


 しかし、マルクは別の可能性を思いついたらしく、手を打った。


「でも『二つ持ち』なら、むしろもったいぶってた感じですかね? 〝満を持して〟って感じで、かえって注目度が高まってますよ」


 騎士団の連中は、貴族にもかかわらず言葉に遠慮がない。


「侯爵様の戦略だったのかもしれませんね。『深窓のご令嬢』として話題になってます」


 エドガーもうなずく。


 クロードは複雑な心境でカップを見つめた。


(戦略? ……父上がそんなことを考えるはずがない。でも、結果的に注目を集めている。『ノースキル』のはずなのに、あの市場での一件。あいつは本当に魔法を使ったのか? ……不可解だ)


 マルクは、さらに話を振ってきた。


「そういえば、分隊長殿の妹君、たまに街で見かけますよ。従者も連れずに出歩かれてるんですね。びっくりしました」


(一人で街に……まあ、昔からそうだしな)


「父は、そういうところは放任だからな」


 クロードは窓の外を見つめた。訓練場では、まだ汗を流している騎士たちの姿が見える。


 彼の脳裏にふと、あの日の訓練場の光景が蘇った。木剣を振るエミリアに向かって放った、自分の冷たい言葉。


『血脈のない者が剣を振るうなど、時間の無駄だ』


(あの時は当然のことを言ったまでだ。だが『二つ持ち』だというなら……話は違ってくる。しかし……血脈が後から発現することなどあるのか?)


「とはいえ、分隊長殿も鼻が高いでしょう?」


 エドガーの問いに、クロードはエドガーへ目をやった。


「妹君がデビュー前から社交界で話題になるなんて、家門の誉れですね」

「……そうだな」


 クロードは曖昧に答えたが、内心は別のことを考えていた。


(『二つ持ち』の噂が本当だったら、今まで聞かされていたことは、間違いということになる)


「きっと縁談の申し込みも殺到するんじゃないですか?」


 マルクが無邪気な笑みを見せた。


(本当にそうなら、家門にとっては慶事だが……)


 クロードは静かにカップを置いた。エミリアのことを考えると、なぜか胸の奥がざわつく。それが何なのか自分でもよく分からなかった。


「まあ、家門の名に恥じなければそれでいい」


 そう言い切ったものの、その言葉に込められた感情は、以前ほど単純ではなかった。


 やがて騎士たちは別の話題に移った。クロードはカップを取り、残った水を飲み干した。


(血脈の発現……そんなことが本当にあるのか分からんが、もしそうならば、発現したきっかけがあるはずだ)


 クロードの表情に、わずかな困惑と、彼自身も気づいていない期待が混じっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ